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デジカメの「しくみ」
第17回 : レンズの大敵を探る  〜収差 3〜
 
いよいよ収差の最終回です
像面収差とは
歪曲収差とは
実際のカメラレンズで収差を少なくするためには
2005/11/22
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■いよいよ収差の最終回です
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●収差軽減の指針であるレンズ構成って何?
 

 今回は収差の最終回。長かったですが、さまざまな障害が発生してしまうようなこれだけの要因をレンズは抱えているんですね。単純にレンズを凸レンズにするだけでは、すばらしい写真を撮影できるカメラレンズは作れないわけです。

 冒頭写真には、レンズ交換式のデジタルカメラ用カメラレンズを取り上げてみました。レンズだけで、希望小売価格が355,000円という高額なこのレンズは、収差を発生させないようにさまざまなくふうをし、クオリティを高めています。ちなみに、カメラレンズのクオリティを示す指針の1つにレンズ構成というものがあります。このカメラレンズは、18群21枚 (スーパーEDレンズ1枚、EDレンズ4枚) というレンズ構成となっています。さて、これはどのようなことを指しているのでしょうか。
 では、残りの収差についてと、レンズ構成について解説していきましょう。

   
■像面収差とは
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●中央と端のピントが異なる像面収差
   凸レンズの中には、同じ距離の平板にある物体を見ているのに、中央にピントを合わせると端のピントがボヤけていたり、逆に端にピントを合わせると中央がボヤけることがあります。このような収差を像面収差といいます。


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【像面収差の模式図】
レンズに垂直に照射された光も、角度を持って照射された光も、レンズから同じ距離の1点には集まらなくなります。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
 

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【像面収差がある場合の映像】
レンズの端と中央では、どちらかがボヤけてしまいます。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
   
●どのようにして像面収差を少なくするか
 

 レンズに照射された光は、垂直に照射された光も角度を持って照射された光も、レンズから同じ距離に焦点を結ぶのが望ましいのですが、実際にはそのようにならない場合があります。垂直に照射された光の焦点に対し、角度を持って照射された光の焦点がレンズに近い方にできてしまうことがあるのです。つまり、本来は像が平面に映し出されるはずなのに、湾曲した面に像ができてしまうのです。これが像面収差の原因です。

 この収差は、レンズ表面のカーブを適切な値に設定することによって回避できます。ちなみに、非点収差と像面収差には密接な関係があり、非点収差が解消されると像面収差も回避されます。

   
■歪曲収差とは
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●歪んで見える歪曲収差(ディストーション)
 

 今までに説明した収差は、映像がボヤけたりにじんだりするといった、いわゆる鮮明さに関しての収差でした。しかし、ピントがしっかり合致していて色のにじみもないのに、映像が歪んで見えてしまうことがあります。例えば、格子状の方眼を書いた紙をレンズで覗くと、外枠が膨らんだように見えたり、凹んだように見えることがあります。このような収差を歪曲収差(わいきょくしゅうさ)といいます。

 歪曲収差の中でも、中央から外側に向かって膨らんだように見える収差のことを樽型の歪曲収差、外側から中央に向かって凹んだように見える収差のことを糸巻き型の歪曲収差といいます。ちなみに、歪曲収差のことをディストーションということもあります。


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【樽型の歪曲収差】
外枠が膨らんだように見える歪曲収差を樽型の歪曲収差といいます。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
 

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【糸巻き型の歪曲収差】
外枠が凹んだように見える歪曲収差を糸巻き型の歪曲収差といいます。糸巻き型のディストーションといったり、ピンクッションということもあります。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
   
●どのようにして歪曲収差を少なくするか
   歪曲収差は、絞りをどの位置に置くかによって変化します。同じレンズを 2枚置いて、その間に絞りを置くことによって、歪曲収差を補正することができます。これは、光源側で生じた歪曲収差を、絞りを通った後のレンズが打ち消すため、歪曲収差が目立たなくなるためですこのように、絞りを中心に前と後で同じような構造のレンズを配置したカメラレンズを対称型レンズといいます。
また、非球面レンズを使って歪曲収差を補正することも可能です。


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【対称型レンズの構造例】
一眼レフ用のカメラレンズに採用されているガウスタイプのレンズ構成は、絞りを中心にして光源に近い側と像が写し出される側とに、同じ働きをするレンズを配置しています。このような構成のレンズを非対称型レンズといいます。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
   
■実際のカメラレンズで収差を少なくするために
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●レンズの構成(x群x枚)
 

 以上で収差の解説は完了です。長い間ご苦労様でした。
 さて、これらの収差を、実際に商品として流通されているカメラレンズでは、どのようにして解消しているのでしょうか。それぞれの収差の解消法は、そのたびに説明してきましたが、カメラレンズ製品としてどのように解消しているか気になるところです。では、この点についてみていきましょう。

