鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座第10回 流し撮りのコツ 応用編
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鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真講座の10回目は前回に引き続き、動体撮影時に人気の「 流し撮り 」を解説しております。今回は 「 応用編 」です。流し撮りを成功させるコツの解説もしています。「 鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座第10回 流し撮りのコツ 応用編 」それではご覧ください。 by 編集部 |
みなさまこんにちは!鉄道写真家の遠藤真人です。今いつも鉄道写真の撮り方をご覧いただき、ありがとうございます。前回は鉄道写真の中でも人気の撮影方法、「 流し撮りのコツ 基礎編 」をご紹介しました、今回は流し撮りのコツ応用編です。流し撮りの世界を満喫してください。
1.流し撮りの強い味方 ND フィルター
流し撮りでは低速シャッターを用いるため、撮影設定は自然と低 ISO 感度と大きな絞り値の組み合わせになりがちです。また夏の日中など明るすぎる時間帯では、低シャッタースピードが確保しにくい場面も多くあります。その時に流し撮りの強い味方となってくれるのが、ND フィルターです。ND とは ” Neutral Density ” の略で色の偏りなどがなく、純粋に光量を減らしてくれるフィルターです。
このフィルターには番号がついており、ND 4 や ND 16 などの種類が販売されています。この数字はそれぞれ、入ってくる光量を“4分の1”や“16分の1”に減らしてくれるという意味です。鉄道写真では明るい時間帯に使用する場合も考えてND 4程度のものお勧めします。 濃くても ND8 程度の範囲で撮影では十分です。
このフィルターはとても便利ですが、気をつけなければならないこともあります。減光フィルターをつけるということは、暗い中で撮影をすることと同じです。つまりフィルターなしの状態と比べて、オートフォーカスの精度が落ちることもあります。
その場合はあらかじめピントを線路に固定して、マニュアルフォーカスで撮影する「置きピン」を活用しましょう。近年では偏光ND フィルターも販売されており、その都度フィルター濃度を調整できる 可変 ND フィルターも存在しています。こちらも有効的に使用できるアイテムです。
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2.流し撮りの応用編 ズーム流し撮り
ここまで流し撮りの記事を読んでくださった方は、すっかり流し撮りのマスターです。ここからは一歩踏み込んで、普通の流し撮りでは飽き足らない!と言う方に向けに、流し撮りの変化球、ズーム流し撮りをご紹介します。
この方法で撮影すると、躍動感にプラスして画面に立体感が生まれます。この撮影方法は従来の流し撮りに、ズーム動作を加えたものです。専門用語の組み合わせで表現すると、パン&ズームアウトの動きとなります。
この撮影方法も昔からある撮影方法です。年代によって言葉は変わりますが、写真の世界では「 追い撮り 」「 露光間ズーム( 流し )」と表現されることがあります。いずれもほぼ同じ動きと考えて問題ありません。
余談ですが、ムービーの世界での「 追い撮り 」は撮影者が被写体と共に移動し、追従撮影をすることを指すそうです。写真用語とは違う意味ですので、誤解のないようお気をつけください。
3.躍動感だけじゃない!ズーム流し撮りの世界
ズーム流し撮りでは、普通の流し撮りとは違った効果が生まれます。普通の撮影では、躍動感が強調されて表現されますが、被写体の一部がブレて写ることがあります。しかし、こちらのズーム流し撮りでは車両の一部ではなく、全体が止まっているように表現されます。ここがズーム流し撮りの大きな利点です。
この撮影方法を利用して、走っている列車の姿をより克明に写すことも可能となります。特に現代の鉄道車両は行き先表示の機器にLED( 発光ダイオード )が使用されています。この表示機器が写真にとって曲者なのです。
LED 方式ではライトの部分が、一定の周期を持って断続的に発光しています。これを高速シャッターで撮影すると、途中で切れることがよくあります。そのためLED 表示を綺麗に写すためには、比較的遅いシャッタースピードが必要となります。平均的に 1/125 秒程度のスピードであれば、問題解決となる場合が多いです。しかしながら、1/125 秒では肝心の列車自体がブレて写ってしまいます。このような場合にズーム流し撮りの技術が生きてくるのです。「 躍動感 」ではなく「 実用性 」に比重を置いたズーム流し撮りの活用方法です。
最近のLED 表示機器には 1/1000 秒程度のシャッター速度で撮影しても大丈夫な列車もありますが、一世代前の機器ですと 1/30 秒程度までシャッター速度を落とさなければならないものも存在しています。難しいですが、奥深い世界なのです。
一見、普通の編成写真のようですが、拡大すると流し撮りしていることがお分かり頂けると思います。ここで使用した撮影方法もズーム流し撮りです。普通の流し撮りではなくて、ここでズームを併用した理由は、もちろん車両全体のブレ量が減らすためです。記録重視の撮影でありながら、ズーム流し撮りはとても有効です。
4.ズーム流し撮りを成功させるコツ
ズーム流し撮りを成功させるには、3つのコツがあります。
1)右手でカメラをしっかりと支える
2)ズーム速度は大胆に変化させる
3)狙いの前後も連写し続ける
これら3つのコツを意識することが成功への鍵といえます。それぞれを詳しく説明してみましょう。
1)右手でカメラをしっかりと支える
撮影中にズームリングを回す関係で、左手はレンズをしっかりと支えることができません。場合によってはズームリングを動かす力で、ブレが発生することもあります。それを防ぐためにも右手はカメラ本体をしっかりと支えるよう心がけましょう。
2)ズーム速度は大胆に変化させる
撮影の焦点距離によって、ズームを動かす速度は変化します。例えば望遠領域でズーム撮影をする場合は、ズームリングをゆっくりと動かせば被写体のスピードを捉えることができます。一方で標準から広角領域では、被写体を正確に捉えるために、素早くズームを動かす必要があります。これは実際の被写体の速度とは別の「 見かけの速度 」が関係しているからです。
3)狙いの前後も連写し続ける
流し撮りでは連写機能を有効活用することが成功への近道です。具体的な枚数で表現するならば、狙っているカットを中心に前後2~3 コマ程度が写っていると良いです。そうすると撮影中は被写体の動きに集中でき、良い結果となる場合が多いのです。
以上の3つがズーム流し撮りで重要なことです。
その他のことは通常の流し撮りと同じです。前回の記事を参考に撮影のフォームや練習を重ねて下さい。
5.超低速シャッター領域の魅力
前回の記事の最後にも触れましたが、流し撮りにチャレンジには際限がありません。そのようなフロンティア精神があふれる方は、是非とも積極的に超低速領域に挑んで行きましょう。たとえ、写真の中で綺麗に止まっている部分がなかったとしても、それ以上に “ 写真としていいな ” と感じることができれば、それも成功のうちです。怯むことなく撮影してゆきましょう。
もし、自分の腕に不安や自信がなくなってしまった時には、コンテストや写真展に応募するなど、いろいろな人に見てもらう機会をつくとよいです。全てにおいて、肯定的な意見ばかりではないと思いますが、必ず自分の撮影の糧となるはずです。
6.次回予告
いかがでしたでしょうか。
流し撮りの応用編もこれで終了です。今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。近年のコンテストでも流し撮りは多く、注目の撮影技法です。ぜひ試してくださいね。次回はフレームアウトの世界です。ご期待ください!
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遠藤真人