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鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座
第37回 NFTアートと写真作品の未来


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Photo : Masato Endoh


TOPIX

鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真講座の 37 回目は「 NFTアートと写真作品の未来 」について解説をいたします。今年( 2021年 )はいくつかの作品が高額にて落札され話題を呼びました。遠藤氏がこれからの NFT がもたらす未来について考察しております。 by 編集部

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みなさまこんにちは!鉄道写真家の遠藤真人です。2021 年の最後の記事として最近注目されている NFT アート作品の世界をご紹介します。いつもは撮影技術を解説するコーナーですが、NFT に関しては私も9月に始めたばかりの初心者です。暗号資産の基礎知識や理論は専門のプロにお任せするとして、今回は NFTアートで写真の未来は明るいものになる!という話をしてゆきます。NFT バブルとも言われた 2021 年小学生の描いたイラストデータが数千万円相当、モザイクアートが数十億円相当の仮想通貨で取引されています。最注目の NFT アートの世界がどのようなものなのか、簡単にご紹介してゆきます。それではさっそくスタートです。

Index

1.NFT技術とは

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NFT( Non-Fungible Token )とは非代替性トークンのことです。NFT アートはデータ管理にブロックチェーン技術を活用することで、データの改ざんが出来ないようにする仕組みです。今までは無限にコピーや改ざんが出来たデジタルデータにも制限をかけられるようになりました。この技術によってデジタルデータに唯一性が確立されました。つまりデジタルデータでありながら、本物(オリジナル)と偽物(コピー)の見分けがつくようになったのです。これはとても画期的なことです。私はこのポイントが写真アート市場の拡大につながると考えています。

もともと芸術分野で写真作品は微妙な立ち位置でした。その原因の一つとして、複製のしやすさがありました。美術作品であれば一点物が基本となり、音楽であれば演奏やパフォーマンスが唯一性を証明してくれます。この希少性が芸術としての価値を高めているのです。それに比べると写真作品はフィルムなどの原版から写真プリントが無限に作成可能です。2000 年代にデジタル写真が主流となり、携帯やスマホにカメラが搭載されてからはさらに認識が強くなっています。

そのような要因もあり、現在でも写真が芸術作品として扱われる場面は少ないです。価値がついたとしても、他のジャンルに比べ低い相場となっています。ギャラリーの数を比べても、絵画ギャラリーよりも写真ギャラリーは圧倒的に少ないのが現実です。実際のところ、写真プリントはプリンターや技術者の焼き方次第で個性は出るものの、一般的な認知度はまだまだ低いと言えるでしょう。

ちなみに現実社会で最も高額な取引をされた写真は、オーストラリア人のピーター・リック氏の作品です。タイトルは「 Phantom 」です。こちらは 2014 年に 650 万ドル。約7億7000 万円で取引されています。それ以前ではドイツ人写真作家、アンドレアス・グルスキー氏の「 RheinⅡ 」が430 万ドル( 約3億3000 万円)で取引されていました。

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2.NFTアートが作り出す希少性

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前項でお伝えした通りコピーしやすいのが写真の最大の欠点です。この欠点を解消するのが NFT 技術です。別の角度から考えると、デジタルデータそのものにエディションを付けられるとも表現できます。これは写真技術の誕生以来、画期的な出来事です。実は 2021 年 10 月現在、2022 年には大手のプラットフォーマーの参入も発表されています。このNFT アートを取り巻く環境は、より身近になると予想されています。ブラウザに仮想通貨を管理するウォレット機能が付くことも考えられます。この技術が順調に発展してゆけば、早ければ数年後には NFT アートでは写真も芸術として、正当な評価を受けているかもしれません。

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3.NFT市場の現状

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ここまでは写真の特性と NFT アートの相性について説明してきました。それでは 2021 年 11 月の現状をお伝えします。現在は特定のイラストや作者の作品が高額で取引されるものの、全ての作品が売れるということはありません。NFT アートの主流な取引所として OpenSea が有名ですが、やり取りには仮想通貨が必要です。そのハードルの高さもあり、参入者はまだまだ少なく、日本人ユーザーは希少な存在です。さらに買い手となると少数です。作品の売買にはガス代と呼ばれる高い手数料も発生するため、気軽に購入しづらいもの原因の一つです。

