武石修のレンズレビュー
トキナー atx-m 85mm F1.8 FE
TOPIX
2020 年2月にトキナーが発売した単焦点レンズ「 atx-m 85mm F1.8 FE 」。今回は 85㎜ ということもありポートレートでレビューを行った。モデルはかつて当社のポートレートセミナー出演経験があり、現在はお芝居、バラエティなどの幅広いジャンルで活動し、2020 年3月にアイドルグループ 『 18代目ミニスカポリス 』へ新加入しライブ活動中の長澤佑香さんに依頼した。お楽しみください。 by 編集部 |
Index
1.ズームレンズでは得られないボケ
トキナーから35mm フルサイズ対応のソニーEマウントレンズ「 atx-m 85mm F1.8 FE 」が登場した。発売は2020 年2月。実勢価格は税込 54,800 円前後だ。( 2020 年 7月現在、当社調べ )
焦点距離が 85mm の単焦点レンズは、「 ポートレートレンズ 」とも言われるほど人物撮影に適したレンズとされる。中望遠域の大きなボケが得られることやパースの付きにくさ、被写体に声をかけられる距離で全身まで撮れる画角などがその所以だ。
現代では24-105mm や 70-200mm といったズームレンズでも撮影できる焦点距離ではあるが、短焦点ならではのボケの豊かさは依然人気を集めている。そのためメーカーによっては、明るさの異なる複数の 85mm レンズをラインナップしているほどだ。
トキナーによると、atx-m 85mm F1.8 FE のコンセプトは「 優れた描写性能と求めやすい価格の両立 」だという。85mm レンズは高級版として開放 F1.4、廉価版として開放 F1.8 というラインナップが多い。本レンズはポイント還元を考慮すると、実質5万円を切る価格であり、買いやすい値段なのは確かだ。
2.ソニー純正レンズとは異なる方向性
ちなみにソニー純正の 85mm レンズはというと、高級版が「 FE 85mm F1.4 GM 」( 実勢価格225,000 前後 )で廉価版が「 FE 85mm F1.8 」( 同65,500円前後 )。そのため、同じ価格帯にある FE 85mm F1.8 がまずライバルとなるだろう。
ただ、この2本は製品の方向性が違うように感じる。FE 85mm F1.8 は重さ約 371g でフィルター径 67mm と小形軽量にまとめてある。一方、atx-m 85mm F1.8 FE はフィルター径 72mm で重さはソニーの倍とは言わないが 645g もあって、かなりずっしりしている。
atx-m 85mm F1.8 FE は口径が大きいため、画面周辺の玉ボケがレモン形( ラグビーボール型 )になってしまう「 口径食 」の影響を受けにくくなっているのも大きな特徴。また鏡胴も金属主体で作り込みが良く、どちらかというと F1.4 クラスに近い物量が投入されているようだ。
鏡胴の操作部分はピントリングだけ。フォーカスモードなどはカメラ側で変更する。α7 III のフォーカスモードは全て利用可能。今回の作例は主に瞳認識 AF を使用したが、シングル AF、コンティニュアス AF とも問題無く瞳に合焦していた。
またボディ内手ブレ補正にも対応している。今回は夜景のシーンで 1/15 秒の手持ち撮影をしたが、ブレ無く撮ることができた。
3.作品による評価
それでは atx-m 85mm F1.8 FE を α7 III に装着して撮影した作品を見ていこう。今回はポートレートで写りを確認したが、ピント位置のキレやボケの綺麗さなど、物量投入に相応しい実力を備えていた。
ご注意
写真の 実画像 の文字をクリックすると、カメラで撮影した実画像が別タブで表示されます。ファイルサイズが大きいのでモバイル端末での表示にご注意ください。文中のサムネイル画像をクリックすると、リサイズされた画像がポップアップ表示されます。
作例は全て α7 IIIのRAW ファイルを Adobe Lightroom Classic で現像しています。
被写体から4~5mほど離れて全身を狙った。開放絞りが F1.4 ではなく F1.8 だが、ここまで離れてもけっこう背景をぼかすことができる。ズームレンズでは難しい、単焦点レンズならではの写りだ。
絞り開放でのアップ。被写界深度が非常に浅いが、ピント位置は十分な解像力を持っている。またグラスの水滴といったシズル感もよく描写できていた。
階調を見るためにモノクロで現像した。顔の手前側のシャドウから奥のハイライト部にかけて滑らかな階調表現が見て取れる。積極的にモノクロも撮りたくなるレンズだ。
街路樹の葉を前ボケにしてみた。F1.8 だけあって溶けるような前ボケ表現ができた。一般的に前ボケがうるさくなるレンズも多いが、本レンズはその心配は無さそうである。
今度は F2.8 に絞り、被写界深度をやや稼いだ。絞ってもボケ味の傾向は絞り開放と変わらず、非常に素直なことがわかる。椅子の前ボケ部分は、ボケの量としては少しだが、自然なものだ。
さらに F3.5 まで絞ってみた。この状況だとほぼ両目にピントが来る絞り値だ。ここまで絞っても前後のボケはやはり自然。手前に伸びる手すりのボケ方に文句は無いだろう。
絞り開放で、ほぼ最短撮影距離( 0.8m )からのショット。前髪すら被写界深度外になる状況だが、腕の後ボケと併せてとても立体感のある写りになった。大口径レンズならではの仕上がりだ。
厚めの窓ガラス越しに撮影。絞りを開けることで窓に反射しているものを大きくぼかすことができ、面白い写りになった。絞り開放付近では周辺減光も見られるが、ポートレートレンズと考えればさほど気になる落ち方では無いと思う。
被写体ブレを防ぐために高速シャッターが必要で、感度を ISO1000 まで上げた。開放の F1.8 が使えたのでこの感度で済んだが、ズームレンズではさらに高感度が必要になる場面だろう。
被写体の全身を入れた引目のショットで玉ボケを確認する。絞り開放ではレモン型になることが多いが、このレンズは画面周辺でもほぼ丸形を保っている( 流石に最周辺部は半月型に近くなってはいるが )。
さらにモデルに近づいたので、玉ボケが大きくなった。こちらも端の方まで割と丸形が維持されていた。夜景のため 1/15 秒のスローシャッターを手持ちで切っているが、ボディ内手ブレ補正がきちんと動作し手ブレは起きなかった。
4.総評
85mm F1.8 クラスとしては重量級のレンズということだが、作例を見る限りそれに見合う描写力を持っているのは間違いなさそうである。絞り開放で発生しやすい球面収差も十分抑えられており、作例ではほぼ確認できないほどだ。それもあって、解像力を上げるために絞り込む必要は無いレンズだと言える。
他方で 85mm レンズといえばボケ味が大きな評価ポイントだが、これも合格。後ボケはもちろんだが、前ボケの滑らかさがこのレンズの大きな特徴になっていると感じた。ポートレートで前ボケはとても重要な要素なので、この点は心強い。
本レンズは価格や F 値こそ “ 廉価版 ” のそれだが、ボケへのこだわりや描写力、そして 600g 超えという物量を考えると、もはやトキナーが考える 85mm レンズの高級版だと思えてくる。現在、市場には多くの 85mm レンズがあるが、本レンズは新たな付加価値を提案する1本と言えそうだ。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
武石修
モデル:長澤佑香