スタジオグラフィックス プロが教えるデジタルカメラの写真撮影&レタッチテクニック 公式 Official WebSite
SGギャラリー

お耽美写真家Kayのレンズレビュー~KIPON イベリット(後編)

 Photo : Kay

TOPICS

先月の前編に引き続きレンズレKIPON イベリットのレンズレビュー後編となります。
今回はポートレートでその描写をお耽美写真家Kay 氏に解説していただきます。今回もオンライン講座では伝えきれなかったイベリットの絞り値ごとの詳細な描写を記事にしてお届けします。参考にしていただければ幸いです。 by 編集部

Index

Go To Top


1.KIPONレンズのファーストインプレッション

さて、前編では性能を知るためにいろんな場所でいろんな撮影を比較してきました。
レンズ性能は、開放絞りから、最大絞りまで、KIPIONレンズの IBERIT ( イベリット ) シリーズであれば F2.4 から F16 までの絞りの中で、どのあたりの絞りでどんな撮影を楽しんでいけるのか、具体的な方向性が見え始めてきたかと思います。今回も使っているカメラは FUJIFILM XT-3 です。

後編はもっと具体的に解析シートを撮影した上で、最終的に、ストロボライティングでのスタジオポートレートと、自然光ポートレートを行いながら、撮影していきたいと思います。最初に、ダイナミックレンジを見ていきましょう。
こんな感じで下から乳白のアクリル板越しにストロボを光らせて、色温度、露出を計測し、設定を整えて撮影していきます。

写真1

写真2

写真3

写真4

こうやって撮影したダイナミックレンジの分析撮影結果はこんな感じになります。

写真5 50mm

写真6 35mm

写真7 24mm

一般的に分析されているXT-3のダイナミックレンジと同じような結果になっています。APSCセンサーだからと言ってもあなどれないダイナミックレンジを持っているのではないでしょうか。

Go To Top

2.

次に、センサーの解析も併せて行うシートを使って見ていきます。画角のセンター部分は基本的に精度が高いので隅に寄せて撮影します。屋外でのスナップでは感覚的に優れていると感じましたが、実際にこちらのシートを、500 ピクセルに合わせて撮影する事でセンサーとレンズの性能の両方を分析していきます。

写真8

解析シートをスタジオの壁に貼り付けて、カメラを動かしながら、シートに対してカメラが整体になる位置に固定して撮影していきます。ライティングはシンプルにアンブレラ1灯を同じ高さから照射しています。シートには元々折れ目がありますがその辺りを踏まえて見ていきたいと思います。

<< 撮影データ >>
・ISO160
・F11
・WBマニュアル設定5350K

写真9 24mmF2.4

写真10 35mmF2.4

写真11 50mmF2.4

それぞれ拡大して見て見ましょう。

写真12 24mmF2.4

写真13 35mmF2.4

写真14 50mmF2.4

拡大しているので粗さはしょうがないのですが、文字もしっかりと読め、発色もしっかりとしています。歪みもありません。IBERIT (イベリット) シリーズに対して、屋外スナップ撮影で感じていた性能の良さはこれでハッキリしてきました。

Go To Top

3.

では、スタジオのセッティングを変更して、モデル撮影をしていきます。
スタジオ内の壁や天井は、ニュートラルグレーに塗装されていて、反射による色被りなどの影響が発しづらい構造になっています。スタジオの壁は白が良いように思う方も多いかもしれませんが、マットなニュートラルグレーは、反射により発生するテカリなどを抑える効果があります。
白いレフ板を使う場合の僕の考え方は、明るくするという考え方よりもレフ板が持つ白を肌に写し込むという考え方です。逆に黒で締める場合は、被写体に黒い反射板を写し込む事で、黒い輪郭線を強調する事で、ふちどるようにエッジを引き立たせるなどの意味合いもあります。

ライティングはシンプルに、天井バウンス(反射)の1灯ライティングで、両サイドにバウンス版と、モデル手前に白いレフ板を斜めに置いています。真上から照らすライトの事をトップライトと言います。天井の反射もニュートラルグレーで無駄な光を拡散をしすぎない反面、光の回り方に関しては白い天井ほど広がらないため、しっかりと真上に設置したいのでスーパーブームスタンドを使ってモデルの真上から天井に向けてセッティングしています。
本来トップライトはフィルインライトという被写体周辺全体に光を回す意味合いと、頭頂部から降り注ぐ自然光のような効果を狙う場合があります。それ以外ではソフトボックスなどを使ってメインライトを作る場合が多いのですが、よりナチュラルな雰囲気を作りたかったのでしっかりとレフ板で囲ってあげます。

