久々にデジタル一眼レフカメラの話題からいきましょう。
コンパクトタイプのデジタルカメラの販売数が、順調に右肩上がりで増加できなくなってきているようです。たしかに、わたくしの周りを見回しても、パソコンを持っていないような仲間でさえ既にデジカメを買ってしまっていますし、200万画素カメラ付きのケータイを買ったからデジカメは要らないや、と云っている輩がほとんどです。もう飽和状態といえるのかもしれませんね。そんな状況の中、コンパクトタイプのデジカメで検討しているのが「手ぶれ補正機能付きモデル」です。やはり、写真を撮る、というと手ぶれしていた方が多かったんでしょうねぇ。もちろん、わたくしも手ぶれ組だったんですが…。
ちなみに、この連載の「第2回 : 手ぶれ補正 〜しくみ編〜」で紹介したように、手ぶれ補正を実現する方法はひとつではありません。ここでは、
を紹介しました。
しかし、ここで紹介した方法とは違ったアプローチを使って、手ぶれ補正を大きく謳ったモデルが出てきました。富士写真フイルムの『FinePix F10』です。このモデルは、上の3つの方法を使わず、CCDの性能を向上させることによって、手ぶれ補正を実現しています。そして、CCDの大幅な性能の向上には、同社が開発した「スーパーCCDハニカム」という撮像素子が鍵を握っています。
今回は、手ぶれ補正をも機能として手に入れることのできる、「スーパーCCDハニカム」について解説していくことにしましょう。
手ぶれ補正についてはひとまず後回しにすることにして、まずは「スーパーCCDハニカム」が、通常使われているCCDに比べて優れている点を探っていきます。
現在、コンパクトタイプのデジタルカメラで主流となっているCCDは、IT-CCD(インターライントランスファー方式)と呼ばれるCCDです。しかし、このIT-CCDには大きな弱点があります。それは、1つの画素あたりの受光面積が小さくなってしまいがちだということなのです。IT-CCDでは、1つの画素が電荷を発生させる受光領域と転送を行う垂直転送用CCDに分かれています。素早く写真を撮れるようにするためには、転送を行う垂直転送用CCD用の領域を優先して確保する必要があります。しかし、このような設計を行うと、どうしてもデッドスペースが必要になってしまうのです。これについては、「第3回 : 画素数と画質の関係」で紹介していますので、詳しくはこちらを参照してください。
富士写真フイルムでは、この弱点を少しでも軽減するために、画素領域を45度傾けて配列しました。このようにCCDを並べていくとハニカム(蜂の巣)のように画素が並べられます。そこで、画素領域を45度傾けた配列をハニカム配列と呼んでいます。ハニカム配列を使ってCCDを設計すると、垂直転送用CCDの大きさを充分に確保しながら、残りの領域を受光面積として使うことができるようになるのです。この配列構造が、「スーパーCCDハニカム」のネーミングの由来にもなっています。
さらに、富士写真フイルムでは受光領域を拡げるために、受光領域を四角形から八角形にしました。こうすることによって、2分の1インチ200万画素タイプのスーパーCCDハニカムは、同タイプのIT-CCDに比べて受光領域が約1.6倍に、2分の1インチ300万画素タイプでの比較では約2.3倍もの大きな受光領域を確保することができるようになったのです。
スーパーCCDハニカムでは、受光領域を八角形にしたことによってメリットも生まれました。それは、「絞り値を小さくして解放にしたときにも感度が低下しない」ということです。
「感度が低下しない」ということは、通常の場合−この場合ではIT-CCDを使ったケースになります−では、感度が低下するということになります。しかし、絞り値を小さくして解放にするということは、光が多く入ってくるということになります。それなのに、感度が低下してしまうというのは、なんだか違和感がありますね。これは、今までの銀塩フィルムではありえないことでした。しかし、CCDはフィルムのように平面ではなく、立体的になっているのでこのようなことが起こるのです。
CCDでは、受光面、つまりフォトダイオード(PD)に光を照射して映像を撮影します。このとき、1画素全面で光を受けることができないので、マイクロレンズというものを使って光を集めています。この構造だと、絞りを解放したときに光をすべて受光できないケースが発生してしまうことがあるのです。
例えば、絞り値をF8の状態で光を照射してみましょう。すると、IT-CCDも、八角形のスーパーCCDハニカムもマイクロレンズが集光した光束をすべて受光することは可能です。では、絞り値をF2.8の値まで小さくする、つまり絞りを開いてみましょう。すると、マイクロレンズに照射される光束が大きくなります。当然、マイクロレンズが集光した光束も大きくなります。このとき、八角形のスーパーCCDハニカムの方は、この光束を欠くことなく受光することができますが、IT-CCDの方はすべての光を受けることができずに周辺が欠けてしまうことがあるのです。このようなことが起きれば受光量が少なくなります。受ける光の量が少ないということは、感度が低下してしまうということになってしまうのです。このような理由から、スーパーCCDハニカムでは、絞り値を小さくして解放にしたときにも感度が低下しないのです。
さて、ではここで手ぶれ補正の話に戻りましょう。 スーパーCCDハニカムは、通常コンパクトタイプのデジカメで採用されているIT-CCDに比べて、多くの光を受光できるということが分かりました。では、多くの光を受けることができると、どのようなメリットが発生するでしょうか。
「多くの光を受光できる」というのは、同じ時間だけ光を照射したときの比較です。ここで、着眼点を「一定の光量を集める」に変更して考えたらどうなるでしょうか。スーパーCCDハニカムの方が短い時間でIT-CCDが受光する量と同じ光を受けることができるといえますね。短い時間で済むということは、写真撮影の際ではどのような結果として表れるでしょう。それは、シャッター時間を短くすることができるようになるのです。このときのメリットを考えてみましょう。シャッター時間が短ければ短いほど、写真として残る被写体の動きは少なくなります。つまり、多くの光を受けるというメリットは、手ぶれによる写真のミスが少なくなるという結果として残るのです。
最初に紹介した、富士写真フイルムの『FinePix F10』では、このスーパーCCDハニカムに改良に改良を重ねた、第五世代のスーパーCCDハニカムが使われており、630万画素での撮影でも最高感度ISO1600の設定で撮影が可能になっています。このような高感度設定で撮影すれば、手ぶれ撮影はグッと少なくなるでしょう。通常の感度の撮影でも、スーパーCCDハニカムの恩恵により、シャッタースピードを高速にすることができますから、やはり手ぶれ撮影は少なくなります。これが、今までデジタルカメラでは無かったアプローチでの手ぶれ補正の方法なのです。
昔、銀塩フィルムの時代には、チョット暗めの部屋の中で写真撮影をするとき、手ぶれしないようにフィルムの感度をISO100からISO400に変更したものでした。スーパーCCDハニカムで撮影するということは、これと同じことを行っているとも云えるのです。フィルムメーカらしい発想ですよね。いや、写真撮影の歴史から考えると、もしかしたら手ぶれ補正の王道とも云えるのかもしれませんね。(あ”、他のメーカのアプローチが覇道という意味ではないですよ・汗)