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鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座
第36回 駅の撮り方


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Photo : Masato Endoh


TOPIX

鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真講座の 36 回目は「 駅の撮り方 」を解説しております。旅情を感じさせる駅舎の風情はいいものですね。車両とはまた違った魅力を感じます。撮影旅行の参考としていただければ幸いです。 by 編集部

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みなさまこんにちは!鉄道写真家の遠藤真人です。今回は駅舎の撮り方について解説してゆきます。旅を題材とした写真でも駅は重要なポイントとなります。スナップ的に撮るのも良いですが、建築写真の知識を使った本格的なアプローチもご紹介します。ぜひ参考になれば幸いです。それではさっそくスタートです。

Index

1.駅の様々な魅力

写真1若桜鉄道
焦点距離:18mm / シャッター速度:1/320秒 / 絞り数値:F5.6 / ISO感度:100

焦点距離:18mm / シャッター速度:1/320秒 / 絞り数値:F5.6 / ISO感度:100

鉄道の駅には多くの種類があります。都心の玄関口となる大きなターミナル駅や地方の趣のある駅。近年注目を浴びている秘境駅や無人駅。それぞれの地方の雰囲気や歴史が映し出されるようで、どれもが魅力的です。中には板張のホームだけがある、朝礼台と呼ばれるような究極的な駅まで様々です。

旅が好きな方にはローカル線の駅でのんびりとベンチに腰を掛けて列車を待つ…なんて、シチュエーションは憧れの情景です。駅にはそれぞれの物語があり浪漫があります。鉄道の中でもディープな領域です。駅に少しでも魅力を感じたあなたは、かなりの鉄道ファンといってもいいでしょう。余談ですが、映画を発明者として有名なリュミエール兄弟は「ラ・シオタ駅への列車到着」を発明初期に発表しました。駅に到着する列車と乗降するお客の姿を捉えたものです。これは映画史では有名な話です。鉄道写真だけではなく映画でも特別な存在として知られています。

写真2 東海道本線
焦点距離:310mm / シャッター速度:1/60秒 / 絞り数値:F6.3 / ISO感度:2500

焦点距離:310mm / シャッター速度:1/60秒 / 絞り数値:F6.3 / ISO感度:2500

駅の情景として、夜行列車の発着風景などもいい場面です。旅の始まりや、終わり、別れや出会いを連想させます。人と人が行き交う都市の風景ならではの光景です。

写真3 日高本線
焦点距離:12mm / シャッター速度:1/500秒 / 絞り数値:F7.1 / ISO感度:200

焦点距離:12mm / シャッター速度:1/500秒 / 絞り数値:F7.1 / ISO感度:200

一方で地方にある簡素な駅もまた魅力的です。この駅舎は国鉄時代の貨車を改造して利用されていました。現代ではプレハブ小屋のような感覚でしょうが、これはこれで鉄道ファンの心をくすぐります。

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2.押さえておきたいポイントと見どころ

駅を撮る時にポイントとなるものがあります。それは駅の正面風景と駅名板です。この二点は本格的な鉄道写真ではなくても記録しておきたいポイントと言えるでしょう。どちらの場合もその場所の雰囲気がわかるカットと、正面からのカットは押さえておきたいですね。また終点であれば、車止めなども忘れずに撮っておくと完璧です。最初のうちは意識をして狙うと良いです。慣れてくると自然と被写体を見つけられるようになります。

もう一つ、駅にまつわる被写体として駅前の風景もあります。この写真は撮った瞬間は実感が湧きませんが、長年経つと写真の価値が上がります。新幹線の新駅は風景の変化が大きいです。数年で一変する場所も多くあります。

写真4 宗谷本線
焦点距離: 18mm / シャッター速度:1/640秒 / 絞り数値:F5.6 / ISO感度:200

焦点距離: 18mm / シャッター速度:1/640秒 / 絞り数値:F5.6 / ISO感度:200

2021年初春に廃止となった北星駅です。ホームは板張りの朝礼台です。旅が好きな人であれば、一度は降りてみたいと思うような駅でした。北海道にはこのような味のある駅がまだまだ沢山残っています。

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3.スナップ的に撮る

ここからは実践的な写真の撮り方です。まず露出は絞りを深めに設定しておく方が良いです。スナップ的な撮り方であれば、周囲に写るものも重要なエッセンスとなる場合があります。そのような時は基本的に被写界深度の深い写真が好まれます。場所の雰囲気が写るように、まずは f/5.6〜8.0 程度のあたりから撮影してみましょう。スマホやコンパクトカメラでの撮影もO Kです。

写真5 小海線
焦点距離:12 mm / シャッター速度:1/640秒 / 絞り数値:F 6.4/ ISO感度:400

焦点距離:12 mm / シャッター速度:1/640秒 / 絞り数値:F 6.4/ ISO感度:400

しっかりした写真は撮れたなと思えたら、自分らしい写真を狙ってみるのも良いでしょう。自分が気になったものにピントを合わせて、f/1.4〜2.8 程度の被写界深度の浅い写真に挑戦するのも良いでしょう。駅に列車が来ない時でも、絵になる風景はたくさんあります。細かく観察するといいものが見つかるはずです。スナップ写真のコツは楽しく撮影することです。駅では列車の往来や乗降客の動きなどを配慮して、邪魔にならないよう行動しましょう。

写真6 大井川鐵道

1_6_R

木製の架線柱の下を走ってくる蒸気機関車を狙いました。人物やモデルの姿はありませんが、これはこれでローカル線らしい情景とも言えそうです。演出が過ぎるとかえって逆効果に感じる場合もあります。

