鉄道写真家・煙道伸麻呂の鉄道写真撮影講座
第42回 鉄道写真の保存方法
Photo : Masato Endoh
TOPIX
鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・ 煙道伸麻呂( えんどうのべまろ )の鉄道写真講座の 42 回目は鉄道写真の保存方法について解説をしております。ローカル・クラウドだけではなく、NFT への保存に関しても記述しています。ぜひご覧ください。 by 編集部
みなさまこんにちは!鉄道写真家の 煙道伸麻呂( えんどうのべまろ )です。今回は写真の保存方法についてご紹介します。直接的な撮影テクニックではありませんが、撮った写真をしっかりと保存しておくことも、我々プロには大切な仕事です。これからの時代は昔撮った写真も、ソフトウェアの進化で将来さらに高画質化する可能性もあります。そのようなことも踏まえて、画像データ保存は重要なことと言えるでしょう。写真に特化して紹介しているものは少ないので、ぜひ参考にしてくださいね。それではさっそくスタートです。
Index
1.データはいつの間にか消えている
よく「形あるものは全てなくなる」と云いますが、形のない画像データも何もしないでおくと「気づいた時には壊れていた」なんてことがよくあります。最初から不穏なタイトルですが、データ保存では前提となる考えです。写真家にとって写真の紛失はあってはならないことです。これまでの銀塩写真はカラーフィルムが 100 年、白黒フィルムは 500 年保存可能と言われています。一方でデジタルデータはコピーに伴う劣化はほぼありませんが、「 データそのものが壊れる 」「 データにアクセスできない 」など別の問題が発生します。そのような事態を防ぐためには、日常的な予防策が必要です。今回はこのような考え方を前提に、いくつかの保存方法をご紹介します。自分のスタイルにあった方法を見つけてください。そして写真の維持管理には、二つ以上の方法を同時実行のするのが理想です。
2.写真データの保存はリスク分散が重要!
画像データの保存管理について、事前に理解しておきたいポイントを整理します。写真に限らず全ての電子データ保管に対して言えることです。
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- バックアップを頻繁にとる
- データに不具合がないか定期的に管理する
- 保存方法を複数選択する、データ移行は積極的に考える
これら3つの行動が長期保存には必要不可欠です。撮影でも同時バックアップで記録するとさらに良いです。また保存方法を複数講じることは、長期保存の観点では必須の考え方です。現在は主流の手法であっても、将来同じように動作する保証がないからです。たとえばレコードなどがいい例です。当時は音楽を再生する手段として、レコードは主流の方法でした。円盤のディスクを再生機にセットして楽しむわけですが、当然ディスクと再生機の両方が必要となります。どちらか一方が故障した場合、それでおしまいです。ディスクのみ、再生機のみでは音楽を楽しむことはできません。今ではレコードはおろか CD を楽しむ文化も一般的ではなくなりました。
音楽にたとえましたが、画像データも同じです。長期保存はあらゆるリスクを考慮しましょう。また直接的な故障がなくとも、製品寿命を終えた場合も同じです。時代とともに情報を取り出す手段や機械がなくなる場合もあります。そのような将来性も含めて、写真にまつわる幾つかの長期保存をご紹介します。私も数年前までは光学ディスク用のバックアップを作っていましたが、今はしていません。ここ数年で光学ディスク産業が急速な勢いで衰退しているからです。かなり精度の良い商品も出ていたので、とても残念です。
また画像データは小さく圧縮して、タブレットなどで日付を管理すると便利です。私の場合はセレクトしたカットをiPadに取り込み、インデックスのように活用しています。効率よく画像をセレクトできるので、とても便利です。
3.外部ハードディスクに保存
ここからは具体的な保存手段を紹介してゆきます。まず始めにこちらの方法は現在一般的な方法と言えます。現在外部ハードディスクは量販店で入手しやすいことと、一万円前後で4〜6TBと大容量という点がメリットです。これからの時代を見据えた場合、オフラインでデータを保存できることも一つの利点とも言えるでしょう。それでは、外部ハードディスクの保存に関するポイントを整理してみましょう。メリット/デメリットは関係なく、抑えておきたいポイントを列挙します。
- オフラインでの保存が可能
- ハードディスクの寿命
- ネットワークハードディスク( NAS )の RAID ならば、自動バックアップも可能
このようなポイントがあります。外部ハードディスクで特に理解しておきたいポイントは製品寿命です。便利で手軽な反面、製品寿命は3〜4年と短めです。時間換算であれば、2万5千〜3万5千時間ですので、フルに活動させない限り、もう少し寿命は伸びそうです。実際に私も 10 年前のハードディスクを所有しています。たまに確認していますが動作します。すでに別の場所へバックアップは完了しているため、いつ壊れても大丈夫ですが、製品寿命は気になるポイントです。
また同じハードディスクでも、ネットワークハードディスクならデータ管理はさらに容易です。特にRAID機能は自動的にデータ補完をしてくれるため、機械任せで良いと言えるでしょう。職業として写真を撮影する方にはこちらがオススメです。
ちなみにこれが我が家にある、稼働する中で最も古いハードディスクです。バックアップは済んでいますが、いつまで稼働するかを観察しています。2007 年の撮影データが入っていますから、今年で 16 年目です。可能な限り電源には接続せず、短時間でデータを取り出すよう心がけています。どちらかといえばコネクターの形状や USB 規格が旧世代のため、そちらの要因で接続出来ない状況になりつつあります。
4.クラウドストレージ へアップロード
