萩原和幸のセコニック製露出計レビュー
ストロボ調光機能付きスピードマスターL-858D
Photo & Text:萩原和幸 モデル:いのうえのぞみ 撮影協力:(株)ケンコープロフェショナルイメージング
TOPIX
露出計のリーディングカンパニーであるセコニック社から、「スピードマスターL-858D」の専用オプションとしてフラッシュのワイヤレスコントロールを可能とするトランスミッターRT-BR ( broncolor専用 )、RT-GX( Godox専用 )が2020年11月6日より発売が開始された。希望小売価格はいずれも税別1万3,600円。本誌編集部ではRT-GX( Godox専用 )をお借りする機会をいただいたので、カメラマン萩原和幸氏にレビューを依頼した。 by 編集部 |
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1.L-858D が broncolor と Godox に対応
セコニックから好評発売中の「スピードマスターL-858D」に、broncolor と Godox に対応したトランスミッターが発売となった。この専用トランスミッターを装着することで、L-858D とフラッシュ間を電波信号で通信し、撮影者が手元でテスト発光や光量調整、モデリングランプの ON/OFF などを行うことが可能となる。
つまり、調整の都度フラッシュへと向かうことなく、露出を測ったその手元で様々な調整が行えるということだ。これによって、一人での撮影でもかなりスムーズにライティングが進められるはずだ。
スピードマスターL-858D は入射光/反射光式(スポット測光1°)を備えたセコニックの最上位機種。フラッシュ閃光時間の測定や、ハイスピードシンクロの露出測定に世界で初めて対応するなど、機能面からも精度面からも多くの撮影関係者から支持されている人気露出計だ。
2.Godox を使ってワンオペ撮影を試す
そこで、実際に私も一人で撮影を行なってみることにした。普段はアシスタントに指示を出してストロボの調整を行なっている私が、どこまで便利さを感じられるかを、素直に述べてみたい。
今回発売された専用トランスミッターは、broncolor 用の RT-BR とGodox 用の RT-GX の2種類。Godox 用が用意されたところが実に興味深い。Godox は今や多くのアマチュアカメラマンに支持され、非常に高いコストパフォーマンスでプロにもユーザーが多い。そのニーズに応えた形だ。そこで今回は、Godox 用の RT-GX を装着して試用することにした。尚、先行して elinchrom / Phottix 用も発売されている。
撮影シーンは屋外と屋内の2つ。フラッシュは、Godox の国内代理店である(株)ケンコープロフェショナルイメージング( KPI )の協力で機材をお貸しいただいた。
3.屋外撮影編
屋外ではクリップオンタイプのフラッシュの方が出番は多いかと思い、すべて「 Godox V1 」を使い、日中シンクロをした。
【シーン1】1灯+レフでアクセントライトを作る
まずはフラッシュ1灯。セッティングは、モデルの髪を光らせるアクセントライトを作り出すためのフラッシュとする。画面左側からフラッシュを入れ込むライティングでスタート。逆光からややサイド気味に入り込むようにフラッシュを置き、レフ板で返すようにした。
レフ板で返すことで画面右側の頬はハイライトとなり、逆に左側がシャドウとなることを想定する。ハイライトとシャドウが存在する状況では、どちらを自らが欲している明るさにするかで露出を決める。この場面では、明るく爽やかなシーンを想定しているので、ハイライト側が明るくなり、シャドウ部が自然な肌色になるように露出を決定した。
いざモデルの側で露出を測り、そのまま露出計で光量を調整するが、これが思った以上に便利。いちいちフラッシュに行かなくとも、その場でできるのはありがたい。
【シーン2】ハイスピードシンクロで背景をボカす
次に、ハイスピードシンクロで撮影してみることに。ハイスピードシンクロは、背景を大きくボカすのに有効。ここでは、木々の隙間の光でできる玉ボケを生かしつつ、キュートな雰囲気を目指す。
当初、メインライト1灯によるライティングを考えたが、当日は曇りで背景が暗くなることもあり、ラインライトを作るべく、2灯でのライティングとした。
メイン光を画面左側に配置し、ラインライト用の1灯をモデルの背後に配置する。露出はメインライトとラインライトをそれぞれ測光。グループ分けをしておくことでメインライト、ラインライト用それぞれで L-858D からテスト発光させることが出来て便利だ。
まず、メインライトの光量を決定してからラインライトだけの光量を測り、光量を確認した。2灯ライティングでも、フラッシュの配置さえ決めてしまえば、モデルの位置でそれぞれを調整ができて、非常にスムーズだ。
曇りだったが、ラインライトと玉ボケのおかげで爽やかなイメージを持つキュートなカットに仕上げることができた。背景を大きくボカす際はハイスピードシンクロはとても有効。それにも対応しているピードマスターL-858D はとても心強い。ラインライトを作るための第二灯も含め、淡々とひとりで設定を行うことができた。
【シーン3】背景を落として塔を絡める
引き続き2灯でのライティングで、もうワンシーン撮影することにした。実は屋外では2パターン撮影できれば……、と当初思っていたのだが、撮影そのものがスムーズに進んでいたので、2灯で雰囲気を変えたシーンを撮影してみることにした。
屋外でのフラッシュ撮影らしく背景を大きく落とし、印象的なカットを目指す。
ロケ地に塔があったことから、この塔を背景に入れた。メインライトでモデルを照らし、背景に入れる塔をスポット的に浮かび上がらせるために、もう1灯で塔を照らすことにした。
メインライトと塔を照らすサブライトを配置し、まずはメインライトの光量を調整する。
