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パノラマ写真家・小林孝稔の三脚レビュー
ベルボン・ウルトラスティック – セルフィーキットで 全天球写真に挑戦

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Photo & Text:小林孝稔


TOPIX

革新的で使いやすい三脚関連製品を提供するベルボン社から、自撮り棒と小型三脚がセットになった新製品が発売された。本製品の特異性を引き出すカメラマンとしてスタグラ編集部が白羽の矢を立てたのが、パノラマ写真家の小林孝稔氏。本サイトでも 「 小林孝稔のパノラマVR撮影講座 」を連載している。果たしてパノラマ写真家はどのような結論を出したのでしょうか?  by 編集部

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■ はじめに

パノラマ写真家の小林孝稔と申します。スタジオグラフィックス on the Web では「 小林孝稔のパノラマVR撮影講座 」を2016年11月から連載をしておりますが、機材レビューは初めてとなります。私は主に施設などで展示するコンテンツの制作を行っており、その一環としてパノラマVRの制作も行っております。過去、世界遺産から町の文化財・史跡、広告案件ではお店などの商業施設まで、幅広い対象の撮影を行いました。

さて、ここ数年で最も普及した撮影用品は「 自撮り棒 」ではないだろうか。ここ2~3年は仕事で日本各地の観光地へ出掛ける機会が多々あり、何処の観光地でもスマートフォンを装着した自撮り棒を片手に撮影を楽しむ大勢の観光客を見掛けた。かく言う筆者も自撮り棒を愛用する一人で、3本の自撮り棒を所有しているが、筆者はスマートフォンではなく全天球カメラ( 360度カメラ )を自撮り棒に装着して撮影を楽しんでいる。 今回、自撮り棒と小型三脚がセットになったベルボンの新製品「 ~ ウルトラスティック ~ セルフィーキット 」を試す機会に恵まれた。仕事ではベルボンのカーボン三脚「ジオ・カルマーニュN」を愛用しているので同ブランドの三脚の作りの良さは十分に知っているが、自撮り棒に関しては初体験だ。今回はパノラマ写真家の目線で本製品を使用したインプレッションを、全天球カメラで撮影した作例と共にお伝えしたいと思う。

■ コンパクトなA4サイズ

まずはセルフィーキットがどのような製品なのかを見てみよう。セルフィーキットは「 ウルトラスティックセルフィー( 自撮り棒 )」と「 セルフィーベース( ミニ三脚 )」がセットになった製品で、手にした感想は「 コンパクト 」。

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収納時はとてもコンパクトで携帯に便利なバッグが付属

収納時はとてもコンパクトで携帯に便利なバッグが付属

収納時はウルトラスティックセルフィーがセルフィーベースの脚の間に収まる形となり、サイズは A4 よりも小さな287mm、質量は 686g。普段使いのデイパック( 容量 16リットル )に余裕で収まるため一週間ほど持ち歩いて試したが、持ち運びが苦になる事はなかった。

写真2

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■ セルフィーキットの使用方法

写真3
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収納時の状態からネジを緩めるだけで簡単に自撮り棒とミニ三脚に分離が可能だ。当たり前の話だが、分離させた状態でそれぞれを持つと更に軽くて正直不安になるが、片手で扱う事が大半の自撮り棒が重たくては扱いづらくて本末転倒になってしまう。それほど軽いと感じられるのだが、ウルトラスティックセルフィーの台座部分には、強度に優れながらも軽量なマグネシウムが使われていると知って納得。

写真4
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ドッキングさせた状態では小型スタンドに変身する。筆者の撮影スタイルでは主にウルトラスティックセルフィーを手持ちで撮る事になるが、カメラを安定させて撮りたいシーンでは小型スタンドが役立つだろう。スタンドに変身させる際はネジを締めるだけなので煩わしさもない。

写真5
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ウルトラスティックセルフィーの縮長は 185mm、全高は約 725mm。パイプの伸縮はベルボン製品ではお馴染みのウルトラロックが採用されており、先端を握ってひねるだけで一気に全高まで伸ばして固定することができる。全高まで伸ばした状態で力を加えても関節部がグラつくことはなく、剛性の高さが感じられて一気に製品に対する安心感がアップした。

