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デジカメの「しくみ」
第16回 : レンズの大敵を探る  〜収差 2〜
 
球面収差とは
非球面レンズの話
コマ収差とは
非点収差とは

2005/11/02

スタジオグラフィックス公認 デジタルカメラの教科書
体系的に学ぶデジタルカメラのしくみ第2版 スタジオグラフィックス、デジカメのしくみ講座の著者、西井と神崎が執筆したデジカメの歴史、カタログの読み方、レンズや撮像素子のしくみなどをやさしく解説した書籍。待望の第二版
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エプソンのレンジファインダー・デジタルカメラ『RD-1』。デジタルカメラとしては異例の距離計連動式になっています。このデジカメは、レンジファインダーカメラとしてだけでなく、レンズの部分にも特徴があります。
 
■球面収差とは
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●良いレンズはなかなかできない?
 

 冒頭写真で紹介した『RD-1』のレンズ部分の特徴は古いカメラレンズを装着できるデジタルカメラであるという点です。

 あ、珍しくないですか?(汗) 

 たしかにレンズ交換ができるデジカメはたくさんありますね。『RD-1』の珍しいところは、レンズ交換のしくみに「EMマウント」という規格を採用したことにあります。これは、1954年に登場し、銀塩カメラの歴史に深く名を刻んでいる名機『ライカM3』などで採用している「Mマウントレンズ」や、おなじくライカ社のカメラに装着できたスクリュー式の「Lマウントレンズ」(ただしアダプタが必要)が装着できる規格になっているのです。つまり、何十年も前の秀逸なカメラレンズを使って写真を撮ることができるのです。どうして、このような古いレンズを利用するようなデジカメが登場しているのでしょうか。それは、秀逸なカメラレンズというのは、なかなか作ることはできないからです。レンズがガラス玉であることから、秀逸なカメラレンズのことを「銘玉」と呼ぶこともありますが、銘玉は数あるカメラレンズの中で数年に1本出るか出ないかなのです。それほど、デジカメを含むカメラにとってレンズというものは重要な部品なのです。また、カメラレンズ設計者にとって、収差などとの戦いがどれほど厳しいかというのがおわかりいただけると思います。

 では、今回もレンズの大敵である収差について解説を続けていきましょう。前回は、色収差についての言及でした。色によって波長が異なることに起因して発生する収差でしたね。今回は、1色でも発生してしまう単色収差について解説していきます。

   
●単色でもボヤけて見える球面収差
    前回、さまざまな色が混ざってしまっていると、それぞれの光は屈折率がことなるので収差が発生するという説明をしました。ならば、単一波長の平行光が凸レンズに照射されれば、それらは1点に集まるはずですね。ところが、厳密には、単一波長の平行光でも1つの点に集めることはできません。なぜでしょうか。
 凸レンズに平行光が照射されたときには、焦点という1つの点に光が集まると説明しましたが、実際にはレンズの端の方では入射角度が急すぎるために、レンズ寄りに焦点を結んでしまい、収差が発生してしまうのです。これは、レンズが球面であることに起因しています。このような収差を球面収差といいます。



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【球面収差の模式図】
レンズの端に照射した光は、理想的な焦点よりもレンズ寄りの位置に集まってしまいます。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』もどうぞ)
 

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【球面収差がある場合の映像】
ピントがボヤけて見えるようになってしまいます。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』もどうぞ)
   
■非球面レンズの話
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●非球面レンズを作るのは難しかった
 
【非球面レンズの凹みはごくわずか】
模式図では大きく凹んでいるように描かれる非球面レンズですが、実際には通常の球面と非球面の差は数十μm以下のことも珍しくありません (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
 
 収差から話がそれてしまいますが、ここで非球面レンズの話をしておきましょう
 球面収差をはじめ、このあとに解説する歪曲収差にも効果的な補正をもたらす非球面レンズは、綺麗に、そして鮮明な写真を取るために絶大な効果をもたらしてくれるものです。ところが、従来は高額なカメラにしか搭載されていませんでした。それは、非球面レンズの製造が非常に難しく、製造コストが高かったためです。
 レンズの製造は、ガラスを削ったあと、研磨して作成していきます。そしてこれらの工程では高速にガラスを回転させながら行います。通常の単純な球面であれば難しいことではないのですが、非球面レンズは単純に擦っていっただけではできあがりません。設計したカーブに合わせて断面が凹むように修正しながら磨いていかなければ「非球面」にならないからです。こうなると、1個1個綿密にチェックしながらに製造しなければならず、大量生産には向きません。しかも、コンパクトサイズのデジタルカメラに採用されるような1cm以下のレンズになると、単純な球面に比べたときの凹みが十数μmを切ることも珍しくありません。レンズ自体をNC切削マシン(数値指定によって切削を行えるマシン)を使って非球面レンズを製作する方法もありますが、これも1台何千万という超高性能なNCマシンが必要になります。生産効率も決して高いものではなく、したがって、できあがった非球面レンズは高額になってしまっていたのです。
   
