鉄道写真家・煙道伸麻呂の鉄道写真撮影講座 第44回 2022年版 鉄道写真の撮影設定
Photo : Masato Endoh
TOPIX
鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・ 煙道伸麻呂( えんどうのべまろ )の鉄道写真講座の 44 回目は最新版の鉄道撮影の設定について解説しています。以前、2018 年 12 月に一眼レフでの設定についての解説記事を公開しました。「 第2回 鉄道写真の撮影設定 」。記事公開から4年が経過し、ミラーレスカメラが普及をしてまいりました。今回はミラーレス時代の鉄道撮影のカメラ設定について解説をいたします。 by 編集部
<本記事は 2022 年 10 月現在の情報です。現地の状況は記事をご覧いただく時期により記事内容と異なる場合がございます。>
みなさまこんにちは!鉄道写真家の 煙道伸麻呂( えんどうのべまろ )です。こちらの内容は以前も連載でご紹介した、鉄道写真の基礎的な撮影設定の最新版をご紹介します。これまではミラー機構が内蔵された一眼レフが主流でしたが、いまやミラーレスが台頭している時代です。機材が変われば、適切な撮影設定も変わります。柔軟にアップデートさせましょう。それでは鉄道写真の撮影設定、最新版のスタートです!
Index
1.シャッタースピード、絞り、ISO感度
鉄道写真は動くものを撮影する、いわゆる動体撮影のジャンルです。動体撮影では被写体ブレをなくすことが重要です。そのために高速のシャッタースピードを使います。撮影設定でいうとシャッター優先モードが最適です。
成功への一歩目はシャッタースピードを意識することです。速度が遅い列車でも、1/640 秒 〜 1/1250 秒が被写体ブレをなくす最低のラインです。特急や高速の在来線は、1/1600 秒 〜 1/2500 秒。新幹線やリニアでは 1/3200 秒 〜 1/8000 秒を使うと良いでしょう。幸いなことに新幹線もリニアも白を基調としている車両が多いため、無理なくこのシャッター速度を稼ぐことができます。
実際の撮影では、列車が通過するまでに、被写体の速度を予想しておきます。低速と高速の場合を考えて、シャッター速度を2パターン用意します。そして列車が見えたときに、シャッター速度を最終決定します。
こちらは蒸気機関車ですが、かなり走行速度は高めです。そのためシャッタースピードは早めに設定しました。このように先入観にとらわれず、シャッター速度を決めましょう。
次に絞りの値です。鉄道撮影では記録の大切な要素です。出来るだけレンズの描写力を発揮できる絞り( F値 )を選びましょう。こちらは今までの原則通り、2段から3段絞った設定が良いでしょう。開放値が F2.8 のレンズであれば、F5.6 〜 F8.0 のあたりが使いやすいです。これが標準的な撮影設定です。
またこちらはワンポイントアドバイスですが、センサーサイズが大きいほど絞る方がよく、サイズが小さいほど開く設定の方が良いです。
こちらは APSセンサーサイズのカメラで撮影しました。こちらも基本に忠実に、開放から絞った値で撮影しました。かなりパンフォーカスに近い描写となりました。
最後に ISO感度の設定ですが、ここが最新版での一番のポイントです。ISO感度はほぼオートの設定で大丈夫です。もちろん低い ISO感度はノイズが少ないことには変わりないのですが、ほぼ常用では ISOオートで対応できます。こだわりたい方は、ISO上限オート機能を使って撮影しましょう。低感度にこだわりすぎて、被写体ブレを発生させるよりも遥かに良いです。
最近はこのような暗所でも、ISOオートで撮影しています。最近のカメラは、ある程度の光源さえあれば、ほぼノイズレスに写ります。とくにフルサイズのカメラであれば、さらに滑らかに写ります。三脚さえも必要ない時代が、すぐそこに来ています。
2.AFの設定
こちらも前回の内容から大きく変わったところがあります。それは本格的にミラーレス時代に突入してから、各社が鉄道撮影に特化した AFモードを搭載し始めたことにあります。初めて登場した撮影別 AFモードは、ポートレートに特化した瞳AFモードでした。その後、被写体別にモードが追加されました。初めて登場した鉄道モードは OLYMPUS社( 現在は OM SYSTEM )の製品に搭載されたモードでした。この流れも今後拡大の兆しがあります。数年後にはきっと主流になる AF設定でしょう。
このモードでの撮影が主流となれば、雨や雪などの悪条件でも列車にピント合焦できることでしょう。暗所での問題も解決できそうです。悪条件でもいい写真が撮れます。元々鉄道車両は大きい被写体で、規則的に動くため AF も捉えやすいといわれています。今後は更なる進化も期待できます。出来れば大きなセンサーサイズでも、無理なく追従する AF が登場して欲しいと願っています。センサー上の位相差AF も数年前に比べ、圧倒的に感度良好です。これからはピントを外す方が困難な時代となりそうです。
ピントを外すことが難しくなった最近のカメラですが、注意が必要な時もあります。この時は列車にピントを合わせたかったのですが、手前の桜に合焦してしまいました。それだけならば、よくあることですね。しかしながら困ったのは、一度くらい付いたピントが全く解除できませんでした。撮影のアシスト機能としては優秀なのですが、撮影者の意図しない挙動もしばしば起こります。優秀すぎるがゆえ、の悩みとも言えるでしょう。
3.シャッターモード・連写モード
次に押さえておきたいポイントは、シャッターモードの設定です。こちらは電子シャッターモードではなく、メカニカルシャッターモードを選びましょう。電子シャッターモードで撮影をすると、ローリングシャッター歪みが発生します。2022 年現在、最新の高級機種では改善されているのですが、まだ完全にこの現象がなくなったわけではありません。初歩的な撮影設定ですが、気をつけたいポイントです。
また連写モードも一眼レフ時代に比べて、高速になりました。普通の列車であれば秒間 10 コマ程度があれば大丈夫です。新幹線など高速で動く被写体には、秒間 20 コマなどを用いて撮影しましょう。あまり撮りすぎると後々のセレクトが大変になるので、ここぞ!という場面で思い切って機能を使いましょう。
このように風景写真的な場面では、秒間3〜5コマ程度の設定で問題ありません。連写機能は場面を考慮して選びましょう。
4.撮影で使えるアイテム
最後に番外編として、私がミラーレス時代になってから必ず使用するアイテムをご紹介します。それはブリム・つば、の深い帽子です。これはミラーレス時代になってから、ファインダーは EVF( Electric View Finder )となりました。ファインダーに直接、眼を接近させる方は問題ありませんが、あいにく私はメガネ越しにファインダーを覗きます。つまりファインダーと眼の間に余計な空間が生まれます。実はこれがとても厄介です。空間が生まれたことで、稀に余計な方向から光が入り込みます。これが反射を引き起こし、ファインダー内が見えなくなる現象が発生します。この問題の解決方法として、ここ数年は必ず帽子を着用しています。季節を問わず使用しています。おかげで撮影ではあまりストレスを感じません。さながら人間用(?)の遮光フードともいえる必須アイテムです。
5.次回予告
以上で最新版の鉄道撮影設定を終わります。機材に合わせて撮影者も知識をアップデートしないとなりませんね。さて次回はSL銀河の引退で注目されている釜石線をご紹介します。ぜひご期待くださいね。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
煙道伸麻呂