薮田織也のレンズレビュー
Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX<スナップ編>
TOPIX
ケンコー・トキナーが満を持して発表した標準ズームレンズ「 Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX 」。フルサイズ対応の標準ズームでは後発となるケンコー・トキナーの FX シリーズにはどんな魅力が隠されているのか。本サイトでお馴染みの写真家で、レンズレビュー嫌いを自称する薮田織也が、珍しく重い腰を上げて AT-X 24-70 F2.8 PRO FX に挑みます。どんなレビューが展開されるのか、今回のスナップ編と次回のポートレート編の2回構成でお送りするレンズレビューをお楽しみください。 by 編集部 |
■ 真打ちは遅れて登場する?
本文中の 実画像 の文字をクリックするとカメラで撮影した実際の画像が別ウインドウで表示されます。容量が大きいのでモバイル端末での表示に注意してください。
フルサイズカメラにおける 24 ~ 70mm という焦点域をカバーする標準ズームレンズは、各レンズメーカーの威信がかかった製品であると言っても過言ではないだろう。それは、ほとんどのユーザーがもっとも使うと思われる広角から中望遠をカバーしたレンズだからだ。標準ズームレンズでユーザーからダメ出しをくらったら、他の広角や超望遠レンズの評判にも影響しかねないわけで、当然各レンズメーカーも相当に力を入れて開発している。ところがケンコー・トキナーからは、フルサイズ対応の標準ズームがなかなか発表されないでいた。機動力の高い超望遠レンズの AT-X 70-200mm F4 PRO FX や、描写力で定評のある広角レンズの AT-X 16-28 F2.8 PRO FX など、 魅力的なレンズを提供してくれているメーカーだけに、トキナーファンならずとも相当に焦れていたのではないだろうか。それが、今年6月に AT-X 24-70 F2.8 PRO FX が発売( ニコンマウントのみ )、続いて7月( まさに本日 24 日が発売日 )にキヤノンマウントが発売されたことで、喜んだのは筆者だけではないだろう。
ケンコー・トキナーがこれだけ遅れたのにはそれなりの理由があったのだと推察する。それは、先日発売されたキヤノンの EOS 5Ds / 5Ds R 対策であろう。5000 万画素を越す受光センサーにも対応できるレンズでなければ、優れた製品が群雄割拠する標準域レンズの市場でアドバンテージを示すことができないではないか。実際、ケンコー・トキナー広報担当の田原氏曰く、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX( キヤノンマウント )( 2015 年7月 24 日発売 ) は、5Ds シリーズにもしっかりと対応しているとのことだ。つまり、真打ちは遅れて登場するというわけである。
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■ 硬派なレンズ Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX
Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX の所感は、誤解を恐れずに書くと「 硬派な男のレンズ 」だ。ズーム全域 F2.8 の明るさの実現と、5,000 万画素を超える高画素フルサイズカメラに対応するために、11 群 15 枚のレンズで構成される AT-X 24-70 F2.8 PRO FX は、トキナーならではのガラスモールド非球面レンズを3枚と、超低分散ガラス( SD ガラス )を組み合わせることで、非点収差や歪曲収差、球面収差と色収差を補正している。実際の画作りにおけるその効果の詳細は後に譲るが、結論を書いてしまえば、筆者が使ったことのあるフルサイズ用標準ズームレンズの中でも、極めて高次元に画像周辺部の解像度、周辺光量、歪みを補正できている。また、コントラストもいやらしくない程度にくっきりと描写してくれるし、カラーバランスも極めて自然、つまりニュートラルな発色だ。
AT-X 24-70 F2.8 PRO FX の絞り羽根は9枚。これによって、開放寄りの絞りを使って描かれる玉ボケも口径食のない綺麗な正円を描く。( 写真1参照 )こうした美しい玉ボケが表現できるのは、絞り羽根の枚数が多いことだけが理由ではない。前述した各収差の補正が功を奏して、光源の乱反射による輪郭の崩れや玉ボケ内の目障りな渦の発生も抑えられているのだ。
AT-X 24-70 F2.8 PRO FX をフルサイズ一眼レフカメラ Nikon D800 に装着してみたが、最大径 89.6mm( フィルタ系は 82mm )、重量 1,010g のレンズはずっしりと手応えがある。冒頭で硬派な男のレンズと書いたのは、こうしたことも含めてのことだ。他の 24-70mm の標準ズームレンズより少し重たいのは、高画素化が進むフルサイズカメラ本体に対応させるべくレンズ内の構造も複雑化したとのことだが、その分、持ったときの高級感も高いし、良いズームレンズは重くなると単純に考えている筆者のような古い人間には、この重さを受け止めるだけの覚悟はある。( もちろん軽いのに越したことはないが…… )
この先も高画素化が進み、近い将来には1億画素を超える一眼レフも登場することになるが、今回 AT-X 24-70 F2.8 PRO FX を D800 に装着して撮影してみて、撮影はまさにスポーツだと再認識することになった。何が書きたいのかというと、こうした高品質レンズ+高画素カメラでの撮影は、常に手ブレとの戦いだということだ。3,000 万、5,000 万画素のカメラでは、ほんの少しのブレが画に影響を及ぼしてしまうからだ。2,000 万画素未満のカメラではシャッタースピード 1/8 秒程度なら手持ちで大丈夫などと自慢していたが、もうそんな呑気なことは言っていられない。1/30 秒でも息を止めて歯を食いしばって体の動きを止める必要があるのだ。「 硬派な男のレンズ 」と書いた理由のもうひとつに、手ブレ補正機能が AT-X 24-70 F2.8 PRO FX にはないということがあげられる。搭載しなかった理由は手ブレ補正機能による画質の低下を避けたかったからだそうで、それについては筆者も激しく同意できる。こうした硬派な男のレンズを使う以上は、ブレ補正を機械任せになどしてはならないのだ。実際、手ブレ補正がないことにより、今回の撮影で筆者自身の撮影に対する取り組みを再認識させてもらうことができた。