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ベルボン セルフィーキット

■ 小さくても本格派

写真6
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ウルトラスティックセルフィーの先端には小型の自由雲台が付属し、柔軟にフレーム決めが行える。メーカー発表の推奨積載質量は 400g で、コンパクトデジタルカメラはもちろん、小型軽量のミラーレスカメラ&パンケーキレンズの組み合わせも対応範囲に入るだろう。

写真7
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セルフィーベースの開脚機構はスムーズに開脚角度の調整が行えるセミオートラチェットで、開脚角度はフル、セミ、ノーマルの三段階に対応し、それぞれの脚で個別に調整が行える。例え小型軽量であっても普段愛用しているジオ・カルマーニュNと同じ機構が採用されており、作りの良さに感心した。

写真8

フル開脚時は最低高 283mm

フル開脚時は最低高 283mm


開脚角度をフルにすればローアングルでの撮影はもちろん、スタンドの重心が高くなる事で生じる不安定さの解消にも役立つ。

写真9
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脚はウルトラロックが採用された二段仕様。脚を伸ばしてスタンドの全高を稼いだり、斜面や段差があるシーンでは、安定した設置も期待できる。

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スタンドの状態で全高まで伸ばした様子

スタンドの状態で全高まで伸ばした様子


小型スタンド時の全高は1150mm。アイレベルには届かない高さだが製品のコンセプトとサイズを考えれば十分だろう。

写真11

アクションカメラアダプターが付属

アクションカメラアダプターが付属


付属品としてアクションカメラアダプターが付属。GoProなどでの撮影でも手軽に固定撮影が可能だ。手持ち撮影と固定撮影の両方が行えるセルフィーキットは、GoProなどの小型カメラを愛用するビデオグラファーにもオススメしたい。

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■ 自撮り棒は全天球カメラとの相性が抜群!

冒頭で述べた通り筆者は自撮り棒に全天球カメラを装着して撮影を楽しんでいるのだが、自撮り棒と全天球カメラの相性は抜群に良く、自撮り棒が1本あるだけで撮影の幅がグッと広がる。

筆者がスタジオグラフィックス on the Webで連載中の「 パノラマ VRの撮影講座 」では、Google ストリートビューに代表される「 被写体の空間すべて 」を見渡すことができるパノラマ VRの解説をメインに行っているが、パノラマ VR の楽しみ方の1つに「リトルプラネット( Little Planet )」がある。リトルプラネットとは、撮影した全天球画像( または動画 )を俯瞰する、あるいは仰望するアングルで投影すると、その名の通り小惑星を覗き込んだり見上げたりする様な表現が得られる投影方法だ。

動画1

これは、お台場海浜公園を撮影したパノラマVRを「 仰望 > 俯瞰 」の流れでリトルプラネットにした動画だ。リトルプラネット特有の面白い表現がご理解頂けるだろう。

■ 自撮り棒を使って撮影者の存在を弱める

全天球カメラで撮影した画像は、カメラを中心とした全方位の360度が写り込むため、手持ち撮影の場合は当然ながらカメラを握る手が大きく写り込んでしまう。大半の全天球カメラは前後二枚の円周魚眼レンズで構成されていて、それぞれが約 180 度以上の画角を有しており、前後二枚の円周魚眼レンズで撮影された画像を一枚に合成する事で画角 360 度の全天球画像を得ている。

魚眼レンズは超広角のため被写体に近寄って撮影を行なったつもりでも、仕上がりの画像は想像以上に遠景に感じられる事があるが、この特性を逆手に取り、全天球カメラを装着した自撮り棒を頭上に掲げるなどして、撮影者から距離を離して撮影する事で写り込んでしまう撮影者の存在を弱める事ができる。

写真12
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手持ちで全天球カメラを頭上に掲げて撮影した画像(左)と、ウルトラスティックセルフィーに全天球カメラを装着して頭上に掲げて撮影した画像(右)。両者の距離の違いはウルトラスティックセルフィー分の約700mmだが、想像以上に被写体との距離感があるうえに、撮影者の存在が弱まっている事がご理解頂けるだろう。

