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夜景写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座
第8回:光跡夜景の撮り方

Posted On 2015 6月 23
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Photo : Takuya Iwasaki

TOPIX

夜景写真家・岩崎拓哉の夜景写真撮影講座も第8回目となりました。最近は岩崎氏のテレビ出演の機会も増えてきました。ご活躍、喜ばしい限りです。さて、今回は夜景写真でも人気の「 光跡 」の撮り方について解説いただきました。光跡のシャッタースピードによる絵の変化も、ぜひ参考にしてください。 by 編集部

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6月に入り梅雨が本格化しましたが、今年は意外と晴れもようが続いているように感じます。私は前回の記事執筆後から月の半分は静岡に出向いて梅雨入り前の夜景撮影を楽しんできました。この時期は天候が不安定で、特に富士山のシルエットを入れる夜景撮影は普段よりも一苦労。今回は夜景撮影ジャンルの中で人気の高い光跡の撮影テクニックについて解説します。静岡で撮影した夜景写真も作例として豊富に用意しました。

写真1 日本製紙 富士工場と車の光跡

日本製紙 富士工場と車の光跡

[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:EF16-35mm F4L IS USM / 焦点距離:20mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:13秒 / 絞り数値:F8.0 / ISO感度:320 ]
工場夜景ブームで話題の静岡県富士市。製紙工場に車の光跡を入れて撮影。車の通行量が多い場所なので、光跡が撮りやすい。

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■光跡撮影の基本

光跡撮影は最近の夜景撮影スタイルの中でも特に人気があり、屋形船の光を取り込んだり、車のヘッドライトやテールランプを写し込んで写真にアクセントを加えるようなシチュエーションが多くの写真愛好家を魅了しています。光跡の撮影は一般的な夜景撮影とテクニック的に大きな違いはありませんが、以下の4点は押さえておきたいところです。

写真2 カメラの設定

カメラの撮影モード

光跡の撮影は花火の撮影に似ている部分も。シャッター速度の長さを自身で設定することが重要。写真は「マニュアル露出(M)」に設定した例。

(1)三脚でカメラを固定する

光跡は長秒時露光が必須となるため、手持ち撮影は困難。安定した三脚を必ず用意したい。道路を見下ろせるような場所はフェンスが高いところが多いので、全高2m前後の中~大型三脚が必要になることも。

(2)撮影モードは「マニュアル露出」または「シャッター速度優先」

シャッター速度を好みの秒数に設定する必要があります。夜景撮影に慣れている方であればマニュアル露出がおすすめ。

(3)レリーズを使う

光跡撮影はタイミングが重要。セルフタイマーだとベストタイミングを逃す可能性があるので、利リモコンレリーズは必ず用意したいところ。

(4)ISO感度を低めに設定

露出時間をできるだけ長くするために、ISO感度は100~400ぐらいが目安。

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■光跡の有無を比較

まず、光跡の無い夜景写真と、光跡を入れた夜景写真を比較してみましょう。撮影場所は静岡県富士市の日本製紙・富士工場の付近になります。車が両方向から頻繁に来るため、テールランプを入れるパターンとヘッドライトを入れるパターンが撮影できます。(下記2点の写真は同一の設定で撮影)

写真3 光跡なし

日本製紙 富士工場(光跡なし)
[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:EF16-35mm F4L IS USM / 焦点距離:20.0mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:13秒 / 絞り数値:F8.0 / ISO感度:320 ]

工場のタンクを中心に撮影した写真ですが、手前の道路が真っ暗で少々寂しい感じがします。この構図で作品として撮るなら、せめて露出時間を長くして全体を明るく撮りたいところ。

写真4 光跡あり

日本製紙 富士工場(光跡あり)
[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:EF16-35mm F4L IS USM / 焦点距離:20.0mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:13秒 / 絞り数値:F8.0 / ISO感度:320 ]

車のテールランプを写し込みました。ヘッドライトの光跡は入っていませんが、ヘッドライトから照らされる光が道路を照らしており、道路の輪郭も綺麗に写っています。

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■光跡の最適なシャッター速度

光跡を入れるとき、適正なシャッター速度を見極める必要があります。今回は高速道路を見下ろせる場所での作例になりますが、目安として10秒以上のシャッター速度だと光跡が綺麗に撮れました。車の通行量が少ない場所や速度が遅い場合は、よりシャッター速度を長くする必要があります。以下の作例は2段絞り分ずつシャッター速度を変化させています。

(1)1/15秒

写真5

高速道路の光跡(1/15秒露出)

手持ち撮影ができるぐらいのシャッター速度で撮影。車が静止状態に近い状態で、光跡とはほと遠い写真となった。

(2)1/4秒

写真6

高速道路の光跡(1/4秒露出)

