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デジカメの「しくみ」
第7回 : CMOSって良いの?! 悪いの?! その2      
 
「CMOS=低画質」からの脱却
CMOSのノイズ除去
そして、やがてCMOSへ
2005/04/27

スタジオグラフィックス公認 デジタルカメラの教科書
体系的に学ぶデジタルカメラのしくみ第2版 スタジオグラフィックス、デジカメのしくみ講座の著者、西井と神崎が執筆したデジカメの歴史、カタログの読み方、レンズや撮像素子のしくみなどをやさしく解説した書籍。待望の第二版
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ソニーエリクソン社のau向け携帯電話『W31S』のカメラ部分にはCMOSが採用されています。少し前まではCMOSを採用している携帯電話は、あまりよい画質で撮影ができないと云われていましたが、現在はさまざまな技術を採用して、驚くほど綺麗な写真が撮れるようになっています。この機種も、コンパクトデジカメに迫る画質の写真を楽しむことができます。
 
■「CMOS=低画質」からの脱却
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●脱却にはさまざまな工夫が必要だった
   前回は、CMOSの弱点を解説しました。読んでいると、「CMOS=低画質」というイメージが定着するのもうなずけるなぁ、と思われたかもしれません。しかし、前回の冒頭でも書きましたが、高級デジタル一眼レフカメラにもCMOSが使われるようになっています。少なくとも、今となっては「CMOS=低画質」という認識は正しくないといえるでしょう。
 もちろん、既存のCMOSをそのまま使ったのでは、高画質な写真は撮影できません。高級デジ一眼に採用するクオリティを得るためには、さまざまな工夫が必要でした。今回は、CMOSの弱点を克服した、さまざまな技術について解説してくことにしましょう。
   
●画像が曲がって見えないようにする工夫
 
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【CMOSの特性を活かしたクロップ高速機能を搭載した『D2X』】
ニコンの『D2X』(写真上)に搭載されている「クロップ高速機能」(下画面)では、CMOSの中央部分だけを使って撮影を行います。12.4メガピクセルすべての画素を使って高速連続撮影を行ったときには5コマ/秒の撮影ですが、撮像素子の中央部6.8メガピクセルを使用したクロップ高速機能は、8コマ/秒の高速連続撮影が可能になります。
 
●蓄積の同時性を行う工夫
 CMOSはCCDに比べて、高速に動く被写体に弱いという特性がありました。蓄積の同時性がないための障害でしたね。まずは、このデメリットに対する工夫を紹介しましょう。
 蓄積の同時性が行われないのは、画素によって蓄積を終了するタイミングに差があるためでした。そこで、電荷の読み出しを開始するときに、CMOSに照射する光を意図的に遮断したらどうなるでしょうか。一番最初の画素が電荷の読み出しを終了し、再び電荷の蓄積をはじめようとしても、遮光されているので電荷は蓄積されません。これなら、蓄積の同時性が確立できるはずです。

 この遮光は、機械的なシャッター、つまりメカニカルシャッターを使って行うことができます。「えー、カメラにシャッターを使うのなんて当たり前じゃないの?」と思われるかもしれませんが、安価なデジカメや携帯電話ではメカニカルシャッターは用いられていないことが多かったのです。それは、蓄積した電荷を無くしてしまうというCCDやCMOSの特性を使えば、シャッターの機能と同じような効果を得ることができます。この特性のことを電子シャッターといいます。安価なデジカメや携帯電話にはメカニカルシャッターを搭載せずに、電子シャッターだけで撮影するしくみのものが多かったのです。

 最近では、CCDやCMOSとメカニカルシャッターを一体となったユニットが登場してきて、携帯電話などに採用されるようになりました。携帯電話で撮影した写真が高画質になってきた理由のひとつは、このメカニカルシャッターの搭載といわれています。もちろん、CMOSの採用が多くなってきたデジタル一眼レフカメラには、高性能なメカニカルシャッターが搭載されていますから、「高速に動く被写体に弱い」というデメリットを被ることはないわけです。

●CCDよりも素早く読み出しを行う
 前回、CMOSの方がCCDよりも劣っているような説明をしました。しかし、CMOSの方が優れている部分もあるのです。その中のひとつは、電荷の読み出しについてです。

