武石修のレンズレビュー
コシナ NOKTON 50mm F1.2 Aspherical SE ポートレート編
Model:MANA Photo : Osamu Takeishi
TOPIX
今回の武石修のレンズレビューは、コシナNOKTON 50mm F1.2 Aspherical SE をポートレートでレビューする。 本レンズはソニーミラーレス一眼 Eマウント対応で2020 年7月に発売開始された。今回のモデルはフリーランスモデルとして活躍中のMANAさんにお願いした。それではお楽しみください。 by 編集部 |
Index
1.超大口径の標準レンズ
今回は 2020 年7月にコシナから発売された単焦点レンズ「 NOKTON 50mm F1.2 Aspherical SE 」を紹介する。ソニーEマウント用の 35mm フルサイズ対応レンズとなっており、実勢価格は税込 118,000 円前後( 2021 年2月現在、当社調べ )。
焦点距離が 50mm のレンズは、人間の目の見え方に近いとされていることから「標準レンズ」と呼ばれており、ズームレンズ全盛の現代でもその明るさなどから人気のあるレンズだ。多くは開放 F1.4 や F1.8 のタイプが多いが、本レンズは F1.2 と超大口径と呼べるスペックを実現している。
もともとコシナではEマウント用で同じ光学系の「 NOKTON 50mm F1.2 Aspherical 」をラインナップしていた。こちらは絞りのクリックストップを無効にできる機能がついており、動画撮影時に無段階での絞り値調整に対応したモデルだった。
一方今回の NOKTON 50mm F1.2 Aspherical SE は、上記のレンズからクリックストップの切り替え機能を省くことで、小型軽量化と大幅な価格ダウンを実現したバージョンとなっている。この「 SE 」とは、スチル・エディションを意味しており、静止画がメインのユーザーのために求めやすいタイプということだ。
また、SE 無しモデルに対して鏡胴のデザインも変更されている。SE なしモデルはクラシカルな意匠のピントリングだったが、本レンズはそれに比べるとモダンな印象になっている。ちなみにピントリングの前側にキザのない部分があるのだが、ここに指の腹が収まってピントリングが非常に回しやすくなっており、よくできたデザインと感じた。
ビルドクォリティもとても高く、精密機器然とした佇まいは所有欲も満足させるのに十分なものと言える。
2.12 枚絞りなどこだわりの仕様
レンズ構成は6群8枚で、1枚目と8枚目に両面非球面レンズを採用している。最短撮影距離は 0.45m で、50mm レンズとしては標準的なものだ。最大径 × 全長は 66.5 × 58.5mm、重量は 383g 。フィルター径は 58mm で、開放 F1.2 のレンズと考えるとかなりコンパクトに見えた。
特筆すべきは絞り羽根の枚数で、AF レンズではあまり見ない 12 枚と多い。作例にも出したが、少し絞り込んだ状態でも玉ボケが円形に近くなるのが特徴である。
そのほか電子接点を搭載しており、Exif 情報の反映やボディ内手ブレ補正にも対応している。ピントリングをわずかに回すと直ちに拡大表示を行うこともでき、ピント合わせがしやすい。
なおカメラのレンズ補正選択も可能だが、今回はレンズのテストということですべて OFF にしている。また Adobe Lightroom などは本レンズ用のプロファイルが入っているので、歪曲収差や周辺減光が気になる場合は、簡単に直せる。
3.F1.2 ならではの立体感
せっかくの開放 F1.2 ということで開放絞りをメインに作例を撮影した。やはりそのボケの大きさは圧倒的で、モデルが浮き出て見えるから不思議なものだ。一般的には被写体との距離が離れると背景のボケが小さくなりがちだが、F1.2 ともなると人物を小さく配置した構図でも、なお背景が大きくボケる。これは特にポートレート撮影では大きな武器になるだろう。