■ 作例による評価
ここからは、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX を Nikon D800 に装着して撮影した作例をもとに、筆者の所感を綴っていこう。
本文中の 実画像 の文字をクリックするとカメラで撮影した実際の画像が別ウインドウで表示されます。容量が大きいのでモバイル端末での表示に注意してください。
レンズにとってかなり厳しい条件で撮影した作例が写真8だ。芦花公園の樹木に覆われた場所で、明るい空を背景にしての樹木の撮影だが、焦点距離はワイド端の 24mm で、f/16 まで絞って撮影してみた。撮影場所は無風に近かったので、シャッタースピードは 1/4 秒、もちろん三脚に固定しての撮影だ。フォーカスは画面中央の太い枝に当てている。色や解像力など、全体的な描画は筆者としては申し分ないと思う。空が背景となる周辺部を観ると少しパープルフリンジが出ているが、24mm という広角域で、こうした条件下での撮影において、ここまで描写できるのは素晴らしいと言える。
AT-X 24-70 F2.8 PRO FX の最短撮影距離は 0.38m だ。写真9は、撮影距離を 40cm 程度とって、f/3.2 という開放に近い絞りにおいて撮影したものだ。至近距離撮影における解像力と前後のボケを観て欲しい。ピンは蛇口から出る水に置いてある。50mm の単焦点レンズのような解像力と前後のボケ味がわかるだろうか。ちなみに、この写真は手持ち撮影だ。被写界深度の浅さを考えると、三脚を使って撮影した方がいいのは間違いない。1/2000 秒なので左右のぶれはほとんどないが、体が前後に揺れることによっておきるピンの前後のズレは防ぎようがないからだ。
写真10は夕立直前の曇天下での撮影なので彩度があまり高くないが、ここでは玉ボケとハイライトの滲み具合を観て欲しい。前段でも書いたが、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX の玉ボケは自然で美しい。そして、ハイライトから中間調へのグラデーションも滑らかで破綻がない。シャドウ部の描画能力も高いといえるだろう。
写真11は、曇天下の夕方近く、建物の外壁に飾ってあった鉄のオブジェを撮影したものだ。写っている木、鍛鉄、漆喰などの各素材がどのように描写されているのかを観て欲しい。地味なことだが、高い解像力があってもカラーバランスが自然でなければ、その後の人的編集で破綻をきたしやすいのだ。もちろん色味に関してはカメラ本体の画像処理エンジンの特性が大きく影響するが、今回の写真はすべて Raw で撮影し、Adobe Camera Raw にて補正無しで現像しているので、ピクチャーコントロールなどの補正も反映されていない画像だ。つまり、あくまでもスタンダードだということになるが、AT-X 24-70 F2.8 PRO FX は、好感のもてる自然な色味を再現してくれているのがわかるだろう。
写真12のような環境下でも、細部にわたって破綻のない階調表現力とカラーバランスを魅せ付けてくれる AT-X 24-70 F2.8 PRO FX 。こうなると、ポートレートではどんな表現力を出してくれるのかと俄然興味が沸いてくるが、それは後編までのお楽しみ。
垣根をなめて列車 EF64 を撮影。前ボケも自然で綺麗にぼけてくれる。
写真14は、空と樹木、そして列車の明度と彩度がともにバランスよく写るように、撮影位置を探して露出を設定してみた。補助光やレフ板無しで、現像時の補正無しでもこのバランスで写る。
写真15は、ワイド端 24mm でわざと太陽を入れ、どんなフレアが出るのかを観てみた。個人的にはフレアが入ることを気にしないので、どんな形状のフレアでもウェルカムだが、さて、フレアを嫌う人にはどんな感じに見えることだろう。
雲に太陽が半分隠れるのを待ち、焦点距離を 34mm にして撮ると、当たり前だがフレアはわずかになる。
勝沼ぶどう郷にある全長 1.4km の大日影トンネル遊歩道まで脚を運んだ。地明かりはトンネル内にある蛍光灯のみ。一脚を使って 1/10 秒に耐えて撮影した。
■ 前編の総評
今回は<スナップ編>をお届けしたが、Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX の実力はいかがだっただろうか。筆者としてはこのレンズには高評価を与えたいと感じた。その理由としては、描写力や解像力はもちろんだが、撮影者に対してストイックな撮影スタイルを要求してくる点だ。決して軽い気持ちでダラっと使えるレンズではない。誤解を恐れず言い切ると、初心者や非力な女性にはちょっとお奨めできない。しかし撮影者が気を引き締めて真摯な態度で撮影に向き合えば、必ずそれに応えてくれるレンズだ。遅れて登場してきた AT-X 24-70 F2.8 PRO FX だが、スナップ撮影においては間違いなく標準ズームレンズの真打ちである。
そんな AT-X 24-70 F2.8 PRO FX を、ポートレートで使うとどんな印象になるのか、それは次回までお待ちいただこう。
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Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX ■ メーカーサイト ■ Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX |
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所
■ 撮影協力 ■
アイアン&ウッド・デザイン工房 Cerchio