鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座
第16回 新幹線の撮り方2( 撮影設定について )
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鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真講座の 16 回目は前回に引き続き新幹線の撮り方を解説いたします。 前回の「 第 15 回 新幹線の撮り方 」も合わせてご覧ください。今回は撮影する際のカメラの設定について解説いたします。 by 編集部 |
みなさまこんにちは!鉄道写真家の遠藤真人です。鉄道写真講座にアクセスいただき、ありがとうございます。
前回は新幹線撮影の予備知識に焦点をあてて、魅力を解説してゆきました。今回は撮影の実践編です。
Index
1.オススメの機材
鉄道写真の中で新幹線はとても難しい被写体です。東北新幹線には 320 キロで走行する区間もあります。まさに世界に誇る「 高速鉄道 」です。この高速鉄道を写し止めるためには、相応の機材が必要となります。高速連写機能を持つカメラの使用をオススメします。
連写で確実に移したいのであれば、秒間 10 コマ程度の機材が必要です。もちろん、鉄道写真では電子シャッターの使用は厳禁です。近い将来に解決される問題ではありますが、現状は機械式のシャッターで秒間 10 コマのカメラが重宝されています。もし、お持ちのカメラがこの性能に達していないならば、連写ではなく一コマ撮影をオススメします。実は私の撮影方法も新幹線では一コマ撮影が基本です。超望遠での撮影ならば、もう少し秒間のコマ数が遅い機材でも大丈夫です。
センサーサイズはフルサイズよりも、APS-C やマイクロフォーサーズなどの比較的小さいものの方が有利な場面も多いです。これには二つ理由があります。一つは新幹線撮影では望遠が必須アイテムであること。もう一つは、フルサイズと同じ画角で撮影した場合、センサーサイズが小さいカメラの方が被写界深度を深く得られることにあります。
一つ目の理由は理解しやすいと思います。望遠レンズの重要さは後ほど解説します。二つ目の理由を考えてみましょう。例えば 35 mmフルサイズのカメラに 300 mm をつけた場合と、実行焦点距離が 1.5 倍になる APS-C センサーのカメラに 200 mm をつけた場合を考えます。結果としては同じ画角( 範囲 )を撮影することになります。ここでレンズの原則を思い出してください。2つの異なる焦点距離のレンズを同 じF 値で撮影した場合、広角側のレンズの方が被写界深度は深いのです。 16 編成の新幹線は全長約 400 メートルの長さになります。つまり、同じ画角を写す場合はセンサーサイズが小さい方が良いと言えます。被写界深度を深く得られる機材ほど撮影に有利なのです。フルサイズのカメラを使う場合はクロップ撮影でも同じ効果が得られます。
連写機能に続いて、撮影のシャッタースピード設定も重要です。新幹線が 320 キロで走行した場合、毎秒で約9メートル進むことになります。仮にこの列車を 1/1000 秒のシャッタースピードで撮影する場合、シャッターが開いている間に約9ミリメートル動くことになります。大した数字ではないと思うかもしれませんが、高画素のデジタルカメラではブレが写る可能性が高い数値です。1/1000 秒ですら新幹線撮影では遅いのです。被写体との角度と距離にもよりますが、ブレを感じさせない写真にするためは、1/2500 秒 ~ 1/8000 秒が必要です。幸いにして新幹線は明るいカラーリングが多いので、極端に ISO 感度を上げずに済む場合も多くあります。行き先表示の LED は列車の前面にありませんので、心置きなく高速シャッターで撮影しましょう。F 値は開け気味でも大丈夫ですので、とにかく高速シャッターに心がけてください。
2.1,000 ミリが当たり前?望遠の世界
新幹線撮影の世界で要求されることは、スバリ焦点距離の長さです。つまり、望遠レンズは長く、高性能であるほど良い世界です。そのため、新幹線での標準レンズは 300 mm という人もいるほどです。可能であれば、35 ミリ換算で 1,000 mm 程度はあると良いでしょう。これまでの感覚であれば 1,000 mm の領域にあるレンズは、高級車が買える値段でした。ずしりと重いレンズを振りかざすと、まさにプロカメラマンといった雰囲気に浸れます。そして超望遠レンズのお供と言えば、三脚です。中でもしっかりした三脚も選んで、必要に応じて使うと良いでしょう。本格派の撮影者には、これらの重装備がオススメです。沿線の撮影ポイントでは、脚立もマストアイテムとなります。三段以上のものを選びましょう。脚立は、安全性を十分に確かめてから使いましょう。線路に近すぎる位置での使用は控えましょう。
