ベルボン・リボルビング雲台
PHD-66Q レビュー <前編・製品紹介>
TOPIX
今年2月に開催された CP+ 2015 にて発表され、ユニークな機構が多くの耳目を集めたベルボンのリボルビング雲台「 PHD-66Q 」。この雲台は、カメラを乗せたままタテイチ・ヨコイチとアングルを変えても、カメラの重心とレンズの光軸がほとんどズレないという、今までにないリボルビング機構を搭載した超スグレモノ。こうした機構を備えた雲台を使うとどんなメリットがあるのか、本サイトの薮田織也が使用感をレビューします。 by 編集部 |
■ 百聞は一見にしかず、PHD-66Q の動き
長時間露光はもちろん、マクロ撮影や超望遠撮影にも欠かせないアイテムと問われ、誰もが思い浮かべるのは「 三脚 」だろう。そんな三脚だが、高性能な製品ともなるとカメラを乗せる「 雲台 」と「 脚 」が分離できるのはご存じだろうか。分離できることで、個人の好みや撮影の内容に合わせて豊富に用意されている雲台や脚を自由に組み合わせられるのだ。普段は標準的な三脚で使っているお気に入りの雲台を「 一脚 」や足の短い「 ミニ三脚 」に乗せ替えて使うことは、プロカメラマンはもちろん、ハイアマチュアは当たり前のようにしていることだろう。
筆者も以前からいろいろな三脚メーカーの製品を使ってきたが、数年前からベルボンのカーボン三脚がお気に入りだ。もちろん雲台と脚が分離できるタイプで、お気に入りの脚に撮影に合わせた雲台を乗せ替えて仕事に使っている。ただこれまでどんな雲台を使っても少々不便だと感じていたことがある。たとえばブツ撮りや花マクロ撮影をしているときや超望遠レンズを使って野鳥などを狙っているとき、カメラのアングルをヨコイチからタテイチに、またはその逆に変えるときに、雲台の構造上の都合で狙った被写体がフレームから大きく外れてしまうことだ。こういうときは、三脚の位置や高さを調整しなおす必要があるわけだが、ブツ撮りなどでは他のカットのために変更前の三脚の位置や高さを記録しておかなければならず、なにかと不便である。野鳥などの望遠撮影では、三脚座のない望遠レンズだとフレームアウトした被写体を狙い治しているうちに野鳥に逃げられてしまうなんてことも多々あり、ついつい三脚や一脚を外して手持ち撮影してしまうのである。
前置きが長くなったが、こうした不便を解消してくれる製品がベルボンから発売された。それが写真1の「 リボルビング雲台 PHD-66Q 」だ。この雲台がどんな動きをするのかは、写真3を観てもらうとよくわかるだろう。写真2と比較してもらえばわかるが、ポイントはレンズの光軸のズレが最小限に抑えられているということだ。もちろんまったく光軸がズレないわけではないが、三脚座のないレンズを使っているときにこの程度の最小限のズレで済むのはとても助かる。小さな花や昆虫などのマクロ撮影をしているときに、フレームアウトしてしまった被写体を探す苦労をしたことのある人なら理解できるだろう。
■ PHD-66Q の各部詳細
PHD-66Q は、ティルト( 垂直 )方向のアングルを変更するときだけパンハンドルのグリップを回転させてロックを解除し、パンハンドルでティルトさせる。これは従来の雲台と同じですぐにわかるはずだ。ティルト以外のアングルの変更は、各種ストッパーのロックを解除して操作することになる。パン( 水平 )方向のアングル変更は、写真7のように、雲台下部にあるパンストッパーのロックを解除して、パンハンドルを左右に振って操作する。
初めて PHD-66Q に触れたときは、このパンストッパーの形状が少し気になっていた。従来のベルボンの3ウェイ式雲台 PHD-61Q などの PHD シリーズ使われている3cm はある大型のパンストッパーに慣れている筆者としては、PHD-66Q のパンストッパーは少し小さく使いづらいと感じたのだ。三脚の操作において、パンハンドルとパンストッパーは最も使うパーツであり、ちょっとした形状の違いが操作性に影響すると思うからだ。PHD-61Q と同価格帯の PHD-66Q で大型パンストッパーを採用しなかった理由は、カメラ台を支えるアーム部分がパンストッパーの上部に張り出しているため、ストッパーを回す指のクリアランスがないからだろう。この辺が PHD-66Q を実際の撮影で使う前には不満だったが、PHD-66Q を使い込んでいくとあまり気にならなくなってしまった。というのは、PHD-66Q にもっともマッチする脚が一脚であるこに気づいてしまったからだ。一脚ならば極端なことを書くとパンハンドルもパンストッパーも不要だからだ。どうして一脚が PHD-66Q にベストマッチなのかは次回に譲るが、リボルビング機構という斬新なアイディアを盛り込むことで雲台の可能性に挑戦した現時点の PHD-66Q においては、細部の個人的な多少の不都合は目を瞑るべきだろう。
