2005/11/02
冒頭写真で紹介した『RD-1』のレンズ部分の特徴は古いカメラレンズを装着できるデジタルカメラであるという点です。
あ、珍しくないですか?(汗)
たしかにレンズ交換ができるデジカメはたくさんありますね。『RD-1』の珍しいところは、レンズ交換のしくみに「EMマウント」という規格を採用したことにあります。これは、1954年に登場し、銀塩カメラの歴史に深く名を刻んでいる名機『ライカM3』などで採用している「Mマウントレンズ」や、おなじくライカ社のカメラに装着できたスクリュー式の「Lマウントレンズ」(ただしアダプタが必要)が装着できる規格になっているのです。つまり、何十年も前の秀逸なカメラレンズを使って写真を撮ることができるのです。どうして、このような古いレンズを利用するようなデジカメが登場しているのでしょうか。それは、秀逸なカメラレンズというのは、なかなか作ることはできないからです。レンズがガラス玉であることから、秀逸なカメラレンズのことを「銘玉」と呼ぶこともありますが、銘玉は数あるカメラレンズの中で数年に1本出るか出ないかなのです。それほど、デジカメを含むカメラにとってレンズというものは重要な部品なのです。また、カメラレンズ設計者にとって、収差などとの戦いがどれほど厳しいかというのがおわかりいただけると思います。
では、今回もレンズの大敵である収差について解説を続けていきましょう。前回は、色収差についての言及でした。色によって波長が異なることに起因して発生する収差でしたね。今回は、1色でも発生してしまう単色収差について解説していきます。
しかし、最近では製造技術の工夫で、従来に比べると高額ではない価格で非球面レンズが作られるようになりました。その代表的な方法を2つ紹介しておきましょう。
1つは、ガラスを金型に溶かしてプレスして非球面レンズを製造する方法です。さほど新しい技術に見えないかもしれませんが、ガラスを金型に流し込めるように溶かす融点が高いため、金型が膨張して形が変わったり、金型に溶けたガラスを均一に流し込めなかったり、プレスしている間のガラスの温度を一定にする方法が難しいなどの難題があったため、プレスによる非球面レンズの製造はなかなか実現しなかったのです。現在では、耐熱性の非常に高いセラミック製金型の開発や溶けたガラスのコントロールができるようになったため、プレスによる非球面レンズの生産ができるようになりました。
そして、もう1つは、プラスチックレンズを利用する方法です。プラスチックは、ガラス比べて融点が低いので加工しやすく、非球面レンズが作りやすいという特徴があります。ところが、プラスチックだけでレンズを作ってしまうと、ガラスだけのレンズに比べて温度や湿度による焦点距離の変動などの影響を受けやすくなってしまったり、光の透過率が悪くなってしまいます。そこで、ガラスの球面レンズの表面に非球面レンズと同じカーブを持った薄いプラスチック層を貼り付ける方法が開発されました。もっとも、この方法もガラスとプラスチックが完全に密着するよう、正確で高度な接着技術を要するのでなかなか実用化されませんでした。このレンズは、プラスティックレンズだけで制作された非球面レンズよりも温度や湿度による影響を受けにくく、既存のガラスだけの非球面レンズよりも安価に製造できるというメリットがあります。ただし、ガラスとプラスチックでは温度係数が大きく異なるため、ガラスだけの非球面レンズに比べると使用できる温度範囲が狭くなってしまうという欠点があります。また、この方法は、ガラスとプラスチックという異なった材質で作られたレンズなので、複合非球面レンズと呼ばれることもあります。
デジタルカメラの時代になって、ようやく気軽に使われるようになった非球面レンズですから、購入する際のチェック項目の1つに入れておくと良いでしょう。
コマ収差は、レンズの直径(口径)が大きいほど顕著に表れる収差です。それは、レンズの直径が大きいほど、レンズにより多くの光が照射するからです。したがって、コマ収差を抑えるには余分な光が照射しないようにすればいいわけです。
そこで、コマ収差の補正には絞りという装置が利用されます。絞りは、レンズの手前に設置して、照射する光の量を調整します。絞りを置くことによって、余計な光を照射されなくなります。余計な角度から光が照射されなければ、コマ収差が発生しないというわけです。カメラの絞りは、穴の大きさを変更できる構造になっていて、明るいときに最適な光の量と、暗いときに最適な光の量を調整できます。
凸レンズは3次元の球面です。水平方向にも垂直方向にもカーブしています。端の方では、水平方向のカーブと垂直方向のカーブが異なってしまうことがあり、このような場合は、水平方向の線つまり縦線の焦点と、垂直方向の線つまり横線の焦点とが、異なってしまいます。この収差が非点収差なのです。非点収差は、レンズ表面のカーブを適切な値に設定することによって回避できます。
もう少しだけ収差の説明が残っていますが、今回もだいぶ長くなってしまっていますから、ここまでにしておきましょう。 次回は、収差の残りと、実際のカメラレンズではどのように収差を解消しているのかについて紹介していきます。お楽しみに!