お耽美写真家Kayのレンズレビュー~KIPON イベリット(前編)
Photo : Kay
TOPIX
昨年、フォトアクセサリーフェア オンラインでライブ配信にて解説をしていただいたお耽美写真家Kay 氏。動画では伝えにくいイベリットの絞り値ごとの詳細な描写を記事にしてお届けします。「海外製のレンズはどうなの…?」と、お考えの読者の疑問にお答えいたします。 by 編集部
Index
1.KIPONレンズのファーストインプレッション
今回、実際に試す機会を得て、ガールズポートレートを撮ったり、風景スナップを撮ったり、さまざまな角度でのテスト撮影に連れて行きました。
どのメーカーのマウントを使うかとても迷ったんですが、FUJIFILMのXマウントを使うことにしました。
僕は事あるごとにAPS-C機をお勧めする場合が多いのですが、今回APS-C機カメラであるFUJIFILMのXT-3を使って撮影することにしました。APS-C機とは、フルサイズと呼ばれる一般的な一眼レフ、ミラーレスタイプのゴツいカメラに比べて、センサーサイズがフルサイズよりやや小さく、ボディサイズもコンパクトで、手軽に持ち運びできるカメラです。その中でもFUJIFILMのカメラは発色や写りが綺麗なのが評判のAPS-Cカメラです。
今回使っているレンズはIBERIT(イベリット)シリーズの「 24mmF2.4 」「 35mmF2.4 」「 50mmF2.4 」の3本です。
手元に届いて最初に思ったのは
「デザインがクラシカルでとても可愛い」
というもので、特にお散歩スナップなどでつい肩にかけたり首からぶら下げたくなるデザインです。
見慣れない人からは「え? フィルムカメラですか?」と聞かれる事もありました。
また、デザインだけでなくレンズカバーがスクリュー式なのもとても素敵でした。軽いタッチでスルリとレンズ前にはめ込めるのは工作技術の高さを物語っています。工作技術が高いということで製品への期待度が高まりました。
今回のテスト撮影の狙いは、テストというだけあって、ただ闇雲にスナップ撮影だけを進めて雰囲気の良い作品作りを目指すものではなく、これらIBERITシリーズのレンズが実際に風景撮影やスナップ撮影、また、ポートレート撮影に向いているのか分析しつつ使って行きたいと思います。
という訳で、まず解析シート撮影やら何やらを準備する前に、「シャッターを押してみたい!」という衝動を抑えきれませんでした。まず最初に一番気になるのはレンズ開放値でのボケ感ですが、そばにいた知り合いに手を伸ばしてもらって、奥行きのボケ、つまり被写界深度がどんなものか撮ってみました。装着しているのは「IBERIT35mmF2.4」です。クラシカルなのはデザインだけではなく、絞りやピント合わせもマニュアル仕様になっているので撮影モードは絞り優先モードです。このモードは設定した絞りに合った露出設定をカメラ側が自動で行なってくれる半自動の撮影モードになります。
この撮影モードにオート感度設定を組み合わせる事で、絞りを固定しながら手ぶれなどを極力抑えつつ環境の明るさに左右されない撮影も可能になります。マニュアル仕様のクラシカルなレンズではとても便利なモードです。
なるほど、ボケますね。
…
でも分かるようで良く分からない感じがしました。なので周りを探してみたらありました。コピー機の細長いトナーカートリッジの空き箱です。文字がギッシリ書いてあるのでボケ感も分かりやすいと思いました。
ピントが合ってる前後から急速にボケて行きます。ピントのあってる部分以外自然な感じでボケているのが良く分かります。
被写界深度が耳慣れない方に説明すると、ピントはセンサー面とピントが合ってるピント面の並行の一面にしか合いません。そのピントが合った一面から前後にじわじわとボケていく深さをコントロールするのが絞りです。絞り穴の大きさが開いている状態を「開放」または「開ける」と言い、絞り穴の大きさがレンズバネによって小さく絞られている状態を「絞る」と言います。絞りを開けるとボケて行き、絞ると手前と奥のより深い部分にピントが合いやすくなります。これは後ほど作例を見ながら説明して行きたいと思います。
