コンテンツのトップページへ 内山晟の
動物写真 撮影テクニック講座
内山晟の「動物写真・撮影テクニック講座」
第二回 動物園での写真撮影の基本 〜オリの消し方と背景をボカすテクニック 2011/06/01
 
内山晟の 動物写真・撮影テクニック講座
いよいよ今回から動物園での撮影テクニックの解説がスタート。数多くの野生動物の写真を撮り続けてきた内山先生が、身近な動物園での撮影で役立つ工夫とテクニックの数々をていねいに説明してくれます。
今回は目の前のオリを消して動物だけをバッチリ写す魔法のようなテクニックを紹介!! 
更に、解説の前にまず、先生が愛用している器材を見せてもらいました。(編集部)
本文 Photo & Text by 内山晟
  愛用するカメラとレンズ このページのトップへ  


 前回は動物写真の魅力とデジタルカメラのメリットを解説したが、今回からいよいよ動物園での具体的な動物の撮影術を説明したいと思う。
ただ、その前に私が動物園に撮影に行く時の機材を説明しておこう。

カメラ本体は2台持って行く。どちらもニコン製のデジタル一眼レフだ。撮影素子フォーマットがフルサイズの『D3』とAPS-Cサイズの『D300』だ。レンズも2本。ワイドズーム『20mm〜35mm f2.8』と望遠ズーム『70〜200mm f2.8』、それにテレコンバーター1.4も使う。

愛用のカメラ器材
 

愛用のカメラ器材
カメラ本体×2台、超望遠ズーム、望遠ズーム、ワイドズーム、テレコンバーターが愛用の器材。
> アマゾンで価格参考例を見る Nikon D3D300 70-200mm f2.817-35mm f2.8テレコンバーター1.4

200mmの望遠ズームを撮像素子がAPS-Cサイズの『D300』に装着すると1.5倍の300mm換算となり、更にテレコンバーター1.4を装着すれば300mm×1.4倍の420mm換算の望遠になる。すなわち、これらを組み替えて使うと20mm〜420mmとなり、ワイドから超望遠までほとんど不自由することはない。

テレコンバーター1.4

本体のレンズマウントにテレコンバーター1.4を装着
これがテレコンバーター1.4。レンズと本体の間に取り付けると望遠が1.4倍になる まずは「D3」本体のレンズマウント(接続口)にテレコンバーター1.4を装着。

テレコンバーター1.4に、70〜200mm望遠レンズを装着

最大280mmの望遠ズームの完成
本体に取り付けたテレコンバーター1.4に、70〜200mm望遠レンズを装着。 テレコンバーター1.4+70〜200mm望遠ズームで、最大280mmの望遠ズームの完成。D300に装着した場合は、センサーサイズの関係で420mm相当になる。

 さて、私が絞り開放値f2.8の望遠レンズにこだわるには理由がある。これを使うと、檻の中にいる動物を撮る時に檻を容易に消すことが出来ることと、背景をぼかして被写体を浮き上がらせて撮ることが出来るからである。
ただ、最近ある機会があってシグマの超望遠ズーム『120mm〜400mm f 4.5-5.6』のレンズを手に入れたので、そのレンズも持参することがある。何しろD300に付けると600mmになるからである。但し、このレンズにはテレコンバーターはつかない。

メモリカードはコンパクトフラッシュ(CF)だ。それぞれのカメラに8GBのCFを装填しているので、一日の撮影では充分だが、万が一を考えて75GB入るフォトストレージも持参することにしている。万が一、CFがいっぱいになるまで撮ってしまっても、CFの写真をフォトストレージに転送すればまたCFを8GB分使えるからだ。

動物園ではストロボ禁止の所が多いので、ストロボは持参しないが、デジタルカメラならば、ISO感度を1600や3200に設定することによって相当暗い所でもストロボなしでも撮影することができる。


  絞り値を変えてボカしの量を調節する このページのトップへ  


レンズには絞り値という設定があって、絞りを開くと被写界深度は浅くなり背景のボケは大きくなる。逆に絞っていくと被写体深度は深くなり背景のボケは少なくなる。
これは長い焦点距離を持った望遠レンズほど、また、開放時のF値が少ない、明るいレンズほど効果は大きい。例えば下の写真のように、f7.1からF4に絞りを開けることによって、背景がボケているのが判るだろう。

