鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座
第5回 鉄道風景写真の撮り方
Photo : Masato Endoh
TOPIX
毎回ご好評をいただいている、「 遠藤真人の鉄道写真の撮り方講座 」第5回目となりますが、引き続き基礎となる「 鉄道風景写真 」をお届けします。風景撮影ファンにも参考となる内容ですので、ぜひ鉄道ファン以外の方もご覧ください。 by 編集部 |
こんにちは鉄道写真家の遠藤真人です。いつも「鉄道写真の撮り方」をご覧いただき、ありがとうございます。前回までは鉄道写真の王道、編成写真の解説をご紹介いたしました。今回からは同じく鉄道写真の基礎となる「 鉄道風景写真 」をご紹介します。
1.鉄道風景写真とは
こちらのジャンルは鉄道車両をメインの写真とは方向性が異なります。
鉄道風景写真は撮影する路線の沿線風景が主役となります。例えば、海岸線に沿って列車が走る風景や、山々をつなぐ鉄橋を渡る列車がメインの被写体となります。
ここで列車は脇役となります。また、鉄道施設と絡めたものではなく、春は花・秋には紅葉と季節感のあるものを一緒に撮影する写真もこちらに分類されます。鉄道風景写真のジャンルは幅が広いことも特徴です。撮影場所も線路から近い場所とは限らず、数時間をかけないと到達できない撮影地もあります。
ある意味でアウトドアスポーツの要素も必要です。特に冬場は除雪されていない場所も多く、山の中へ入って行くにはリスクも伴います。正しい知識と判断力をもって行動しましょう。撮影のために危険行動を起こしてはいけません。また、以前にもご紹介はしているのですが、「 鉄道風景写真 」は自然をメインとした、いわゆる「 風景写真( ネイチャーフォト )」とは一線を画します。自然の中を走る列車の写真だけではなく、街の中を行く列車もここでは鉄道風景写真として紹介します。
2.鉄道ファンならずとも撮りやすいジャンル
はじめに「季節感」です。これは四季の中で過ごす日本人であれば、自然と身についている感覚と言って過言ではないと思います。例えば、春の季節を象徴するものというと、花が真っ先に思い浮かぶと思います。特に俳句の世界では「 花 」=「 桜 」と国語の授業で習うほど、日本人の心に深く刻みこまれています。
また、春の季節は厳しい冬を越えてやってくる、暖かな季節です。ポジティブな気持ちで撮影してみましょう。木に咲く沢山の花も良いですが、足元に咲いている一輪の小さな花も良い題材となりそうです。そのようなイメージで初夏には新緑、秋には紅葉やススキなど色々と沿線風景を見つけてゆきましょう。他には具体的な被写体ではありませんが、夏は強烈な日差し・秋は夕焼けなど写真ならではの「 光の表現 」に通じる要素も大切にしてゆきたいところです。
次に「 構造物 」です。こちらは一歩踏み込んで、鉄道ファンとしての知識も少しあると良いでしょう。とは言いつつも、形式番号や時刻表を暗記して・・・といった高度な(?)ものではなく、「 〇〇 路線の絶景といえば〇〇鉄橋 」といった基礎知識のようなものです。こちらは撮影前にあらかじめ勉強しておくことができますので、予備知識として持っておきましょう。きっと、その路線らしい風景に出会うことができるはずです。
普段は空いている場所も臨時列車などが走る場合は、編成写真が撮れる撮影地と同様に混雑することも多いため要注意です。
最後に「 風土 」についてです。風土を辞書で引くと「 その土地の気候・地味・地勢など。その土地のありさま。」( 出典:デジタル大辞典 )と記述されています。鉄道風景写真ではその沿線らしさを象徴するものを見つけることが大切です。
東海道新幹線であれば富士山の麓を走る姿、ローカル線の釧網本線であれば流氷。そのように理解できると良いと思います。これは自然のものでなくても良い場合もあります。例えば 2018 年に廃止された三江線の場合は瓦が風土を表した一つのポイントでした。三江線は広島県の三次駅から、島根県の江津駅名までを結ぶローカル線でした。一部の区間で島根県の石見地方を走っていたため、沿線の屋根には石州瓦の家ばかりでした。それが人の営みの中に存している沿線風景は、今でも忘れられない光景です。
このように、その土地ごとに感じた印象や空気感を捉えることができればそれも立派な鉄道風景写真と言えます。鉄道や写真の知識だけでなく、様々なものに興味を持つと良い写真が生まれます。
3.列車の存在感が鍵を握る
鉄道風景写真のキーワードをご紹介しましたが、今度は撮影テクニックとして意識したいことがあります。それは写真の中において「 列車の存在感がどのように表現されるか 」ということです。この話は次回の構図を作るテクニックにも通じます。じっくりと考えて欲しいテーマの一つです。こちらでは写真を例に解説してゆきます。まずは川霧の鉄橋を渡る只見線の写真です。
写真6を見るとわかる通り、写真の中で車両はとても小さく写っています。雄大な風景と引き換えに、列車の存在感は薄れて周囲と同化しています。ここでの主役は手前の木々と川霧なので、列車は脇役として完全に消えない程度の存在感で表現しています。
撮影するときには、「 この写真をどれぐらい大きく引き伸ばしするのか 」を意識して撮影すると、良い結果となることが多いです。完成形をイメージすることが大切です。
それではもう一例、列車の存在感を意識した写真をご紹介します。写真7も前の写真同様に列車が小さく写っています。それにより、列車の大きさと対比して紅葉がどれほど雄大に広がっているのかを表現しました。しかしながら、先ほどよりも列車の存在感が強い印象になっています。その理由はどこにあるのでしょうか。
これは秋の午後に撮影したものです。15時頃になると太陽の位置が低くなり、横方向からの鋭い斜光線となります。特に木々などの立体物は斜光線に当たると、陰影が強調されるためスポットライトのような効果が生まれます。ここではその効果を利用し、列車が陰から浮き上がるようなシャッターポイントで撮影をしました。画面内のサイズが小さくても、このように光の加減で存在感を出すこともできるのです。
写真8は左側からの順光に近い光で撮影をしました。こちらの写真も車両の大きさは小さめですが、車両の色が白色のため周囲の風景には溶け込みません。これは良い意味で存在感が強いので、列車は小さく写っていますが存在感は強く表現されています。
4.次回予告
いかがでしたでしょうか。
今回は鉄道風景写真の基礎知識をお送りいたしました。さて次回は構図を作る上でのヒントと撮影設定や機材の選びかたをお送ります。
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遠藤真人