 CCDの電荷を読み出すには、バケツリレーによって電荷を増幅器に転送する必要があります。そのため、信号を読み出すためにある程度の時間が必要になります。増幅器を2つ用意して、CCDを真ん中で左右2つに分けて転送を行い、時間を短くする方法もありますが、どうしても縦方向に分割することはできません。また、CCDの特性や技術的に、2つ以上に分けて転送させることは難しいとされているので、効果的に読み出し時間を短くすることはできないといっていいでしょう。

 一方のCMOSは、バケツリレーを行わず、それぞれの画素で信号を増幅し、読み出しを行います。そのため、いくつかのブロックに分けて読み出すことが可能になのです。さすがに、何百にも分けて読み出すの無理ですが、4つや6つに分けて読み出すのは問題なく、実用化されています。つまり、効果的に読み出し時間を短くすることができるのです。

 読み出しが速ければ、次の撮影までのインターバルを短くすることができます。つまり、連写が可能になりやすいのです。もちろん、連写機能を実現するには、高速にデータを蓄積できるバッファメモリを大容量で確保していなければいけないので、CMOSを採用すればいいというものではないのですが、余裕をもって連写機能を設計できるという利点があるのです。

 最近では、このブロック分割して読み出すというしくみを積極的にデジタルカメラの機能として搭載した製品も出てきました。ニコンの最新デジタル一眼レフカメラ『D2X』には、クロップ高速機能というしくみを備えています。これは、ブロック分割した中央部分のデータだけを読み出して写真画像のデータとして使うというしくみです。このことによって、連写速度が大幅に向上していますが、これはCMOSならではの機能です。CCDで同じようなことをやろうと思っても、構造上、一度すべてのデータを取り出してから、画像処理部分でトリミングを行わなければならず、連写機能が大幅に向上するようなことはありません。

   
■CMOSのノイズ除去
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●CMOSにはノイズの残留性がある
 

 前回、CMOSの方がノイズの点で不利と解説しましたが、実はCCDにもノイズはあるのです。それは、暗電流ノイズと呼ばれるものです。暗電流ノイズとは、光を完全に遮断した状態でも、CCDやCMODをスタンバイにすることなどで出る熱によって発生する電荷によってもたらされてしまうノイズです。ところが、この暗電流ノイズや前回紹介した固定パターンノイズも、CCDの方が綺麗に除去することができるのです。

 CCDでは、まず光を完全に遮断した状態で電荷情報を読み出します。本来は、電荷が無いはずですが、暗電流ノイズが発生しているので、「N1」という電荷が読み出されます。電荷を読み出して空っぽになったところに、CCDに光を照射して電荷「S」を蓄積します。しかし、実際に読み出される電荷は「N1」+「S」となります。1回空っぽにしたのに、と思うかもしれませんが、そのあとに、やはり暗電流ノイズが発生してしまうからです。こうなると、正しい電荷「S」は読み出すことはできないことになります。そこで、最初に読み出した電荷「N1」を実際に読み出した電荷から引き算します。すると、ノイズの信号が無くなったように見えるわけです。これを「相関二重サンプリング」といいます。

 CMOSも同様にしてノイズを削除すればいいように思いますが、相関二重サンプリングを使っても正しい信号を取り出すことができないのです。なぜなら、CCDは暗電流ノイズを読み出した後に、電荷をバケツリレーで転送するために、一時的に完全に空っぽにすることができます。ところがCMOSは電荷を転送するわけではないので、前の電荷が少しだけ残ってしまうのです。この少し残った電荷をN2とすると、実際に読み出した電荷から、最初に読み出した電荷「N1」を引き算しても「S+N2」という信号しか取り出すことができないのです。しかも、CMOSは、「N1」にあたるノイズは暗電流ノイズだけでなく、固定パターンノイズも含まれます。つまり、CCDよりも「N1」のノイズは大きいのです。この信号の残留性と固定パターンノイズのために、CMOSはノイズが多く、綺麗な写真が撮れないと云われていたのです。


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【ノイズの残留性】
CCDは、一度完全に電荷を無くすことができるので、正確に撮影信号「S」を得ることができます。一方、CMOSは、完全に電荷を無くすことができずに「N2」という残留ノイズが残ってしまうため、正確な撮影信号「S」を得ることができません。
(『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』より)
   