次に紹介する方法はこちらです。現在は Google や Amazon をはじめとした、いくつかのサービスに画像データを預けることが可能です。データはクラウドにあるため、いつでもどこでもアクセスが可能です。こちらもざっくりとですが、押さえておきたいポイントをまとめました。
- どこからでもアクセス可能
- データ容量の問題
- セキュリティー問題
- サーバー管理のルール変更
このような点がこちらの方法の特徴です。またクラウドでデータを預かるため、データそのものの紛失や消失のリスクは少ないと言えます。ただし、気になる点も多いです。特に撮影画像はデータ量が大きいため、撮影のオリジナルデータをそのまま全て預けるような使い方はできません。あくまでセレクトやリサイズなどをした軽いデータを選択した方が無難です。
また、この手段は「データを預ける」サービスのため、管理する運営のルールには従う必要があります。最悪のケースとして、運営がこのサービスを終了した場合はそのままデータも消失します。一時的な保存には便利ですが長期保存に関しては未知数と思っていた方が、現状は良いかもしれません。このようなサービスはプロがストック写真を顧客に見せるなどの場面では大いに役立ちます。急な対応にもO Kです。
5.高画質写真プリントを作る
こちらの方法は実体のない画像データを物質化させて、物理的に保存する方法です。つまりは画像データをプリントすることです。今までは当たり前のワークフローでしたが、ここ数年で写真プリントは保存方法として、個人的には再注目しています。
- 状態が見てわかる
- 原版としてデジタル復元が可能
- 物理的な空間が必要
今回の記事の最初でお伝えした通り、すでに銀塩写真の原版やプリントの保存方法は確立されています。その方法を続けることで長期保存が可能です。プリントサイズが大きいほど高画質で保存が可能です。また万が一、画像データが消失した場合も複写やスキャンでデータ化ができます。
アナログな方法ですが確実です。湿度と日光に気をつけて保存しておけば、比較的簡単に保存可能です。ただし画像データは光の三原色で再現しますが、プリントは色の三原色で再現されます。この点においては 100% 同じものがコピーされる訳ではありません。この点は頭の片隅に入れておきましょう。さらに保存には空間が必要です。引っ越しで紛失する、家族に捨てられる、等がないように気をつけてください。そのような “ うっかり ” もよく聞く話です。
6.NFTとして保存
最後に紹介するのは画像データを NFT 化させ、長期保存を目指す可能性です。こちらは現段階では保存方法として確立されていませんが、技術としてはあり得る手段です。
- 一度アップロードすると消えることはない
- データ所有者の情報が明確
- 全世界からアクセス可能
- 他者が閲覧できる
クラウドストレージへアップロードする方法と同じように感じますが、それは現時点での感覚とも言えるでしょう。今のインターネットは WEB2.0といわれる仕組みで動いてます。WEB2.0では Google や Amazon のような、世界的大企業がインターネットの中心にいる構造です。つまり今のインターネットは先ほど説明した通り、一部の人たちがデータを管理しているような状態です。これではサーバーを管理する側のルール変更次第でデータが消去される可能性もあります。この問題が解消されるのが WEB3.0時代の新しい構造です。WEB3.0時代ではブロックチェーン技術を活用することで、データの独占状態から、分散管理へと移行する予想がされています。つまりクラウドサービスでは「 データを預ける 」ことが基本でしたが、これからは「 自己責任で管理する 」という時代がやってきます。まだ将来の話ですが、キーワードとして覚えておくと良いでしょう。
7.古いデータを保存するメリット
最後に古いデータの活用方法をご紹介します。写真の長期保存はそれだけでも価値がある行いです。それはいつの時代も変わらないことですが、特にデジタル時代となってからは新たな愉しみ方も生まれています。それはソフトウェアの進化です。昔は失敗したと思っていたデータでも、いろいろな角度からデータが蘇る可能性があります。
私はデジタルカメラに移行してから、常に撮影を RAWデータで記録しています。当時の機材はダイナミックレンジが狭く、すぐに黒潰れや白トビとなっていました。その時は失敗したなと思っていたのですが、そのようなデータを最新のソフトウェアで再現像やレタッチし直すことが可能となりました。実は私も定期的に過去のデータを再現像し、当時よりも高画質な画像を作っています。色味や明暗差はもちろんですが、最近はスーパー解像度という方法も飛び出してきました。当時はせいぜい 600万画素だったカメラでも、スーパー解像度を使うと 2400万画像まで増幅されます。ピントさえ合っていれば、今でも十分通用する画質に再仕上げも可能です。このような後からの技術革新も十分に考えられるので、肝心なデータが消えないようしっかり保存しましょう。
写真はしばしば音楽に喩えられることがあります。原版を「 楽譜 」とするとプリントは「 演奏 」だという考え方があります。つまりは写真は撮るときの楽しさだけでなく、後から仕上げる楽しさもまた写真の魅力だということです。その魅力を将来的に味わうためにもデータの保存は必要不可欠だと言えます。
先ほどの古いハードディスクから写真を取り出して、最新のソフトウェアで再現像しました。同じ画像でありながら、解像感やノイズ低減は驚くほど改善されています。2007 年発売の 1200 万画素時代のカメラですが、画質は現代のものとあまり変わりありません。このような愉しみも味わえるのがデジタル画像の良いところです。
8.次回予告
画像データの長期保存はいかがでしたか。変化球のような回に思えますが、とても大切な話でした。最後に私の場合はクラウドへのアップロード以外の方法を実行しています。10 年以上デジタルカメラと付き合っていますが、今のところ消えたデータはゼロです。ぜひお試しください。さて次回は路線紹介、SLばんえつ物語です。ぜひご期待ください。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
煙道伸麻呂