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鉄道写真家・煙道伸麻呂の鉄道写真撮影講座 第46回 乗りながら撮る!乗り鉄向け鉄道撮影

Photo : Masato Endoh



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鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・ 煙道伸麻呂( えんどうのべまろ )の鉄道写真講座の 46 回目は「乗りながら撮る!乗り鉄向け鉄道撮影」をお届けします。しばらく更新ができずに申し訳ありませんでした。 by 編集部

<本記事は 2023 年 4 月現在の情報です。現地の状況は記事をご覧いただく時期により記事内容と異なる場合がございます。>

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みなさまこんにちは!鉄道写真家の煙道伸麻呂です。今回はある意味で究極の鉄道写真、乗ってこそ撮れる鉄道撮影です。普段の鉄道写真といえば、走行列車の外観写真がメインです。しかしながら、それだけでは鉄道の魅力を味わい尽くしたとはいえません。やはり鉄道は乗ってこそ魅力を感じます。こちらではそのような「乗り」ながら「撮る」ことができる、少しこだわった写真をご紹介します。今回は「乗り鉄」の方にも参考にしていただきたい記事です。

Index

1.「乗る」と「撮る」を両立させる鉄道写真

現在、鉄道趣味は細分化されています。列車に乗ることを楽しむ「乗り鉄」、撮影を楽しむ「撮り鉄」、グッズの収集を楽しむ「収集鉄」。など鉄道趣味といっても楽しみ方が多様化されています。いきなりの余談ですが、日本ではあまり主流ではない「見る鉄」も海外に多く存在しています。私が見たところでは、駅のホームで双眼鏡を使って列車番号を記録している人たち。さながら野鳥の会のごとく、熱心に観察していました。また英国紳士の鉄道ファンは珍しい列車を見ながら、紅茶を楽しむといった風習も一部にあるようです。実に優雅な趣味です。

写真1 ドイツ フランクフルト中央駅

焦点距離:75 mm / シャッター速度:1/1000秒 / 絞り数値:F9.0 / ISO感度:800

それはさておき、鉄道趣味では「乗る」と「撮る」を両立させることは困難と言われています。単純にいえば「列車に乗ったら、(外観が)撮れない」ということです。それでは全く撮影ができないのかと言えば、そうではありません。乗るからこそ撮れる鉄道写真をいくつかご紹介してゆきます。

写真2 三陸鉄道

焦点距離:12 mm / シャッター速度:1/500秒 / 絞り数値:F6.4 / ISO感度:400

鉄道撮影趣味に比べて、列車に乗るたびは遥かに気楽で優雅です。ゆったりと流れる時間を楽しみましょう。たまにはこんな息抜きも(?)。

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2.乗り鉄に適した機材、撮影設定

写真のパターンを紹介する前に、おすすめの機材を紹介します。走行列車の外観を撮影する鉄道撮影では、望遠レンズが必須でした。乗り鉄メインの撮影ではそのような機材はあまり使いません。代わりに超広角レンズが活躍します。

超広角と書いたのには理由があります。列車は狭い空間ですので、全体の雰囲気や記録を残すためには通常よりも、さらに広角が有利です。フルサイズ換算ならば、16―35mm 程度の画角が使いやすいでしょう。さらに広角領域があれば、非常に便利です。出来れば手ブレ補正機能がついたものを選びましょう。走行列車はかなり揺れがあります。カメラ本体に手ブレ補正機能があれば、そちらも有効です。参考までに私はセンサーサイズが APS の機種に 12mm の単焦点ツァイスレンズを常用しています。ディスタゴンなので歪みも少なく、優秀なレンズです。換算焦点距離は18mmです。ズームレンズも良いですが、限られた空間なのでカメラディスタンスで画角を調整します。自分自身が被写体との距離を調整して撮影をします。

また意外にも車内では低速のシャッター速度を多く使います。これは車内が暗いこと、車窓風景をわざとブラすことで走行の雰囲気を写す効果を狙うためです。また当たり前のことですが、大きな三脚は持ち込みを避けましょう。もし使うとしても、ハンドサイズのものが精一杯です。他の乗客に迷惑とならないよう、ササッと撮れる小型のものが最適です。

写真3 長野電鉄

焦点距離:12 mm / シャッター速度:1/30秒 / 絞り数値:F 13/ ISO感度:100

窓の外を撮影するのも良いですが、窓枠を意識した写真も鉄道写真らしい撮り方と言えます。その究極とも言えるのが、展望車両からの眺めです。大きな窓から眺める沿線の景色は最高です。これはやはり乗らなければ味わえない醍醐味と言えるでしょう。
ただし撮影で気を付けることもあります。それは撮りたい風景は瞬間的だということです。名だたるローカル線であっても、絶景は意外にも一瞬です。あっという間に過ぎてしまった…とならないよう気をつけましょう。どの区間が一番見どころなのか、予め調べていたほうが良いです。

写真4 三陸鉄道

焦点距離:12 mm / シャッター速度:1/500秒 / 絞り数値:F8.0 / ISO感度:400

また車窓からの撮影で気をつけたい点として、カメラや身を乗り出さず撮影しましょう。また、慣れている鉄道ファンはタオルを持参して出発前に自席の窓を拭いておくそうです。

