鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真撮影講座
第12回 鉄道スナップ写真の撮り方
TOPIX
鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・遠藤真人の鉄道写真講座の12 回目は鉄道スナップ写真の撮り方解説です。今回の鉄道スナップの考え方は他のジャンルの撮影にも活かせる内容となっております。ぜひ、ご覧ください。 by 編集部 |
みなさまこんにちは!鉄道写真家の遠藤真人です。昨年の 11 月から始まったこちらの連載もおかげさまで1年を向かえました。これも日頃より記事をお読みいただいている皆さまのおかげです。ありがとうございます。これからも引き続きご愛読いただけると幸いです。
1.鉄道情景とスナップ写真
他の撮影分野と同じように、鉄道にもスナップ撮影が存在します。今回は鉄道をテーマとしたスナップ撮影の例をご紹介します。
まず始めに「スナップ」という言葉は、射撃用語に由来します。その意味は銃を構えると同時に撃つという意味があります。かつて、カメラが大型の装置から、ライカなどの小型カメラへと移行した時に流行した言葉であり、撮影技法でもあります。日本の写真史においては、木村伊兵衛がこのスナップ撮影の草分け的な存在と言われています。彼の写真のファンは多く、伝説的な写真家として、今なお語り継がれています。それほどまでに、スナップ撮影の分野は確立されている分野です。
またスナップ撮影は、ありとあらゆる空間や場所で成立するジャンルです。そのため、偶然の産物か、写真史の偉人によって捉えられた鉄道写真も多いのです。
例えば、仏の写真家 アンリ・カルティエ=ブレッソンが捉えた「サンラザール駅裏」や、かの有名な写真家集団 ” マグナム ” の正会員であったユージン・スミスの作品群の中には、日本の風土の中を走る蒸気機関車を捉えた作品も存在しています。いずれも鉄道愛好家とは全く異なった視点の作品です。今後このような写真作品を見ることができる機会があれば、ぜひ見ていただきたい名作達です。
写真界で鉄道のジャンルは、特殊な世界として扱われがちです。しかしながら、写真の歴史と照らしあわせると、鉄道情景が題材となったスナップ撮影は案外に多いのです。そのような意味も含めて、鉄道スナップ写真は鉄道ファン以外にも馴染みが深い分野なのです。
2.乗り鉄と最高のマッチング!
スナップ撮影の真骨頂といえば、街角スナップが最もポピュラーな撮影空間です。それでは鉄道に置き換えた場合、どの場面がその空間に相当するのでしょうか。
もちろんスナップは場所を問わず撮影できますが、最もおすすめの場所は駅と列車の中です。特にローカル線では、これらの空間で撮影されたスナップ写真に人気があります。人情味や旅情を色濃く味わうことができる空間です。
また、地方の駅では桜や花壇など、季節感を意識させる写真も撮れます。そのような情景の中で、人の気配を感じさせるような写真が撮れると、鉄道スナップ写真としては最高かもしれません。
3.スナップのコツは機動力とレンズ
スナップ撮影では、最初に説明した通り「 俊敏さ 」と「 正確さ 」が必要です。” いいな ” と感じた瞬間に、写真が撮れる機材を選びたいところです。軽快さを追求する場合は、あえて小型のカメラを選ぶことも必要です。小さなミラーレス一眼か、コンパクトデジタルカメラ程度の大きさが、スナップにはベストです。
特に人物を入れたスナップ撮影では、小型のカメラの方が威圧感はなくオススメです。プロのモデルであれば、大きなカメラでも問題ありませんが、普通の人であれば大きなカメラは脅威となる可能性も高いです。大きなカメラしか持っていない人には、小型カメラの購入を強くオススメします。また、人物が写り込む写真では、撮影の前に十分なコミュニケーションをとることも必要な能力です。
4.こだわりの撮影機材を決めましょう
撮影ではカメラディスタンスが重要です。カメラディスタンスとは、カメラからピントを合わせた被写体までの物理的な距離ことを指します。スナップ撮影ではこの距離が近いほど、被写体との心理的な親密さを暗にあわらします。昔からの定説でもありますが、やはり標準系のレンズを使いこなせるかどうか、がスナップ撮影での基本技術になります。愛好家の中には、単焦点の標準レンズをメーカー別に何本も持っている人がいるほどです。
普段撮影している機材は、ズームレンズが基本という方が多いと思います。鉄道写真においては、単焦点レンズより圧倒的にズームレンズが多く見受けられます。機材はそのままでも大丈夫ですが、あえてズーム機能を使わずに、50 mm や35 mm のままで撮影に挑んでみましょう。そうすればスナップ撮影の技術が身につくはずです。
もちろん望遠側を使用して、画面内で被写体を大きく捉えることも悪くありません。ですが、先にも書いた通りでスナップ撮影は被写体との距離感をいかに表現するかが勝負になります。ここがスナップ撮影の醍醐味とも言われています。自分が動いて、足で稼いで撮影することが重要です。感覚が身についたならば、次のステップとして自分の撮影スタイルにこだわりを持ちましょう。例えば、撮影には 50 mm のPlanar、35 mm は Distagon を使うなど機材を選んで行きましょう。そうするとスナップ撮影の世界がより深く広がってゆきます。
5.近年のスナップ事情
最後に今後のスナップ撮影に大きく関わるであろう、2つのニュースをご紹介します。どちらもこれからの時代に大きく関わる情報です。撮影者自身がトラブルを起こさない、巻き込まれないため、にも知っておいて損はないはずです。いずれも 2019 年に報道された内容です。
▽「 鎌倉市公共の場所におけるマナー向上について 」( 鎌倉市ホームページより )
“ 本市の公共の場所におけるマナーの向上による良好な環境の保全及び快適な生活環境を保持することを目的として、基本理念等必要な事項を定める「鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例」が制定されました。(平成 31 年 3 月25 日公布・4 月1 日施行)”̶ https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kankou/mannerruleshead.html
有名観光地を数多く有する鎌倉市では、このような条例が制定されました。内容をかいつまんで言えば、観光客や地域住民など関わる人の全員が気持ち良く過ごせるように、公共の場所ではよく考えて行動しましょう。といった趣旨です。訪日外国人客が増え続ける背景もあると思われます。資料の内容には、写真撮影に関しても言及されています。撮影禁止とまで言われていませんが、撮影者の常識と良識を持った行動が期待されています。
▽ 中国「街角スナップの聖地」成都・太古里が「撮影禁止に」(2019/7/24報道)
こちらの情報元は中国・四川省の現地メディアです。鎌倉市の場合と大きく違う点は「 撮影禁止 」ということです。ただし事前に許可が得られれば、撮影可能のようです。この「 撮影禁止 」に至った背景には、市民のプライバシー保護を優先した結果だそうです。撮影者に著作権があるのと同じように、撮られる側にも肖像権があります。もしスナップ撮影で良い場面を見つけた時は、相手と十分にコミュニケーションをとりつつ良い雰囲気を作り出すことがトラブルを避ける鍵となります。
6.次回予告
いかがでしたでしょうか。
ここで鉄道スナップ写真のお話は終了です。お付き合いいただきありがとうございました。次回からは被写体別のテーマでお届けします。最初のテーマは蒸気機関車の撮り方です。ぜひご期待ください!
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
遠藤真人