このようなボケ感を把握するには定規など長いものを撮影する事でピントが合ってる前後のボケがどういう感じでボケているのか簡単に把握することが出来るので、今後新しいレンズを入手した際は是非試してみてください。
取り敢えず、細かい癖を把握するのは後回しにして、散歩しながらスナップ撮影をしてみました。
特にFUJIFILMとIBERITのカップリングはクラシカルなデザインが、散歩に持ち歩くのにとても良いだろうと思いましたが、その小さく軽いコンパクトなボディはデザイン性だけでなく、携帯性にも、とても程よさを感じました。
2.木の実を撮り比べる
FUJIFILMの「 XT-3 」に装着してるのは「24mmF2.4」です。
数字が小さいほど、開放F値となりますが、F2.4の絞り開放からF16の最大限絞った状態までを段階的に撮り比べてみたものです。もちろんその間にも中間絞りがありますが、ざっくり撮り比べてみてどの程度のボケ感が自分の好みかを探るのにもとても良い方法です。
最初の試し撮り同様、絞り優先モードでISO感度はマニュアルで400に固定し、オートホワイトバランスで撮影しています。
三脚は使わないで、完全にスナップ感覚で絞りを変えて撮り比べながらのお散歩撮影です。
逆光気味になるように、敢えて太陽を背景にした木陰で撮影しています。背景から漏れてくる木漏れ日のボケを比較するのが目的です。
F2.4 の最大開放で、背景の玉のような美しいボケが印象的です。
F4から F5.6くらいの少し絞ったあたりから、被写体のエッジの部分や、明暗差の激しい部分の境目で発色や解像感が安定してきます。
絞り切ったF16とF11を見比べる時に注意したいのは回折現象と呼ばれるデジタルカメラ時代になって顕著になった現象ですが、絞りすぎるとシャープさが失われ始める現象で、一般的にはF16あたりから発生してくる場合があります。このスナップでは回折現象の発生はあまり感じられません。
つまりとても高性能なのではないかという予感がします。後ほど、分かりやすい三脚を使った建築撮影でじっくり比較してみたいと思いますが、現段階では、例えばポートレート撮影ではF4からF5.6の1段から2段絞ったあたりからの撮影がボケ感と解像感の両方がとてもしっくりくるのではないかと思います。
次に、光源が写り込んだい時の光芒の見え方を比較して行きます。
3.光芒を撮り比べる
光芒は、光源から漏れ出てくる光に、絞り込む程にハッキリと星形のような筋が現れる効果です。開放付近ではほぼ見られませんが、F5.6まで絞るとハッキリとした筋が発生し始めます。逆光でポートレートなどを撮影する際に、効果的にうまく利用していくととても面白い効果を得られる場合があります。
24mmのレンズを装着して、ヴィネットコントロール状況を見てみたいと思ったのですが、本当は青空を撮れれば良かったのですが、曇り空しか撮ることが出来ませんでしたが、参考にはなるかなと思うのでこちらも比較撮影してみます。ヴィネットコントロールとはレンズの周辺光量不足の事です。
4.空を撮り比べる
右側から急激に雨雲が出てきて、少し分かりづらいかもしれませんが、全ての絞りで周辺に向けての光量不足はほとんどないのが分かります。
5.建造物を撮り比べる
最後に、建築物を撮影して、各絞りでの写り方を比較していきたいと思います。
それぞれのピント位置は大体手前の掲示板に合わせてあります。結論から言えば、三つのレンズ共に気になるディストーションや周辺光量不足、色収差などは見られません。とても綺麗な写真が撮影できます。
■ IBERIT 24mmF2.4
■ IBERIT 35mmF2.4
■IBERIT 50mmF2.4
色々とこれでもかという比較をしてきました。非常に面倒臭い作業でもあるのですが、集中的に狙いを定めた比較スナップを行ったことにより、3本の IBERIT (イベリット) シリーズそれぞれがかなり安定した高性能を持ってるのではないかと言う確信めいたものが生まれてきました。
基本的な性能確認はとても大切で、これらを実際に比較しておかなければいざ本格的な撮影をする場合、「あれ?」と感じた時に、デジタルカメラだからと言って後でデータをどうにかすれば良いというものではありません。
6.次回予告
後編ではダメ押しとして解析シートを撮影した上で、実際に自然光とストロボで、ガールズポートレートを撮影してみたいと思います。