鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座
第25回 Nisi GNDフィルター(角形ハーフN D)で撮影する鉄道写真
Photo : Masato Endoh
TOPIX
鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真講座の 25 回目は GND フィルターを使用した鉄道写真について解説しました。世界的なレンズフィルターメーカー Nisi 社に協力いただきました。角型フィルターを使用して鉄道撮影の幅を広げてみるのはいかがでしょうか?ぜひ、鉄道撮影の参考としてください。 by 編集部 |
みなさまこんにちは!鉄道写真家の遠藤真人です。今回はカメラのフィルターで有名な NiSi のフィルターを使って鉄道を撮影してゆきます。鉄道写真では動体撮影ということもあり、銀塩時代には特殊な事情がない限りフィルターワークは使わないことが常識でした。しかし、デジタル時代に移行してからというものカメラやレンズ性能が飛躍的に性能向上しました。今だからこそ楽しめるフィルターワークを各フィルターの特徴を踏まえてご紹介したいと思います。とくに角形フィルター: GNDフィルター【Soft Nano IR GND8(0.9)】を用いた鉄道写真はとても珍しいです。ぜひ参考にしてください。今回も最後までどうぞお付き合いくださいませ。
Index
1.GNDフィルターと鉄道写真
近年撮影技術の中で注目を浴びているのが、レンズに装着する高級フィルター商品です。熱心な風景写真愛好家の皆さまには、よく知られている写真の定番アイテムです。
その画面効果はフィルターによって異なりますが、光の量を減らすものや、点光源を独特の形に拡散させるもの、色や光のグラデーションをコントロールするものなど、様々なものが存在しています。大きな量販店にゆくと、とても沢山の種類が存在しており、色々と迷ってしまうことだと思います。
実はこのフィルターの関連は、写真愛好家にとっては昔からある定番アイテムです。ただ残念なことにフィルム時代の鉄道写真とは相性が悪い商品でした。その理由は単純で、鉄道が基本的に動体撮影の分野だからです。つまり少しでも速いシャッタースピードを稼ぎたい世界なので、露出値が落ちるようなフィルター類は御法度とされていたのです。ですが今は違います。
デジタル時代が到来し、圧倒的に高感度ノイズが改善された現在はフィルターなどのアクセサリーは鉄道写真にも良い効果をもたらすものと認識が変わってきているのです。一言で表現するならば、「 動体ブレと闘い必死に被写体を写し止める 」時代から、「 いろいろなアイテムを使って自分流の写真表現を磨く 」時代に入ったともいえるでしょう。これは大きな変化です。
そのような背景もあり、フィルター効果を活かした鉄道写真がこれからはどんどん生まれてくるはずです。その先駆けとして、今回は NiSi が販売している GNDフィルター【Soft Nano IR GND8(0.9)】で鉄道写真を楽しんでみましょう。
2.GNDフィルターとは
まずは NDフィルターの説明からはじめます。NDフィルターの NDとは “ Neutral Denstity ” の略称です。これを直訳すると「中立」と「濃度」です。つまり色味に影響を与えずに「中立」に「濃度」を上げることとされています。その効果として光量だけを落とすことが、NDフィルターの役目です。そして GND フィルターは一枚のガラスの半分に ND 効果があり、もう半分は光が透過するものであるというものです。これによって、画面の中にグラデーションが生まれ、写真としてのメリハリがより引き立つ効果が表れます。
鉄道では「 鉄道風景写真 」との相性が抜群に良いのが GND フィルターの特徴と言えるでしょう。例えば、青空の下を走る列車や、山と鉄道など輝度差が大きな被写体同士を写真の中でまとめる時に最適です。
このような状況は鉄道写真ではよくあります。
とくに雪山となると画面片方は白に近く、地上の情景はかなり暗いといえます。この状況で片方に露出を合わせると、片方が「 白トビ 」もしくは「 黒つぶれ 」を引き起こします。その両極端を美しいグラデーションでバランスをとることが、このフィルターの得意とすることです。カメラの機能で近いものに、ダイナミックレンジ補正がありますが、そちらは暗い場所を明るく持ち上げる機能のことであり、美しいグラデーションを作るものではありません。全く別の機能です。
ちなみに列車が来る直前のタイミングで、フィルターなしの写真も撮影してみました。両者を比べるとフィルターを使用した時の方が、輝度差がバランスよく収まっていることがわかります。今回使用したフィルターは【 Soft Nano IR GND8(0.9) 】です。もう少し違った効果を狙いたい感じる方には、ソフトではなくハードバージョンや、ND4に準じた濃度のバージョンも選べます。
またフィルターワーク全般にいえることですが、撮影設定に拘りたい方と撮影時に写真を仕上げたい方には、物理的なフィルターを強くオススメします。フィルターでの微調整は画像処理でグラデーションを作るのとは異なり、実際の現場で直接光をコントロールするため、より高画質で繊細な写真が仕上がります。撮影までの待ち時間にフィルターセッティングし、万全の態勢で撮影に挑みましょう。
3.角型フィルターの取り付け方
