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鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座
第13回 蒸気機関車の撮り方

railway13

Photo : Masato Endoh


TOPIX

鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真講座の13 回目は 「 蒸気機関車の撮り方 」です。鉄道の王者とも言える蒸気機関車ですが、Webでも個別に解説している記事はあまり多くみかけません。今回より本連載は鉄道の被写体別の解説に移っていきます。ご期待ください。by 編集部

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みなさまこんにちは!鉄道写真家の遠藤真人です。今回からは被写体別の撮影方法についてご紹介します。最初の被写体は鉄道の王者とも言える蒸気機関車について解説します。

1.蒸気機関車の魅力

写真1 山口線
焦点距離:390 mm / シャッター速度:1/800秒 / 絞り数値:F5.6 / ISO感度:1000 2017年やまぐち号にD51200号機が再復活した。この場所では盛大に煙が吹き上がるため、予め縦構図と心に決めていた。

焦点距離:390 mm / シャッター速度:1/800秒 / 絞り数値:F5.6 / ISO感度:1000 2017年やまぐち号にD51200号機が再復活した。この場所では盛大に煙が吹き上がるため、予め縦構図と心に決めていた。

煙をもうもうと噴きながら、轟音を立てて走る姿。それが蒸気機関車の最大の魅力です。むき出しの機械が、まるで生き物のように佇む姿には感動すら覚えます。蒸気機関車自体は前世紀的な古い存在ではありますが、やはり凄まじいエネルギーを感じ取れる数少ない車両です。
2019 年現在では12 路線、21 両の機関車が主に週末を中心に走っています。その全てが観光目的であり、鉄道の中でも特別な存在です。ノスタルジーの世界に浸るもよし、機械美を感じるもよしと、人それぞれに楽しみ方がある不思議な存在です。何を隠そう、私も鉄道の中で最も好きな車両が蒸気機関車です。少しマニアックな視点になるかもしれませんが、しばしお付き合いください。それでは蒸気機関車の魅力的な撮影方法の解説へとはいります。以下より蒸気機関車は”蒸機”と表記します。

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2.煙が命の蒸機撮影

蒸機を撮る際に最も重要となるポイントは「 煙をどのように写すか 」です。意外に思われるかもしれませんが、蒸機は常に煙を吐いていることはありません。煙が現れるタイミングがあるのです。それは、力行をしている時にのみ、その副産物として煙が現れるのです。” 力行 ” とは自動車で例えると “ アクセルを踏んでいる ” 状態のことです。つまり蒸機の撮影では、撮影場所選びが最も重要となります。

写真2 山口線
焦点距離 230mm/シャッター速度:1/1250秒 / 絞り数値:6.7 / ISO感度:800 煙は風との戦いでもある。晴天でも風向きには注意しなければならない。ただし綺麗な形が写真として面白いとは限らない。この時は吹き出す黒煙が龍のようにうねりだした。

焦点距離 230mm/シャッター速度:1/1250秒 / 絞り数値:6.7 / ISO感度:800 煙は風との戦いでもある。晴天でも風向きには注意しなければならない。ただし綺麗な形が写真として面白いとは限らない。この時は吹き出す黒煙が風になびいて、昇り竜が如くうねりだした。

それでは、力行するのはどのような場面でしょうか。自分が車を運転するとイメージして考えてみましょう。まずは停車から動き出す時にはアクセルと踏むと思います。次に登りなどの坂道ではアクセルを強く踏むことでしょう。これを鉄道写真に当てはめて考えます。
つまり蒸機撮影において「 駅の発車 」と「 上り勾配 」の場所では、盛大に煙を吐き出すことが予想されます。このポイントを重点的に探しましょう。

ただし、夏の季節では「 駅の発車 」と「 上り勾配 」でもスカ( =煙が見えない状態 )になることもあります。これは正確に表現すると、煙は吐いているものの、“ 色がつかない” 状態にあるのです。この見極めは蒸機撮影において最も難しい要素なのです。
また、煙のたなびき方によって列車のスピード感を表現することも可能です。速度がゼロに近い状態の発車時は、煙は垂直状態で昇ってゆきます。真上に上がる煙によって、ゆっくりした速度を表現することになります。一方で、煙が列車に沿ってたなびく煙は、速さを象徴しているのです。