ジャンルとしてはイラスト作品の取引が多く、写真を含めた他の分野は少数派です。動画や音楽は人気があるかと思いきや、著名なアーティストを除くと意外にも取引は少ないようです。基本的には JPEG や PNG データが主流です。特に売れる作品は芸術性が高いもの…ではなく、人気があるものが高値をつけています。投資としての側面が強いようです。アメリカの Twitter 創業者であるジャック・ドーシーが投稿した初ツイートが約3億円で取引されましたが、まさに話題性のあるものが高値をつけた例です。写真に限定すると、美術商やギャラリストも注目している SNS-Instagram の方がまだ有利と言えるでしょう。NFT アート市場は混沌としています。また取引所にはチャット機能がないため、Twitter などで作品の宣伝をしているユーザーが多いです。

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もちろん希望も徐々に芽生え始めています。写真作品を扱う作家も増えています。10 月にはインドの写真家が撮影した鉄道写真が取引されるなど、明るい話題も増えてきています。ここから新しい時代が始まる可能性を信じて、みな行動しているようです。まだまだ予想もつかないことが起きるはずです。私も他人に勧めたい気持ちが強いですが、あくまで自己責任の世界。いろいろなリスクも考慮する必要があるでしょう。NFT アートが必ず稼げるという認識はまだ早いです。例えるならば、現状は人気 YouTuber が登場する前の YouTube に似ている気がします。

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4.メタバースでの写真展

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NFT アートの世界では作品を取引するだけではなく、メタバース内で写真展を開くことも可能です。メタバースとはネット上の仮想空間のことです。3Dゴーグルを使うと没入感に浸れますが、通常のブラウザでも閲覧可能です。仮想空間ではありますが、会場の規模やレイアウト別に様々な形態を選べます。最近は日本人でも大きなギャラリーを購入し、ギャラリストと同じような役目をするユーザーも登場しました。現実世界で行う仕事をそのまま、メタバース上に移行することで仕事に繋がる人も増えてきているようです。

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私もメタバース上での展示をしています。メタバースの最大メリットは全世界のユーザーがアクセスできる点です。気軽に始めることができるので、なかなかに愉快です。現実世界ではコストが多くかかりますが、こちらではほぼそれがありません。もちろん良いスペースを確保するためには、コストがかかりますが必要とこだわりに応じて…で大丈夫です。世界的なウィルス感染被害で現実での行動が制限されたいま、このような写真展の開催もポジティブな変化として捉えたいところです。

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メタバース内の画像をクリックすると、作家のページまでジャンプが可能です。作品のキャプションなどは、そちらのリンク先に書くことも可能です。

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こちらが Opensea のページです。現在は暗号資産の所有者数自体が少なく、圧倒的に売り手の数が多いです。販売実績のある人はごくわずか。売れても少額が圧倒的に多いのが 2021 年末の現状といえます。

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5.デジタル暗号資産はアーティストを救う?

最後にご紹介したい NFT の特性はロイヤリティの機能です。このポイントは写真のみでなく全てのアーティストにとって有益になる情報かもしれません。暗号資産の特性として唯一性の確立をお伝えしました。その延長上の機能でロイヤリティが設定できます。これは作品を購入したバイヤーが転売をすると、大元の出品者へロイヤリティが支払われる制度です。つまり歌手や作家が受け取る印税のようなものが発生するのです。これが画期的なシステムです。
いままではどのような芸術でも、二次流通で制作者に利益が発生することはありませんでした。美術作品では作者の死後に作品の評価が上がることもありますが、そのような悲劇は今後なくなるかもしれません。これからの時代はアーティストには創作力だけでなく、コンテンツホルダーとしての能力も必要かもしれません。

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6.次回予告

今回の記事はいかがでしたでしょうか。今話題の NFT アートでした。これからさらに技術が発展して、近い将来は円と同じような感覚で生活に浸透しているかもしれませんね。さて次回は東武鉄道鬼怒川線をご紹介します。ぜひご期待ください。お楽しみに!

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著者について
煙道伸麻呂 ( えんどうのべまろ )鉄道写真家 本名 遠藤真人 日本大学芸術学部卒業 日本写真学会会員 EIZO ColorEdge Ambassador 幼少期から鉄道に魅了されカメラマンの道を目指す。近年は撮影のみならず、カメラメーカーや鉄道会社とのタイアップイベントを企画する。コンテスト審査員・メディア出演・写真教室講師など活動は多岐にわたる。