鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座
第8回 鉄道のシルエット写真を撮ろう!
Photo : Masato Endoh
TOPIX
鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真講座の8回目は、「 鉄道のシルエット写真を撮ろう! 」です。シルエット写真の考え方・推奨機材・撮影設定に関して解説しています。ぜひ、ご覧ください。 by 編集部 |
みなさまこんにちは。鉄道写真家の遠藤真人です。今回はシルエット撮影についてご紹介します。こちらの撮影方法は鉄道イメージ写真の一種です。車両のプロポーションや情景が印象的に写し出されるこの撮影方法は昔から根強い人気があります。今回はその撮影方法を解説してゆきます。
1.被写体( 車両 )の特徴を考える
ここでは具体的な撮影方法の前に、シルエット撮影に向いている被写体の選び方を理解しましょう。シルエット写真に向いた被写体は、特徴のあるデザインをしている車両です。例えばゴツゴツとした蒸気機関車や流線型の新幹線など、外見に特徴のあるものを選ぶとインパクトの強い写真になります。その意味でもシルエット撮影では、車両の造形を意識して「 シルエットが美い被写体 」を選ぶことは一つのコツとなります。
蒸気機関車は力強く走る姿も良いですが、外観の造形も被写体としてのポイントです。元々の色が黒なので、シルエットで表現をしても違和感が少ない被写体の一つです。また煙は逆光に映えるため、シルエットで挑みたい代表的な車両です。
一方でこちらは秋田を走るローカル線です。夕日に向かって走る列車を表現しました。撮影の際には列車の時刻と日没の時刻を考えてカメラを構えましょう。今ではスマートフォンのアプリでも日の入り・日没時間・太陽の方角を計算してくれるアプリもあるので、撮影時の強い味方として活用することをお勧めします。四角い箱型の車両は、造形的にシルエット向きではないですが、太陽を画面の中に入れると一気に旅情感が増します。露出は空の色が綺麗に表現される設定を選びました。特に太陽を入れる場合は絞りを大きくすると、太陽は綺麗に表現されるので設定に気をつけましょう。また、被写体は車両だけでなく、季節の花や鉄道にまつわる構造物も良い被写体の一つです。いろいろな被写体を見つけて列車と絡めましょう。
2.シルエット撮影しやすい場所
次にシルエットになりやすい撮影地を探しましょう。ポイントとしては「 空が大きく写る場所 」が撮影地となります。特に「 鉄橋 」もしくは「 築堤 」で撮影すると良い写真となります。車両の全体が綺麗に抜ける場所を選びましょう。特に車輪の部分がすっきりと影になると、より鉄道写真として完成度が上がります。
ただし、季節によって太陽の位置や高度は大きく変わります。たとえば一週間撮影日が変わると、違った印象の写真が撮影可能です。撮影地に着いたら地図をよく見て、列車の通過時にどの角度に太陽が来るのかを確認しましょう。また撮影をしやすい角度は、正面ではなく横がちに狙った方が良い写真に仕上がる場合が多いです。
この写真は鉄橋を渡る二台の蒸気機関車です。先頭が D51 型、後方が C58 型の二台のいわゆる重連走行です。撮影のさいには車輪・動輪部分がすっきりと抜けることで、ただの黒い塊とならないよう工夫をしています。鉄橋は背景の空を大胆に入れることが可能です。大きくて高い場所に架かった鉄橋がシルエット撮影ではベストです。また、空が大きく入るという意味では築堤も狙いやすいポイントです。こちらも地上から高い場所を走る列車を狙いましょう。
最後にシルエット写真として、”惜しい”ものを見てください。この写真のどこが残念なのでしょうか。
この写真の一番の問題点はせっかく写した蒸気機関車があまり目立っていないことに原因があります。この写真では車両の姿と背景の山が同化してしまいました。かろうじて白煙が車輪を表現していますが、やはりインパクトは弱いです。
それではどのような改善点が考えられるのでしょうか。最大の原因としては撮影の寸前に太陽が山に隠れてしまったことが挙げられます。もしこの撮影ポイントが開けている場所で、なおかつ高い場所を走る列車であれば・・・もっと良い結果となっていたことでしょう。シルエットは難しい撮影方法なのです。
3.シルエット撮影における推奨機材と撮影設定
シルエット撮影では列車のプロポーションを美しく魅せることが重要です。そのためには 50 ミリの標準レンズから望遠程度のレンズが扱いやすいです。極端な広角レンズでは歪みが発生してしまうので、特別な意図がない限り、使用を控えることが無難です。シルエット撮影で太陽を入れる場合は、逆光にも強いレンズを使いましょう。最新鋭の高性能レンズがお勧めです。フレア・ゴーストが出やすいレンズは撮影に不向きです。加えて逆光の撮影は、撮影者の目やカメラのセンサー等を傷める可能性もあります。十分に気をつけましょう。画面の中に太陽を入れない場合ときでも、遮光性の高いレンズフードを装着してしっかりと撮影することをお勧めします。
撮影時の設定では、普段の走行写真と同じようなシャッタースピードを心がけましょう。撮影設定はシャッタースピードと絞りを自分で設定できるマニュアルモードがお勧めです。日の出や日没は、刻一刻と明るさが変化します。こまめに合わせましょう。オートの露出モードの場合に、シルエット撮影をするとカメラが逆光を検知して写真を明るく写してしまうこともあります。そのような場合は露出補正モードを活用して、マイナス側に設定をしましょう。マイナス一段や三段など、大胆な設定が必要なときも多くあります。その点ではミラーレス機などの EVF( 電子ファインダー )ならば、明るさを見ながら調整することができます。自分の機材の特徴をしっかり意識して撮影に挑みましょう。構図に微調整が必要なときには三脚も有効活用し、シャッターチャンスに備えましょう。
4.ホワイトバランスで自分らしさを表現する
最後に撮影設定のホワイトバランス設定を活用し、シルエット撮影でさらにオリジナリティを演出しましょう。昼間のシルエット撮影にはあまり向きませんが、日の出や日没前後の写真に向いています。自信のある方は撮影現場でホワイトバランスの設定を決めても良いですが、基本的にはRAW 形式で記録したいところです。そして RAW 現像を経て、写真を完成させる方がより完成度が高いものとなります。
こちらの写真は秋の夕空をバックに撮影しました。撮影時の記録形式は RAW + jpeg の設定です。撮影後にRAWデータを使い現像をしています。そのため撮影時はホワイトバランスをオートもしくは晴天で撮影しています。RAW現像を含めた画像処理では、信頼のおけるディスプレイを使うことが鉄則です。
元の写真からホワイトバランスを調整したものがこちらです。夕陽のオレンジを強調するべく、ホワイトバランスの数値 10000 K( ケルビン )まで上げました。その結果として全体のバランスが暖色側になりました。いわゆる「 色が転んだ 」状態をあえて作り出しています。
続いて、こちらの写真はホワイトバランスの数値を 4000 K 程度に設定したものです。一般的に夕陽の場面では、寒色系に色を転ばせることは多くありません。しかし、この時は青空が見えていました。そこで青空に注目して、そちらを強調してみました。すると、空の青と夕陽が当たった雲のオレンジの対比が生まれました。同じ写真でもホワイトバランスを変えることによって、ここまで違いが生まれます。どのような写真を仕上げるかは、あなた次第です。
5.次回予告
いかがでしたでしょうか。
今回はシルエット写真の撮影方法をお送りいたしました。特に今回ご紹介したホワイトバランスの設定は他の撮影方法でも使える術なので、いろいろとお試しください。次回は「流し撮り」について詳しく紹介してゆきます。
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遠藤真人