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萩原史郎のハーフNDフィルター使いこなし
(春~初夏編)


萩原さんH&Y

TOPIX

今回より複数回にて、季節ごとの角型フィルター活用術を掲載いたします。執筆いただく写真家は、スタグラ初登場になる風景写真家・萩原史郎氏です。今月はH&YフィルターのハーフNDフィルターを使用して春から初夏にかけての活用を公開いたしました。レンズへの装着方法も解説いたしております。角型ハーフNDフィルターを使用した風景写真をご覧ください。 by 編集部

H&Yフィルター ジャパン 公式サイトへ


読者の皆様初めまして、風景写真家の萩原史郎です。H&Yフィルターとの出合いがきっかけとなり、初めてスタグラで寄稿をすることになりました。季節ごとのハーフND 活用法を数回に分けてご紹介したいと思っております。以後よろしくお願いいたします。

正直に言えば、私はこれまでハーフNDフィルターは使ってこなかった。風景写真家としてあるまじき態度であるとお小言を言われそうだが、理由はいくつかある。手持ち撮影が中心なので、そもそもハーフNDフィルターが使いにくいこと。デジタルカメラを使っているので、暗部や明暗差の調整は、RAW 現像時に行えばいいと考えていること。この歳まで使ってこなかったので、今更簡単には使いこなせないのではないかと思っていたこと(笑)。主な理由はこんな具合なのだが、ある日、ご縁をいただき、H&Yフィルターを使えることになり、今こうして原稿を書かせていただいている。

上のような事情から、使いこなしはまだまだ駆け出しレベルかもしれないが、風景の現場で数多くのシャッターを切ってきたので、その作例をご覧いただき、H&Yフィルター製のハーフNDフィルターの素晴らしさを実感いただきたい。

Index

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1.私の使う H&Yフィルター製品

まず初めに、現在私が主に使っている製品のご紹介と使い方をお話ししておこう。

・アダプターリング(67㎜、72㎜、77㎜、82mm)
・100x150mm K-SeriesソフトGND8 マグネットフレーム付き
・100x150mm K-SeriesハードGND8 マグネットフレーム付き
・100x150mm K-SeriesセンターGND8 マグネットフレーム付き
・100mm K-SeriesドロップインCPLフィルター
・100mm K-Series ドロップイン CPL/ND32フィルター
・100mm K-Series フィルターホルダー
・100mm K-Series用フィルターバッグ

写真1

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さて、以下は、「 H&Y Filters Japan 」( https://hy-filter-japan.com/ )のホームページをご覧いただきながら、お読みいただくとわかりやすい。

そもそもH&YフィルターのハーフNDフィルターは、レンズ前枠に直接ねじ込む「 アダプターリング 」、アダプターリングにはめ込む「 フィルターホルダー 」、フィルターホルダーに磁力で付ける「 フィルター 」という三位一体で成り立っている。例えば「 K-Series Basic Set 」には、ハーフNDフィルター( ソフトGND8 )1枚と、4枚のアダプターリング、フィルターホルダーの基本セットに加えて、ドロップインCPL が同梱されているので、まずはこれをベースにスタートして、必要なフィルターを追加しても良いだろう。

ところで…「 ハーフNDフィルターって何?」と、いう話もしておきたい。まず「 ハーフNDフィルター 」という言葉を分解してみると「 ハーフ 」と「 ND 」という単語に分けることができる。「 ハーフ 」は文字通り、半分ということ。「 ND 」とは「 Neutral Density( ニュートラルデンシティー )」の頭文字をとった言葉で、「 中立な濃度 」を意味する。つまり色に影響を与えない濃度であり、それを使うことで色はそのままで光の量を減らすことができることができる、それが「 ND 」フィルターである。

つまり「 ハーフNDフィルター 」とは、ガラス面の半分に ND 効果があるフィルターのことを言う。ここで思い浮かべるのは「 ハーフ 」ではない「 NDフィルター 」だ。これはフィルター全面に ND 効果が一律に施されている製品のこと。後者は、画面全体に ND 効果をかけて撮影しても良い場面で使うフィルターであり、前者は画面の一部だけに ND 効果を使いたい場合に使うフィルターである。

ここで筆者が使っているフィルター3枚について特徴をお話ししておきたい。【 写真2 】の左からセンターGND8/ソフトGND8/ハードGND8 が並んでいる。中央の「 ソフトGND8 」は、濃い部分と素通し部分とを繋ぐ境界のグラデーションがなだらか。右の「 ハードGND8 」は境界がはっきりとしている。被写体の明暗差の境界がゆるやかなら「 ソフトGND8 」を、明確なら「 ハードGND8 」を使うことが基本となる。また左の「 センターGND8 」は風景の中ほどだけが明るい場合に効果を発揮する。出番は少ないかもしれないが、持っているといざという場面で重宝する。

写真2

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マグネットフレームに「 0.9 」とあるのは「 ND8 」であることを意味している。日本では ND 表記は2/4/8/16… となるが、海外では 0.3/0.6/0.9/1.2… と表記している。

