夜景写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座
第35回 夕景撮影入門
Photo : Takuya Iwasaki
TOPIX
さわやかな秋晴れとはほど遠い、不順な天候が続く東京の10月です。今月の「 夜景写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座 」は少しだけ夜景撮影から離れ、そんな秋晴れがとても待ち遠しくなる「 夕景撮影 」をテーマにいたしました。それではお楽しみください。 by 編集部 |
10月に入ってから急に肌寒くなり、冬のような寒さです。東京では梅雨のような雨模様が続いており、夜景撮影を我慢している人も多いのではないでしょうか。これから全国的に夜景撮影シーズンとなりますが、今月はいつもとテーマを変えて「 夕景 」の撮影テクニックを解説したいと思います。夜景と似ているようで全く異なる、夕景撮影固有の気象条件なども合わせて解説します。
写真1 多摩湖と夕日
■夕景撮影が夜景撮影より難易度が高い理由
夕日は天気が晴れてさえいれば、どこからでもきれいに見えるイメージがありますが、撮影となると難易度が上がります。太陽は西向きに沈みますが、沈む前の数十分間が最もきれいなオレンジ色の空になります。ただ、いくら天気予報が「 晴れ 」でも西向きに大きな雲があったら夕日は全く見えず、その日は撮影は断念することになります。夜景は雨さえ降っていなければ多少なり空気が霞んでいても撮影自体はできますが、夕景は天気やタイミングに対して極めてシビアです。そのため、きれいな夕景を撮るには気象条件の見極めが夜景以上に重要だと言えます。
写真2 【失敗】西向きに雲が広がって夕日が見えず
写真3 【成功】雲の間からなんとか夕日が見えた
(1)西向きの雲模様でほぼ勝負が決まる
どんなに空気が澄んでいて、日中が快晴であっても西に大きな雲があれば撮影はできない。ライブカメラなどで西向きの映像を確認するか、なるべく高い場所に上がって明るいうちに西向きの雲模様をチェックする必要がある。
(2)太陽が沈む位置が時期によって変わる
太陽は夏至と冬至では沈む向きが最大で60度ぐらい変わる。撮影する場所によっては陸地や山に太陽が沈むことがあり、時期が限られてしまう撮影スポットも少なくない。予め「 日の出日の入時刻方角マップ 」などで太陽が沈む向きを確認すると良い。
(3)周囲の景観が整った場所が多くない
夕日は特別な場所に行かなくてもどこでも見えるように思えるが、写真として撮るとなると周囲の景観も重要になる。見晴らしの良い高台や海辺などが撮影スポットになるが、これらの場所は意外と身近になかったりする。都心であればビルの展望室などに上がるのが最も簡単。
(4)夕景スポットの情報が少ない
夜景や風景のきれいな場所はインターネットや雑誌でよく公開されているが、夕日や夕焼けのきれいな場所は意外とまとまっていない。ネットで情報を見つけても、夕日の沈む向きが異なっていれば、現地に行ってみたら夕日が見えないことも多々あり、事前の情報収集が手間取る。
■夕景撮影の準備・カメラ設定
カメラの設定に関しては夜景も夕景も大きな違いは無いが、色味を決めるホワイトバランスは太陽光など赤みを強調する設定が基本。できるだけ三脚を使い、露出や構図を変えながら夕日が沈むまで撮影を楽しもう。夕日が沈んだ後に空がきれいに焼けることがあるので、日没後も時間があればその場に残って、しばらくは空の様子を確認しよう。
写真4 夕景の撮影風景
(1)日没の30~40分前には撮影に入る