Clickで拡大

Clickで拡大
ISO200  750mm  f7.1  1/320 ISO200  750mm  f4  1/1000

 動物園の撮影では、この関係を覚えておくと、檻を消したり、人工物だらけの背景を単純化したり、被写体の目など体の一部を強調したりする時に非常に役立つだろう。

と同時に、幾ら絞りを開けても被写体と背景の距離が近いと、この効果は薄くなる。
被写体と背景の距離を考えるべきだ。

Clickで拡大
  被写体と背景が近過ぎたため、絞りF3.2でも背景がボケきれずうるさい写真となってしまった。
Clickで拡大
  そこで、遠い地面を背景にして、被写体との距離をとったためきれいのボケてくれた 。

レンズの焦点距離でもバックをぼかすことが出来る。より望遠のズームを使うことでバックをぼかし、背景を消すことかできる。下の2枚の写真、絞りは両者ともf4だが、上の写真は168mmで撮り、下は292mmで撮っている。

Clickで拡大
  162mmで撮影した写真。これでも背景はぼけているが・・
Clickで拡大
  更に望遠を使って292mmで撮ると、背景はほとんど判別できないほどのボケ味となる


  檻を消すテクニック このページのトップへ  


 動物園では動物は檻の向こうで飼育されている場合も多い。動物写真を撮るにはこの檻が邪魔になるのだが、これを消してしまうテクニックがある。

カンムリワシの檻
ヘビクイワシがいた檻はピアノ線で出来ていた。人止柵があり檻にレンズを密着させることは出来なかったが思い切り身を乗り出して近付けた。
オリ越しに撮影したカンムリワシ
朝の光は逆光、冠毛を逆立てているところを狙って、朝の清々しさを表現した。オリはこのように撮影の工夫できれいに消すことができる。

 檻を消すには、まず絞りを開放値に設定する(最もF値を小さい設定にする)。そして、それだけでなく、檻にレンズを密着させることが一番良い。

もし、それが不可能な場合、出来る限り檻にレンズを近付けることが肝要である。しかし、人止柵と檻に距離があるからといって人止柵を乗り越えて入ってはならない。動物によっては非常に危険な行為でもあり、動物園での撮影のルール違反でもある。

Clickで拡大
  檻の向こうにいるクジャク。檻が邪魔だが諦める必要はない。
Clickで拡大
  檻越しでも、檻を消して撮った例。素晴らしい一枚が撮れる。
ISO640 150mm  F4  1/1000   -0.67ev

細かく太い編み目状の檻が使われている場合もある。下の例のように、ワオキツネザルの檻は比較的細く太かったが、人止柵はなかったのでレンズを檻に密着させた。

ワオキツネザルの檻(編み目状)
編み目の檻でも消すことができる。可能ならこのように檻にレンズを密着させて撮影する。(動物に近付きすぎないように注意)
オリ越しに撮影したワオキツネザル
被写体と背景が近かったので、絞りを開けて、背景をぼかすことに努めた。

注意しなければならないのは、檻に陽が当たって光っている時には、檻の目は白く光ってしまい、このテクニックを使っても消えることはない。手や帽子などで光をカットしてみよう。と同時に、獣舍の方角を知っておくと良いだろう。午前中は陽が当たっていても、午後には日陰になることがあるからだ。日陰になれば檻はきれいに消えるので午後にもう一度そこを訪れるようにしよう。また、その逆もありうる。

Clickで拡大
  こんな小さな編み目状の檻でも消すことはできる。ただ、檻に陽が当たっていたので、一部日陰になっている所を見付けた。
Clickで拡大
  そこにレンズを当ててみると檻はすっかり消えて、コビトマングースのアップが狙えた。
ISO200  420mm  F2.8  1/1280

また、檻が細いピアノ線などの場合は消し易いが、時に太い時など密着させても消えないこともある。そのような時はレンズの中心部を檻の目の真ん中に持っていってみよう。その場合は、レンズを檻の面に対して決して角度をとらずに平行に持っていかなければならない。

Clickで拡大
  比較的網の目の荒い檻の中に沢山のフラミンゴがいた。
Clickで拡大
  レンズを檻にピタリと付けてみたのだが、レンズの中心が外れてしまったので、左に黒い線が写り込んでしまった。ISO1250  105mm  f9  1/320
Clickで拡大
  そこで、望遠レンズで被写体に寄って撮ったのがこの写真である。檻の目が縦長だったので、縦位置の写真を撮ってみたが、背景のフラミンゴがうるさく感じた。そこで・・・
Clickで拡大
  横位置の写真にしてみたところ、背景もスッキリと抜けて、主題であるフラミンゴの親子の様子がグローズアップされた。 ISO1250  420mm  F4  1/1000  -0.67ev

檻と動物の距離も考えなければならない。幾ら檻にレンズを付けても檻に近いと、レンズの最短距離によっては、動物にピントが合わない場合もあるし、また檻にレンズを付けられない場合には、幾ら動物にピントが合っても檻が消えない場合もあるのだ。