車の輪郭がぼけてきたが、まだ光跡とは言いづらい。

(3)1秒

写真7

高速道路の光跡(1秒露出)

ようやく光跡が写るようになったが、光が繋がっておらず、中途半端感が否めない。

(4)4秒

写真8

高速道路の光跡(4秒露出)

部分的に光跡が繋がっているが、一部光跡が切れている場所もある。もう少しシャッター速度を長くしたい。

(5)15秒

写真9

高速道路の光跡(15秒露出)

15秒も開けると光跡が完全に繋がって、理想の1枚が撮れた。

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■光跡の種類別撮影テクニック

ここまで車のライトを例にした光跡の作例を紹介してきましたが、光跡には大きく4つの種類(車・電車・飛行機・船)があり、車+電車など複数の光跡を組み合わせて撮れる場所もあります。

(1)車
光跡の中で最もスタンダード。通行量の多い道路を遠くから撮影するようなシチュエーションであれば、初心者でも撮影しやすい。道路との距離が遠くなるほどシャッター速度は長めに設定したい。

写真10 勘助坂(静岡県富士市)

勘助坂・新東名高速道路

[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:EF24-105mm F4L IS USM / 焦点距離:55mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:30秒 / 絞り数値:F9.0 / ISO感度:100 ]

(2)電車
俯瞰系の夜景スポットでの撮影がメインだが、線路の付近で撮影ポイントを探すのも面白い。下の写真は工場夜景スポットで、じっくりと電車を待ちながら撮影した。電車は数秒で通り過ぎることが多いため、シャッター速度をやみくもに長くすれ良いわけではない。8秒~15秒ぐらいが目安。電車の光跡を明るく見せるならISO感度は気持ち高めの設定が良いだろう。

写真11 大興製紙とJR東海道線(静岡県富士市)

大興製紙とJR東海道線

[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:SIGMA 50mm F1.4 DG HSM / 焦点距離:50mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:13秒 / 絞り数値:F8.0 / ISO感度:400 ]

(3)飛行機
撮影場所が空港付近など限られるが、飛行機の光跡だけでなく、空港や街明かりも一緒に入れた方が絵になる。多重露光で多くの光跡を入れても面白いだろう。

写真12 さくらの山公園(千葉県成田市)

成田空港ターミナルビルと飛行機の光跡
[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM / 焦点距離:70mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:10秒 / 絞り数値:F8.0 / ISO感度:200 ]

(4)船
都心では隅田川で屋形船の光跡を撮影するのが流行っているが、川崎の工場夜景スポットだとタイミング次第だが、工場とクルーズ船の光跡夜景が撮れることも。船は全体的に動きが遅いので、シャッター速度の目安は20~30秒ぐらい。

写真13 大川緑地(神奈川県川崎市)

工場とクルーズ船の光跡

[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:EF16-35mm F4L IS USM / 焦点距離:20.0mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:30秒 / 絞り数値:F10 / ISO感度:200 ]

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■今月のお勧め夜景スポット「薩捶峠」

古くから旅人が行き交い、かつては箱根峠などと並んで難所とされた場所。東海道由比宿と興津宿の間にあり、東名高速・国道1号・東海道本線の光跡を撮影できる有名スポット。天気が良ければ富士山のシルエットも写真に写せる。日没後のトワイライトタイムがおすすめ。駐車場からは暗い道を数分歩くため、懐中電灯を忘れず。

薩捶峠
所在地:静岡市清水区由比西倉澤
アクセス:清水ICを降りて国道1号線経由。興津側トイレの入口まで約30分
料金:無料
URL:薩捶峠の夜景スポット情報

写真14 三本の光跡

薩捶峠

[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:EF16-35mm F4L IS USM / 焦点距離:35mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:20秒 / 絞り数値:F8.0 / ISO感度:200 ]
東名高速道路と国道1号線は交通量が多いため、光跡の撮影は難しくないが、JR東海道線の光跡はタイミングが重要。気象条件には恵まれたものの、富士山が雲で隠れていたのが惜しいところ。

著者について
■ 夜景写真家 岩崎 拓哉 ■1980年生まれ。大阪府出身、神奈川県在住。法政大学経済学部卒。 2003年より夜景写真家を志し、日本全国や海外で夜景を撮影。 Webエンジニアの経験も活かし、「夜景INFO」などの夜景専門サイトを立ち上げる。カメラ雑誌の原稿執筆、夜景撮影の講師経験も豊富。総合・国内旅行業務取扱管理者の資格も持つ。 著書に「プロが教える夜景写真 撮影スポット&テクニック(日経ナショナルジオグラフィック社)」「夕景・夜景撮影の教科書(技術評論社)」。