またボケ自体の描写も、最近のカメラメーカー純正レンズなどとは異なるある種の柔らかさをもったものだと感じた。本当に自然で嫌なところがないボケ方だろう。少し懐かしいようなボケ方がこのレンズの描写上の1つのポイントと言えそうだ。
一方ピントの合った部分だが、作例でも分かる通り絞り開放付近ではわずかに球面収差と見られる柔らかさが見て取れた。この点はマイナスどころか、女性ポートレートでは大きな美点となろう。
というのも、これによって肌が自然な滑らかさをもち、また瞳が潤んだような輝きを見ることができるからだ。最近の純正 AF レンズなどは球面収差をほとんどなくしてしまう設計の方向なので、こうした描写は得難い。
一方で F4 程度まで絞れば球面収差は影を潜め、かなりパキッとした描写になった。風景などを絞り込んで撮るのであれば、解像力は全く問題ないと言える。
絞り開放付近のピント位置は相当シビアなので、拡大表示をして慎重に合わせる必要がある。モデルが動いていたりすると、” バチピン ” とはいかないこともあるが、多少瞳からピントがずれていても、本レンズの場合あまり不自然な描写にならず「これもありだな!」という印象になるからまた楽しい。
4.作品による評価
α7 III に装着して撮影した作品を見ていく。写真は RAW で記録し、Adobe Lightroom Classic で現像している。カメラのレンズ補正および Lightroom のプロファイル補正はすべて OFF にした。
ご注意
写真の 実画像 の文字をクリックすると、カメラで撮影した実画像が別タブで表示されます。ファイルサイズが大きいのでモバイル端末での表示にご注意ください。文中のサムネイル画像をクリックすると、リサイズされた画像がポップアップ表示されます。
絞り開放では被写界深度が極めて浅い。すぐ後ろの背景の壁をこれだけ大きくぼかすことができた。
こちらも絞り開放。ボケがうるさくなりがちな木の枝が目立たず、被写体を邪魔することはなかった。
少し絞った F1.8。ボケの移行がなだらかで、ガクンとならないので使いやすいレンズだ。
被写体からかなり離れても、背景をそれなりにボカせるのが大口径レンズの大きなメリット。周辺減光が少々見られるが、こうしたショットでむしろ効果的と考えている。
とっさにシャッターを切った1枚。そのためよく見るとバチピンではないが、ピンぼけのような感じもせず、これはこれで気に入った写真になった。
化粧中のモデルの唇にピントを合わせている。前ボケも自然で良雰囲気になった。
モデルを引き立たせる独特の柔らかいボケ方だ。
木の枝の間から夕日が差し込む逆光のシーン。ゴーストやフレアが出ず、コントラストの低下も確認できなかった。
階調を見やすいようにモノクロにしてみた。肌や服、髪の毛の階調やコントラストは素晴らしいものだ。
最短撮影距離となる 0.45m 付近からの撮影。F2 でも少し球面収差の影響はあるが、それが一種の ” 美肌効果 ” となって好ましい写りになった。
F4 まで絞っても、玉ボケがかなりきれいな円形になっているのがわかる。12 枚絞りの効果だろう。また、このくらいまで絞ると球面収差の影響がなくなるようだ。
4.総評
昨今は F1.4 よりも明るい単焦点レンズもカメラメーカーから相次いでリリースされているが、おしなべて大きく重く、また高価である。その点、本レンズは MF 専用ながら、かなりコンパクトで価格も 10 万円強、それで F1.2 の描写が楽しめるということだ。
絞り開放付近で現れる球面収差をどう考えるかだが、それを良しとすればとても使い出があるレンズだ。絞ればキリッとするのだから、まさに「1本で2度美味しいレンズ」ということになる。
このレンズは、ピント合わせと絞り値の選択が使いこなしの肝になってくると思う。小柄なレンズだが、撮影者の技量によって本当にいろいろな表現のできる ” 懐の深い1本 ” だと感じた。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
武石修
MANA