Clickで拡大
  比較的大きな目の檻の中にダチョウがいた。しかし、ダチョウはいつも檻の近くにいたので見ていたら、長い睫毛と口を開いた時の顔が迫力あり、アップで狙うことにした。
Clickで拡大
  人止柵と檻の距離が余り無かったので、レンズを檻の間に構え、レンズのピントの合う最短距離で撮った。
ISO400  130mm  F4  1/250

このように檻の形態によっていろいろな方法を考えて試してみるのも一興だろう。

 銀塩カメラ時代は現像してみないと、檻の目が消えていたかどうか判らなかったが、デジタルではその場で確認出来るので、格段に便利になり、失敗も少なくなった。いろいろ工夫をしてみよう。
 但し、カメラのモニターで見たボケ具合とパソコンなどの大きな画面で見たのとは大きな違いがあるので気をつけよう。大きな画面ではボケ具合はずっと大きくなるのだ。

>> NEXT  第3回 動物園での写真撮影の基本 〜背景の処理とガラス越しの撮り方


メールマガジンに登録しませんか



内山晟の動物写真撮影テクニック講座
 

【動物園での写真撮影テクニック】
第1回 誰でも撮れる動物写真の魅力とポイント
第2回 動物園での撮影の基本 〜オリの消し方と背景をボカすテクニック
第3回 動物園での撮影の基本 〜背景の処理とガラス越しの撮り方
第4回 露出補正で動物写真がグッと魅力的に
第5回 高速シャッター撮影と流し撮り
第6回 クローズアップ写真の魅力と撮影術 (1) 表情のクローズアップ
第7回 クローズアップ写真の魅力と撮影術 (2) 被写体の特徴をクローズアップ
【特別企画 ケニア・フォトサファリ 2011 現地レポート】
第1回 特別企画 ケニア・フォトサファリ 2011 現地レポート(1) 野生動物の世界
第2回 特別企画 ケニア・フォトサファリ 2011 現地レポート(2) ライオンのプライド
第3回 特別企画 ケニア・フォトサファリ 2011 現地レポート(3) 夜明けのサバンナ
第4回 特別企画 ケニア・フォトサファリ 2011 現地レポート(4) 動物たちの躍動
【プロヴァンスの猫たち】
第1回 プロヴァンスの猫たちとの出会い
第2回 リュブロンの城塞村でネコ探し
第3回 猫たちとの再会 一喜一憂
第4回 猫を撮影場所に誘導する方法
【ペット写真の撮り方】
第1回 ペットを撮る 撮影の基礎知識
第2回 屋外でのペット撮影 基本とポイント
第3回 屋内でのペット写真撮影 〜窓際の撮影と小道具の活用〜
第4回 走るペット・動くペットを撮る (1) 〜シャッター速度とピント合わせ〜
第5回 走るペット・動くペットを撮る (2) 連続撮影「連写」のテクニックとポイント
第6回 アップで撮った癒しのペット写真集
第7回 ペット撮影テクニック総集編 (野外撮影例/ストロボ撮影例/旅行先で撮影例/複数ペットの撮影例)
【特別企画 ケニア・フォトサファリ 2012 撮影レポート】
第1回 特別企画 ケニア・フォトサファリ 2012 撮影レポート(1) サバンナの野鳥たち
第2回 特別企画 ケニア・フォトサファリ 2012 撮影レポート(2) アフリカゾウの大行進
目次


Amazon へ

内山晟が野生動物を追った40年の集大成、動物写真&エッセイ集
内山晟の五大陸どうぶつ写遊録
著:内山晟 講談社 192ページ 1,680円
野生動物を追って40年、動物写真家の内山晟、初のベスト写真集&エッセー集。野生動物を追いかけて五大陸をかけめぐり、めぐりあった動物たちの写真とそのときのエピソードを綴った記録です。貴重な野生動物の写真が満載で、圧倒されたり和んだり…。
>>アマゾンで書籍の情報をみる



著者プロフィール
内山晟 :photo 内山 晟
1941年生まれ。日本大学芸術学部放送学科時代に「白サギ」の写真家・田中徳太郎氏に師事し、動物写真家を志す。1968年、週刊朝日のグラビアページ「動物家族」でデビュー。1969年、ガラパゴス諸島を含む中南米に最初の海外取材を行う。その後、野生動物を追って、北極から南極まで世界中を歩き、年の大半を海外で過ごす。著書に「コウテイペンギンの国」(平凡社)、「のんびりコアラ」(青菁社)、「毎日おいしい男の料理」(中経出版)、「内山晟の五大陸どうぶつ写遊録」(講談社)、ほか多数。
> ホームページ (株)内山晟動物写真事務所