それではGNDフィルターの性質を理解いただけたところで、実際の取り付け方をご紹介します。使用したレンズは 77 ミリの口径です。初めての方には難しそうに見えますが、一度覚えてしまえば簡単です。
まずはレンズの先端にあるフィルター溝にアダプターリングを回転させはめ込みます。こちらはステップアップリングです。手に持っている方が裏側です。こちらの面をレンズに、はめ込みます。レンズ径の幅を 82 ミリに拡張させます。通常の円形フィルターと同じ要領で回転させて固定します。
この時にレンズ保護フィルターなどを常時装着されている方は、一時的に外しておくことをオススメします。
次にアダプターリングを装着します。ステップアップリング同様に手に持った面をレンズ側にはめ込みます。これがホルダーフレームを固定する土台となります。
次にホルダーフレームをアダプターリングに噛ませます。上のロックネジを緩めてから、下のネジを横にずらして差し込みます。これで準備はほぼ完了です。
最後にメインの角フィルターを前面に差し込みます。ストッパーはありませんが、しっかりとフィルターをホールドしてくれます。ズレや落下などの気配は全くありません。微調整が容易にできるため、とても機能的です。
撮影ではフィルターはホルダーよりも長く作られているため、ファインダーを覗きつつ、効果を試します。位置を変えて濃度の微調整を行いましょう。撮影後の撤収時は逆の手順で収納すると良いでしょう。フィルターが傷つかないように、最後に取り付けて、最初に仕舞うことを習慣づけた方が良いです。また、ホルダーには複数枚の重ね使いができるように溝がついています。
今回は使用しませんでしたが、前面レンズが大きく前に繰り出すような超広角レンズでも、角型フィルターは装着が可能です。より詳しい説明は、スタジオグラフィックス内で「 角型フィルターで変わる!エモーショナル風景写真 第1回 角型フィルターってなに? 」で薮田織也氏が説明していますので、そちらもぜひご覧ください。
4.広角レンズとGNDフィルターの相性は抜群
ここからは GNDフィルターを実用するときに、オススメの機材をご紹介します。こちらのフィルターは濃度の高い ND 側から、光をそのまま透過する反対側まで滑らかで美しいグラデーションを生み出します。その特性を活かす機材は、ズバリ広角レンズです。中でも超広角レンズは濃度差がある両端を使うことができるので、GND フィルターとの相性が抜群と言えます。さっそく超広角レンズで撮影をしてみました。
太陽の写る天空の位置に ND 側をセッティングして撮影しました。川に映った反射光は直射光よりも暗く届くため、そのまま撮影すると下半分がアンダーに描写されてしまいます。それを防ぐために、両者の輝度バランスを滑らかなグラデーションで写真全体を調えています。例外的な使い方をのぞき、鉄道では天空側に濃度が高い方を選んだ方が自然に仕上がると言えるでしょう。また横位置写真よりも、縦位置写真の方が、フィルターのグラデーション幅を多く活かすことができることも付け加えておきます。
フィルター効果の有無では、このように画面が変化しています。わずかな違いのように思われますが、この微妙な違いが作品づくりでは重要なのです。
次に夕空のグラデーションを捉えてみました。実はこのフレームホルダーを使うことで、角フィルターを 360° 方向へ自由に回転させることが可能です。この写真の場合は、濃度の高い方を画面内の左上・低い方を右下方向として、フィルターを回転のうえ固定しました。実際の状況に合わせてベストな設定ができる点も嬉しい機能です。
5.フィルターと遊び心
鉄道写真にとって晴天は最も撮影しやすい条件の一つと言えます。常に天気予報とにらめっこで、可能な限り天気の良い時間や場所を予想して撮影行程を組み立てます。しかしながら、撮影で常に晴天ということはありません。せっかく撮影に出かけたのに、天気予報に裏切られることもよくあります。とくに雲は大敵です。モチベーションも下がることが多いのですが、そのような時には思い切ってフィルターを使って遊び心を刺激するのも有効な方法です。
基本的に雲の厚さが均等の場合は、空にグラデーションは発生しません。そこで GND フィルターの登場です。白色が均等な空にグラデーションを加えてみました。
すると、空の存在感が強調されるものとなりました。まるでモノクロ写真の焼き込みのような画面効果です。そこで写真の彩度を無くして、モノクロ写真に仕上げてみました。晴れの日の写真とは一味違った、濃厚な雰囲気に仕上げることができました。どんより雲をわざわざ撮りたい人はほとんど居ないは思いますが、こういったイレギュラーな表現も工夫次第です。
こちらの写真も空の方向に一工夫です。同じ海でも太平洋であれば明るい雰囲気がベストですが、日本海側は一味違います。低く垂れ込めた雲もまた雰囲気にマッチしています。次回は冬の景色を表現しても良いかもしれません。フィルターは被写体のイメージを増幅させるアイテムです。
6.次回予告
いかがでしたでしょうか。
今回は NiSi GNDフィルター【 Soft Nano IR GND8(0.9) 】を使用した鉄道写真の回でした。お付き合いいただき、ありがとうございました。次回は同じ くNiSi PLフィルターを使った鉄道写真についてご紹介します。ぜひご期待くださいませ。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
Nisiフィルター
遠藤真人