武石修のレンズレビュー
KIPON IBERIT 90mm F2.4 ポートレート編
Model:黒川幸 Photo : Osamu Takeishi
TOPIX
今回の武石修のレンズレビューは KIPON IBERIT 90mm F2.4 をポートレートで試写をいたしました。撮影はソニーEマウントで行いましたが、IBERIT シリーズは他に Xマウント、Mマウント、Lマウントが用意されている。今回のモデルはフリーランスモデルとして活躍中の黒川幸さんにお願いした。それではお楽しみください。 by 編集部 |
Index
1.小型軽量な中望遠レンズ
今回は 2017 年に発売された中望遠レンズ「 KIPON IBERIT 90mm F2.4 」を紹介する。35 mmフルサイズセンサーに対応しており、Eマウント、Xマウント、Mマウント、Lマウントが用意される。実勢価格は税込 54,800 円前後( 2021 年 5月現在、当社調べ )。
この IBERIT 90mm F2.4 は、電子接点なしの MF 専用レンズで、同じシリーズとして 24 / 35 / 50 / 75 mm が全てF2.4でラインナップされている。90 mm はその中で最も望遠寄りということだが、明るさを F2.4 に抑えているため、同焦点距離のレンズとしてはかなり小型・軽量に仕上がっているのが特徴だ。
IBERIT シリーズといえば、ドイツの IB/Eオプティクスが設計し中国で生産されているのはよく知られたところ。
外装はオール金属製で高級感を感じる作りとなっており、ねっとりとしたフィーリングのピントリングと併せて、安っぽさは皆無と言っていい。絞りリングは半段刻みでクリックストップがあり、こちらの動作も軽快だ。
レンズ構成は4群4枚。最短撮影距離は 70 mm。絞り羽根は 10 枚。フィルター経は 49 mm 。外寸は 58 × 69 – 79 mm で、重量は 280 – 340 g(いずれもマウントによって異なる)。
ちなみに、これら5本の IBERIT レンズの光学系を継承し、キヤノン RF マウントとニコン Z マウントに対応させた「 KIPON ELEGANT 」というシリーズも販売中だ。
2.柔らかな描写をMFで楽しむ ” スローレンズ “
このシリーズはいずれも端正なデザインで、銀塩時代の佇まいを備えたレンズと言えそうだ。ではその写りはどうかというと、外観に違わぬオールドレンズを思わせる描写だった。
というのも、全体的に球面収差を残した設計のようで絞り開放付近ではかなり柔らかめな描写になる。ただ、それは現代のくっきり、かっちりといった写りのレンズにはない一種の楽しみであり、プラスの要素と受け取りたい。
今回女性ポートレートを撮影してみたが、球面収差が僅かなソフト描写を生み出しており、美肌効果になって現れていた。昨今の毛穴まで克明に写し取る高解像力のレンズも悪くないが、こうしたオールドレンズのテイストを新品のレンズで味わえるところにこのシリーズの存在意義があるように感じた。
瞳認識 AF などが当たり前になった今では、MF でピントを合わせるのは少々時間を要するし手間だが、その辺りも受け入れられる人だとより楽しめそうな ” スローレンズ ” だ。
今回は Eマウント版をソニーα7 III に装着して試用した。レンズは電気的に認識されないので、レンズ補正は全て OFF にしてある。なお、ボディ内手ブレ補正に関しては焦点距離「 90mm 」を選択することで、問題なく動作していた。ライブビュー映像も安定するのでピント合わせがやりやすい。
3.作品による評価
α7 III に装着して撮影した作品を見ていく。写真は RAW で記録し、Adobe Lightroom Classic で現像している。
ご注意
写真の 実画像 の文字をクリックすると、カメラで撮影した実画像が別タブで表示されます。ファイルサイズが大きいのでモバイル端末での表示にご注意ください。文中のサムネイル画像をクリックすると、リサイズされた画像がポップアップ表示されます。
ヌケの良い場所で背景のボケ方を見た。逆光になっておりストロボでモデルの明るさを補っている。大口径とは言えない開放 F2.4 だが、モデルから2~3メートル離れていても結構背景をボカせる。
こちらは少し絞った F2.8 で撮影。絞った分、先程の写真よりもくっきりしたが、程よい柔らかさが残っていて好ましい。
背景もそれなりに見せようと F4 まで絞り込んだもの。かなりカチッとした描写になった。ただ、これでも現代の最新レンズから見るとややソフトな描写である。
背景の玉ボケを見ると、やや輪郭が目立つタイプのようだ。好みが分かれるかもしれないが、これもオールドレンズを思わせる1つの要素だ。
F2.8 でアップにした。近距離ということもあるが、まつげの1本1本まで描写できている。それでいながら全体的にふわっとした感じが素晴らしく、まさにポートレート向きの1本だ。
前後のボケ描写を確認した。90 mm ということで大きめの前ボケも入れられる。特にボケが硬いということもなく、安心して使えそうだ。
かなり強い西陽が入る状況での逆光状態でテストした。目立ったゴーストは確認できないが、フレアによってコントラストが低下していた。ただ、今回はこのフレアによって良い雰囲気が出せたと考えている。
最短撮影距離の70cm付近でイヤリングにピントを合わせた。F4 まで絞っていることもあるが、十分な描写を見せた。絞り羽根が 10 枚と多めなので、絞っても玉ボケが円形に近い。
焦点距離が 90 mm とあって、ピント合わせはかなりシビア。あえて掲載するが、瞳に合わせたつもりでもわずかにピントを外しているカットもあった。ただ、これくらいであれば、さほど不自然でもないのでどんどんシャッターを押したいところ。
夜景の玉ボケを見てみると周辺部ではややレモン形になっているが、さほど大きな変形ではなさそう。1つ1つは、輪郭がしっかりした玉ボケらしい玉ボケになっていた。
4.総評
実写を踏まえると、やはり全体を通して「 新品で買えるオールドレンズ 」という表現になるかと思う。球面収差の残り方も昔のレンズ風だが、コーティングも最先端のタイプとは違うようで、逆光でのフレア( コントラストの低下 )はかなりあった。
ただ、今回のようなシーンではこうした収差やフレアがとてもよい雰囲気に繋がっており、使いこなせると他の最新レンズにはない表現ができると思う。
オールドレンズは中古市場に豊富にあるが、コンディションがまちまちなのでよくわからないで手を出すと失敗することもある。その点、IBERIT シリーズなら味わい深い描写を安心して手にできるということだ。
昨今のカリカリの高解像力レンズに加えて、こうしたレンズを手にしてみるのも大変におもしろいことだと思う。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
武石修
黒川幸