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動物写真 撮影テクニック講座
内山晟の「動物写真・撮影テクニック講座」
第三回 動物園での写真撮影の基本 〜背景の処理とガラス越しの撮り方 2011/06/15
 
内山晟の 動物写真・撮影テクニック講座
今回は30点もの例題写真を使って、動物園での撮影テクニックをていねいに解説してくれます。動物のより自然な姿を写したいなら「人工物」はなるべくフレームからはずし、背景などにもこだわりたいもの。
更に、最近増えてきたガラス越しでもきれいに撮るテクニックと注意点を網羅しました。さらに更に、人気のコアラ撮影、攻略のポイントも解説して頂きました。大ボリュームでお届けする第三回、必読です!!(編集部)
本文 Photo & Text by 内山晟
  動物園は楽しい このページのトップへ  


 動物園で写真を撮らなくても、動物園を歩き回るだけでも楽しい。

 各動物園で年間パスポートを売り出しているから、それで通っているとその日その日の動物のご機嫌さえも判ってくるのであるし、季節が変われば尚更である。   
気候が暖かくなるにつれ、暑いところに棲息する動物は元気になってくるし、寒い地方に棲息する動物はグッタリしてくるのが見てとれる。カメラを持っていれば、そんな様子を作品としてでなくても、記録として撮ってみるのも、これはこれで楽しいものである。
また、動物園通いをしている内に、各動物の飼育員と親しくなることもあるだろう。これも動物写真をより良く撮るための条件のひとつでもあるのだ。
この動物は何時頃良く水浴びをするとか、おやつをあげる時に活発に動くとか、今寝小屋で子供を産んでいるから、何日頃来たら子供を外に出すよ、などと言う情報が仕入れられるからなのだ。

 ある動物園で、朝によく鳴くフクロテナガザルが昼間に鳴き叫んでいる声を聞いて驚いたことがあった。不思議に思っていたら、園内を清掃していた女性が「あの子たちは、幼稚園の子供たちが来ると、何時でも喜んで鳴くのよ」と教えてくれた。
 これも重要な情報を得て、私は幼稚園の遠足時期を狙って出掛けるようになった。
 そこで撮った写真がこれだ。最初に夢中で撮った一枚がこれだが、上部に人工物が写り込んでしまっている。白く塗られた鉄棒が非常に目障りだった。

フクロテナガザル 人工物が写り込んだ写真

それを、入れないようにして横位置で狙ったものが次の写真だ。
鳴き叫ぶ迫力ある写真になったと思う。

フクロテナガザル 人工物をフレームからはずした写真
撮影データ ISO400 f5.6 1/500 -0.67 375mm

如何に背景に人工物を撮り込まないようにするか・・ということで、次の課題は・・


  背景にも気を配ろう このページのトップへ  


 動物園は所詮人間が作った場所で動物を安全に飼育し、お客さんに見せる所。
写真を撮るための場所ではないので、しばしば人工物が写り込んでしまうのだ。
私に言わせれば「写真に撮ってすっきりした背景になる所は人間の目にも優しい所だ」と言っているのだが・・・
 でも、叶えられないなら仕方がない、それらを如何に排除し写し込まないようにするか、これもテクニックのひとつだと思うことにしたのだ。
 
 フクロテナガザルの例で、カメラを横に構えるか縦に構えるかで簡単に人工物を排除出来ることは、理解できたかと思う。

人工物が目立たないように構図を工夫しよう  

 次の例も同じで、凛々しい顔をしたアキシスジカが獣舍の扉の前にいた。非常に単純に見え絶好の背景だと、カメラのファインダーを覗いてみたのだが、扉の幅が狭かったので黒い部分が写り込んでしまうのだった。 

アキシスジカ 背景の人工物が気になる写真

そこで、咄嗟にカメラを縦位置に構え直して撮ったのがこれである。
カメラ目線の思った通りのポートレートが撮れたのだ。

アキシスジカ 構図を縦位置に変え、人工物が意識しないよう工夫した写真

 このキリンの放飼場は、観客の立つ位置より少し高く作ってあるので子供の目線でみると白い地面はほとんど見えないのだが、大人の目線でみると、背景に石垣やまた地面に砂地が写り込んでしまうのだった。

