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夜景写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座
第23回夜景写真のRAW現像・工場編 (3)

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TOPIX

人気の工場夜景RAW現像講座の第3回目です。季節もゆるやかに冬に向かっていくこの季節、夜景撮影にはいい季節になってまいります。フェリー上で運河から撮影した工場夜景写真を題材に仕上げの解説をしております。当社主催の工場夜景撮影セミナーに参加した人もされなかった人もぜひ参考にしてください。 by 編集部

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RAW現像の工場編も今回で3回目となりました。次回からは街の夜景写真のRAW現像をテーマに考えていますが、今回は工場夜景クルージングで撮影した写真のRAW現像について解説いたします。三脚が使えない過酷なシーンで撮影した写真をRAW現像で綺麗な写真に仕上げましょう。

写真1 工場夜景クルージングの作例(RAW現像済)

工場夜景クルージング

一般的な陸地からの撮影と異なり、三脚が事実上使えないため、高感度+高速シャッターで撮影し、ブレのリスクを最小限にするために露出はマイナス気味で撮影するのが基本。作例はPhotoshopのCamera RAWを使って露出の調整やノイズ軽減処理をおこなっている。

[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:Tokina AT-X 24-70mm F2.8 PRO FX / 焦点距離:40.0mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:1/40秒 / 絞り数値:F4.0 / ISO感度:6400 / WB:太陽光 ]

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■工場夜景クルージング撮影の基本(復習)

船上からの工場夜景撮影テクニックは「第7回:クルーズ船上からの工場夜景の撮り方」でも紹介しているが、RAW現像の解説に入る前に改めて復習しておきたい。

工場に限らず、船上からの夜景撮影は最も難易度が高い。三脚などにカメラを固定して低感度+長時間露光で撮影する一般的な撮影スタイルと異なり、足場が揺れて三脚が使えず、三脚にカメラを固定しても全くブレ防止効果が得られないのだ。ブレを防ぐためには以下の設定が必要だ。。

(1)ISO感度は高めに設定

一般的にはISO 6400以上が目安。撮影シーンによってはISO 25600ぐらいまで上げることも

(2)高速シャッター

船が停船時は数十分の1秒、移動時は数百分の1秒が目安。手ぶれ補正はONにしておこう

(3)絞りは開放寄り

高速シャッターで露出を稼ぐには絞りは開放気味が基本。開放絞り値が通しでF2.8など明るいレンズを使いたい

(4)露出はややマイナス補正

夕暮れなど空が明るい時間であれば±0補正でも問題無いが、ブレを確実に防ぐために露出はマイナス寄りに設定し、後からRAW現像でカバーする方が確実

(5)失敗に備え複数枚撮影する

確実にブレを押さえることができても、今度は水平を正しく取れるかが重要になる。同じ構図でも複数枚撮影しておけば、失敗を減らせる。電子水準器やグリッドラインを表示して撮影したい

写真2 船上からの撮影シーン

SG on the ROAD 岩崎WS

川崎工場夜景クルーズの船上からの撮影風景。三脚が使えない中で少しでもブレを軽減するため、一脚と雲台(Velbon Geo Pod E64M + PHD-66Q)を体に固定して撮影した。(薮田織也氏撮影)

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■RAW現像のBefore/After

さっそく具体的なRAW現像のワークフローに入りたいが、まずはBefore/AfterでRAW現像前後の画像を比較してみよう。

写真3 Before(RAW現像前)

RAW現像前

船の停船時に高感度+高速シャッターで撮影。もう少しシャッター速度を長くしても撮影できそうな条件だったが、ブレを確実に防ぐことを優先したあまりに、かなりマイナス露出の写真になってしまった。RAW現像での補正が必須。

[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:ETokina AT-X 24-70mm F2.8 PRO FX / 焦点距離:63.0mm / 撮影モード:絞り優先AE / シャッター速度:1/250秒 / 絞り数値:F2.8 / 測光方式:評価測光 / 露出補正:-2 / ISO感度:12800 / WB:太陽光 ]

写真4 After(RAW現像後)

RAW現像後

RAW現像後の作品。明るさを上げながらもノイズを目立たせないよう、ノイズリダクションもかけている。色被りも補正している。

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■RAW現像テクニック

今回もPhotoshop CCのCamera RAWを使い、以下のような手順でRAW現像を進めた。

写真5 色被り補正

色温度&色被り

WBは太陽光に設定しているが、工場夜景撮影では太陽光は色被りが目立つため、できるだけ使用は避けた方が良い。まずはパラメータの調整で色被りを補正し、色味を「白色蛍光灯」に近づけた。
[ 色温度:5150K → 4000K / 色被り補正:+7 → +50 ]