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3.駅の雰囲気を撮る

乗り鉄をしながら撮影しやすいものといえば、駅の風景です。特に最近のイベント列車や観光路線では、有名な駅を見学するために長時間停車するケースも増えています。個性的な駅舎であるとか、ホームからの絶景が楽しめる場所も全国各地にあります。沿線で撮影していると、そのような風景に出会う機会は少なくなります。じっくりと発車時間まで、駅を楽しみましょう。

写真5 三陸鉄道

焦点距離:12 mm / シャッター速度:1/250秒 / 絞り数値:F13 / ISO感度:400

最近はツアーでもこのような企画が多く、実は鉄道写真愛好家にも楽しめる内容となっています。最近参加したツアーでは、日本旅行社が企画した「”超”普通列車で行く三陸鉄道全駅探訪の旅」に参加をしました。こちらは乗り鉄向け企画だったのですが、実際に参加してみると有名路線の全駅を効率よく撮影できました。時間制限はあったものの、とても鉄道写真が撮れるツアーでした。

写真6 鹿児島本線

焦点距離:135 mm / シャッター速度:1/500秒 / 絞り数値:F7.1 / ISO感度:1600

さて、駅ではどのようなものが撮影スポットとなるでしょうか。駅舎、駅名板、「その駅らしいのアイテム」でしょうか。この辺りをキーポイントとして撮影しましょう。特に始発駅と終着駅は特別な存在です。他の駅よりも入念に撮影した方か良いでしょう。また駅前の雰囲気は必ず撮影しておきましょう。数年の後に見返すと、時代の空気を感じる写真となります。

写真7 日南線

焦点距離:74 mm / シャッター速度:1/1250秒 / 絞り数値:F7.1 / ISO感度:450

ローカル線の終着駅はとても旅情を感じます。こちらは日南線の終点、志布志駅です。終端部から車止め標識を入れて撮影しました。

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4.内装・銘板・パーツを撮る

ここからはさらにマニアチックな領域です。列車の車内には車両の形式名と、製造番号を表すプレートが装着されています。主に列車の端の上部に掲出されています。こちらも列車に乗った時には確認しておきたいポイントです。
さらに古い年代の車両であれば、備え付けられている設備のデザインも古いものがあります。手摺りなどの金具や網棚、手書きの文字表記などを注意深く観察してみましょう。車両の歴史を感じられる渋い写真が撮れるはずです。

写真8 ひたちなか海浜鉄道

焦点距離:50 mm / シャッター速度:1/250秒 / 絞り数値:F3.4 / ISO感度:100

ひたちなか海浜鉄道に在籍する、最古参のキハ205の車内から撮影しました。貸切り列車のため思う存分、撮影させていただきました。ランプも計器も骨董品。味わい深い情景も乗ることで撮影できるのです。

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5.乗り鉄写真で使えるアイテム

最後に撮影で使えるアイテムをご紹介します。まず一つ目は忍者レフです。こちらは窓越しに風景を撮影する時に役立ちます。純粋に窓外の風景を写すとき、窓に写り込みがよく発生します。この写り込みを防ぎたいときに、忍者レフが活躍します。小型のアイテムですから、常時カバンに入れておいても大丈夫です。

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もう一つは RAW現像ソフトです。最近の鉄道車両は、窓ガラスが特殊な色をしています。これは紫外線などをカットするためだそうです。目で車窓を見るには問題ありませんが、写真に撮るとかなり青みが強くなります。この問題を解決するためにはホワイトバランスの調節が必要です。カメラのオート機能でもそこそこに写りますが、やはり RAW現像で調整したものには敵いません。しっかりと調整すれば、窓の存在を感じることもなくクリアに補正できます。ぜひお試しくださいね。

写真9 東海道新幹線

焦点距離:3.45 mm / シャッター速度:1/60秒 / 絞り数値:F1.9 / ISO感度:53

最後にご紹介する写真はこちら。新幹線の車窓です。右上に写っているのは UFO ではなく、新幹線の天井にある照明です。普段であれば、忍者レフで取り除きます。しかしながら、全体のバランスが面白く、ここではあえて強調してみました。スマホで撮影したお気に入りの一枚です。ぜひ撮影データにも注目してください。

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6.次回予告

これにて撮影術の紹介は終了です。乗ったら撮れない、と言われ続けている鉄道趣味もイメージが変わったでしょうか。思い出に残るような写真を撮ってくださいね。さて次回は路面電車、鹿児島市交通局のご紹介です。ぜひご期待ください。

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著者について
煙道伸麻呂 ( えんどうのべまろ )鉄道写真家 本名 遠藤真人 日本大学芸術学部卒業 日本写真学会会員 EIZO ColorEdge Ambassador 幼少期から鉄道に魅了されカメラマンの道を目指す。近年は撮影のみならず、カメラメーカーや鉄道会社とのタイアップイベントを企画する。コンテスト審査員・メディア出演・写真教室講師など活動は多岐にわたる。