ベルボン・リボルビング雲台
PHD-66Q で外撮りしよう!
<後編・屋外撮影>
Photo & Text:薮田織也
TOPIX
ユニークなリボルビング機構が評判の雲台、ベルボン「 PHD-66Q 」レビューの後編は、タテイチ/ヨコイチ構図が即座に変更できる雲台の「 PHD-66Q 」を一脚に装着して、本サイトの薮田織也が屋外撮影にチャレンジ! 公園でのネイチャー撮影、船の上から工場夜景、暗いライブハウスでアーティスト撮影……と、さまざまなロケーションで「 PHD-66Q 」が活躍します。たくさんの作例とともに、新しい雲台の魅力に触れてみてください。 by 編集部 |
■ PHD-66Q + 一脚の組み合わせ
前回の記事でも書いたが、PHD-66Q は三脚との相性はもちろんだが、筆者は個人的に「 一脚 」との相性が抜群だと考えている。その理由を実証するために、さまざまなロケーションに PHD-66Q と一脚を持って行き、実際に撮影をしてみた。そのロケーションとは、工場夜景撮影の船上、夕方の薄暗い渓流や湖、外光が一切入らないライブハウスなどなど。つまり、足場が揺れているとか、暗くてどうしてもスローシャッターになりがちなのに三脚が使えないロケーションということだ。
こうしたロケーションでなぜ三脚が使えないのかというと、夜の揺れる船上で三脚を立てても船と同時に揺れるので意味が無いし、薄暗い渓流においては狙う被写体によって三脚が邪魔になることがある。たとえば自由自在に泳ぎ回る山女魚などの魚を被写体にする場合だ。これはマクロレンズや超望遠レンズで昆虫や野鳥を狙う場合も同じである。三脚は上下左右に予測不可能な三次元移動をする被写体が苦手なのだ。逆に、運動会やモータースポーツなど、移動方向が予測できる二次元移動の被写体をスローシャッターで流し撮りしたいときなどは強力なツールになる。
そうした三脚の欠点を補うツールが一脚だ。一脚はその名の通りに脚が一本しかない分、カメラを持続的に安定させることはできないが、カメラを手持ちで撮影する場合よりもしっかりと安定させられる。そしてなにより、装着したカメラを安定させた状態で素早く三次元移動させられるのが大きなメリットだ。三次元移動に優れた一脚であれば、野鳥や昆虫、魚など、移動方向が予測しづらい被写体に対応できる。また、狭いライブハウスなど、三脚を立てることが難しいロケーションでは、手持ち撮影よりもカメラを安定させることができる。
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■ 船上から工場夜景を撮ってみた
先日、岩崎拓哉氏の SG on the ROAD 夜景撮影セミナーをアシストさせてもらった際に、写真4の装備に OLYMPUS OM-D E-M1 と Zuiko 14-35mm F2.0 SWD レンズの組み合わせでクルーザーに乗り込んだ。前述したように、波に揺れる船上では、三脚はなんの役にも立たない。かといって一脚だとしても、脚を甲板に接地させていれば、これも三脚と同じ理由で使い物にならない。そこで、写真4のような一脚の使いかたになるわけだ。この装備であれば、船の揺れに合わせて膝を屈伸させることで上下の揺れを吸収でき、比較的安定した状態で船上撮影ができるだろう。筆者はこれを膝スタビライザーと呼んでいる(笑) そうして撮った写真が写真1、写真5、写真6、写真7だ。ご覧いただければわかるが、1/50 といったスローシャッターなのにもかかわらず、ブレはほとんど見られないだろう。もちろん、すべてブレ無しで撮れるというわけではない。揺れる船上では当然だが失敗の方が多い。しかし、手持ちで撮るのに比べれば、当たりの確立が高まるということだ。
いずれの写真もシャッタースピードを稼ぐために、ISO 感度を 6400~25600 と非常に高く設定しているため、ノイズが発生するのは避けられない。こういう場合は、逆にノイズを画の演出効果として捉えると良い。写真7などは Raw 現像時にノイズリダクションをわざとかけず、さらにシャープネスを加えてノイズを増やしている。
