薮田織也のレンズレビュー
Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX
<ポートレート編>
撮影協力:株式会社アンズフォト モデル:響-kyo- Photo & Text 薮田織也
TOPIX
発売前から耳目を集めていたケンコー・トキナーのフルサイズ対応標準ズームレンズ「 Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX 」。ニコンマウントに続きキヤノンマウントも発売され、すでに手にしたユーザーも多いことでしょう。前回のスナップ編に引き続き、今回も本サイトでお馴染みの写真家・薮田織也が、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX で女性ポートレートを撮影! スナップ編では太鼓判を押していた薮田氏ですが、ポートレートではどういう評価になるのか、お楽しみください。 by 編集部 |
■ 70mm 開放F値を楽しんでみた
本文中の 実画像 の文字をクリックするとカメラで撮影した実際の画像が別ウインドウで表示されます。容量が大きいのでモバイル端末での表示に注意してください。
Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX を使い始めてから約2ヶ月経つ。これまでに感じたことは、前回の記事で書いたが、「 硬派な男のレンズ 」だ。理由は太く重量も有り手ブレ補正も付いていないが、確実に構えてきっちりとピンを合せればキレの良いナチュラルな画が撮れるからだ。実際、3000 万画素超のフルサイズ一眼レフに対応するレンズで、全域 F2.8 を実現するとなると、どうしても大口径になる。レンズ単体の重量は 1,010g で、なかなかに重い。レンズ+カメラ本体で2kg を超えるわけだから、長時間の手持ち撮影ではそれなりの持久力と腕力が必要となる。
いろいろな写真ジャンルの中でも、ポートレートは手持ち撮影の頻度が特に高くなる。それは、被写体が感情を持ち疲れもする人間だからだ。できるだけ短い時間でセッティングを済ませ、サッサとフォーカシングして撮らなければ良い表情などは撮れはしない。よって、三脚を使う頻度はグンと低くなる。( もちろん作品によっては三脚を使いもするが…… )
そういうわけで、今回ここに掲載したようなポートレートを撮るときは、カメラ本体もレンズも取り回しの良いサイズと重さに越したことはないのだが、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX を使った実際の仕上がりを観てしまうと、次もこのレンズを持っていきたいと思わせるのだ。
写真3、写真4、写真5と、焦点距離を 70mm のままにして、ワーキングディスタンスを縮めることでモデルに徐々に近づいて撮影している。絞り値は開放 F2.8 のままだ。当然だが、撮影距離が縮まるほどにピントの合う範囲は狭まっていく。写真5のようなアップショットのときは、被写界深度で考えると焦点距離は 50mm にして、さらにモデルに寄って撮った方が良い。今回は 24mm でのアップショットを撮り忘れてしまったが、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX は、ワイド端でも歪みが少なく良いボケ味を出してくれるので、思い切って寄りの広角ポートレートを撮ってみるのも楽しいだろう。
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■ 標準からワイドを使ってみる
さて、今度は標準域からワイド端までの焦点域を使ってフルショット画像を観てもらおう。写真6、写真7、写真8と、それぞれ順に 52mm f/2.8、32mm f/2.8、28mm f/3.2 で撮影した。また、写真6のみストロボ使用、写真7は左にカポックのみ。写真8は自然光のみだ。
ここに掲載した写真の撮影データを観てもらうとわかるが、シャッタースピードを最低でも 1/125 秒で、ほとんどは 1/320 秒以上で撮影している。これは、手持ち撮影の手ブレと被写体ブレを避けたためだ。解像度 2000 万画素前後のデジタルカメラでは、ポートレートでも 1/8 ~ 1/30 秒といった遅いシャッタースピードを多用することが多い筆者だが、3000 万画素超で、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX のような高解像度レンズを使うときは、どうしても高速シャッターを使わざるを得ない。撮影者が訓練して手ブレを完璧に抑えることができたとしても、人物の被写体ブレまでは制御できないからだ。そのために ISO 感度が高くなるのも構わないと考えた。もちろんワザと被写体をブラしたいときはこの限りではない。
■ 超高速シャッターで水と一緒に撮影
