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<特集>カラーメーターと露出計を使用したスタジオ撮影ワークフロー
~ 写真 & 文:大村祐里子

Posted On 2021 10月 13
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Photo & Text: Yuriko Ohmura
model : Yuki Kurokawa


TOPIX

今回の特集はセコニック製カラーメーター C-800 と露出計 L-858D を用い、プロ写真家のポートレートの現場活用について解説していただきました。撮影・解説は大村祐里子さんに依頼をいたしました。モデルは黒川幸さん、ヘアメイクはNANATOさんです。ポートレート撮影現場でのプロのカラーメーター&露出計の活用方法をご覧ください。 by 編集部

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Index

1.はじめに

こんにちは、カメラマンの大村祐里子です。この記事では私が仕事としてスタジオでポートレートを撮影を行う際、カラーメーターと露出計を活用し、どのように光の色や量をコントロールしているかをご紹介します。

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2.ライト選び

2-1.演色性の高いライトの選び方

ポートレート撮影では、モデルさんの肌やメイクの色をきちんと出すことが大切です。

自然光の入らないスタジオで色をきちんと出すためには、色をきちんと再現できるライト( =演色性の高いライト )を使う必要があります。では、演色性の高いライトはどうやって選んだらよいのでしょうか?

そこで役立つのが、ライトの演色性を測定できる「 カラーメーター 」です。今回はセコニックの分光方式カラーメーター スペクトロマスターC-800 を使用します。

ここでは、撮影でよく登場する6種類のライトをカラーメーターで測定し、それぞれを比較してみます。

2-2.CRIとスペクトルを比較する

まず、各ライトの CRI とスペクトルを比較してみます。作例とともにご覧ください。

図1 CRIとは

Keikoto-01_R

CRIとは、基準光に対して、対象となる光源がR1~R15の色を照らしたときに、どの程度色の見え方にズレがあるかを表す数値です。基準光で照らしたときを100として、ズレが大きくなるほど数値は下がります。

Ra(平均演色評価数)はR1からR8の評価数を平均した値で、CRIの代表値として表されます。

ポートレートにおいては、特にR9(彩度の高い赤)やR15(日本人の肌色)の数値に注目する必要があります。

図2スペクトルとは

Shizenko-02

スペクトルとは、光や信号などの波を成分に分解し、成分ごとの強弱を見やすく配列したものです。波長が連続していてなだらかなほど、演色性は高くなります。

2-3.6つのライトの CRI とスペクトルを比較する

1)太陽光

Shizenko-210923_16_R

Shizenko-01_R

Shizenko-02

さすが太陽光。ズレはありません。スペクトルの波長も連続しています。

2)ストロボ(Broncolor Siros)

Strobe-210923_7_R

strobe-01_R

strobe-02_R

ストロボも、太陽光に匹敵する数値です。スペクトルの波長も連続しています。

3)タングステン光( RIFA-T )

Tungsten-210923_10_R

Tungsten-01_R

Tungsten-02_R

タングステン光の数値の高さには驚きました。スペクトルの波長も連続していて、非常になだらかです。

4)LED( Aputure LS 300X )

LED-210923_8_R

LED-01_R

LED-02_R

全体的に良い数値ですが、紫~濃いブルーがやや弱い印象です。スペクトルの波長は、ほぼ連続しています。

5)蛍光灯(家庭用)

Keikoto-210923_4_R

Keikoto-01_R

Keikoto-02_R

衝撃的だったのが、家庭用の蛍光灯です。CRIでは全体的に数値が低く、ポートレートで大切な赤の数値が圧倒的に低くなっています。スペクトルの波長はとぎれとぎれで、グリーンだけが突出しており、かなり極端です。作例は、写真に詳しくない人からも「なんだか色がヘンですね」と言われてしまうレベルでした。赤いパプリカの色が相当くすんで見えます。

6)iPhone(XS)

iPhone-210923_12_R

iPhone-01_R

iPhone-02_R

想像よりも良かったのがiphoneのライトです。弱い色はありますが、家庭用の蛍光灯よりはマシな結果でした。スペクトルの波長は、ほぼ連続しています。

2-4.CRI の問題点

上記で述べたCRIは、長いあいだ光源評価の基準として使われてきました。しかし、さきほども説明した通り、Ra( 平均演色評価数 )は R1 から R8 というたった8色の評価数を平均した値です。それだけでは、近年の LED 等の光源評価に適さないと言われるようになりました。

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3.TM-30-18 について

そこで、2015 年に、北米照明協会から「 TM-30-15 」という新しい基準が発表されました。2018 年にはそれに修正が加えられ「 TM-30-18 」となりました。

3-1.TM-30-18 とは

Keikoto-03_R

TM-30-18 は 99 色のカラーサンプルに対して評価をするしくみです。

Rf :色忠実度指数=色再現の忠実さ( 0~100 )
Rg :色域指数=基準光源と比較した平均飽和度( 60~140 )

の2つをカラーベクトルグラフィックでグラフ化したものです。
簡単に言うと、Rf は前出の Ra と同じように物体の色を忠実に再現できる光なのか、Rg は彩度が高く見えるか低く見えるかを表す数値です。赤いライン上にある矢印が小さいほど演色性が高いことになります。黒い円のラインが Rg の基準位置となり、赤いラインがきれいに重なっていれば色飽和も色欠損もない色再現性の高い光ということになります。