( 注:写真6と写真7で表示している角度以上にアングルは変更できます )
PHD-66Q でもっとも注目すべきはリボルビング機構を採用した写真8のサイド・ティルトだ。まずは斬新なアイディアそのものよりも、機械好きを魅了するアームロボットのようなメカニカルな動きに魅入ってしまいそうだ。男女ともほぼ同数の受講者が参加したある写真セミナーで PHD-66Q を紹介したところ、興味を持たれた方のほとんどが男性だった。PHD-66Q の開発者には大変失礼な書き方だが、雲台としての有用性はともかく、こうしたメカニカルなギミックに、筆者はもとより機械好きの男は弱いのである。
閑話休題、本題に戻ろう。PHD-66Q で採用されたこのリボルビング機構の長所は、冒頭からも書いている通り、縦横のカメラアングルを変えたときにレンズの光軸のズレを最小限に抑えられることだ。光軸のズレが少ないということは、そのままカメラの重心の変化も少ないということになる。これは三脚撮影において地味ではあるが大変重要なことだ。重心がズレなければ縦横どちらでもカメラが安定することになる。筆者はブツ撮りはもちろん、屋外での長秒露光撮影時にも三脚にウエイトを置いて安定させることにしているが、PHD-66Q ではさらに安定感が増すことになる。
■ ベルボンならではの便利な機能
最近のデジタルカメラは内部にジャイロを搭載しているので、カメラの水平垂直状態を液晶パネルで確認できるが、常時確認する必要のある情報以外を液晶パネルに表示させたくない筆者としては、雲台に水準器があるのは大変ありがたい。こうした水準器はフィルムカメラを使うときは必須だし、実際の撮影で三脚に装着するのはカメラだけとは限らないので、デジタル時代とはいえ無くさないで欲しい装備のひとつだろう。
ベルボンの雲台で筆者がもっとも気にいっているもののひとつが写真11の「 クイックシュー( QRA-35L ) 」だ。82(W) × 50(D) × 10(H)mm、重量 50g のマグネシウム製のシュープレートは、カメラに装着したままでも邪魔にならず、雲台への着脱も簡単で確実だ。筆者は横着なので、使っているカメラの台数分だけ QRA-35L を買い足して、すべてのカメラに付けたままにしてある。
最後になったが、PHD-66Q と三脚の取り付けネジの紹介をして、前編を締めさせていただこう。
スチールカメラ用三脚の取付けネジには2つの規格がある。ひとつは UNC 1/4 という日本で一般的に使われる規格で、小ネジと呼ばれるもの。もうひとつは UNC 3/8 というドイツで一般的な規格で、大ネジと呼ばれるものだ。どちらも長さは 9mm 前後だ。PHD-66Q はこの2つの規格に対応した作りになっていて、付属の簡易工具で小ネジ大ネジの入れ替えができるようになっている。PHD-66Q は推奨積載質量が3kg と、フルサイズ一眼レフカメラに 500mm 前後の超望遠レンズを付けた状態でも支えられる性能を持つ。だからといって支える脚が貧弱では意味がないので、載せるカメラやレンズによっては大ネジを採用している大型の脚を用意した方が無難だろう。そのためにも PHD-66Q が大ネジに対応していると安心だ。もちろん、超望遠レンズには三脚座が付属しているのが標準的で、三脚座があればレンズの光軸を中心にしてカメラ本体を回転させられるので、本来 PHD-66Q のリボルビング機構は必要がない。それでも実際に屋外での撮影をする場合に、この PHD-66Q は予想以上の活躍をしてくれるのだ。その辺は後編で詳しく紹介したいと思う。
■ 次回予告
次回は PHD-66Q を一脚に装着して屋外に持ち出し、標準ズームや超望遠レンズを使った撮影に挑戦。リボルビング機構があると屋外撮影がどう変わるのかを紹介します。お楽しみに。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所
■ 撮影協力 ■
小田野カフェ