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2.ハーフNDフィルターを使いたい代表的な風景

さて、ハーフNDフィルターを使いたい代表的な場面は朝夕の風景。朝焼けや夕焼けの空の明るさに対して、山や地上は少し暗く見える。撮影時、空に露出を合わせて撮影をすると、撮影画像では、その明暗差はなおのこと強調されて、画面下部が真っ暗になってしまう。そんな場面でハーフNDフィルターが重宝するのである。

理屈は簡単。ハーフNDフィルターの濃い部分を、実風景の明るい部分と重ねる。すると、画面内の明暗差が減少し、真っ暗になりがちな部分が明るくなり、眼で見たような印象に近くなるというわけである。そのようにして撮影した写真をみていただこう。

写真3

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写真4

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2021 年5月 30 日、長野県と群馬県の県境にある渋峠の朝。厚く重たい雲が上からかぶさっていたが、太陽が上がるとその雲が赤く染まりドラマとなった。フィルターを使っていない【 写真3 】は、太陽や雲の明るさに露出を合わせたため、画面下部は暗く落ち込んでいる。一方の【 写真4 】は「 ハードGND8 」を使うことで、画面上の雰囲気はそのままに、画面下の朝日に輝く笹の美しい様子が描けている。これがハーフNDフィルターの効果だ。

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3.角型フィルターのセッティング方法

ここで、フィルターやホルダーのセットから撮影までの流れを見ておこう。

・Step1 使用するレンズのフィルター径に合ったアダプターリングをレンズ前枠にねじ込む

写真5

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・Step2 フィルターホルダーをアダプターリングにはめ込む

写真6

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・Step3 フィルターホルダー前枠の左右にあるツマミを締めて、アダプターリングとしっかり固定する

写真7

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・Step4 使用するフィルターをフィルターホルダーの枠にはめ込む。磁力で付くので簡単にはまるが、まれに枠にはめ損なうことがあるので、確実にはまったかどうか、確認するクセをつけておきたい。

写真8

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・Step5 ファインダーや背面モニターを見ながら、ハーフNDフィルターの濃い部分と素通し部分の境界をどこにセットしたらよいかを検討する。

基本的な操作はこれで完了。慣れないうちはスムーズにできないが、それが普通。使っているうちに必ず慣れてくるので心配はいらないが、朝夕のように風景がめまぐるしく変貌するときに、慣れない手つきでフィルター操作をするのは勇気がいる。失敗の可能性があるからだ。大事な本番撮影の前に、身近な場所でいいので、何度も繰り返し練習をしておくことをお勧めする。

操作の流れについては、下記、Youtube に公開されている義妹・萩原れいこの動画もぜひ参考にしてほしい。

ここで注意をしてほしいことが1つ。フィルターは磁力でフィルターホルダーと付いているが、過信してはいけない。例えば風が強く吹いているとき。とくに自分の後ろからの風には注意したい。フィルターが吹き飛ばされる可能性はある。またフィルターを装着したまま、三脚を持って移動する際も、気をつけたい。例えば、移動の際に三脚の脚が岩や木などに接触し、衝撃が伝わるとフィルターが落下することがある。このような落下事故を防ぐために、フィルターをはめ込み、位置調整が済んだら、念のためにフィルターホルダーのネジを締めて、フィルターを固定することも考えておきたい。

写真9

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フィルターホルダー後枠の左右にあるツマミを締めておくと落下の心配がない。

写真 10

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何を隠そう、初めて H&Yフィルターのシステムを使った海での撮影で、三脚を少し動かしたとき岩に脚が当たり、フィルターを岩場に落としてしまった事故経験者だから、説得力は抜群。同時に落下テストにもなってしまったわけだが、もちろんゴリラガラス使用のフィルターは傷一つ付かなかったことも書き添えておきたい。

そして装着の流れで使えるチップスも1つ。上記 Step1 と Step2 を毎回律義に行うのは時間のロスに繋がる。使用頻度の高いレンズがあるなら、そのレンズのフィルター径に合ったアダプターリングを、あらかじめフィルターホルダーに装着しておけば、手間を1行程、省くことができる。

写真 11
筆者の場合、使用頻度の高いレンズのフィルター径は72㎜なので、フィルターホルダーに72mmのアダプターリングをあらかじめ装着している。

筆者の場合、使用頻度の高いレンズのフィルター径は72㎜なので、フィルターホルダーに72mmのアダプターリングをあらかじめ装着している。

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4.実例解説

■ ハードGND8

長野県木島平村にあるカヤの平での早朝撮影。地上には霧が漂い幻想的な雰囲気をかもしていた。木と木の間の空は太陽が昇る方向なので明るいため、フィルターを使わずに撮影すると、【 写真12 】のように肝心の地上部が暗くなる。明暗差がかなり強い場面なので、「 ハードGND8 」を使ったところ、【 写真13 】のように霧の雰囲気を強調した表現が可能となった。フィルターの境界部分は、背景の森の下部、霧の上部あたりだ。