●残留したノイズを除去する工夫
 

 CMOSを採用しているメーカは、残留したノイズを除去する技術も確立しました。しかし、これは、CMOSというチップだけのレベルで解決できるわけではなかったのです。ここでは、CMOSを高級デジタル一眼レフカメラに採用した先駆者であるキヤノンの場合を例に挙げて解説していきましょう。

 CMOSの電荷の残留性という問題は、一度完全に電荷を空っぽにできれば解決できます。つまり、CCDのように電荷をすべてどこかに転送できればよいということになります。そこで、キヤノンでは、CMOSのチップ上にCCDのように電荷を別の場所に、完全に転送できる機構を作りました。これは、信号を読み出す部分と、電荷を蓄積する部分に分かれていて、その間には可動できる「敷居」が置かれた構造になっています。
 まず、最初にノイズ「N1」の電荷を読み出すのですが、このときに敷居をオープンな状態にします。すると、蓄積されていた暗電流ノイズと固定パターンノイズがすべて信号を読み出す部分に転送されます。そして、ここでノイズ信号レベル「N1」を読み出します。そして、この状態で敷居をクローズ状態にします。そして、電荷「S」を蓄積します。本来なら、電荷を蓄積する場所には残留ノイズ「N2」が残っているはずですが、一度完全に電荷を転送してしまっているために、残留ノイズ「N2」はゼロになっています。その後、蓄積が終わって読み出すときに、再び敷居をオープンにして、信号を読み出す部分に電荷を完全に転送します。そして、この信号レベルを読み出し、その後先ほどのノイズレベル「N1」を引き算すれば、正しい電荷「S」が読み出せるというわけです。
 この機構を使うことによって、撮像素子にCMOSを採用しているのにもかかわらず、ノイズを限りなくゼロに近い、高画質な撮影ができるようになったのです。


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【CMOSにおけるノイズ除去の工夫】
1.暗電流ノイズや固定パターンノイズが発生します。
2.敷居をオープンし、電荷をすべて完全に転送します。
3.ノイズ信号レベル「N1」を読み出します。
4.撮影を行い、電荷「S」を蓄積します。
5.再び敷居をオープンし、電荷をすべて完全に転送します。
6.読み出した信号レベルから、先ほどの「N1」を引き算すれば、電荷「S」を正確に読み出すことができます。
(『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』より)
   
■そして、やがてCMOSへ
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●システムオンチップはCMOSの可能性を無限にする
   ノイズを除去するための完全転送構造をCMOSに備えることができたのは、前回紹介したシステムオンチップであるためです。このようにCMOSは、素子自体にさまざまな機能を追加して、ステップアップさせていくことが可能であるという利点があります。

 前回、CMOSは撮像素子以外にも使われているという解説をしました。例えば、オートフォーカスを行うセンサにもCMOSが使われています。もちろん、現在は撮像素子のCMOSとは別のCMOSセンサを使っているのですが、CMOSの配線の微細化がやシステムオンチップの高密度化が進めば、1個のCMOSで撮像素子とオートフォーカスセンサの両方の機能を持たせることができるかもしれません。CMOSとは、このように夢のような撮像素子が作れるかもしれないという可能性を秘めているのです。

   
●コンパクトデジタルカメラにもCMOSが
 

 「CMOS=低画質」という法則は、まだ技術が煮詰められていない段階で、低価格なトイカメラや廉価版の携帯電話に搭載されてしまったために生じた誤解と云えるかもしれません。CMOSは、きちんとした技術でフォローアップしてやれば、高画質な撮影が行える撮像素子であるといえるでしょう。このようにメリットが多くなっているCMOSですが、高級なデジタル一眼レフカメラに搭載されてはいますが、なかなかコンパクトデジカメには搭載されてはきません。これは、なぜかというと複雑な機能をCMOSに搭載させるには、画素あたりにある程度のスペースを必要とするためです。まだ、APSサイズ(23mm程度×15mm程度)のスペースが必要で、2/3インチや1/1.8インチに詰め込むのは、チョット大変なためです。

 しかし、折しもキヤノンからCMOS工場の拡充が発表されました。具体的にコンパクトデジタルカメラへのCMOS搭載は明言されませんでしたが、質問への否定はされませんでした。もしかしたら近いうちに、CMOSを搭載したコンパクトデジカメが登場するかもしれませんね。


Text by 西井美鷹(デジカメWEB)

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