武石修のレンズレビュー サムヤンAF 35mm F1.8 FE
Photo : Osamu Takeishi
TOPIX
2021 年最初の更新は、武石修のレンズレビューです。今回は昨年 11 月に国内発売された サムヤン AF 35mm F1.8 FE をレビューします。コストパフォーマンスに優れていると評判の機種ですが武石氏はどのような評価をしたのでしょうか? by 編集部 |
Index
1.小型軽量の35mm レンズ
今回は 2020 年 11 月から国内に登場したサムヤンの広角単焦点レンズ「 AF 35mm F1.8 FE 」を紹介する。ソニーEマウント用の 35mm フルサイズ対応レンズで、実勢価格は税込 49,800 円前後( 2021 年 1月現在、当社調べ )。
35mm レンズと言えば一応は広角レンズの部類に入るのだろうが、昨今は 50mm レンズに対して少し広めの標準レンズといったイメージとなっている。
この焦点距離はスナップを始め、人物や風景など幅広い撮影で活用できることから、単焦点レンズの中では 50mm とともに広く使われている。昨今は各社から 35mm レンズの投入が相次いでいて、ユーザーから見れば選択肢が多くて迷うほどだ。
35mm の単焦点レンズは、大きくは F1.4 前後の高級タイプと、F2 前後の普及タイプに分かれる。前者は各社とも最高性能をつぎ込んだもので、大きく高価である。一方後者は小型で安価なため買いやすく、こちらの人気も高い。
2.「軽い」と「安い」が揃ったレンズ
サムヤンでは、フルサイズEマウント用の小型モデルとして「 AF 45mm F1.8 FE 」や「 AF 75mm F1.8 FE 」をリリース済みだ。そこに今回、35mm レンズが加わったという形になる。
今回採り上げる AF 35mm F1.8 FE は、小型軽量に軸足を置いた普及モデルだ。サイズは 63.5 × 65mm で、フィルター径が58mm。重さはわずか 235g で、α7 IIIに装着したところではあまり重みも感じないレベルだ。これが本レンズの大きな魅力と言える。
ところで、純正でも同じスペックの「 FE 35mm F1.8 」がある。こちらはサイズが 65.6 x 73 mm で、フィルター経が 55mm。重量が 280g となっている。数字の上ではサムヤンのほうが小型で、重さもだいぶ軽いのがわかる。
ソニーのレンズはカメラ内での正確な光学補正や、現像ソフトでのプロファイル補正に対応している点で純正ならではのメリットがある。AF 35mm F1.8 FE は、執筆時点ではプロファイルが公開されておらず Lightroom などで補正する際は、歪曲収差や周辺減光をマニュアルで調整しなければならない点には注意したい。
それでも AF 35mm F1.8 FE は、純正品に比べると 22,000 円ほど安い実勢価格となっている。この魅力的な価格も本レンズを選ぶ理由になるだろう。ちなみに、シグマから登場した「 35mm F2 DG DN 」も価格は純正品に近い水準になる模様だ。
3.独自の機能も搭載
AF 35mm F1.8 FE は安価とは言っても、レンズ構成は8群10 枚で非球面レンズや高屈折率レンズを各2枚使うなど、それなりの物量が投入されている。また絞り羽根は純正品と同じく9枚で、絞ってもある程度玉ボケを円形にできるようになっている。なお、最短撮影距離は 0.29m 。純正品が 0.22m なので、それより少し長いのは残念なところ。
AF モーターは STM ということで、動画撮影時もスムーズなピント移動ができていた。もちろん静止画撮影時もキビキビと合焦する。α7 IIIで試したところでは、すべてのフォーカスモードとフォーカスエリアが選択可能だった。顔認識と瞳AF も問題なく動作していた。
面白いのは、カスタマイズスイッチという独自機能が装備されていて、フォーカスリングを絞りリングやそのほかの機能としても使えるように切り替えられることだ。クリックストップが無いので静止画撮影では使いにくいかもしれないが、動画撮影で滑らかに(といっても 1/3 段刻みだが)絞りを動かしたいときに重宝しそうだ。
鏡胴の作りも普及版の単焦点レンズとしては不足の無いもので、幅広のフォーカスリングも使いやすかった。花形のフードが付属している。
4.作品による評価
AF 35mm F1.8 FE をα7 IIIに装着して撮影した作品を見ていく。写真はすべて撮って出しの JPEG。カメラのレンズ補正はすべてオフにした。
ご注意
写真の 実画像 の文字をクリックすると、カメラで撮影した実画像が別タブで表示されます。ファイルサイズが大きいのでモバイル端末での表示にご注意ください。文中のサムネイル画像をクリックすると、リサイズされた画像がポップアップ表示されます。
F8 に絞り込んで解像力を見た。中心部はもちろんだが、画面の周辺までしっかり解像していることがわかった。
歪曲収差は軽い樽型といったところ。絞り開放付近では周辺減光がかなり目立っていた。
大口径の F1.4 タイプほどではないが、絞り開放ではそれなりに背景をぼかすことができる。
絞りを開放にして、敢えて周辺減光を発生させてみた。こうしたドラマチックな描写ができるので、周辺減光も一概にデメリットとも言えない。
夕日を入れた逆光のシーンだが、ゴーストなどは見られなかった。絞り開放で被写体に近づいたので、それなりに大きな玉ボケとなっている。目立つほどではないが、玉ボケには年輪模様が少々出ていた。
モノクロにおいては階調性も問題なく、ボケの雰囲気と相まってとても良い描写だった。
ほぼ最短撮影距離からの1枚。近接でも描写が甘くなることはなく、カッチリとしていて心強い。ボケの感じもよく、テーブルフォトにもおすすめできる。
等倍で見ると、自転車のタイヤのディテールなどが克明に捉えられていた。絞り開放から十分な解像力があるということだ。
少し絞ったF2.5だが、やはりボケが自然でまとまりが良い。
木の枝1本1本までくっきりと写っており、優秀な描写力と言えそうだ。
人物のシルエットを前ボケにしてみた。溶けるような輪郭で、筆者的には好ましいと感じている。
F2.8 まで絞ったところの玉ボケだが、割と丸形が維持されていて9枚絞りの効果があるようだ。
画角やボケ味などモノクロと相性も良いようで、積極的にモノクロでも撮りたくなるレンズだった。
5.総評
スペックに対して価格を売りにしたところもあると思うが、絞り開放から切れのある描写であり、絞り込めば風景撮影などでもかなりの描写力が期待できそうだと感じた。解像力に文句がない反面、周辺減光といった部分をどう考えるかだが、それでも全体的にコストパフォーマンスは高いと思う。
なにしろものすごく軽いので、カメラにレンズが付いている感覚を忘れるほどだ。それだけに機動力が重要なスナップ撮影にはもってこいで、実際一日中付けて歩いていても全く重さが苦になることはなかった。
例えばだが、ズームレンズをメインに使っている人なら、本レンズを加えてみるとボケを生かしグッと表現の幅が広がるのではないだろうか。あるいは35mm の単焦点レンズをまだ持っていないならその入門にちょうどよいということもできそうだ。
もちろん、これ1本だけで撮影してまわるというのも面白い使い方だと思うので、ぜひ ” 35mm 一本勝負” にもチャレンジしてみてほしい。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
武石修