みんなが撮った動物写真を見てみよう

メールマガジンに登録しませんか

スタジオグラフィックス 人気記事ピックアップ
今更聞けないiPhoneのカメラ撮影術   いまさら聞けないiPhoneのカメラ撮影術
iPhone カメラ機能の基礎知識と撮影テクニック
神崎洋治の「デジカメユーザのためのスマートフォン活用講座」。基本カメラアプリの操作方法をおさらい

ミラーレス一眼と一眼レフの違い   ミラーレス一眼の特徴としくみ (2)
ミラーレス一眼と一眼レフの違い 〜位相差AFとコントラストAFの違い
一眼レフの「位相差AF」とミラーレスの「コントラストAF」はどう違うの? どっちが優れもの?

萩原和幸のポートレート撮影術 〜女性の撮り方テクニック講座〜   萩原和幸のポートレート撮影術 〜女性の撮り方テクニック講座〜
モデルは谷内里早、佐山彩香、相楽樹、纐纈みさき、飯村未侑、疋田英美
グラビア撮影現場から撮影テクニックをグラビア編/解説編/テクニック編で説明

動物園での写真撮影の基本 〜オリの消し方と背景をボカすテクニック   動物園での写真撮影の基本 〜オリの消し方と背景をボカすテクニック
内山晟の「動物写真・撮影テクニック講座」
動物園での動物撮影で最初の課題は檻や金網。これを撮影時にドロンと消す方法。

オヤジがキスデジで撮る!初心者向けスナップ講座   神崎洋治の「オヤジがキスデジで撮る!初心者向けスナップ講座
ポートレートモードとストロボ攻略
左の2枚の写真はほぼ同じ時刻に同じ場所で、同じカメラで撮ったもの。なぜこんなに違う?

Adobe Photoshop CS6 レビュー   Adobe Photoshop CS6 レビュー
新機能と強化された機能
薮田織也のフォトショップ早わかり Photoshop Tips & Manual

Photoshop Elementsで、空を青く、芝生を緑に演出する方法   Photoshop Elementsで、空を青く、芝生を緑に演出する方法
(神崎洋治の「フォトショップ・エレメンツ de ゴーゴー!」)
青い空、緑の芝生…記憶の色を取り戻す魔法のカラー補正術

逆光の失敗写真を明るく、青空をもっと青く補正するレタッチ術   逆光の失敗写真を明るく、青空をもっと青く補正するレタッチ術
神崎洋治の「Picasa3 徹底活用講座
思い出の写真を家族や友達とウェブで共有 無料アプリでここまでできる

荻窪圭の 写真で見る 三脚の使い方&選び方 三脚活用テクニック入門   荻窪圭の 写真で見る 三脚の使い方&選び方 三脚活用テクニック入門
三脚はなぜ必要? 三脚の役割とメリット
三脚&雲台 活用テクニック講座 入門スタート

夜景写真やイルミネーションをきれいに撮ろう   夜景写真やイルミネーションをきれいに撮ろう
神崎洋治の「デジタルカメラ時代の レンズフィルター初級講座」
キラキラの夜景をみたままに近い写真に撮る方法

広角レンズレビュー 「TOKINA AT-X 17-35 F4 PRO FX」   萩原和幸の広角レンズレビュー 「TOKINA AT-X 17-35 F4 PRO FX」
F4.0 コンパクト広角ズームの実力
F2.8とF4.0ズームの特徴比較と使い分け

ウルトラの星輝く時ごちそうさまですの   ウルトラの星輝く時ごちそうさまですの ゆきぴゅーのタダでごはん
お父さんのための特撮講座〜ウルトラマンとウルトラマン商店街の巻〜
世田谷区に実在するというウルトラマン商店街とは?

オヤジ流デジカメ研究講座「デジカメPopeye」   オヤジ流デジカメ研究講座「デジカメPopeye」
撮像素子とCCD入門ヒストグラム入門RAWってなに?
JPEG研究序説
ヒストグラムを攻略して活用しよう。RAWデータも解説。

神子元島ダイビング ハンマーヘッドシャークをコンパクトデジカメ XZ-1 で撮る   神子元島ダイビング ハンマーヘッドシャークを XZ-1 で撮る
石垣島ダイビング マンタの乱舞をXZ-1 で撮る
コンパクトデジタルカメラでどこまで撮れるか!? マンタとハンマーヘッドの撮影に挑戦 (撮影・文:神崎洋治)

 
初出:2011/06/01
  このページのトップへ
 

 

StudioGraphicsギャラリーへ

 



     
 
 

     
 
Creating Supported by
トライセック
 
リンクについて
著作権について
プライバシーポリシー