写真3 磐越西線
シャッター速度:1/1250秒 / 絞り数値:5.6 / ISO感度:320 このC61形蒸気機関車は旅客機の全盛期に活躍した形式だ。速度が出ると煙は後方へと流れてゆく。

シャッター速度:1/1250秒 / 絞り数値:5.6 / ISO感度:320 このC61形蒸気機関車は旅客機の全盛期に活躍した形式だ。速度が出ると煙は後方へと流れてゆく。

半分余談となるのですが、最後は石炭のお話です。
煙は蒸機にとって燃料の石炭を燃やすことで生じる副産物です。つまりは石炭の産地や性質によって、煙の出方も変わるのです。例えば高品質な石炭を使うと、燃焼効率が上がります。そのため副産物の煙も少なくなります。このような法則を知っていると、更に深みのある写真が撮れるかもしれませんね。

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3.撮影地の選び方

煙の重要性を理解した後は、具体的な撮影地を探すテクニックを解説してゆきます。先ほど「 駅の発車 」と「 上り勾配 」が狙い目と書きましたが、写真撮影においては光線状態も大切な要素です。順光か、斜め後ろからの半逆光状態の場所をお勧めします。逆光は特別な狙いがない限り、避けた方が良いでしょう。
幸いなことに、現在全国を走っている各列車は1日1往復が原則です。つまり同じ時間に各撮影地を通過します。他の被写体よりも、撮影地ガイドなどの情報も信頼できるのです。

特に駅発車で撮影する際には、機関車の下部から排出されるドレーンにも注目しましょう。このドレーンは停車中に溜まったものを発車と同時に吐き出す行為です。冬の寒い時期は、機関車がベールに包まれたようになります。その白い煙の中から蒸気機関車が現れるのです。あまりに寒い時には全てを隠してしまいますが、一瞬でも機関車が見えた時には幻想的な写真となります。ぜひ狙ってみましょう。

写真4 真岡鐵道
焦点距離:80 mm / シャッター速度:1/800秒 / 絞り数値:F6.3/ ISO感度:1600 真岡鐵道から東武鉄道へと移籍が決まったC11325号機。発車時は機関車の速度よりも先にドレーンが充満する。ただ勢いが良すぎると全てが隠れてしまう。

焦点距離:80 mm / シャッター速度:1/800秒 / 絞り数値:F6.3/ ISO感度:1600 真岡鐵道から東武鉄道へと移籍が決まったC11325号機。発車時は機関車の速度よりも先にドレーンが充満する。ただ勢いが良すぎると全てが隠れてしまう。

また上り勾配は主に山( 峠 )の入り口付近がよく煙を吐きます。一方で山頂付近は急勾配でない限り、機関車は加速をやめることも多いです。なぜならば、山頂を境に列車は下り勾配を走行するためです。列車は加速はおろか、ブレーキをかけながら無煙で駆けて行きます。また撮影者が多い場所では、機関士さんのご厚意で煙が出るポイントもあります。蒸気機関車が観光資源となった現代ならではの光景です。

写真5 南廻線
焦点距離:67 mm / シャッター速度:1/1000秒 / 絞り数値:F6.7 / ISO感度:800 台湾で稼働しているDT650形。実は日本製でD51形蒸気機関車と同じものだ。この場所は下り勾配で煙を吐くことはないが、大量の鉄道ファンを見つけた機関士がサービスの煙を吐いてくれた。台湾は鉄道とファンの友好関係が素晴らしいと感じた一コマ。

焦点距離:67 mm / シャッター速度:1/1000秒 / 絞り数値:F6.7 / ISO感度:800 台湾で稼働しているDT650形。実は日本製でD51形蒸気機関車と同じものだ。この場所は下り勾配で煙を吐くことはないが、大量の鉄道ファンを見つけた機関士がサービスの煙を吐いてくれた。台湾は鉄道とファンの友好関係が素晴らしいと感じた一コマ。