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■ ウルトラスティック セルフィーを使った手持撮影

自撮り棒を使えば上記で説明した写り込みを最小限に抑える他、ハイポジション、ローポジションでの撮影が簡単に行える。紹介する作例は、ウルトラスティックセルフィーの先端に全天球カメラの RICOH TEATA S を装着して撮影を行い、リトルプラネットへの変換はスマートフォンアプリの THETA+ を使用した。

写真13

ハイポジションで撮影

ハイポジションで撮影

東京スカイツリータウンの鯉のぼりを、ウルトラスティックセルフィーを頭上に掲げてのハイポジションで撮影。頭上を泳ぐ鯉のぼりにグッと近づいた様な立体感ある表現が得られた。

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ローポジションで撮影

ローポジションで撮影

続いてローポジションで撮影した作例を東京スカイツリーからもう1枚。ソラマチスカイアリーナの花壇にウルトラスティックセルフィーを向けて撮影。花壇の花をメインの被写体、背後に見えるスカイツリーをサブの被写体として考え、両方が入るアングルから撮影を行った。ローポジションでは地面に近い被写体が大きく写り込んで遠近感が強調されるため、まるで「 小動物 」や「 昆虫 」の視点のような表現が得られた。

写真15

真正面に突き出して撮影

真正面に突き出して撮影

ハイポジション、ローポジションの他に、真正面や真横に自撮り棒を突き出しての撮影も面白い。この作例は新宿御苑の旧御凉亭の建物内から外に向けてウルトラスティックセルフィーを突き出して撮影。まるで空中から覗き込んでいるような表現が得られた。

■ 雲台を傾けずに撮影

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雲台を傾けると自撮り棒そのものが写り込んでしまう。

雲台を傾けると自撮り棒そのものが写り込んでしまう。


作例を見てお気付きの方もいるだろうが、ウルトラスティックセルフィー先端の自由雲台が少しだけ写り込んでいるが、ウルトラスティックセルフィーそのものは写り込んでいない。全天球カメラは被写体にレンズの正面を向けて撮影する必要がなく、今回の作例撮影で使用したRICOH THETA Sの例に説明すると、ウルトラスティックセルフィーに対して角度を付けずに装着する事で、ウルトラスティックセルフィーそのものが写らないようにしている。

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■ 夜景撮影にもチャレンジ

手持ちでの撮影を楽しんだ後は、ウルトラステイック セルフィーとセルフィーベースをドッキングさせて、小型スタンドで夜景撮影を試してみる事にした。夜景撮影では安定した三脚を用いるのが定石だが、果たして小型スタンドではどうだろうか。

写真17
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全天球カメラ程度の大きさであれば、スタンドを高く立てた状態でも不安定さ感じる事はなく撮影を行う事ができた。

写真18
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甲州街道と山手通りが交差する初台交差点の真上に存在する西新宿ジャンクションを撮影。 別の日には隅田川に架かる中央大橋を通る機会があったので、西新宿ジャンクションと同じくスタンドを立てて撮影を行う事にした。夜景ファンにはお馴染みの中央大橋だが、ここは絶えず風が吹き付ける場所で、訪れた日も強風が吹き付ける撮影には悪条件の夜だった。

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露出をアンダーにして暗闇に浮かぶ感じを狙った

露出をアンダーにして暗闇に浮かぶ感じを狙った

中央大橋のメッセンジャー像付近にスタンドを設置して撮影。風が吹き付ける悪条件ではあったが、スタンドが倒れない様に注意深く設置を行い、ブレとノイズを抑えた夜景撮影に成功した。

なお、小型スタンドとしてドッキングさせた場合は、ウルトラスティックセルフィーのエンド部分に付いたリングがエレベーター部分にくる。今回のようにスタンドの安定に不安が残る条件下では、リングに手荷物を引っ掛けるなどしてストーンバッグの要領で使うのが良いだろう。小型であっても撮影機材に求められるポイントをシッカリと抑えた作りには大変好感が持てた。