次にサブライトの光量調整を行う。塔の側まで近づくことができないが、できるだけ近づいた。
そして撮影を開始する。ポーズをあらかじめお願いをしておき、丁寧にワンショットずつ撮影していく。
撮影したカットがこちら。グッと明るさの落ちた背景に浮かび上がる彼女。邪魔をしない程度に彼女を引き立たせながらも、画面に色を添える塔の存在が、フラッシュの調整によって光量ともどもマッチした。
屋外での3シーンとも、私一人で特に困ることなく撮影できた。調整の度に移動〜再度測光の動きがない分、スムーズに進められた実感は大きい。
4.屋内撮影編
屋外とは違い、フラッシュ光のみのライティングでの操作感を試みる。全てのシーンで背景は白ペーパー。ライティングのみに変化をつけている。フラッシュは、「Godox AD300」、「Godox AD400Pro」、「Godox AD600Pro」を使用した。
【シーン4】まずは1灯からスタート
1灯のみのシンプルなライティング。アッパーで当てることで、彼女の妖艶な雰囲気を引き出してみる。
ソフトボックスを使い、モデルにポーズを注文してからフラッシュをセッティングした。
その場で光量を調整。屋外のロケ撮影よりもさらに利便性の高さを感じる。モデルにも操作している旨を話し談笑。目の前にフラッシュがあるとはいえ、フラッシュまで移動せずに光量の調整が出来ることから、会話も途切れずに撮影を進められる。
【シーン5】2灯で挟んで立体感を出す
そのまま2灯ライティングへと移る。彼女には同じところに座ってもらい、ライティングだけで雰囲気を変えてみることにした。同じところで撮影しながらも、自分の意図する光を作り出せるのがフラッシュ撮影の面白いところ。複数のフラッシュを使う、いわゆる多灯ライティングになればもっともっと表現の幅が広がる。
一方で、多灯の場合はそれぞれのフラッシュを調整せねばならず、一人の時はシャッターを切るところまでの手間は多い。しかしスピードマスターL-858D と専用トランスミッターがその負担を大きく軽減してくれることは確かだ。
ここでは先のシーンのライティングを生かし、画面右上からやや逆光気味にもう1灯フラッシュを入れて、健康的な躍動感のあるカットを目指す。
逆光気味に入れたバックライトだけをテスト発光させ測光。その後フロントと2灯合わせた状態で測光する。あらかじめグループ分けの設定をしておけば、それぞれ個別の調整ができる。それをスピードマスターL-858D で行えるし、テスト発光も出来るので私はその場を動かなくて良い。
光量は先に調整しているので、ファーストショットでフラッシュの位置を微調整。光量が変わるような位置の調整では無いので、そのまま撮影を続けた。
本来なら最低でも、メイン光の測光 〜 調整 〜 確認 〜 メイン光発光ストップ 〜 バックライトの測光 〜 調整 〜 確認 〜 メイン光を入れて測光……と、「 〜 」のところではフラッシュと測光位置まで行き来せねばならないわけだ。
しかし、スピードマスターL-858D と専用トランスミッターを使用することで、移動せずにその場で済ませることが出来、撮影が実にスマートになった。
【シーン6】モデリングランプのみで撮ってみる
スピードマスターL-858Dと専用トランスミッターの組み合わせで、モデリングランプの ON/OFF や光量調整も可能になる。そこで、モデリングランプを使って撮影してみることにした。
Godox のフラッシュの場合は、ほぼ制限なくモデリングランプの調整が可能。フラッシュの閃光とは違い、モデリングランプは光の状態や位置、強弱などの存在を肉眼で見て取れる。それを、露出計で正確な数値として把握することで、意図するカットへとつなげられる。
これまでのシーンと同様、露出を図りながらその場で光量を調整したり ON/OFF をしたりと、光が見えるモデリングランプだけに便利さはひとしおだ。ちなみに、スピードマスターL-858D の表示は通常白だが、モデリングランプ調整時は赤になるので、状況がわかりやすい。
露出計ではモデリングランプをそれぞれ1灯ずつ測光し、光の状態を把握していった。
唇だけの、訴えかけてくるようなカットを意図し、アップで狙った。彼女には唇の形を色々と変えてもらっている。
同じライティングでそのまま私が距離を取り、バストアップへと移行してみた。
そして正面で真っ直ぐ見つめてもらい、シャッターを切った。
5.一度使ったら戻れなくなる便利さ
いつもはアシスタントに手伝ってもらいながらの撮影だが、今回スピードマスターL-858D + 専用トランスミッターを使い、私一人で全て行ってみた。終わってみれば、当初考えていたよりも遥かにスムーズに撮影できた。測光と光量調整の行き来の有無は段違いだ。
モデル側からしてみても、動き回る様を見ているより、側で露出を測り調整している方が落ち着いて見えるし、コミュニケーションも取りやすいはずだ。こうした動きが少なくなることで、撮影そのものがスマートになる。ポートレート撮影では重要なポイントだと思う。
テスト発光や調整はフラッシュ側のラジオスレーブ等でも可能なのだが、測光しながらの操作はなかなかのストレスだ。スタジオでは、一人の時はシンクロコードを使う手もあるが、結局調整のためのフラッシュへの行き来は免れない。動くことで起こる様々な事故も回避できる。
最初は、「 露出計でそれができたからって…… 」と考えていたが、使用してみることで本当に便利なのが実感できた。モデルとの撮影を1対1で行うケースが多い方は、このシステムは撮影の動きそのものを大きく変えるかもしれない。おそらく良い動きになるはずだ。私自身、これを知ったら戻れなくなりました。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
セコニック
ケンコープロフェッショナルイメージング
萩原和幸
モデル:いのうえのぞみ
ヘアメイク:町田恭子