レンズの焦点距離を伸ばすために、テレコンバーター( エスクテンダー )レンズの使用も有効的です。1.4, 1.7, 2.0 倍など様々な種類があります。倍率が小さいほど元の画質は維持されます。テレコンバーターレンズは、使用できるレンズが限られているので、手持ちのレンズで使用可能かどうか調べてから購入しましょう。レンズメーカー製で最高倍率が 3.0 倍のテレコンバーターレンズも存在しています。さらに猛者( ? )になると、テレコンバーターレンズを二つ付けて撮影する人もいるようです。この場合はオートフォーカス機能が使えなくなります。マニュアルフォーカスでの撮影です。
一方で、高性能な望遠ズームレンズや、センサーサイズが小さいカメラも多数存在しています。お手軽に撮影したい方には、こちらをオススメします。コンパクトカメラの中には、3,000 mm までの光学ズームを搭載したカメラも存在しています。憧れの超望遠レンズも手が届く存在となりました。手ぶれ機能も驚きの進化を遂げています。
超望遠レンズは空気の揺らぎも写ります。夏の日中、線路では陽炎が常に発生しています。描写力が何か変だなと思った時は、空気の揺らぎを考慮してください。撮影アングルをできるだけ高い位置にすると、陽炎現象は改善されます。
3.露出の決め方
新幹線は白色が基調とされています。白い被写体は日中のトップライト光では、あっという間に白トビしてしまいます。蒸気機関車の撮影方法で、デジタル画像はシャドー側のダイナミックレンジが広いと書きました。その逆でデジタルはハイライト側のダイナミックレンジが狭い。つまり情報量が少ないため、白トビや色飽和現象が起きやすいと言えます。ここは気をつける必要があります。
余談ですが、銀塩のフィルムはデジタルデータとは反対の性質を持っています。ハイライトに強く、シャドー側が弱い傾向にあります。
デジタルカメラで白とびを防ぐためのコツは、ややアンダー目に撮影することです。新幹線も蒸気機関車と同じように、RAW で撮影、画像処理した方が良い被写体です。現行販売されている最近のカメラでは、徐々にハイライト側の描写も改善されています。その点も考えて、RAW で撮影することを強くオススメします。一部の新幹線では、鮮やかな塗装をしている車両もあります。撮影の条件によってsRGB では色再現ができないものもあります。こちらは色飽和という現象で、実際の被写体がカメラの色空間内に収まらない時に発生する現象です。特に東日本を走る新幹線の色には気をつけましょう。解決方法として、カメラの色空間設定を AdobeRGB にして撮影しましょう。
また、白色は目立つ色なので、暗い場所でも良い雰囲気で写ります。薄暮や夜の時間帯でも積極的に写真を撮ると、面白いものが撮れると思います。
4.ホワイトバランスのあれこれ
最後に解説する撮影設定は新幹線のホワイトバランスについてです。ホワイトバランスとは、被写体が置かれている環境光の影響を補正するものです。白色を白色として再現するための機能です。新幹線は白色が基調ですので、このホワイトバランスの値によって新幹線の表現に大きな影響を及ぼします。
新幹線の白を正しく表現したい場合は、「 オート 」か「 晴天 」の設定で撮影しましょう。撮影記録をRAW としているならば、RAW 現像時に調整することも可能です。新幹線そのものをターゲットとして、微調整しましょう。ソフトウェアによって名前は違いますが、「 グレーポイント 」などの機能で簡単に補正可能です。
次に、創作的なイメージ写真を目指す場合の設定です。撮影時のホワイトバランス設定を「 蛍光灯 」や「 電球 」に選ぶと、寒色系の写真となります。青カブリ気味の色調です。色彩学的に青は、” 静かさ ” や ” クールさ ” を連想させる効果があるようです。
反対に「 曇り 」や「 晴天日陰 」を選ぶと、暖色系の写真となります。赤カブリ気味の色調です。こちらには ” 陽気さ ” や ” 明るさ ” を連想させるそうです。撮影者のイメージに合わせて撮影設定を決めてください。こちらも、撮影時ではなくRAW 現像で微調整することも可能です。ただし、創作的なホワイトバランス設定はコントラストが低下します。これは色カブリの弊害です。コントラストも調整することをオススメします。
5.次回予告
いかがでしたでしょうか。
以上で 新幹線の撮り方2( 撮影設定について )の解説を終わります。次回は通勤電車の撮影を解説したいと思います。ご期待ください。
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遠藤真人