夜景写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座
第12回:夜景撮影とホワイトバランスの関係
TOPIX
秋も深まり、朝晩冷え込むことが多くなりました。さて、今回の写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座は、今までの夜景シーン別撮影より切り口を変え、「 夜景撮影とホワイトバランスの関係 」についてお届けいたします。夜景撮影シーズンの本番を前にご一読ください。 by 編集部 |
10月に入って日中は過ごしやすい気温になり、富士山は今月11日に初冠雪が降りました。そろそろ夜景撮影シーズンの到来となりますが、今月は改めて夜景撮影に重要なホワイトバランスについて振り返り、色温度の解説から適切なホワイトバランス設定について取り上げたいと思います。
■ホワイトバランス(WB)とは?
ホワイトバランスとは名前の通り「白い色の被写体を白く写すために色の補正を行う」を意味します。ホワイトバランスはデジタル一眼レフはもちろん、コンパクトデジカメやスマホまでほぼ全てのカメラに搭載されている機能で、スマホなどで手軽に写真を撮るユーザー以外は基本的に名前ぐらいは知っているはずです。ホワイトバランスの設定一覧を見てみると”太陽光”、”曇り”、”白熱電球”など複数の設定が見られますが、例えば”太陽光”を選択した場合は”太陽の日が当たっている場所で白い被写体を白く写す”ことができます。日中や屋内での撮影はホワイトバランスを各光源に合わせて設定を変えるだけで、見た目に近い写真を撮ることができるわけです。ロケーションごとに設定が面倒であれば、オートにすることで適正な調整をしてくれます。
写真2 晴天時の風景
■色温度について
ホワイトバランスの各設定には必ず”色温度”という数値が割り当てられています。色温度の単位はK(ケルビン)と呼ばれており、ケルビン値と呼ぶこともあります。色温度の数値は低いと赤みが強くなり、高いと青みが強くなります。最も対照的なのが赤みの強い白熱電球だと3200K程度、晴天の青空だと12000Kになります。日没前後の太陽光は3500K程度と言われており、同じ晴れの日でも太陽光と青空では全く異なった数値になります。
色温度のイメージ
■ホワイトバランスの主な種類
ホワイトバランスはメーカーやカメラの機種によっても異なりますが、一般的には「太陽光」「曇り」「白色蛍光灯」などはほぼ全てのカメラで選択できます。ここではCANON EOSシリーズを例に各ホワイトバランスの特徴を紹介します。
参考写真 ホワイトバランスの設定画面
(1)AUTO(3000~7000K)
カメラが被写体に合わせて最適な色温度を設定。昼夜を問わず見た目に近い色を出しやすい。
(2)太陽光(5200K)
全体的にやや赤みの強い色合いが特徴。夕日や西向きのトワイライトを撮る時に活用できる。
(3)日陰(7000K)
赤みが非常に強いので、日常的に使う頻度は少ない。工場夜景の熱気を演出するときに使うことも。
(4)曇り(6000K)
太陽光より赤みを足したいときに活用。夜景撮影にはやや中途半端感があり、使用頻度は低い。
(5)白熱電球(3200K)
暖色系の光源下で青みを足すため、全体的にクールな感じの色合いとなる。使用頻度は低い。
(6)白色蛍光灯(4000K)
夜景撮影で悩んだ時におすすめの設定。見た目に近く、クセの少ない色合いが出せる。
(7)色温度(2500~10000K)
色温度をユーザーが自由に変更できる。色温度の仕組みをわかっているユーザーにおすすめ。
■夜景撮影に最適なホワイトバランスは存在するのか?