唐突ではあるが、ここで「 三脚座 」について触れておく。三脚座とは、望遠レンズを三脚に取り付けるためのもので、一般的には写真8のような形状をしている。写真8の場合はレンズ鏡筒にはめられるリング形状をしているために、リング式三脚座と呼ばれている。望遠レンズのように長いレンズをカメラに装着している場合、どうしても重心がレンズに偏ってしまうため、カメラ本体の下部にある三脚穴を使わずに、こうした三脚座を使って三脚に装着することになる。
リング式三脚座の場合、多くのものは三脚座のつまみを緩めることで、レンズ光軸を中心にしてカメラ本体を回転させることができる。ものによっては一定の回転角度にノッチが用意されていて、各角度でカメラの回転を固定できる。つまり、こうした三脚座があれば、PHD-66Q のようなリボルビング式雲台がなくとも、光軸をずらすことなくタテイチ/ヨコイチの構図変更ができるわけだ。だからといって「 なんだよ PHD-66Q いらないじゃん 」と短絡的に考えないで欲しい。なぜなら、望遠レンズには標準的に「 三脚座 」が付属されているが、それ以外のレンズには付属されることはまずないし、別売の三脚座を取り付けるための装備が用意されていないのが普通だからだ。先にあげた工場夜景の写真では、すべて 14-35mm( 35mm 判換算で 28-70mm )という標準ズームレンズを使っているが、このレンズにもリング式三脚座を取り付けられない。よって、三脚座のないレンズを使っているときに、PHD-66Q はとてもありがたい雲台なのである。
■ 湖と渓流で撮影してみた
次は、夕方の薄暗い渓流と湖での撮影をご覧にいれたい。まずは秋川渓谷の上流に位置する渓流、北秋川のほとりで山女魚を狙ってみた。山女魚が水面まで上がってきて、ジャンピングする瞬間を撮りたいと思い、山女魚の食事時間を狙う。渓流釣りをされる方ならおわかりだろうが、川魚の食事は早朝か夕方。羽虫が水面まで降りてくる時だ。1時間以上は粘っただろうか。5月中旬の 17 時~ 18 時、辺りが暗くなり、これ以上は無理という時間まで粘ってみたが、撮れたのはライズ( 魚が水面まで上がってくること )だけ。残念ながら山女魚がジャンプして羽虫を食べる瞬間は撮れなかった。もちろん、筆者がレンズを向けていない場所ではジャンプの水音はしていたが……。
ネイチャーフォトというものは、事前の下調べとロケーションに関する独自のデータベースがなければ、そうそう簡単に狙った瞬間なんぞ撮れはしない。もちろんデータが揃っていたからといって、簡単にベスト瞬間など訪れるはずもないので、ロケ地で長時間粘ることなど日常茶飯事なわけだ。そんなときに、長いレンズを手持ちで構え続けるのは至難の業だし、かといって三脚では予測不可能な山女魚の動きに対応できるわけもない。ここでも写真4の出で立ちで撮影に望む。こういう撮影では、ライブビューがあり、液晶のアングルが変えられる最近のカメラに感謝したくなる。1時間以上もファインダーを覗き続けるのは老眼には堪えるのだ。そして PHD-66Q のような新しくユニークな雲台の登場が、我々の仕事をサポートしてくれるわけだ。目と気力さえ充実していれば、定年退職の時期は延びてくれるだろうな、などと、そんなことを考えながら山女魚のライズを待ち続けた。
続いて河口湖畔での撮影をご覧いただく。なにか目的の被写体を追いかけていたわけではなく、カメラとレンズ、そして一脚と PHD-66Q を車の後部座席に放り込んで、ぶらりと夕方近くの河口湖を訪れた際に、富士山方向に天使の梯子、エンジェルラダーを観ることができた。湖とエンジェルラダーの両方をバランス良く撮影したいときは、「 ハーフ ND 」フィルターがあると便利だ。明るい空が入る上半分を ND で覆い、空よりも暗い湖面は ND を使わずに撮影することで、一度の露光でバランスの良い画が撮れる。フレーミングに合わせて露光を変えたい境界を自由に選びたいときは、やはり「 角形のハーフ ND フィルター 」がいい。角形ハーフ ND は、レンズ先頭にアダプタを装着することでフィルターを装着したままにできるが、突然のシャッターチャンスや、撮影時に微妙にハーフ ND の境界を調整したいとき、タテイチ/ヨコイチを頻繁に変えたいときなどは、どうしても左手でフィルターを持ち、レンズにあてがって撮影することになる。こういうときに、PHD-66Q と一脚の組み合わせは心強い。右手ひとつでカメラを支えても安定しているし、PHD-66Q ならタテヨコの変更が右手だけでできる。残った左手でハーフ ND を調整できるわけだ。
