武石修のレンズレビュー
サムヤン AF 75mm F1.8 FE ポートレート編
Model:辻美咲 Photo : Osamu Takeishi
TOPIX
今回の武石修のレンズレビューは サムヤン AF 75mm F1.8 FE をポートレートでレビューいたします。本モデルは 2020 年 5月より日本国内で販売が開始されたモデルです。今回はモデルを辻美咲さんに依頼いたしました。ポートレートでその描写をご覧ください。 by 編集部 |
Index
1.使いやすい 75mm という焦点距離
今回は 2020 年に発売されたサムヤンの中望遠レンズ「 AF 75mm F1.8 FE 」を採り上げたいと思う。対応マウントはソニーEマウントのみで、35mm フルサイズセンサーに対応している。実勢価格は税込 49,800 円前後( 2021 年 9 月現在、当社調べ )。
まず特徴を挙げると、中望遠レンズとして今日一般的な 85mm ではなく 75mm になっている点だろう。85mm がポートレート向けとして重宝されているのはご存じの通り。ただ、人によってはちょっと長すぎて画角も狭いと感じるかも知れない。
その点、75mm という焦点距離は十分なボケの量を確保しながらも 85mm より広い画角で撮影できる。もちろん人物のアップも問題無いが、全身を入れるなど引いての撮影がしやすい。そのため1本でバリエーション豊かな撮影が可能だ。もちろん古くからの 75mm レンズユーザーも検討に値するだろう。
またもう一つのセールスポイントを挙げれば、小形軽量という点だ。大きさは 69 × 65mm( 全長 × 直径 )で、重さは 230g 。実際、カメラに付けるとレンズを意識させないほど軽い。F1.8 と明るさを抑えてはあるが、単焦点の中望遠レンズとは思えないほど取り回しが良かった。
レンズ構成は 9 群 10 枚。最短撮影距離は 69cm 。絞り羽根は 9 枚。フィルター経は 58mm 。低分散レンズや高屈折率レンズを採用しており、色収差を抑えたとのことで、作例でも目立った色収差は出ていなかった。
2.ピントリングを絞りリングに変更可能
AF 対応レンズなので、純正レンズと変わりなく使える。手ブレ補正や瞳AF の動作も確認できた。AF 速度はもの凄く速いわけでは無いが、実用上問題無い範囲と思う。
面白い点として、ピントリングを絞りリングに変更できるカスタムスイッチを備えている。クリックストップは無いが、レンズのリングで絞りを操作することに慣れている人は使いやすいと思う。
ちなみに、ソニー純正では近いスペックのレンズとして「 FE 85mm F1.8 」がラインナップされている。価格はサムヤンの方が1万円強安く(当社調べ)、重量もソニーの6割ほどと軽量である。
3.作品による評価
今回はソニーα7 IIIに装着して試用した。Adobe Lightroom Classic に RAW を読み込んだところ、自動で本レンズのプロファイルが適用されたのはありがたいところ。歪曲収差と周辺減光が補正されるので、スッキリした絵に仕上げられる。
ご注意
写真の 実画像 の文字をクリックすると、カメラで撮影した実画像が別タブで表示されます。ファイルサイズが大きいのでモバイル端末での表示にご注意ください。文中のサムネイル画像をクリックすると、リサイズされた画像がポップアップ表示されます。
少し引目から絞り開放で狙った。大口径と言われるF1.4クラスに比べると少々暗くはなるが、それでもF1.8なら背景をそれなりにぼかすことができる。
ポートレートではよく見られる人物サイズで撮影。絞り開放だがまつげ1本1本までくっきりと写っており、文句の無い描写力だ。
全身 + α といった引いた写真も 85mm レンズよりも近くで撮れるので撮影しやすい。もちろん背景のボケ量も十分。普段使いで困ることは無さそうだ。
バストアップで F1.8 ともなると被写界深度はかなり薄くなる。このようにピント位置の前後をなだらかにボカす表現もお手の物だ。
ボケへの移行を見るととてもなだらか。無理が無いというか、自然に前後のボケが馴染む好ましい描写だ。この作例のみ周辺減光を見るため補正を OFF にしてあるが、さほど大きく目立つわけでは無いようだ。
少し絞ってF2.8とした。解像力はわずかに向上するようで、絞り開放で見られたピント面の少しの柔らかさは影を潜めた。
モノクロに変換してみたが、階調もなだらかで衣服のディテールもバッチリ。Lightroom で歪曲補正も効くので、直線は真っすぐ仕上げられる。
定番の 85mm F1.4 に比べると焦点距離が短くてF値も暗いが、少し被写体に近づくなど工夫すれば、85mm F1.4 と見分けが付かないほどの背景ボケで撮影できる。
夕陽を背景に入れて逆光耐性を見た。コントラストはやや落ちるが、ゴーストやフレアはほとんど見られず優秀な部類と言える。
このように大きな玉ボケも狙える。輪郭が強調されることも無く、年輪状の模様も見られない。綺麗な玉ボケのレンズということができる。
夕焼けと一緒に撮影したが、車のテールライトの赤色も含めて色のりも問題無さそう。夕焼けの微妙な色の変化も捉えてくれた。
最短撮影距離付近でスナップ的に撮影してみた。やはり、ピントを合わせたまつげまで描写がしっかりしていて安心した。本当はもう少し最短が短いと良かったかも知れない。
4.総評
ズームレンズ全盛時代ではあるが、昨今は単焦点レンズも見直されてリリースが相次いでいる。やはりズームレンズには無い大きなボケが欲しければこうしたレンズは1本あると表現の幅が広がるだろう。まだ単焦点レンズを持っていない人にも、最初の1本として大いにオススメできるレンズだ。
85mm F1.4 クラスは高価な物が多いが、本レンズはそれに近いスペックながら実売で4万円台と比較的購入しやすい。75mm という焦点距離が意外と使いやすいこともわかった。何より軽量なのが助かる点で、ズームレンズに本レンズを加えてもさほど持ち歩きの重量が変わらないレベルだ。
このところ精力的にEマウントレンズをリリースしているサムヤン。コストパフォーマンスに優れるレンズシリーズに今後も期待したい。
(以上)
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