写真15

さて、こちらも分析撮影時と同様に、露出、色温度を計測し、カメラのセッティングを整えます。1灯ライティングの良いところは、多灯ライティングのように全てのストロボの色温度や色被りを整える必要がないので、しっかりと回してあげれば、コントロールしやすいというメリットのあるライティングになります。
計測した結果の数値にカメラの設定を合わせてあげれば、ストロボ撮影の場合はカメラとレンズの性能をしっかりと発揮させてあげることが出来ます。

背景紙は白やグレーだと味気ないかなと思い、派手さはないけど、回った光に合う春めいたゆるふわな印象にしたいと考え、アイボリーの背景紙をチョイスしました。

Go To Top

4.

ではスタジオポートレートを見ていきましょう。まずはファーストショットとして、少しひきめのルーズなウエストショット、つまり腰から上が綺麗に収まるようなフレーミングから撮っていきます。僕の場合、ロングショットを撮りながら、コミュニケーションを取りつつ、少しずつバストアップや、フェイスアップに寄っていきます。
この時、APSC機だとやや標準よりも中望遠気味になる、「 35mmF2.4 」で迫っていきたいと思います。シングルフォーカスの良いところは、物理的距離感を身体で感じながら撮影リズムを作っていけるところです。アップが撮りたければ身体ごと被写体へ寄っていきます。ズームレンズだと身につきづらい、焦点距離に合った距離感というものを身体で覚える事が出来るようになります。

<<撮影データ>>
・PROVIAMモード
・ISO160 シャッタースピード1/125
・F2.8 WB5700K

写真17

とてもナチュラルな仕上がりです。髪の毛の毛先や、目元をクローズアップして見てみると、とてもシャープで自然な仕上がりです。絞り開放で撮影していますが、髪の毛の質感や雰囲気もとても美しいカラーとディテールが表現できていると思います。

写真18

実際に足を使いながら手持ちで前後に移動しながら撮っていきます。もちろんその都度ピントリングを回しながら目にピントを合わせながら進めていきますが、意識的にピントを合わせる事で、なんとなくカメラ任せにしがちな部分を、しっかりと被写体に集中しながら適度な緊張感を持ちながら撮影していくのは、写真と被写体に没入していく快感があります。

「撮れてる」
ではなく
「撮ってる!」
という実感です。

写真19

写真20

発色も美しくスタジオ撮影では完璧なパフォーマンスを発揮した「 35mmF2.4 」を、今度はスタジオ外に持ち出してレフ板一枚だけ持って自然光で撮影していきます。

<<撮影データ>>
・PROVIAMモード
・ISO160 シャッタースピード1/125
・F2.8 WB5700K
※スタジオと同じ

写真21

写真22

写真23

写真 24

少しずつモデルに近づきつつ、表情を引き出していきます。
そして、前編でもテスト撮影する事で確認してあった、背景の建築描写も、徐々に自然にボケていく被写界深度もとてもナチュラルで気持ちの良い抜け感が表現できていると思います。モデル撮影は、モデルの雰囲気作りに成功していると他の不具合が誤魔化され気味になる場合があります。しかし「 35mmF2.4 」は、シングルフォーカス故の誤魔化しの効かない気持ちの良い抜け感と、ボケ足、そして画面周辺までしっかりと粗がない、非常に使い甲斐のあるレンズと言って良いのではないでしょうか?

Go To Top

5.所感

初めてFUJIFILMのカメラをちゃんと使ってみて、スタンダードモードのPROVIAモードですが、フィルムで言うとRDP-IIIと言うより、RAPアスティアっぽい雰囲気があるなぁと思いました。
それだけ、IBERITの描写性が綺麗って事なのかな!

Go To Top
著者について
■ お耽美写真家・憬-Kay (おたんびしゃしんか けい) 写真家 ■   マスクを被ったお耽美写真家。SNS や写真展、超実践的写真教室などを中心に、精力的に活動。モディファイヤーを極力使わない直射にこだわるストロボの使い方や、影を重視するライティングはとても個性的で、退廃的な作風と相まって独特の存在感を醸し出している。本名は非公表。