 レンズによる収差が発生してしまうと、鮮明な画像を撮影することができません。収差は、凸レンズと凹レンズを組み合わせたり非球面レンズを使用したり、レンズにコーティングを施したりすることによって解決することは説明しました。

 しかし、凸レンズと凹レンズの組み合わせという1つの解決策だけでは、さまざまな収差をすべて補正したり解消することは不可能です。また、いくら非球面レンズが安価に製造できるようになったとはいえ、それは従来の非球面レンズに比べての話であって、廉価版のデジタルカメラのレンズ部分に何枚もの非球面レンズを使えるほどは安くなってはいません。したがって、非球面レンズの代わりに何枚かの球面レンズを組み合わせて、非球面レンズを使用したのと同じような補正効果を期待するケースは多くあります。

 例えば、歪曲収差の発生を防ぐには、非球面レンズを用いて解決することもできますが、コスト的に非球面レンズの採用が困難な場合などは、絞りの前と後に同じようなレンズを配置する対称型レンズを採用して解決を図ります。このように、実際のカメラレンズは4枚とか6枚とか、中には20枚を越えるレンズが組み合わされて使用し、収差を解消しています。
 このとき、何枚かのレンズを組み合わせて1枚の凸レンズ、あるいは1枚の凹レンズの働きをさせることがあります。軸上色収差を解決する場合などは、これに該当しますね。このような働きをする何枚かのレンズをひとまとめにして群と呼びます。1枚で凸レンズ、あるいは凹レンズの働きをするものは、1枚でも1群と呼びます。

 デジタルカメラのスペック表では、カメラレンズ全体に使っている枚数といくつの群から成り立っているかを、「レンズ構成」という項目として掲載されています。例えば、レンズは4枚使用しているけれども、そのうちの2枚を使って1つの凸レンズの働きをさせているカメラレンズがあったとしたら、そのレンズ構成は「3群4枚」であると言います。


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【3群4枚のレンズの例】
カメラレンズに複数枚のレンズを使った初期の頃のレンズ構成でテッサー型と呼ばれているものです。群と枚数が異なるカメラレンズの中で最も単純なレンズ構成の一つです。後に作り出されたカメラレンズにも大きな影響を及ぼしています。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
   
●単純に枚数が多ければ良いというものではない
 

 レンズ構成は、収差をなるべく少なくするような工夫が施されているか、という一つの指針になります。しかし、群の数やレンズの枚数だけで、単純にレンズの善し悪しを判断することはできません。例えば、3群の構成でも凸凹凸の順にレンズが配置されているものもあれば、凹凸凹で配置されているものもあります。また、同じ4群6枚のレンズ構成でも、3枚を使って1つの凸レンズの働きをさせているケースもあれば、2枚を1つの凸レンズとして働く組み合わせを2つ採用している構成もあるからです。

 しかも、これらは、それぞれどちらがカメラレンズとして優れているとは一概に言えず、遠くの景色を広い範囲で撮影したいのか、狭い範囲でも良いので近くの人物に特化して撮影したいのか、といった使用目的などによって適正な組み合わせが異なります。

 また、多くの群や枚数で構成されているカメラレンズと少ない群や枚数で構成されているカメラレンズが、同等の収差補正能力を持っている場合もあります。非球面レンズや特殊コーティングが施されていないレンズが使用されていなくても群や枚数を多くして収差を補正しているケースと、少ない群や枚数であっても非球面レンズや特殊コーティングを使用して収差を補正しているケースの両方があるからです。

 ちなみに、すべてのデジタルカメラのスペック表にレンズ構成が記載されているわけではありません。レンズにあまりコストをかけられない廉価版のモデルは、この数値が掲載されていないことも珍しくありません。逆に言えば、スペック表にレンズ構成が書かれているモデルは、レンズにも注力しているともいえます。


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【同じ4群6枚のカメラレンズでも中身が違うこともある】
何枚を1つの群にしなければいけない、ということは決まっていないので、同じ4群6枚でも中身はまったく違うこともありえます。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
 
 収差だけがレンズの品質を左右するものではありません。現に、銘玉と呼ばれることもある秀逸なカメラレンズは、収差の度合いだけで、そのように呼ばれているわけではありません。しかし、収差があるようなレンズは、少なくともそれだけで銘玉とは呼ばれにくいという重要な要素でもあります。
 どのレンズで撮影したかわかるような写真があったら、この収差のことを考えながらチェックを入れてみてください。レンズを評価する楽しみというのが増えるかもしれませんよ。
Text by 西井美鷹(デジカメWEB)

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