日没はちょうど夕日が沈む時間だが、水平線に沈む夕日が見られるのは日本海側や太平洋側の海に近い場所に限られる。ほとんどの夕景スポットは陸地に沈んでいくので、陸地の高さも考慮すると日没の10~20分前には夕日が見えなくなってしまう。夕日が見える時間帯を狙うなら一般的に日没から30~40分前が勝負。日没の1時間前ぐらいに到着して入念に準備しておくと安心。
(2)手持ちでも撮れるが、なるべく三脚を使う
日没前の夕日が見えている時間帯であればISO感度を下げてF11ぐらいまで絞っても数百分の1秒単位でシャッターが切れるため、手ブレの心配はまず無い。ただし、同じ構図で夕日の動きを連続で撮ったり、構図を安定させることを考えると三脚を使った方が無難。夕日が沈んだ後もそのままスムーズにトワイライトタイム・夜景撮影に移行できる。
(3)撮影モードは「絞り優先」がおすすめ
夕日の見える時間帯と日没後でもシャッター速度は大きく変化するため、絞り優先で光芒が気にならなければF8~11ぐらいに絞って、シャッター速度をカメラ任せにした方が撮影はスムーズ。
(4)露出は±0から-2を目安に複数枚撮る
夕焼け空をきれいに見せるならマイナス露出、景色全体をきれいに見せるなら±0で撮ることが多い。露出が変わるだけでも作品の雰囲気が大きく変わるので、同じ構図で露出を変えて3パターンぐらい撮っておくと安心。
(5)ホワイトバランスは「 太陽光 」や「 日陰 」が最適
WB設定は赤みを強める「 太陽光 」「 くもり 」「 日陰 」などがおすすめ。後からレタッチソフトで色味を調整することが多いので、RAWで撮影しておきたい。
写真5 ホワイトバランスの比較
■焦点距離を使い分ける
夕景を撮る時の焦点距離は夕日が見える時間であれば、夕日を主役にするか、景色全体を主役にするかで変わってきます。景色の一部に夕日を入れるのであれば、夕日に焦点距離を合わせる必要はありません。夕日を大きく写すには最低でも200mm以上の望遠レンズが必要と言えます。
写真6 焦点距離:16mm
写真7 焦点距離:35mm
写真8 焦点距離:70mm
写真9 焦点距離:135mm
写真10 焦点距離:300mm
■作例紹介(1)
東京スカイツリーと夕日を絡めて写すのは定番の構図。夕日が沈む位置によっては東京スカイツリーと夕日の串刺しが写せる。作例は荒川の土手から撮影した。
写真11 東京スカイツリーと夕日
■作例紹介(2)
三浦半島の南端にある観光名所。城ヶ島灯台の前にある海岸が夕景スポットとして人気。岩礁を太陽の両側に入れる構図がおすすめ。太陽は陸地に沈むので、望遠レンズより広角レンズでの撮影に適している。
写真12 城ヶ島からの夕日
■作例紹介(3)
横浜で数少ない夕日の名所「 川和富士公園 」からは名前の通り、天気が良ければ遠くに富士山も見える。訪問した日はあいにくの天気で太陽が雲に隠れてしまったが、しばらく根気よく待ち続けると空がきれいに焼けた。送電線をアクセントに入れて望遠寄りの画角で切り取った。
写真13 送電線と夕焼け空
■ 岩崎拓哉の夕景・夜景撮影 書籍出版のご案内 <PR>
「 夕景・夜景撮影の教科書 」
夕景・夜景の写真をきれいに撮るには、「気象」「場所」「機材」「技術」の4つのポイントが重要になります。本書は、この4つのポイントを軸に夕景・夜景撮影のための知識や撮影技術が学べる構成になっています。
■今月のお勧め夜景スポット「明治百年記念展望塔」
富津岬の最先端にあり、五葉松を模った珍しい形をした展望台からは東京湾を中心とした大パノラマが広がり、西向きに視界が開けているため、天気が良ければ夕日もきれいに見える。「関東の富士見百選」にも選定されており、空気が澄んでいる日であれば富士山も眺望できる。夜は街明かりが遠くて光量が少ないため、夜景撮影には不向き。
明治百年記念展望塔
営業時間:終日訪問可
所在地:千葉県富津市富津
アクセス:館山自動車道「木更津南IC」から車で約20分(駐車場あり)
料金:無料
写真14 展望台からの夕景