■ 狭いライブハウスでの撮影
お次はライブハウスでの撮影をご覧いただこう。一般的なライブハウスのように、客席とステージに隔たりがない場所では、撮影するスペースはほとんどないと思った方がいい。リハーサル時にピンポイントで撮影場所を決めたら、そこからまったく動けない状態で撮るしかないのだ。三脚を広げるなど、そんな悠長なことはほとんどできない。撮影で水平方向の移動ができないとしたら、残されているのは上下方向の移動だけだ。もし脚立などを持ち込めるのなら積極的に使うべきだが、それすらもできないとしたら、奥の手を使うしかない。それは、カメラを装着した一脚を頭上に上げて、リモコンかディレイモードで撮る。今は Wi-Fi 内蔵のカメラも増えてきて、スマートフォンを使ったテザー撮影もできる時代だから、アングルのバリエーションが欲しければやるしかない。
ここに掲載した写真では、左右の移動ができなかったので、上下方向にアングルを変えてバリエーションを作った。ここでも PHD-66Q と一脚が大活躍してくれた。このときは、Canon EOS 7D mkII と OLYMPUS OM-D E-M1 の2台持ちで挑戦。7D mkII に標準ズーム、E-M1 に超望遠ズームを付けて撮りわけた。PHD-66Q + 一脚は E-M1 に装着。7D mkII は手持ち撮影だ。
ライブシーンの撮影では、原則的にストロボは御法度だ。もちろん主催者の許可を得てストロボ撮影することもあるが、イメージカットのみにストロボを使い、他は地明かりで撮ることが多い。その方がその場の臨場感が表現できるからという理由だ。ただその場合、地明かりだけだと露出不足は否めない。ホールなどのコンサートの照明なら明るいが、小さなライブハウスの地明かりでは絞りを f/2.8 まで開いて ISO 感度を 3200 まで上げても、シャッタースピードは 1/80 秒が関の山だろう。動きのある被写体で、これ以下に下げるのは辛いところだ。ここでも工場夜景撮影のように思い切って ISO 感度をさらに上げて撮ることも考えられるが、今回は女性アーティストなので、高感度ノイズをあまり出したくないこともあって、ISO:3200 をリミットと考えた。手ブレは PHD-66Q と一脚の組み合わせでどうにか安定を確保できるが、1/80 秒という遅いシャッタースピードによる被写体ブレは避けられない。そういう過酷な条件下で、被写体ブレさせないで撮るには、シンガーやミュージシャンの動作が緩慢になるタイミングを狙うしかない。狙い目のひとつには、シンガーのロングトーンがある。同じ音を長く伸ばしているときだ。普通ロングトーンのときには、体はほとんど動かないからだ。これは楽器演奏も同じだ。もうひとつの狙い目はインターリュードの最中。ダンスが得意なシンガーでなければ、インターリュード中は歌っていないはずだから、少なくとも顔のブレは避けられるだろう。
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■ 総評
撮影場所自体が揺れる、暗い、被写体が予測不可で動く、撮影場所に制限があるなど、いろいろなロケーションでの撮影をご覧いただいたが、筆者が PHD-66Q という雲台を一脚と組み合わせた理由がなんとなくでもおわかりいただけただろうか。もちろん、三脚と組み合わせることでもリボルビング機構を搭載した PHD-66Q は、その能力を遺憾なく発揮できる。ただ、一脚という単純きわまりないポッドとの組み合わせは、普段の撮影の中で、その自由度を飛躍的に高めてくれるのだ。一脚との組み合わせにおいて、これまでの3way 雲台や自由雲台も当然ありだとは思うが、簡便さ、自由度、俊敏性など、いろいろなポイントで PHD-66Q の方に軍配があがる。細かいことを文章で説明するよりも、実際に使ってみた方が筆者がいいたいことは伝わると思う。きっと撮影が今までよりも楽しくなるに違いない。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所
■ 撮影協力 ■
渋谷真理子