レンズとは関係のないことだが、最近のデジタルカメラは高画素化に伴い、高感度撮影時のノイズ発生もよく抑えている。このセクションの写真は、写真9のみが ISO:800 で、後はすべて ISO:1250 で撮影している。もちろん、Raw 現像時にノイズリダクションはオフで現像している。レンズとは関係ないこととは書いたが、レンズの開放F値が高ければ、また、ズーム全域で明るい開放値が使えれば、シャッタースピードを速くした際の ISO 感度をなるべく低く設定できるのは言うまでもない。
■ AT-X 24-70 F2.8 PRO FX のフォーカシングについて
ポートレート撮影は、花マクロや昆虫写真と同様にか、それ以上にフォーカシングが極めてシビアであると言っていいだろう。それは前述したように撮影者が手持ちで撮影することが多いという点と、さらに被写体には感情があり常に動いているという理由からだ。また、被写体の感情は撮影者とのコミュニケーションによって決まるので、最高に良い表情、または狙った表情で撮りたければ、コミュニケーションと撮影タイミングがすべてにおいて優先し、そのタイミングのために素早くフォーカシングしなければならい。こうした理由から、特定の撮影シーンを除いて、プロ写真家でもオートフォーカスを多用するので、AF の性能も高いモノが求められる。
AT-X 24-70 F2.8 PRO FX のオートフォーカス機能は、同等の他社製標準ズームレンズに比べても申し分のないスピードで合焦してくれる。明るい場所はもちろんのこと、暗い場所でのフォーカシングスピードも速く、AF 時のモーター音も静かだ。また、ワンタッチフォーカスクラッチ機構による AF ←→ MF の切り替えは、フォーカスリングから手を離すことなく、ファインダーを覗きながら切り替えられるという点がとても優れている。ポートレートではファインダーを覗きながらモデルに声かけしつつ、連続して撮影することが多いが、このようなシーンでワンタッチフォーカスクラッチ機構は重宝するのだ。
ただ、ひとつだけ気になったことがある。それは、オートフォーカス( AF )で合焦した直後にフォーカスリングを回してマニュアルでフォーカスを微調整する「 フルタイムマニュアルフォーカス機能 」を搭載していないことだ。この機能がない場合は、アオリや俯瞰での撮影で発生しやすいコサイン誤差( 下図参照 )によるピントのズレを AF モードでは修正できない。よって、撮影アングルによっては初めからマニュアル( MF )によってフォーカシングする必要があるのだ。
読者諸氏も AF で合焦後、フォーカスロックを使ってフレーミングし直す( 再構図 )撮影方法をよく使うと思う。この、フォーカスロック+再構図を使う理由は、ファインダー内のフォーカスポイントに限りがある( 位相差 AF では、フォーカスポイントは画面中央に集中している )からで、この方法はコサイン誤差の少ないカメラアングルやポジションでの撮影では大いに有効だ。しかし、開放寄りの絞りを使ったアオリや俯瞰での撮影では、上図のようにコサイン誤差が大きくなるためにピントが大きくズレてしまう。これを解消するために、フルタイムマニュアルフォーカスが使えるレンズでアオリや俯瞰撮影するときは、最終的にピントを合わせたい場所に最も近いフォーカスポイントで AF 合焦させ、フォーカスロック中にフォーカスリングを回して微調整する。この方法であれば再構図の必要もないし、最初から MF でフォーカシングするよりも最小の労力で済む。
こう書くと、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX はポートレートに向いていないのかと勘違いされてしまうかもしれないが、決してそういうわけではない。確かにフルタイムマニュアルフォーカスは便利ではあるが、最後の詰めはマニュアルでフォーカシングしなければならないわけだし、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX のフォーカスリングはほどよいトルク感もあるので、マニュアルによるフォーカシングはやりやすい。また、今回はピントの山が掴みやすいファインダーを採用しているニコンカメラだったこともあり、マニュアルフォーカスにおいて不便を感じることはなかった。それでも、便利なワンタッチフォーカスクラッチ機構にフルタイムマニュアルフォーカスを組み合わせてくれれば鬼に金棒だと思う。その辺は次回作に期待したい。
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■ 総評
前回の<スナップ編>と今回の<ポートレート編>の2回にわたって AT-X 24-70 F2.8 PRO FX の魅力をお伝えしてきた。<スナップ編>を読んでいただければわかると思うが、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX は、その描写力と素直な色再現能力でブツ撮りや風景写真においても威力を存分に発揮できる標準ズームレンズだと言える。もちろんこれはポートレートでも同じだ。全体的に少々辛口なレビューになってしまった感じがするが、前編と後編の両冒頭でお伝えした通り、このレンズは「 硬派な男のレンズ 」なのだ。被写体と真摯に向き合い、きっちりと体のブレを抑えて撮れば、必ず結果を出してくれるレンズだ。個人的には「 買い 」だ。