デジタルカメラは、従来の銀塩カメラ以上にさまざまなシチュエーションで使われるようになっています。その一例が、冒頭写真でも紹介した自動検査装置システムです。自動検査装置とは、部品実装したプリント基板など工場で生産される機器・部品の良否判断や宅配便の仕分け、飲料の液量管理などを人間の目ではなく、撮影した映像にて検査を行なう為のカメラシステムのことをいいます。自動検査装置システムでは、汚れやキズ等の部品欠陥を瞬時に判別するのにデジタル画像処理を使いますので、CCDを使ってデジタル画像が撮影できるデジタルカメラが最適というわけです。冒頭写真のレンズ群は、世界で初めて、自動検査装置用途で2/3型500万画素CCD搭載カメラに対応した高解像固定焦点レンズシリーズなのだそうです。
さて、このようなレンズは、色ズレや歪みは大敵です。我々が撮影するような写真であれば、さほど問題にならないようなことでも、自動検査装置システムだとそうはいきません。機械や部品は正常なのに、レンズの現象による色ズレや歪みが原因となって不良品だと判断されてしまっては大問題です。そこで、このようなレンズの現象を極限まで抑えなけばいけないというわけです。 ちなみに、このようなレンズに発生する色ズレや歪みなどは「収差」と呼ばれることは前回解説しましたね。しかし、さまざまな現象の総称を収差というのであって、それぞれの現象が発生する原因や対処方法は異なっているのです。そこで、今回から3回に渡って、さまざまな収差について細かくみていくことにしましょう。
まずは、色収差に分類されている軸上色収差と倍率色収差についてから解説していきます。
プリズムで屈折させた光を見ると、赤い光はあまり角度が付かずに屈折し、青の光は急な角度で、そして緑はその中間くらいの角度で屈折しているのが分かります。これと同じ現象が、実は凸レンズに光を照射した時にも起こっているのです。するとどのようなことが起こるでしょう。赤い光の焦点は、青い光の焦点に比べて、レンズから遠いところに結ばれます。逆に赤い光の焦点は青い色の焦点よりもレンズに近いところに結ばれます。焦点が合わないということは、ピントがズレることを意味します。つまり、物がボヤけて見えるということなのです。
このように、色によって焦点の距離がズレた結果、焦点がボヤけてしまうことを軸上色収差と呼びます。
ちなみに、ガラスでできた1枚の凸レンズによる赤と青の焦点距離の差は2%程度と言われていますが、この値はレンズの材質などによって微妙に異なります。この焦点距離の差が大きいレンズを「分散が大きい」といい、差が小さい場合は「分散が小さい」と言います。そして、この分散の度合いを表す値にアッベ数があります。アッベ数はν(ニュー)で表され、フラウンホーファー線という太陽光のスペクトル中に見られる暗線(吸収線)の青、赤、黄の屈折率を元に計算されます。
ちなみに、カメラに使用するレンズのガラスは、このアッベ数によってガラスを大きく2つに分類しています。アッベ数が50以下のものをフリントガラス、50以上のものをクラウンガラスと呼んでいます。ただし、アッベ数が50前後の場合は、50以上でもフリントガラスとしていることもあり、数値によって厳密に分けているわけではありません。
倍率色収差が大きいレンズでは、中央では黒い文字の輪郭がハッキリしていても、レンズの端の方では輪郭に赤や青色がにじんで見えるようになります。この倍率色収差を抑えるのはとても難しく、対策はさまざまあるものの、なかなか完全に除去できません。光の分散性を非常に低く抑える材質で作った特殊低分散レンズを使用する方法、特定の波長の光だけ屈折率が変わる異常分散レンズを使用する方法、異常分散するように被膜、つまりコーティングを施すなどの方法があります。
おっと。やはり分量が多いので、色収差を2つ解説しただけでずいぶん長くなってしまいましたね。では、もう一方の分類である単色収差の解説は次回行うことにしましょう。では、次回をお楽しみに!