写真7 東北本線
焦点距離:50 mm / シャッター速度:1/45秒 / 絞り数値:F2.8 / ISO感度:200

焦点距離:50 mm / シャッター速度:1/45秒 / 絞り数値:F2.8 / ISO感度:200

上野駅の地上ホームにある石川啄木の詩です。いままで幾多の人々を送り出し、受け入れてきた北の玄関口の象徴です。スナップ撮影ならばライカも楽しく使える場面が多いです。

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4.建築写真的に撮る

こちらは主にプロが依頼を受けて、専門的に撮影する方法です。駅を建物と捉えて正対で撮影します。正対とは文字通り、被写体に向かって正面で対峙することです。建築撮影の基本は「 水平垂直 」と「 歪みがないこと 」です。この場合ではアオリ( チルト・シフト )の知識が必須です。この点で専門知識が必要でした。あえて過去形で書きますが、昔の建築写真はアオリ機能が備わった大判カメラの独壇場でした。最低限の機材として4 × 5判( シノゴ )、8 × 10判(エイトバイテン)が必要でした。35mm 判のレンズにチルト・シフト機能が備わったレンズもありましたが、あくまで予備の機材として扱われていました。そして現在ですが、ほとんどの場合は 35mm 判のデジタルカメラと広角レンズで撮影しています。チルト・シフトレンズまで用意できれば完璧ですが、ある程度はソフトウェアやデジタルアオリ機能でも大丈夫です。チルト・シフトがどういうものなのか、ソフトウェアの操作で解説してゆきます。

広角レンズにはパースペクティブを強調する特性あります。パースペクティブとは遠近感のことです。クリエイティブな写真には良いですが、建築写真では補正するべき特性です。物理的にパースペクティブを補正する場合は、建物の中心点から撮影することが重要です。例えば、高さ 20 メートル横 20 メートルの構造物ならば、高さ 10 メートル横 10 メートルのピンポイントから撮影すると、無駄なパースペクティブの歪みがなくなります。これが建築写真として理想の写し方です。つまり正対撮影の最適解でもあります。とにかく被写体の中心に向かって、光学的な歪みを取り除いて写すことです。ですがこのような条件で撮影する機会はほとんどありません。まず地上から 10 メートルの高さに立つこと自体が現実では不可能と言えるでしょう。そこで登場する機能がシフト機能です。この機能を使って補正をします。ここからは写真を使って順番に説明してゆきます。

写真8

1_8_R

こちらは地上の高さから撮影した駅のカットです。駅前の場所が狭く、広角レンズを使わざるを得ない状況です。広角レンズの使用時はパースペクティブが強く影響します。あらかじめ念頭において行動します。この場合は撮影後の画像処理で、歪みを補正できるよう広めに画角を決めました。

1_9_R

上と同じ写真に説明を加えました。本来は四角形となるはずの建築物ですが、垂直方向に向かってすぼみ台形に表現されています。歪みを画像処理で修正します。

1_10_R

建築物の垂直方向を補正した結果、このように建築物が正しい四角形に修正されました。上の写真と見比べるとわかりやすいですが、あらかじめ広い画角で撮影しておいた方が修正では有利です。シフトレンズの場合は撮影時に修正することも可能です。

写真9

1_11_R

このように一見すると普通に見える写真でも、かなりの修正を必要とします。興味のある方はぜひお試しください。
また、この方法は別の場面でも重宝します。勘の良い方はお気づきかもしれませんが、形式写真でも同じ手法を使います。車両を建築物と捉えて、歪みがないように写すことが重要です。

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5.時間にこだわって撮る

最後にこだわりたいポイントは撮影時間です。こちらの建築写真のジャンルに共通することですが、駅を撮影するときは屋外と屋内の明るさ差が大きいです。どちらかが白飛びをしたり、黒潰れしたりすることになります。これを解決するには撮影時間を考えると良いです。おすすめは朝か夕の薄簿の時間です。太陽が出ていない時間は、駅の内部が明るすぎてしまう場合もあるので要注意です。輝度差には気をつけましょう。うまくバランスがとれた時は、雰囲気がある写真が仕上がります。列車が来ない時間帯でも積極的にトライしてみましょう。露出計も有効的に活用したい場面です。機材バックに入れておくと安心安全です。

写真10 若桜鉄道
焦点距離:18mm / シャッター速度:1/15秒 / 絞り数値:F /3.5 ISO感度:640

焦点距離:18mm / シャッター速度:1/15秒 / 絞り数値:F /3.5 ISO感度:640

日没直後はこのような雰囲気での撮影となります。駅舎の灯りが懐かしさや郷愁を思い出させます。駅の撮り方はいかがでしたでしょうか。ちょっとした撮影のコツから、本格的な手法まで撮り方はさまざまです。世界中に素晴らしい駅はたくさんあるので、皆さんも好きな駅を見つけてくださいね。

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6.次回予告

いかがでしたでしょうか、今回は駅の撮り方をご紹介しました。次回は最近話題の NFT 技術と写真の可能性についてご紹介します。ぜひご期待ください。お楽しみに!

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著者について
煙道伸麻呂 ( えんどうのべまろ )鉄道写真家 本名 遠藤真人 日本大学芸術学部卒業 日本写真学会会員 EIZO ColorEdge Ambassador 幼少期から鉄道に魅了されカメラマンの道を目指す。近年は撮影のみならず、カメラメーカーや鉄道会社とのタイアップイベントを企画する。コンテスト審査員・メディア出演・写真教室講師など活動は多岐にわたる。