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4.ロッドの位置に気をつけましょう

ここからはさらにマニアチックなお話ですので、応用編としてお読みいただけると幸いです。蒸気機関車には幾つかの車輪が付いています。例えば C11 形であれば、先頭から車輪が1つ、動輪が3つ、後輪が2つ装着されています。そのうちの大きな車輪は動輪と呼ばれており、ピストン運動を動力に変える役割を担っています。機関車が前後に進むために重要な車輪です。その動輪に動力を伝える部品がロッドです。蒸機撮影ではこのロッドの位置が肝心となります。
このロッドの状態が真下、もしくは真上の位置に来ている時が最も良いタイミングです。どちらかの位置であれば複雑に組み合わさったロッドが綺麗に写すことが可能となるからです。もし、連写機能を使って同じような写真が撮れた場合は、このロッドの位置を心がけて写真を選びましょう。
この連載の第1回目の記事に形式写真でもロッドの位置を心がけて撮影をしています。ぜひ、そちらも参考にしてください。

写真6 只見線
焦点距離:62 mm / シャッター速度:1/1000秒 / 絞り数値:F5.0 / ISO感度:400 ロッドは動輪の横についている部品群のことだ。この角度が写真にとっては最良だ。

焦点距離:62 mm / シャッター速度:1/1000秒 / 絞り数値:F5.0 / ISO感度:400 ロッドは動輪の横についている部品群のことだ。この角度が写真にとっては最良だ。

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5.煙道

今回の最後に私のライフワークである「 煙道 」についてご紹介します。煙道は “ えんどう ” と読みます。ジャンルとしては鉄道イメージ写真の作品群です。幼い頃から憧れていた蒸気機関車をテーマに、蒸気機関車を表現したいと考えたことが、きっかけです。そして日本大学芸術学部の卒業制作で「 煙道 」と名付けました。私にとって大切なライフワークの一つとなっています。大学を卒業後にフリーのカメラマンとなり、2016 年には EIZO ガレリア銀座において再び煙道の新作を発表させていただきました。今回はその個展で発表した、いくつかの写真を掲載します。

写真7 只見線
焦点距離: 195mm / シャッター速度:1/1000秒 / 絞り数値:F 7.1/ ISO感度:500 終着駅に到着して休憩中のC11。写真をモノクロ化し、ライトとナンバープレートの部分を着色して表現した。構内踏切から撮影。

焦点距離: 195mm / シャッター速度:1/1000秒 / 絞り数値:F 7.1/ ISO感度:500 終着駅に到着して休憩中のC11。写真をモノクロ化し、ライトとナンバープレートの部分を着色して表現した。構内踏切から撮影。

写真8 秩父鉄道
焦点距離:24 mm / シャッター速度:1/1250秒 / 絞り数値:F7.1 / ISO感度:320 煙に巻き込まれる親子。よもや煙に巻き込まれるとは思っていなかったようで、驚きながらも楽しんでいた。

焦点距離:24 mm / シャッター速度:1/1250秒 / 絞り数値:F7.1 / ISO感度:320 煙に巻き込まれる親子。よもや煙に巻き込まれるとは思っていなかったようで、驚きながらも楽しんでいた。

写真9 釜石線
焦点距離:56 mm / シャッター速度:1/40秒 / 絞り数値:F2.8 / ISO感度:5000 展示では「銀河鉄道の夜に」とタイトルをつけた。ライトアップされた眼鏡橋と煙のシルエット。

焦点距離:56 mm / シャッター速度:1/40秒 / 絞り数値:F2.8 / ISO感度:5000 展示では「銀河鉄道の夜に」とタイトルをつけた。星空の下、ライトアップされた眼鏡橋と煙のシルエットが幻想的。

普通の写真とは一味違ったところを狙ったものばかりです。編成写真や鉄道風景写真とは全く無縁の世界です。ですが、どれもお気に入りのものです。
次回は2020 年の1月に、再び EIZO ガレリア銀座でアメリカとドイツの蒸気機関車をテーマに「 煙道 」の新作を発表予定です。ぜひお越しくださいませ。

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6.次回予告

いかがでしたでしょうか。
蒸気機関車撮影の基礎はこれで終了です。今回もお付き合いいただきありがとうございました。少しディープな内容となってしましたが、次回は基本に戻って蒸気機関車の撮影設定です。ぜひご期待ください。

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遠藤真人
著者について
鉄道写真家 1989年生まれ 日本大学芸術学部卒業 日本写真学会 会員 EIZO ColorEdge Ambassador 幼少期から鉄道に魅了され、カメラマンの道を目指す。近年は撮影のみならず、カメラメーカーや鉄道会社とのタイアップ企画を行う。また、イベント・メディア出演・写真教室講師を務めるなど活動は多岐にわたる。
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