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鉄道写真家・煙道伸麻呂の鉄道写真撮影講座
第40回 ライカで挑む!鉄道写真


Photo : Masato Endoh



TOPIX

鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・ 煙道伸麻呂( えんどうのべまろ )の鉄道写真講座の 40 回目は「 ライカで挑む!鉄道写真 」 です。 by 編集部

<本記事は 2022 年 3 月現在の情報です。現地の状況は記事をご覧いただく時期により記事内容と異なる場合がございます。>

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みなさまこんにちは!鉄道写真家の 煙道伸麻呂( えんどうのべまろ )です。今回はライカ M で撮影する鉄道写真の世界をご紹介します。写真好きな方であれば、一度は憧れる世界のライカです。果たしてライカで本格的な鉄道写真は撮れるのか。実際にカメラとレンズをお借りしてみました。やはりライカは一味もふた味も違うモノでした。それでは今回もさっそくスタートです。

Index

1.ライカMシリーズとは

ライカは最も有名なカメラブランドとして知られるドイツのカメラメーカーです。元々は 1849 年に光学機器開発のライツ社としてフランクフルトで創業した企業です。そののちライツ社に技術者 オスカー・バナルックが入社し、カメラメーカーとしてのあゆみを始めました。当時のカメラといえば、大きな機械でした。オスカー・バナルックはカメラの小型化を目標に、現在の主流である24×36mm 規格のカメラを開発します。つまり現在の一般的なカメラを作った開祖がライカなのです。

その後もカメラ開発は続き、高級35mmカメラとして名を馳せてゆきました。ライカの名前が有名になると、世界中でライカのコピー商品も作られるようになりました。そちらの方面にも愛好家が多く居ます。そして 1954 年には金字塔となる「 ライカM3 」が販売されました。このライカM3 が現在まで続く Mシリーズの源流となります。ライカM3 はレンジファインダー(測距計)を搭載し、当時としては高性能なカメラでした。小さいボディながらも、洗練されたデザインは今でも人気があります。M8 からはMシリーズもデジタルカメラとなり、2022 年には最新モデル M11 の販売も予定されています。世界中に熱狂的なファンがいる老舗のカメラメーカーがライカなのです。

レンジファインダー搭載の Mシリーズの他にも、一眼レフタイプの Rシリーズ、レンズ・センサ一体型の Qシリーズ、レンズ交換式 APSセンサーカメラ CL・TLシリーズなどが販売されています。ライカといえば高価なイメージですが、比較的リーズナブルなシリーズもあります。

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2.鉄道写真は向いているのか…?

さてライカの簡単な歴史と体系をご紹介したところで、果たしてライカは鉄道写真に向いているのかといえば・・・はっきりいうと不向きです。快適な鉄道写真ライフを望むなら、ミラーレスカメラや一眼レフの方が最適です。特に Mシリーズは昔から存在するレンズを活かすため、当然ながら最新機種にもオートフォーカスや自動絞り機構は備わっていません。マニュアル撮影が基本となるため、直感的に操作するために経験が必要です。現代のカメラのようにただシャッターを押せば写るといったお手軽さはありません。また動作もゆっくりしています。値段もやはり高価です。カメラ一台とレンズ一本で車が軽々買えます。現代のカメラと比べると不便を感じる場面は沢山あります。全てを考慮して使うべきカメラです。いい意味で達人が使うような機材だと思っておいた方が良いです。

写真1 道南いさりび鉄道

焦点距離: 50mm / シャッター速度:1/1000秒 / 絞り数値:F4.0 / ISO感度:320

それでも世界中にライカ愛好家が沢山います。確かにライカという強力なブランド力に憧れる人もいますが、やはり良い写真が撮れた時の高揚感は群を抜いていると感じます。写真の仕上がりも良いときは、一味違った濃厚な雰囲気が味わえます。カメラ本体ももちろんですが、しっかりとガラスで構成されたレンズの持ち味が最大限生かされているように感じます。ここにライカが愛される秘密があるようです。

