鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座
第7回 鉄道イメージ写真を撮る
Photo : Masato Endoh
TOPIX
鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真講座の7回目は、「 鉄道イメージ写真 」について記述しております。イメージ写真の種類とその特徴に関して解説しています。ぜひ、ご覧ください。 by 編集部 |
みなさまこんにちは。鉄道写真家の遠藤真人です。今回は鉄道イメージ写真についてご紹介します。編成写真や風景写真には、ある程度の「 型 」のような撮影方法がありましたが、イメージ写真は自由な世界です。好きなものを好きなように表現しましょう。
1.好きなものを、好きなように撮る!
鉄道イメージ写真の定義は諸説あります。あえて日本語で書くならば「 鉄道心象写真 」と表記するところでしょうか。元より[ image ]の単語は、[ 映像・画像 ]の意味が含まれています。そうなると、[ イメージ写真 ]が一体何を指すのか、あやふやに感じられます。そこで連載では「 編成写真 」「 鉄道風景写真 」の枠には収まらない写真のことを鉄道イメージ写真として紹介します。
このジャンルの象徴する撮影方法は「 シルエット 」「 フレームアウト 」「 流し撮り 」「 スナップ 」など、多岐にわたります。また、このジャンル最大の特徴は列車の姿がなくとも、鉄道の存在を意識させる被写体があればそれで成立してしまうことも多いです。
例えば、イメージ写真の代表格と言える被写体は線路です。二本の光るレールがどこまでも続く風景は、鉄道ファンならずとも魅力が伝わる光景です。他にも信号機や踏切、切符、駅舎など鉄道を感じる被写体は無限にあります。
それでは鉄道イメージ写真の幾つかをご紹介します。
2.シルエット写真
シルエットとはフランス語「 silhouette 」に由来する写真の種類です。輪郭の中が塗りつぶされた単色の写真を意味し、影絵という時もあります。あえて影で表現した被写体は想像をかき立てます。主に朝や夕方、日没前後など、列車の側面に光が回り込まない時間帯に逆光側で撮影します。また空が明るいときにも条件次第で撮影可能です。
通常の撮影では、被写体が真っ黒に写ることを「 黒つぶれ 」と言われます。これを失敗の一因とみなし、敬遠されています。しかしこの撮影方法では、その黒つぶれを効果的に使い撮影します。ただし、デジタルカメラの宿命として影の暗い部分でも明るく写ってしまう場合もあります。その場合は RAW 現像で黒つぶれを意図的に作ったり、カメラの設定モードをビビット( 鮮やか )などにして暗い部分は濃い影になるように撮影しましょう。
3.流し撮り
この手法はカメラを低速域シャッタースピードに設定し、列車の動きに合わせカメラを振ります。すると画面の中で一定の部分が止まって表現され、他の部分は一直線に糸を引くように流れてゆきます。これが流し撮りです。この手法もカメラの高性能化とともに近年では大人気の撮影方法となりました。
この手法は実はかなり昔から存在していたようです。諸説ありますが、私の知る範囲で一番古い流し撮り写真は 1912 年6月26日に撮影された、レーシングカーの写真です。
カメラマンは 1894 年にフランスの裕福な家庭に生まれた、ジャック=アンリ・ラルティーグです。彼が 18 歳の時に撮影した写真が最古のものかもしれません。当時のカメラは高性能化と誰でも扱える改良化が進んでいました。感光材の改良も進み、一般の人でも写真撮影が可能となった時代でした。
その後は更にカメラの性能が発達し、モータースポーツの写真で一躍有名となった撮影方法です。次第に鉄道分野でも取り上げられるようになりました。そのような流れのある撮影方法です。余談ですが、彼の作品では階段からジャンプした女性の立体写真も代表的です。ステレオカメラで彼は多くの立体写真を生み出した、偉大なアマチュアカメラマンです。
4.フレームアウト
フレームアウトは文字通りに写真の枠を飛び越えて、外側まで大迫力に列車を表現する方法です。
編成写真が正統派とするならば、こちらは一歩外れた表現です。しかしながら、写真表現としては素晴らしく、スピード感や迫り来る緊張感を表現するために有効な撮影方法です。近年特に人気となった手法です。
鉄道写真では車両の姿が全てフレーム内に収まっていることが基本ですが、フレームアウトはその変化球のような表現です。例えば、蒸気機関車であれば、天に舞い上がる煙の勢いや、忙しく動く足回りをもっと画面を大きく使って表現したいときに有効な撮影方法となります。つまり被写体の特徴を掴んだ上で挑むべき、少しマニアックな撮影方法かもしれません。
フレームアウト撮影のコツは、インパクトのある部分をメインに大きく写すことが重要です。そして画面の中で緊張感が生まれるよう、無駄な余白を生み出さないフレーミングが肝心です。フレームアウトに挑むときは手持ち撮影で、ギリギリまで車両を引きつけましょう。また、連写性能を駆使して十分に撮り切りましょう。
5.スナップ写真
主に駅や車内で撮影することが多い分野です。スナップで目指したい方向性は撮影者次第です。広角や望遠レンズにこだわる人もいれば、50 mm 標準レンズ一本で勝負する人。フイルムやモノクロモードで撮影する人など、ご自身の好みを探して撮影するのが良いでしょう。
列車内のスナップでキーポイントとなるのは「 窓 」です。窓から見える景色は、いつまで見ていても飽きることはありません。さらに窓枠越しに外の風景を撮影すると、額縁効果という現象も生まれます。車内の内側と外側を強く意識させる手法です。
ただし、列車の内側と外側とでは光の差が大きすぎるため、どちらか一方が白飛びや黒つぶれにならないよう要注意です。また、動いている列車であれば、シャッタースピードを遅めに設定して、風景をブラす方法も効果的です。走っている様子が写し出されます。
スナップ撮影で忘れてならないのは、クローズアップです。この M の文字は湘南モノレールのコーポレートマークです。2018 年末リニューアルオープンした湘南江ノ島駅で撮影したものです。このマークは駅正面の扉にあしらわれています。望遠レンズでの撮影です。レンズの高性能化によって、このような写真も手軽に撮れる時代となりました。撮影ではホワイトバランスを夕陽に設定し、暖かい色に仕上げました。背景の風景
を利用して、M の部分が光って見えるよう工夫しました。絞りを開放に設定して、ボケを意識して撮影をしています。
これも望遠レンズの得意技です。
6.次回予告
いかがでしたでしょうか。
今回は鉄道イメージ写真の基礎知識をお送りいたしました。最近のフォトコンテストではこのジャンルの受賞作が多い傾向にあります。良い写真が撮れたときには、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。さて次回は今回ご紹介した「 シルエット撮影 」について詳しく紹介してゆきます。
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遠藤真人