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エンド部分のリング

エンド部分のリング


一週間ばかりセルフィーキットを使ってみての感想だが、繰り返しになるがウルトラスティック セルフィーを全高まで伸ばしても関節部がグラつかない剛性の高さだろう。

写真21

カラビナとウェイトを組み合わせた例

カラビナとウェイトを組み合わせた例


これだけ剛性が高いのであれば「 手持ちで夜景( 夜 間)撮影が行えるのでは? 」と考えた。なぜならば、筆者が所有している他の自撮り棒はウルトラスティックセルフィーほど剛性が高くなく、自撮り棒を頭上に掲げた場合は自撮り棒がしなって揺れてしまい、結果として手ブレした画像になってしまう事があるのだ。

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歌舞伎町交差点で手持ち撮影した一枚

歌舞伎町交差点で手持ち撮影した一枚

歌舞伎町交差点の横断歩道に立ち、ウルトラスティックセルフィーを頭上に掲げて撮影。画像の周辺と遠景部分はカメラの特性とリトルプラネット変換時の影響でボヤけてしまうが、カメラに近い中心部分はシャープでブレていない事が分かる。目論見通り手持ちの夜間撮影に成功した。

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■ アウトドアファンには嬉しいColemanブランド製品も同時発売

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今回、セルフィーキットと同時発売の Coleman ブランドの同コンセプト製品「 CVSS-6 ST 」も試す事ができた。こちらはアクションカメラアダプターの代わりにスマートフォンホルダーが付属する。

写真24
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アウトドアブランドの Coleman らしくセルフィースティックには赤いカラビナが付属。アウトドアで撮影を楽しむ際にベルトやバッグに提げて携帯するのが良いだろう。

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こちらはアクションカメラアダプターの代わりにスマートフォンホルダーが付属

こちらはアクションカメラアダプターの代わりにスマートフォンホルダーが付属


こちらも専用ケースが付属し、CVSS-6 ST にはスマートフォン撮影用のホルダーが付属する。なお、CVSS-6 ST の脚は一段仕様となるが、セミオートラチェットによる三段開脚仕様は同じだ。

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CVSS-6 STの脚は伸縮しない一段仕様で、全高は 925mm。セルフィースティックの先端には自由雲台ではなくて前後にのみ倒れるチルト雲台が付く。もちろんウルトラロック採用で、もちろん剛性も高い。

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CVSS-6 ST の雲台はチルト式で、前後に倒しての角度調整が可能。カメラネジが独立して回るため、今回の様な小型のカメラであればCVSS-6 ST の方が脱着は素早く行う事ができた。

■amazon で価格チェック

■ メーカーサイト ■

ベルボン セルフィーキット

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■ マナーを守って楽しい撮影を

一週間の短い試用期間ではあったが、手元には セルフィーキット で撮影した260 枚もの画像が残っていて実に楽しく撮影を行うことができた。今回使った全天球カメラはもちろん、コンパクトデジタルカメラ、ミラーレスカメラ、アクションカメラとも最適なパートナーになり得る製品だろう。

最後に・・・冒頭で筆者は日本各地の観光地へ仕事で出かける機会が多いと書いたが、昨今、何処の観光地でも三脚や自撮り棒使用者のマナー違反が問題となっている。昨年、筆者が撮影を行わせて頂いた史跡ではマナー違反が原因で文化財が損傷してしまう事を危惧し、使用の有無を問わず三脚を持っている場合は入場を禁止にする措置案が議論されている旨を聞いた。そして残念な事にこの強固な措置案は別の史跡では既に実施されている旨も聞いた。

三脚も自撮り棒も使い方を誤れば他人に危害を加えてしまう恐れがあるので、使用する際は周囲に注意を払い、トラブルなく楽しい撮影を行ってください。

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■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
小林孝稔

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著者について
小林孝稔(Takatoshi KOBAYASHI) | 1980年生まれ、長野県出身、東京都在住。尚美学園短期大学音楽情報学科卒業。業務で実写表現を用いたパノラマVRコンテンツの制作に携わり、その面白さに魅せられて制作を開始。広告分野でのパノラマVR制作を中心に活動中。その他、技術解説の執筆活動、レクチャー&セミナーの講師活動も豊富。東京工芸大学芸術学部非常勤講師。