写真 12

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写真 13

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写真 14
状況写真

状況写真

■ ソフトGND8

長野県山ノ内町の志賀高原にある琵琶池。朝の清々しい空気の中での撮影である。【 写真15 】を見ると、フィルターを使わずとも撮影できそうな場面であり、実際、このまま撮影しても問題はない。ただ、このような場面でも、ハーフNDフィルターを使うことで青空の濃度を高め、鮮やかな風景に仕上げることが可能だ。【 写真16 】は「 ソフトGND8 」を使って撮影しているが、青空の印象が強く仕上がっていることがわかるだろう。【 写真17 】は「 ソフトGND8 」に加えて「 ドロップインCPLフィルター 」をフィルターホルダーに射し込み偏光効果を効かせて撮影したもの。さらに鮮やかさが増していることがわかる。この場面では青空と山との境界がなだらかと判断して「 ソフトGND8 」を使ったが正解だった。

写真 15

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写真 16

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写真 17

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写真 18
状況写真

状況写真

■ ハードGND8

志賀高原の森の中での撮影。巨石を抱える木の根が、像の鼻のように見えるユニークな被写体だ。この日は天気が良かったため、フィルターなしで撮影すると【 写真19 】のように、本来は青空である部分が白飛びを起こしてしまう。そこで「 ハードGND8 」を使うことで、空の青さを活かしつつ撮影することができた。このように使い方やアイディア次第では、森の中で使うことも可能なのだ。ちなみにこの場面では、フィルターを斜めに傾けて使うことで、斜め方向に明暗差のある風景に対応させている。

写真 19

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写真 20

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写真 21
状況写真 フィルターホルダーはオリンパスの超広角レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」専用の「100mm K- Seriesフィルターホルダー for Olympus ED 7-14mm f2.8 PRO Lens」を使用

状況写真
フィルターホルダーはオリンパスの超広角レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」専用の「100mm K- Seriesフィルターホルダー for Olympus ED 7-14mm f2.8 PRO Lens」を使用

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5.まとめ

現在、風景写真を撮るカメラ環境は、ほぼデジタルに置き換わっていると言っても過言ではない。RAW 現像作業を駆使すれば、ハーフNDフィルターをはじめとしたフィルターワークを行わなくてもいいという考え方もある。筆者もその一人だったわけだが、実際に H&Yフィルターのシステムを使ってみると、磁力でフィルターの着脱ができる仕掛けは、使っていて楽しく快適である。

また強化ガラスである「 ゴリラガラス 」を採用している点で、傷がつきにくかったり割れにくいといった安心感が絶大で、心に余裕が生まれる。逆光性能も高く感じるが、朝夕の太陽に向かって撮影することが多い風景写真においては、安心材料と言える。またガラス面が汚れにくく、仮に汚れても付属のクロスで簡単に綺麗になるのも嬉しい。

もともとハーフNDフィルターを使っていた表現者にとって、さらに使いやすさや耐久性、画質が向上している H&Yフィルターのシステムは、表現をさらに先へ進める相棒として実に有益であろうと思う。

またパソコン操作が苦手だが、使っているカメラはデジタルであるという表現者からすれば、後処理が必要なくなるという一点だけを考えても、導入の価値はあるだろう。

問題は、こういったシステムを使ったことがないという表現者だ。すでに述べたことだが、最初は使いこなせない。当たり前だ。使っていって、慣れることで「 使え る」ようになり、さらに使い込むことで「 使いこなせる 」ようになるのである。自分が初めてカメラを持った時のことを考えれば同じことだ。

難しそうだから私には無理、という話を直接聞いたことがある。それこそ、まさに私が同じ体験をしているが、結局慣れてしまえば楽しく使えるのである。その結果、これまで苦労していた朝夕の風景、明暗差の強い風景などが、いとも簡単に美しく表現できるなら、使ってみても決して損はしないと筆者は思う。

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著者について
萩原 史郎(はぎはら・しろう) 1959年山梨県甲府市生まれ。株式会社新日本企画で写真誌「風景写真」の創刊に携わり、編集長・発行人を経験。退社後は風景写真家に転向し、写真誌寄稿、コンテスト審査員、写真教室講師、講演会講師、写真クラブ例会指導など幅広く行う。著書は「四季の風景撮影」シリーズ8冊(日本カメラ社)、「風景写真の便利帳」(玄光社)など多数。新刊は「風景写真まるわかり教室」(玄光社)。写真集には「色 X 旬」(風景写真出版)がある。写真展は、2015年「色 X 情」、2019年「色 X 旬」、2020年「志賀高原 -Whisper of the Scenery-」、2022年「色彩深度」開催。 日本風景写真家協会(JSPA)副会長 日本風景写真協会(JNP)指導会員 石の湯ロッジ萩原史郎写真教室 講師 日本学生写真部連盟(FUPC)指導会員 OMデジタルソリューションズ・OM SYSTEM ゼミ Speakers 富士フイルム・アカデミーX講師 写真クラブ・フォトシップA 顧問 写真クラブ・フォト四季彩 顧問