Mシリーズはフルサイズ特有のダイナミックレンジの広さとの相性が抜群です。愛好家が多いのも納得の仕上がりです。RAWデータ記録もできるので、画像処理も可能ですが、撮って出しの写真もいい仕上がりです。技術を習得し、コツさえ体得すれば心強い相棒になることでしょう。

今回お借りしたのは LEICA M-P と エルマリート28mm、ズミルックス50mm、アポ・テリート135mm のレンズ3本です。いずれも小型のレンズなので小さなカメラバックででも余裕に収まります。素早く取り出せるようなバックが良いでしょう。

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3.旅のお供に向いているライカ

写真2 室蘭本線

焦点距離: 50mm / シャッター速度:1/180秒 / 絞り数値:F2.4 / ISO感度:320

ライカの設計思想として、カメラの小型化を実現したお話をご紹介しました。そのように小型カメラが活躍する王道といえば、やはりスナップ撮影でしょう。鉄道旅行のスナップ撮影と相性が良さそうです。カメラ本体はやや大きいですが、レンズは小型の単焦点レンズがラインナップの主力です。小さなカメラバックでもレンズ3本は収納可能ですから、身軽に動けて撮影できます。

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4.エルマリート 28 mm

写真3 札幌市電

焦点距離: 28mm / シャッター速度:1/350秒 / 絞り数値:F4.5 / ISO感度:320

今回お借りしたレンズで一番のお気に入りが、エルマリートの 28mm です。繊細な描写力とあっさりとした色再現は、とても上品な印象を感じました。エルマリートは 1960 年代中期に登場したレンズです。6群9枚で構成された対称型設計のレンズです。エルマリートは時代とともに改良されて、現在では5代目のエルマリートがライカから発売されています。こちらは非球面レンズを1枚含んだ、6群8枚で構成されています。レンズの描写感は現代的な写りと表現されることも多い一本です。
こちらの写真は、夏の眩しい光景です。ハイライトの明るさを保ちつつ、シャドーも潰れていないバランスの良さが際立ちます。色再現も爽やかで好印象です。やはり現代レンズのように素直な描写力を感じる広角レンズです。夏の北海道の印象がそのまま写真に表現されました。

写真4 弘南鉄道大鰐線

焦点距離:28mm / シャッター速度:1/350秒 / 絞り数値:F4.5 / ISO感度:320

今回はライカを持って、北海道から東北の旅を楽しみました。青森県の弘南鉄道の弘前中央駅では昔ながらの改札もまだまだ現役です。人は写っていませんが、足跡を狙って気配を写しています。おおらかな空気を映し出すときにもライカのいい味が効いています。

写真5 秋田内陸縦貫鉄道

焦点距離:28mm / シャッター速度:1/13秒 / 絞り数値:F13 / ISO感度:320

こちらも同じレンズです。スローシャッターで列車の躍動感を表現しました。列車の外は明るく、車内は暗い状況です。輝度差が大きい状況では、不自然にシャドー側が浮くこともなく、漆黒に表現されます。もちろん完全には潰れておらず、絶妙なバランスを保っています。

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5.ズミルックス 50 mm

ここからはズミルックス50mmでの撮影です。ズミルックスは開放値が f/1.4 の性能を持つレンズの名称です。初代ズミルックス 50mm は 1950 代終盤に登場したレンズです。写真界の常識として単焦点の 50mm は標準レンズと言われています。その中でもズミルックスはレンズの歴史に残る傑作と呼ばれるほど、有名なシリーズです。こちらも歴史とともにマイナーチェンジを繰り返しますが、基本的には 1960 年代のレンズ設計はそのままで、現在も愛されているレンズです。

写真6 札幌市電

焦点距離:50 mm / シャッター速度:1/90秒 / 絞り数値:F1.4 / ISO感度:1250

最近の鉄道写真では夜間撮影がブームです。カメラの高性能化とともに、少ない光量でも写真が撮れるようになりました。今回使用した M―P は数年前の機種ですが、フルサイズのセンサーを搭載しています。もちろん手振れ機構などは積んでいませんが、しっかりとカメラをホールドすればこのような写真も撮影できます。レンズの開放付近を使って、夜の街の雰囲気を狙いました。このような空気感が独特なタッチに仕上がります。