キリン 柵などの人工物や砂地が気になる写真

そこでキリンが近寄って来た時に思い切ってしゃがみ込んで、手前の草を写し込んでみた。こうすることで、目立つ人工物をフレームからはずすとともに、キリンの大きさもわかる写真になったのだ。

キリン しゃがんでカメラを構えて人工物を目立たないよう工夫した写真
しゃがんでカメラを構え、砂地や人工物を目立たないよう工夫した写真。下からの構図はキリンの大きさを感じることができる。
撮影データ ISO200 f4 1/1250 -1.33 165mm


背景を意識してスッキリとした写真に 

笹を食べるレッサーパンダを撮ってみたら背景の木々の陰が逆光気味であることもあってうるさく感じた。

レッサーパンダ 背景はきれいにボケていたが少々うるさく感じた

そこで、位置を変えて、空抜きになる場所を探した。人工物に限らず、常に背景は意識したい。

レッサーパンダ 背景が抜ける場所に移動して撮った写真
撮影データ ISO200 f5.6 1/320 0.33ev 247mm

 このように撮影する時の立つ位置を変えることによって、同じ被写体でも、随分違った作品になるのである。無精しないことも肝要だ。 ズームレンズが簡単に使えるのだから、焦点距離を自由に動かせる特性を使わない手はない。

 2頭の子ゾウが楽しそうに遊んでいるところに出くわした。隣の獣舍と隔てる太い柵があったり、背景に柱があったり、どうやっても人工物を入れないで遊ぶゾウの全身は撮れなかった。

2頭の子ゾウが遊んでいる写真

そこで思い切って焦点距離を望遠にもって行ってアップで狙ってみた。

ゾウ 人工物をフレームからはずせないので望遠で表情や仕草を狙って撮った
撮影データ ISO200 f4 1/160 135mm

閉館間際、逆光の中のモモイロペリカンを撮ってみた。
しかし、背景の岩が画面の中の大きな比重をとって、煩わしく思えたのだ。

モモイロペリカン 背景が気になってスッキリしない

そこで、位置を動くと共に背伸びをして岩の全部が背景になるようにしてみた。
すっきりとした作品になったと思うのだが。

モモイロペリカン 岩全体が背景になるように立ち位置を調整した
撮影データ ISO800 f8 1/640 -0.7ev 270mm

 しかし、そうはいっても動物園では思ったように動き回れない場合が多い。前回話した檻越しの撮影もそうだが、ガラス越しの撮影も同様なのである。


  ガラス越しの撮影では反射に注意 このページのトップへ  


 最近、檻ではなくガラスを使って動物を見せる施設が増えてきた。動物を間近に見るには人止め柵もいらないし、また人間と動物が接触しないので危険性は全くなくなるからだ。その上、動物の匂いが漏れないから良いとする人もいる。しかし、私に言わせれば、その動物特有の匂いを感じるから動物園が好きなのだが・・・・・・

 ガラスと一口に言ってしまったが、強化ガラスとアクリルの2種類ある。 どちらが撮り易い、撮り辛いと言うことはないのだが、両者とも清掃する時の水で水垢が付いて汚れているもの、瑕の付いているものもあるので、そこは避けた方が良いだろう。折角撮ってもしゃきっとした写真は撮れないからだ。

さて、ガラス越しに撮影する時に、一番気を付けなければならないのが、ガラスの反射である。
ガラスの向こうの獣舍の方が明るく、観客のいるところが暗い時には問題にならないのだが、明るい光を背負って撮る場合は下の例のようにガラスに光や背景が反射してしまって撮影は困難だ。