ここまで色温度の意味とホワイトバランスの設定例について取り上げてきましたが、ここで一つの疑問が浮かび上がるはずです。それは”夜景撮影の場合、どのホワイトバランスにすればいいのか?”と多くの方が感じるはずです。結論から言えば、”夜景撮影において絶対的に正しいホワイトバランスは存在しない”のです。なぜなら、ホワイトバランスの設定一覧を見ての通り、まず太陽光の無い夜間の撮影は想定されていません。夜景は基本的に外の景色を撮ることになるので、電球や蛍光灯など様々な種類の照明が混じっています。つまりホワイトバランスは合わせようがないのです。ただ、夜景のジャンルによってはある程度の目安はあり、私の場合は”白色蛍光灯”が最も見た目に近い色が出るので、あらゆるシーンで多用しています。また、トワイライトタイムであれば太陽光に設定してみたり、工場夜景を撮る場合はクールな感じを出すために白熱電球や色温度を手動で設定することがあります。もし、ホワイトバランスに悩んだ場合は、いったん”オート”で撮影して、レタッチソフトで後からホワイトバランスを変更すると良いでしょう。ただし、撮影時はJPEGではなく必ずRAWで撮るようにしてください。
写真3 様々な照明の明かりが写り込む夜景写真
スマホカメラの色温度調整機能
■3つのシチュエーションによる作例
それでは具体的に夜景撮影で一般的な3つのシチュエーション別にホワイトバランスを設定して撮影しました。ここで紹介している作例が必ずしも正しいとは限りませんが、撮影する上で参考にしてください。
(1)一般的な俯瞰夜景(山や丘から見下ろす)
様々な色の光が混在する俯瞰夜景。当然、正しいホワイトバランスは存在しないが、白い光が多い場所だったので、”白色蛍光灯”に設定したら見た目と遜色の無い写真となった。
写真4 甲府盆地の大パノラマ(白色蛍光灯)
(2)トワイライトタイムの夜景(西向き)
夜景が最も美しい時間。方角によって空の色合いが変わり、太陽が沈む向きであれば太陽光に設定すると太陽の赤みがバランス良く表現できる。西向き以外の方向は白色蛍光灯や白熱電球で撮ると空がしぶい青色になり、グラデーションがより美しく感じられる。
写真5 夕暮れの富士山と市街地の明かり(太陽光)
(3)工場夜景
最もホワイトバランスに悩むシチュエーションが工場夜景だ。白色蛍光灯で撮れば見た目に近い色になるが、作品・芸術性が強い工場夜景は見た目と違った方がむしろ面白い。作例では2500Kまで色温度を下げてみたが、逆に色温度を8000~10000Kぐらいまで上げてみるのも面白いだろう。
写真6 石油コンビナートのプラント群(色温度:2500K)
■色温度の数値が低いと青くなるカラクリ
ここまでホワイトバランス・色温度について詳しく説明してきましたが、セミナーでホワイトバランスについて解説した時によく聞かれる質問があります。それは「カメラで色温度を手動で低くすると夜景写真が青くなるのはなぜですか?色温度は低いと赤くなると冒頭では聞いたのですが」と。私も色温度について勉強したとき、色が真逆になることに疑問を感じていたのですが、カメラのホワイトバランスは色温度が低い光(赤い色)を撮る場合、青い色を加えて赤と青を調和させて正しい白色を表現しているのです。そのため、色温度のことを知らないユーザーは”色温度が低い=青色”と勘違いしてしまうのです。例えばカー用品店などで、車のライトを見ているとパッケージにはたいてい7500K,10000Kなど色温度の表記があります。青い光が好みの人は数字が大きい方を選び、赤みの強い色が好みの人は数字が低い方を選びます。なので、夜景撮影で色温度を下げたときに写真が青く見えたら難しく考えず、”赤い色に青い色を加算している”と考えるようにしましょう。
■今月のお勧め夜景スポット「千鳥町」
川崎の工場夜景スポットで1位・2位を争う超人気スポット。週末に訪れるとほぼ必ずと言っていいほど三脚を持った写真愛好家で賑わっている。日本触媒のプラントや貨物の線路が特徴的で、様々なアングルで工場夜景を撮れる。ホワイトバランスもその場で変えながら撮影してみるのもおすすめ。ただし、線路内は立ち入り禁止なので注意したい。
所在地:神奈川県川崎市川崎区千鳥町
アクセス:千鳥町バス停から徒歩10分以内。川崎駅付近から車で20分程度。
料金:無料
URL:http://www.nightview.info/yakei/detail/chidoritown/
写真7 日本触媒のプラントと貨物の線路(色温度:8000K)