3-2.6つのライトのTM-30-18を比較する

1)太陽光

Shizenko-03_R

2)ストロボ(Broncolor Siros)

strobe-03_R

3)タングステン光(RIFA-T)

Tungsten-03_R

4)LED(Aputure LS 300X)

LED-03_R

5)蛍光灯(家庭用)

Keikoto-03_R

6)iphone(XS)

iPhone-03_R

3-3.今後はTM-30-18も活用しよう

太陽光、ストロボ、タングステンは非常に優秀、LED は若干弱いところはあるけれど優秀、蛍光灯と iPhone はややガタつきが目立つ、という結果になりました。

TM-30-18 はグラフ化されているので、評価基準として非常にわかりやすいです。今後、ライトの演色性を測定する際は、ぜひTM-30-18 も活用してみてください。

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4.カラーメーターと露出計を用いたスタジオ撮影

4-1.どのライトを使うか

それでは、実際にスタジオでポートレート撮影をしていきます。さきほどカラーメーターで測定した各ライトの演色性を参考にして、使用するライトを決めます。

今回は自然光の入らない、白背景のスタジオで撮影をします。とすると、まずは非常に演色性の高い、ストロボ( Broncolor Siros )を使いたいです。他にもうひとつ使うとしたら、演色性としてはタングステン光( RIFA-T )が良かったのですが、熱くなりすぎたり光量を変化させることができなかったりとやや扱いづらいので、色温度を変えられる LED( Aputure LS 300X )を選びます。

パターン1

210906_19_R

ひとつめは上のパターンです。メイクさんに、色味がよくわかるように目元にグリーンとイエローを入れてもらいました。エキゾチックな雰囲気だったので、それに合った、顔に少し影が落ちる大人っぽいライティングにしたいと考えました。具体的には、向かって右斜め上から 150cm のオクタボックス(グリッド付き)をつけたストロボを照射しました。

ここで、露出計の登場です。今回はセコニックの L-858D を使いました。

顔の左右で 1.5 段の露出差をつけ、ゆるやかな陰影感が出るようにし、背景は基準から4段落として濃いグレーにしたいと思いました。

そこで、露出計(入射光式で測定しました)で各ポイントを測定し、
シャッタースピード1/125、ISO100 のとき
向かって右の頬中央 F5.6 0(基準)
向かって左の頬中央 F2.8 5( 右の頬に比べて -1.5 段 )
背景 F1.4 0( 右の頬に比べて-4段 )
というバランスになるようにしました。

次に、カラーメーターの出番です。ストロボの色温度を測定し、カメラ側のホワイトバランスをそれに合わせます。測定したところ「 5800K 」だったので、カメラ側も 5800K に合わせました。

肌の色もメイクの色もきちんと出た一枚になりました。

パターン2

210906_101_R

次は、同じメイクのままライティングを変えてみます。モデルさんから艶っぽさを感じたので、それを表現するようなライティングを考えてみました。

向かって右斜め後ろから強めのハイライトを入れ、手前は表情が見えるギリギリまで暗く落とし、背景は真っ暗にして妖しい感じを出したいと思いました。右斜め後ろからのハイライトは LED で、手前は先ほどと同じセットのストロボで起こすことにしました。

露出計で各ポイントを測定し、
シャッタースピード1/125、ISO100 のとき
ハイライト部 F8.0 0
向かって右頬の中央 F1.4 2
背景 Under
というバランスになるようにしました。
撮影時の絞りは F2.8 。

次に、カラーメーターの出番です。ストロボの色温度は「 5800K 」でした。LED も、それに合うように 5800K に設定します。結果、2つの異なるライトが混在していますが、ホワイトバランスの整った写真に仕上がりました。

パターン3

210906_131_R

メイクチェンジをして、今度は個性的なメイクにしてもらいました。トリッキーで違和感のある光が合いそうだと感じたので、それを表現するようなライティングを考えてみました。

顔の中央部にやや明るめのハイライトの帯が入るようにし、そのほかのモデルのパーツはうっすら見えるくらいまで落とし、逆に背景は真っ白に飛ばそうと思いました。顔の中央部に入るハイライトは LED( 光の範囲を狭めるスポットを付けています )で、手前と背景はストロボでライティングしました。

露出計で各ポイントを測定し、
シャッタースピード1/125、ISO400 のとき
顔中心のハイライト部 F5.6 0
モデルのシャドウ部 F1.4 2
背景 F8.0 0
というバランスになるようにしました。
撮影時の絞りは F3.5 。

次に、カラーメーターの出番です。ストロボの色温度は「 5800K 」でした。LED も、それに合うように 5800K に設定します。結果、2つの異なるライトが混在していますが、ホワイトバランスの整った写真に仕上がりました。

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5.まとめ

カラーメーターと露出計を活用すると、ライト選びから撮影まで、より正確に、かつスムーズに進めることができます。日頃「ちゃんと色がでないなー」とか「ライティングがいつも決まらないなー」と悩まれている方は、ぜひカラーメーターと露出計を導入してみてください!見違えるほどに、光の色と量をコントロールできるようになりますよ。

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著者について
■ 大村 祐里子 - Yuriko Omura - ■ 1983 年 東京都生まれ 写真家( 有限会社ハーベストタイム所属 )  雑誌、書籍、アーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動中。『写ガール』にて「読書感想写真」、CAMERA fanにて「SHUTTER GIRL WORLD」連載中。http://shutter-girl.jp/