武石修のレンズレビュー
フォクトレンダーAPO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical ポートレート編
Model:玉樹るい Photo : Osamu Takeishi
TOPIX
Index
1.性能を極めた広角レンズ
今回は 2021年4月にコシナから発売された単焦点レンズ「 フォクトレンダーAPO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical 」を紹介する。ソニーEマウント用の 35mm フルサイズ対応レンズとなっており、実勢価格は税込 128,000 円前後( 2022年3月現在、当社調べ )。
焦点距離が 35mm の単焦点レンズは、スナップやポートレートなどで使いやすく人気がある。中でも今回のような開放 F2 のタイプは明るさを欲張らないぶん画質に優れ、小形軽量になることから昔から愛好者が多いことでも知られる。
今回採り上げる APO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical はコシナが「フォクトレンダー史上最高性能」と謳うレンズとなっている。特に画面中心付近で発生しやすい軸上色収差を抑える設計になっているとのこと。実際、作例を等倍で見ても確認できる軸上色収差は無かった。
それでいて本体は 62.6 × 67.3mm(最大径×全長)とコンパクトだ。重量は 352g で重量感はあるが、鏡胴やリング類が金属製のしっかりした作りのためだ。ピンとリングや絞りリングの操作感は非常に滑らかでがたつきなどは無く、レベルの高いもとなっていた。
なお、絞りリングはクリックストップのあり/なしを設定可能。動画撮影にも適している。
2.ソニーαボディで使いやすい仕様に
レンズ構成は9群11枚と贅沢な作り。名前の通り非球面レンズ2枚を採用している。最短撮影距離は0.35mと一般的なものだ。フィルター径は49mmとなる。
このレンズシリーズはソニーEマウント機専用の設計となっており、画質面はもちろんボディとの高い連携が可能となっている。EXIF 情報の伝達はもちろん、5軸ボディ内手ブレ補正やピントリングを回したときに自動的に拡大表示になるなど使い勝手がよい。カメラ内での光学補正も可能となっている。
また、例えば Adobe Lightroom Classicには本レンズ用のプロファイルが用意されているため、現像時に歪曲収差や周辺減光補正が自動で行える。
3.作品による評価
絞り開放でもボケすぎない F2 とあって、今回は絞りは開放を多めに撮影した。絞り値を換えても解像力の変化は少なく、絞り開放からしっかり写る印象。球面収差も見られず実にシャキッとした写りだった。
α7 III に装着して撮影した作品を見ていく。写真はRAWで記録し、Adobe Lightroom Classic で現像している。Lightroom のプロファイル補正は歪曲収差補正のみ ON にし、周辺減光補正は OFF にした。
ご注意
写真の 実画像 の文字をクリックすると、カメラで撮影した実画像が別タブで表示されます。ファイルサイズが大きいのでモバイル端末での表示にご注意ください。文中のサムネイル画像をクリックすると、リサイズされた画像がポップアップ表示されます。
まずは絞り開放で人物をやや引き気味にし、背景のボケの具合を見た。うるさくなりがちな木立がそうなっておらず、スムーズなボケで好ましい。
バストアップで寄ってみた。ピント位置がキリリとしている一方、奥行き感のある自然なボケが美しい。
こちらは暗めの背景にした上でモノクロに現像し、暗部の階調を確認した。暗部の表現力も問題無く、階調もスムーズであった。
人物から数メートル離れたショット。35mm F2 ということで、さすがに絞り開放でも背景のボケは少なくなる。一方、左側の手すりやガラスの質感描写が美しいものとなっていた。
後ろの壁もある程度見せようと、F4まで絞ったもの。解像力は申し分なく、服の布目まで克明に写し取られた。
35mm のレンズは現代では広角レンズとしては長い方になっているが、こうした広がりのある構図も作りやすい。
柱を使って前ボケを確認してみた。あまりボケすぎると困るので1段絞っている。ボケ自体はとても綺麗なもので、筆者的には理想的なボケ方と感じた。
逆光でのショットを試した。太陽が直接レンズに入り込む大変厳しい状況だが、この程度のゴーストに収まっているのは評価できる。画面が軟調になるなど、コントラストの低下もほぼ見られないのが良い。
35mmのレンズは、スナップポートレートで雰囲気良く切り取るのが得意。このレンズは解像力があるので、ボケが大きくなくても被写体が浮き立つ。
こちらは少々寄りのショット。絞り開放でも解像力は素晴らしく、まつげまでしっかり写っている。画面中央の手の辺りを見ると、軸上色収差も確認できない。
少し日が落ちて薄暗くなってきた頃のショット。単焦点レンズとしては暗い方だが、それでもF2.8やF4のズームレンズに比べると光量の少ない場所では有利になってくる。
絞り開放にして、点光源をボケとして写し込んでみた。その形状は、輪郭があまり目立たないボケで自然。夜景などでも安心して使えそうだ。
4.総評
フォクトレンダー史上最高性能という言葉は伊達では無く、現代の同種のレンズの水準から見ても高いレベルにあるのは間違いない。MFレンズということで、クラシカルな描写を期待すると裏切られることだろう。
それに加えて、前後ボケの綺麗さも印象に残った。ポートレートなどボケを活かしたい場面にはぜひとも活用したい1本といえそうだ。
マニュアル操作を楽しみつつ、ハイレベルな写りを手に入れたいなら「フォクトレンダーAPO-LANTHAR 」シリーズは良い候補になると思う。
(以上)
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