●一般的になってきた非球面レンズ
 

 しかし、最近では製造技術の工夫で、従来に比べると高額ではない価格で非球面レンズが作られるようになりました。その代表的な方法を2つ紹介しておきましょう。

 1つは、ガラスを金型に溶かしてプレスして非球面レンズを製造する方法です。さほど新しい技術に見えないかもしれませんが、ガラスを金型に流し込めるように溶かす融点が高いため、金型が膨張して形が変わったり、金型に溶けたガラスを均一に流し込めなかったり、プレスしている間のガラスの温度を一定にする方法が難しいなどの難題があったため、プレスによる非球面レンズの製造はなかなか実現しなかったのです。現在では、耐熱性の非常に高いセラミック製金型の開発や溶けたガラスのコントロールができるようになったため、プレスによる非球面レンズの生産ができるようになりました。

 そして、もう1つは、プラスチックレンズを利用する方法です。プラスチックは、ガラス比べて融点が低いので加工しやすく、非球面レンズが作りやすいという特徴があります。ところが、プラスチックだけでレンズを作ってしまうと、ガラスだけのレンズに比べて温度や湿度による焦点距離の変動などの影響を受けやすくなってしまったり、光の透過率が悪くなってしまいます。そこで、ガラスの球面レンズの表面に非球面レンズと同じカーブを持った薄いプラスチック層を貼り付ける方法が開発されました。もっとも、この方法もガラスとプラスチックが完全に密着するよう、正確で高度な接着技術を要するのでなかなか実用化されませんでした。このレンズは、プラスティックレンズだけで制作された非球面レンズよりも温度や湿度による影響を受けにくく、既存のガラスだけの非球面レンズよりも安価に製造できるというメリットがあります。ただし、ガラスとプラスチックでは温度係数が大きく異なるため、ガラスだけの非球面レンズに比べると使用できる温度範囲が狭くなってしまうという欠点があります。また、この方法は、ガラスとプラスチックという異なった材質で作られたレンズなので、複合非球面レンズと呼ばれることもあります。

 デジタルカメラの時代になって、ようやく気軽に使われるようになった非球面レンズですから、購入する際のチェック項目の1つに入れておくと良いでしょう。


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【複合非球面レンズ】
温度や湿度による影響を受けにくいガラスと加工しやすいプラスチックの利点を組み合わせています。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
   
■コマ収差とは
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●像が尾を引くようににじんで見えるコマ収差
   さて、収差の解説の続きに戻りましょう。
 球面収差がゼロのレンズでも、角度がついた状態で光が照射されると、焦点がズレてしまうことがあります。このときには、球面収差のようにピントがボヤけるのではなく、焦点がレンズの中央から離れるようにズレます。ちょうど、倍率色収差の焦点のズレ方に似ています。映像としては、本来1点の集まるはずの光が、彗星が尾を引いている状態のようににじんで見えます。このような収差をコマ収差といいます。「コマ」は彗星の英語であるコメット(Comet)に由来していると言われています。


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【コマ収差の模式図】
角度を持った光がレンズに照射されると、中心からズレた位置に光が集まるようになってしまいます。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
 

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【コマ収差がある場合の映像】
彗星が尾を引いているように光がにじんで見えてしまいます。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
   
●どのようにしてコマ収差を少なくするか
 

 コマ収差は、レンズの直径(口径)が大きいほど顕著に表れる収差です。それは、レンズの直径が大きいほど、レンズにより多くの光が照射するからです。したがって、コマ収差を抑えるには余分な光が照射しないようにすればいいわけです。

 そこで、コマ収差の補正には絞りという装置が利用されます。絞りは、レンズの手前に設置して、照射する光の量を調整します。絞りを置くことによって、余計な光を照射されなくなります。余計な角度から光が照射されなければ、コマ収差が発生しないというわけです。カメラの絞りは、穴の大きさを変更できる構造になっていて、明るいときに最適な光の量と、暗いときに最適な光の量を調整できます。

   
■非点収差とは
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●縦と横のピントが異なる非点収差
   凸レンズの端の方では、縦線と横線とでピントが異なって見えます。つまり、縦線にピントを合わせると横線がボヤけ、逆に横線にピントを合わせると縦線がボヤけて見えてしまうのです。このような収差を非点収差といいます。


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【非点収差の模式図】
レンズの垂直方向の屈折と水平方向の屈折が異なると、光は1点に集まらなくなります。(『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
 

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【非点収差がある場合の映像】
レンズの端で、縦方向と横方向のピントが異なってしまい、どちらかがボヤけてしまいます。(『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
 
   
●どのようにして非点収差を少なくするか
 

 凸レンズは3次元の球面です。水平方向にも垂直方向にもカーブしています。端の方では、水平方向のカーブと垂直方向のカーブが異なってしまうことがあり、このような場合は、水平方向の線つまり縦線の焦点と、垂直方向の線つまり横線の焦点とが、異なってしまいます。この収差が非点収差なのです。非点収差は、レンズ表面のカーブを適切な値に設定することによって回避できます。

 もう少しだけ収差の説明が残っていますが、今回もだいぶ長くなってしまっていますから、ここまでにしておきましょう。
 次回は、収差の残りと、実際のカメラレンズではどのように収差を解消しているのかについて紹介していきます。お楽しみに!

Text by 西井美鷹(デジカメWEB)
>> 関連記事
  レンズの最新技術については、スタジオグラフィックス特別企画
  「メーカーに聞く デジタルカメラのココが知りたい!」にも掲載中。
  ご覧ください。
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