写真7 弘南鉄道弘南線

焦点距離:50 mm / シャッター速度:1/250秒 / 絞り数値:F11 / ISO感度:320

カメラを借りて最初の頃は、撮影時は肩に力が入っていましたが、扱いに慣れてくると普通の使い方もできるようになります。ライカだからといって、全ての場面を特別に撮る必要はありません。一見すると普通の記録写真ですが、このような普段使いもできる機材です。身近な写真も撮れます。ただし他社の標準レンズとは大きく異なる点もあります。それは一本 50 万円のレンズだということです。

写真8 弘南鉄道大鰐線

焦点距離:50 mm / シャッター速度:1/500秒 / 絞り数値:F1.7 / ISO感度:320

このレンズを使っているうちに、金属の質感表現が気に入りました。HITACHI のロゴマークにピントを合わせました。ほぼ開放値ですが、合焦面はとてもシャープです。縦位置での撮影もシャッターボタンが下に来るように構えると、しっかりとホールドできます。基本動作を忠実に心がけたいものです。良い意味でずっしりした重さも官能的です。

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6.アポ・テリート 135 mm

最後にご紹介するのはアポ・テリートです。まず「 アポ 」とはレンズの色収差を抑えた設計という意味です。光の三原色である赤・緑・青(RGB)はそれぞれ波長の特性が異なります。その波長の違いを調整し、色収差を抑えたレンズに付けられる名前です。Apo とも表記されるため、他のメーカーでもみられます。「 テリート 」は、ライツ社時代の 1930 年代に発売された 200mm の望遠レンズに与えられた名前です。望遠を意味する「テレ」と「エリート」を組み合わせた名前だそうです。今回お借りした M 用のアポ・テリートは 1998 年に発売された、比較的新しいレンズです。鉄道写真といえば望遠レンズが定番です。期待をこめてお借りしました。

写真9 山手線

焦点距離:135 mm / シャッター速度:1/1500秒 / 絞り数値:F8.0 / ISO感度:400

望遠レンズということで鉄道写真ではスタンダードな編成写真を撮影してみました。このように置きピン技術を利用すれば、編成写真も大丈夫です。ただし、135 mm の領域になるとレンジファインダーを覗いての撮影は非常に難しいです。ファインダー内に枠は表示されるものの、精密なフレーミングにはかなりの慣れが必要です。望遠領域のレンズには、外付け電子ファインダーの使用をオススメします。ピントのコントロールもしやすく、必須アイテムと言っても良いほどです。

写真 10 上野東京ライン

焦点距離:135 mm / シャッター速度:1/1500秒 / 絞り数値:F3.5 / ISO感度:400

続いて特急列車を撮影しました。アポ・テリート135 mm の開放F値である f/3.4 に設定しました。ピント位置が無限遠に近いため、ささやかですが、優しいボケ味を感じさせます。当然ながらカメラに連写機能はなく、一枚切りで撮影しています。一枚一枚を大切に撮影したいと思えるような機材です。

写真 11

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7.次回予告

今回はライカを携えた鉄道旅でした。いかがでしたでしょうか。かねてより「 ライカならどんな鉄道写真が撮れるのだろう 」と想像していましたが、その疑問が解決しました。現代のカメラはとても優秀で誰もが簡単に扱えますが、それとはまた違った愉しみを教えてくれるカメラでした。バリ鉄には向きませんが、濃厚な写真体験でありました。憧れが一つ叶って良い旅でした。さて、次回はまた元のカメラに戻して撮影です。路線紹介の東京モノレール編、ぜひご期待ください。

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著者について
煙道伸麻呂 ( えんどうのべまろ )鉄道写真家 本名 遠藤真人 日本大学芸術学部卒業 日本写真学会会員 EIZO ColorEdge Ambassador 幼少期から鉄道に魅了されカメラマンの道を目指す。近年は撮影のみならず、カメラメーカーや鉄道会社とのタイアップイベントを企画する。コンテスト審査員・メディア出演・写真教室講師など活動は多岐にわたる。