ガラスが反射して撮影は困難
カメラ側が明るいとガラスに光や背景が写り込んで撮影が困難になる。


反射を防ぐにはレンズをガラス面につけて撮る 

 ガラスに写り込んだ反射を防ぐには、反射光がレンズとガラスの間に入らないようにガラス面にレンズを密着させるときれいに撮ることができる。

 下の写真は、子供はもちろん大人にも大人気のジャイアントパンダだが、ガラスに光が写り込んで、白っぽく濁った写真になってしまった。

ジャイアントパンダ ガラス面が反射している

レンズをガラス面にピタリと付けて、ガラス面の反射を防いで撮ったジャイアントパンダ。
反射による白っぽさがなくなった。

ジャイアントパンダ ガラス面にカメラのレンズぴったりとつけて撮影
撮影データ ISO3200 f4 1/60 160mm

逆光時は日陰を探す 

 獣舍側からの陽が目の前のガラスに挿し込んでいる場合、いわゆる逆光となってしまう場合もまた同様にガラス面が白く光り、撮影がやりづらい。
この場合、ガラスのウラ面に光が入ってくるので対策がないのだ。しかし、諦めることはない。このような時には辺りを見回し、ガラス面に陽が当っていない場所を探して撮影すると良い。日陰がない場合は、太陽の位置が変わる時間に再度出直すことも考えよう。

ライオンを撮ったが、獣舎側から挿し込む光がガラスに反射すると白っぽく濁った、それこそシラけた写真になってしまう。

ライオン 獣舎側からの光がカラスに反射した例
撮影データ ISO400 f4 1/640 -0.67ev 420mm

ガラス面が日陰になっているところを探して百獣の王ライオンを撮影。
精悍な表情がくっきりと撮影できた。

ライオン 獣舎側からの光がカラスに反射した例
撮影データ ISO400 f4 1/800 -0.67ev 420mm

ライオン 獣舎側からの光がカラスに反射した例
撮影データ ISO400 f4 1/640 420mm



  観客の写り込みにも注意 このページのトップへ  


 動物を撮るときはいつも望遠レンズを使うとは限らない。水中にいるカバやホッキョクグマを撮る時には、ワイドレンズも使う。
 この場合、写り込みを少なくするためにガラス面に密着させたいのだが、被写体がガラスの近くいるときはピントが合わないし、撮りづらい。ピントも合わないことが多い。その場合はレンズをガラス面にピッタリと付けることは諦めて、ガラス面に近い位置でレンズを平行に構えて撮影するとよい。

ガラス越しにホッキョクグマを撮影

 観客側がやや暗い場合は、ガラス面から少し離しても反射せずに撮影できる。

ガラス越しにホッキョクグマを撮影
撮影データ ISO500 f5.6 1/320 18mm

 ガラス面は観客たちが触った手の脂で汚れている場合もあるので、撮影前にきれいに拭くことも必要となる。拭き取り掃除用に手ぬぐいを一本持参すると重宝するだろう。

 また、ガラスに写り込むのは光や背景ばかりではない。他の観客が写り込んだり、意外にも最も多いのが自分自身の写り込みだ。自分の服が写り込むことを防止するために、黒っぽい服を着ていくことも心掛けた方が良いだろう。写り込んでも目立たないからだ。

 反射だけでなく、ほかの観客が「フレーム」に入り込まないよう注意したい。
下の写真はその失敗例。背景の風景も写し込むつもりだったのだが。

ホッキョクグマ ほかの来園客が写り込んでしまった
ホッキョクグマが反転した瞬間を狙ったが、隣で写している人がフレームに入ってしまった。

この場合は、観客が多く混みあっていたので子供の指が入ってしまった。

ライオン 獣舎側からの光がカラスに反射した例

そこで、注意をしながらカバの顔をユーモラスに見えるように狙った。

カバ ほかの来園客が写り込まないようにユーモラスな表情をねらった
カバ ほかの来園客が写り込まないようにユーモラスな表情をねらった
撮影データ ISO400 f3.5 1/50 27mm

 これらのホッキョクグマやカバの水中での写真を撮る時には、沢山の人が集まって来る。

 早くに行って場所取りをするのは良いのだが、カメラを握ったからといって特権意識を持たないで欲しい。皆、同じ観客でもあり、特に世の小さい子供たちもたくさん来ているのだから、彼らに場所を譲ってやるのが大人としての義務でもあろう。  
最初に数枚撮ったら、思い切って引き下がる位の余裕が欲しい。また来れば良いのだから。

