武石修のレンズレビュー
シグマ 65mm F2 DG DN | Contemporary ポートレート編
Model:玉樹るい Photo : Osamu Takeishi
TOPIX
今回の武石修のレンズレビューは、シグマ 65mm F2 DG DN | Contemporary をポートレートでレビューする。 本レンズはソニーミラーレス一眼 Eマウント対応で2020 年12 月に発売開始された。今回のモデルはフリーランスモデルとして活躍中の玉樹るい さんにお願いした。それではお楽しみください。 by 編集部 |
Index
1.ミラーレスカメラに最適化した中望遠レンズ
今回取り上げるのは、2020 年 12 月に発売された単焦点レンズ「 65mm F2 DG DN | Contemporary 」だ。35mm フルサイズに対応しており、ソニーEマウント用とライカLマウント用がラインナップされている。実勢価格は税込 88,000 円前後( 2021年 3月現在、当社調べ )。
シグマが Contemporary のなかでの新しいレンズシリーズとしてリリースしている「Iシリーズ」の1本だ。Iシリーズはミラーレスカメラ専用設計にするとこで、様々なメリットを打ち出した製品となっている。Iシリーズとしては他に「 24mm F3.5 DG DN | Contemporary 」「 35mm F2 DG DN | Contemporary 」「 45mm F2.8 DG DN | Contemporary 」の3本がある。
まずミラーレスカメラに最適化したことで、小型でありながら高画質を実現している。明るさがF2と抑えられてはいるが、一眼レフカメラよりも小型になったミラーレスカメラにベストマッチといったサイズ感になった。作例を見れば分かる通り、とても切れのある描写といえる。
本レンズにおいては、交換レンズとしては珍しい 65mm という焦点距離にも注目したい。50mm よりも長いのでボケがその分大きくなり、ポートレートにはうってつけのレンズに感じた。85mm も人気だが、画角が狭まってしまうので、それよりも少し広めの構図を作ることができ、人物撮影用として一種の万能感がある。
2.作り込みの素晴らしさ
レンズ構成は9 群 12 枚。最短撮影距離は 55mm 。絞り羽根は9枚の円形絞り。フィルター経は 62mm 。外寸は 72 × 76.7mm(Eマウント)で、重量は 405g 。
Iシリーズは全体的に直線を基調とした端正なデザインで、なかなかにかっこよい。鏡胴は金属製で素晴らしいビルドクォリティを持っている。フォーカスリングや絞りリングの感触は申し分ない。絞りリングは 1/3 段にクリックストップがあり、Aポジションにしておくとカメラ側で絞り値を設定できる。
今回は Eマウント版をソニーα7 III に装着して試用した。フォーカスモードやフォーカスエリアは全て使用可能で、顔認識や瞳AF も対応していた。ほとんどのシーンで瞳AF で撮影したが、捕捉や精度とも問題なかった。
カメラのレンズ補正にも対応しており、周辺光量、倍率色収差、歪曲収差が補正できる。今回はオートに設定して補正が有効な状態で撮影した。なお歪曲収差を補正しないと、糸巻き型の収差が見て取れた。
画質は絞り開放から素晴らしく、絞り込んでもさほど変化がない。輪郭の色づきなどもなく、画質に対する不安は特に感じられなかった。
最初、開放が F2 ということでボケの量が少ないのではないかと心配した。しかし、標準レンズに比べれば長めの焦点距離とあって、必要十分なボケ量を確保できた。
3.作品による評価
α7 III に装着して撮影した作品を見ていく。写真は RAW で記録し、Adobe Lightroom Classic で現像している。カメラのレンズ補正はすべて ON にしており、現像時もそれが有効になっている。
ご注意
写真の 実画像 の文字をクリックすると、カメラで撮影した実画像が別タブで表示されます。ファイルサイズが大きいのでモバイル端末での表示にご注意ください。文中のサムネイル画像をクリックすると、リサイズされた画像がポップアップ表示されます。
絞り開放でのバストアップ。瞳部分の解像力は文句なし。玉ボケも年輪模様などがなく、理想に近い形状だ。
こちらは F5.6 まで絞り込んだショット。ポートレートとしては、ちょっと写りすぎかというくらいの描写力だ。レンズ補正が効いているので、歪曲や周辺減光はほとんど感じられない。
心配されたボケの量の少なさは杞憂だった。ウエストアップでも F2 で十分背景をボカすことができた。
「写真3」と同じ場所でカメラを上に向けて太陽を入れ、逆光のシーンを作った。目立ったゴーストやフレアは出ていない。少しコントラストが低下しているが、ポートレートでは好ましい雰囲気作りに一役買う。
絞り開放で引き気味に撮ったショット。この人物サイズでも、背景に抜けがあれば十分ボカせる。
背景をボカしすぎないよう、1段絞ってみた。前ボケの植物は結構ボケており、良い雰囲気になったと思う。
前ボケ、後ボケを活用して少しハイキーに撮影した。65mmは、ボケを入れ込んだウエストショットやバストアップで特に使いやすい焦点距離だった。
敢えて植物がごちゃごちゃしているシーンを狙う。被写体から数メートル離れているが、前後ともうまい具合にボケてくれた。
本来ここまで絞るシーンでもないが、試しに F8 まで絞り込んでみた。開放側ではわからなかった服やアクセサリーのディテールがくっきり写った。
本レンズはコントラスト再現も優秀。背景のシャドウ部のしっかりとした沈み込みがあり、モデルを目立たせることができた。
日が落ちてからのショットをモノクロにした。こちらも画面内にかなりの輝度差が存在しているが、そつなく再現できている。
最短撮影距離( 55cm )付近で撮影。65mm はアップの撮影にも重宝する。ボケ領域への移行もなだらかだ。
瞳AFの効きを見るために、動いてもらいながら連写で撮影した。合焦は問題なかった。
4.総評
シグマといえば高画質を追求した Artラインがとりわけ高い評価を得ているが、大口径主義なところもあって、大きく重いレンズが多かった。そうした中で登場した Iシリーズは、まさにミラーレスカメラにピッタリのサイズ感なのが嬉しい。
筆者の場合、こうしたスナップポートレートでは歩きながら撮影場所を見つけては撮る、という流れを繰り返す。その際やはり機動力は重要で、機材はできるだけ軽くコンパクトに収めたい。Iシリーズなら複数本持って歩いてもさほど重くないのは大きなメリットだ。
他方で Artラインの存在感が大きいだけに、Iシリーズはともすると ” お手軽レンズ ” と思われるかも知れない。しかし、さにあらず。描写力はかなり高く F1.4 などの絞り値が必要なければ、Iシリーズでも性能に不足なしと思わせるものだった。Artラインに比べて価格も抑えられているので、これから単焦点レンズに挑戦してみたい人の入門としても使いやすいと思う。
■ 制作・著作 ■
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玉樹るい