写真6 明瞭度を上げる

明瞭度

続いて明瞭度を調整。スライダーを右に振り切るように設定(+100)すれば、それだけでぱっと見た画像は非常に綺麗に仕上がるが、等倍で見るとざらつきが非常に目立つ。そのため今回は+50に押さえた。全体的に光がくっきりしたが、全体的にまだ暗い。

[ 明瞭度+50 ]

写真7 露光量・シャドウ・白レベルを上げる

03-露光量など

続いて画面全体を明るく見せるために露光量・シャドウ・白レベルを補正した。露光量は上げすぎるとノイズが目立つため、慎重に数値を上げていく。シャドウは上げすぎるとメリハリが無くなるため、軽く補正する程度が良い。白レベルで光をより綺麗に浮かび上がらせる。

[ 露光量+0.75 / シャドウ+25 / 白レベル+50 ]

写真8 ノイズ軽減処理

04-ノイズ軽減

最後にノイズを軽減させる。輝度を上げすぎると画像全体がぼやけてしまうので、軽めにかけると良い。

[ ノイズ軽減:輝度+25 ]

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■RAW現像後に傾きを補正

続いて別の作例でRAW現像をおこなった。補正の方法は全作例とほとんど変わりないが、船上での撮影は傾きを完全に押さえるのが難しいので、現像後にカンバスの回転とトリミングで補正している。トリミングを想定して撮影するなら画角にゆとりを持たせたい。

写真9 Before(RAW現像前)

IMG_1756_before

ブレ自体は防げたが、色被りと傾きが気になってしまう。斜めに向けて撮影しているので、水平を保って撮影するのは余計に難しい。

[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:Tokina AT-X 24-70mm F2.8 PRO FX / 焦点距離:40.0mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:1/100秒 / 絞り数値:F3.2 / ISO感度:12800 / WB:太陽光 ]

写真10 After(RAW現像後)

IMG_1756_after

一つ前の作例と操作方法は変わらないため、詳細は割愛するが今回は以下のような補正を加えた。

<設定パラメータ>
色温度:5150K → 4000K
色かぶり補正:+7 → +50
露光量:+0.50
白レベル:+25
明瞭度:+50
ノイズ軽減:輝度+25

写真11 傾きを補正

カンバスの回転

船上は絶えず揺れるため、ブレを防ぐのと同じぐらい水平を保つのが困難。作例によっては「カンバスの回転」で傾きを補正するのもやむを得ないだろう。傾きを補正した後は「カンバスサイズ」を選択し、余白の部分をトリミングしたい。

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■今月のお勧め夜景スポット「新磯子町」

今月は横浜の有名工場夜景スポット「新磯子町」を紹介。横浜は工場の近くで撮影できるポイントが少ないため、望遠レンズで離れた場所からの撮影が基本。新磯子町からは対岸に見渡せる製油所を見渡せ、眩いほどに光り輝くプラントを画面一杯に写せる。自家用車でもアクセスがしやすい。

新磯子町
訪問時間:終日訪問可
所在地:横浜市磯子区新磯子町
アクセス:JR「磯子駅」から車で約6分
料金:無料
URL:新磯子町(夜景INFO)

写真12 望遠レンズで製油所を写す

新磯子町(JXエネルギー・根岸製油所)

[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:TAMRON SP 70-300mm F4-5.6 Di VC USD (Model A005) / 焦点距離:183mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:6秒 / 絞り数値:F9.0 / ISO感度:400 / WB:白色蛍光灯 ]

著者について
■ 夜景写真家 岩崎 拓哉 ■1980年生まれ。大阪府出身、神奈川県在住。法政大学経済学部卒。 2003年より夜景写真家を志し、日本全国や海外で夜景を撮影。 Webエンジニアの経験も活かし、「夜景INFO」などの夜景専門サイトを立ち上げる。カメラ雑誌の原稿執筆、夜景撮影の講師経験も豊富。総合・国内旅行業務取扱管理者の資格も持つ。 著書に「プロが教える夜景写真 撮影スポット&テクニック(日経ナショナルジオグラフィック社)」「夕景・夜景撮影の教科書(技術評論社)」。