また、四方ガラスに囲まれている被写体を撮る時は、動物の背景に観客が写り込まないように注意しよう。

Clickで拡大

Clickで拡大
動物の背景に観客が入ってしまった失敗写真(左)。観客がいない時間に撮影すると良い(右)。


シャッタースピードに注意して手ぶれを防ぐ 

 動物園でアシカやペンギンなどが速い速度で泳いでいるところをガラス越しに撮るには、ISO感度を上げて、シャッタースピードを速くしないと被写体ブレを起こすことがある。
出来るだけ速いシャッタを切るように心掛けよう。
この写真は流し撮りの技法も取り入れているので1/160のシャッタースピードでもブレていないのである。(流し撮りの技法は別の機会に話をしよう)

ペンギン 速く動く動物の撮影は難しい

ペンギン 流し撮りで撮影
撮影データ ISO1600 f2.8 1/160 105mm

野外で撮ると、ガラス面に陽が当たってしまったので、このようにしらけた写真になってしまうことが多い。

ペンギン 野外で撮ったのでガラス面に反射が出た例
撮影データ ISO200 f4 1/640 116mm
  コアラ撮影の攻略法 このページのトップへ  


 コアラは人気者だが、夜行性で昼間はほとんど寝ていることが多い。
動き回る、或は起きているコアラを撮るには、餌時を狙うより他ない。どの動物園も餌をやる時間を公表しているので、その時間に行ってみよう。もちろん撮影に適している場所は行ってみなければ判らない。早めに行って推測する他ないのである。ただ、コアラが餌を食べ始めると20〜30分は掛かるので、比較的慌てずに探すことは出来るだろう。

コアラを撮影した例
餌の時間は、コアラが起きている写真を撮る絶好のチャンス。
撮影データ ISO1600 f2.8 1/250 200mm

 ガラス越しに撮影する場合、幾つか注意しなければいけないことがある。
動物が寝ているからといって、ガラスを叩いて無理矢理起こそうとすることは厳禁だ。動物たちの生活を邪魔してはならない。
特にコアラは神経質なので注意したい。

 コアラが日本に初めて来た当時のことである。私が取材に行った時に暗くて距離感が掴めず、ガラスにレンズの先端をコツンと当ててしまい、広報担当者にこっぴどく怒られた嫌な記憶があるのだ。
またストロボ禁止のところで注意したいのは「暗いところでは自動的にストロボが発光してしまう」ことがあるからである。発行装置をオフにしてから施設の中に入ることを心掛けよう。
例え、ストロボを使ったとしてもガラス面に直角に光が当たると、そのまま反射してしまい、被写体が写ることはないのである。ガラス越しの被写体に対してストロボを炊く場合は、45度の角度で当てなければならないのだ。

 檻越しの撮影、人工物を排除し、ガラス越しの撮影テクニックの後は、露出補正のテクニックを覚えると、また格段の進歩をとげると思う。次回を楽しみに。 

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【動物園での写真撮影テクニック】
第1回 誰でも撮れる動物写真の魅力とポイント
第2回 動物園での撮影の基本 〜オリの消し方と背景をボカすテクニック
第3回 動物園での撮影の基本 〜背景の処理とガラス越しの撮り方
第4回 露出補正で動物写真がグッと魅力的に
第5回 高速シャッター撮影と流し撮り
第6回 クローズアップ写真の魅力と撮影術 (1) 表情のクローズアップ
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第1回 特別企画 ケニア・フォトサファリ 2012 撮影レポート(1) サバンナの野鳥たち
第2回 特別企画 ケニア・フォトサファリ 2012 撮影レポート(2) アフリカゾウの大行進
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著者プロフィール
内山晟 :photo 内山 晟
1941年生まれ。日本大学芸術学部放送学科時代に「白サギ」の写真家・田中徳太郎氏に師事し、動物写真家を志す。1968年、週刊朝日のグラビアページ「動物家族」でデビュー。1969年、ガラパゴス諸島を含む中南米に最初の海外取材を行う。その後、野生動物を追って、北極から南極まで世界中を歩き、年の大半を海外で過ごす。著書に「コウテイペンギンの国」(平凡社)、「のんびりコアラ」(青菁社)、「毎日おいしい男の料理」(中経出版)、「内山晟の五大陸どうぶつ写遊録」(講談社)、ほか多数。
> ホームページ (株)内山晟動物写真事務所

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初出:2011/06/15
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