夜景写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座
第26回 富士山夜景の撮り方
Photo : Takuya Iwasaki
TOPIX
今年最初の夜景写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座は夜景撮影でも人気のある 「 富士山夜景 」の撮り方です。撮影テクニックに加え、複数ロケーションから撮影した作例をご紹介しています。「 今月のお勧めスポット 」では富士山 + 工場夜景の撮影スポットもご紹介しています。 by 編集部 |
新年のご挨拶が遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。今年でスタグラでの連載執筆は3年目を迎え、昨年はRAW現像を中心に取り上げさせて頂きました。今年からはこれまで以上によりテーマを深く掘り下げて夜景撮影テクニックを解説していきたいと思います。新年1回目の記事は昼夜問わず人気の被写体「富士山」。今回は富士山と街明かりを一緒に撮るコツを詳しく解説したいと思います。
写真1 横浜ランドマークタワーから富士山を望む
■富士山と夜景を綺麗に撮るには?
富士山のような自然風景と街の明かりを綺麗に撮るにはいくつかのコツがあります。ただ街の夜景だけを撮るよりも難易度が高いものの、気象条件や距離など様々な要因をクリアすることで、誰もが感動するような綺麗な富士山夜景が撮れることでしょう。まずは具体的に6つのポイントを解説したいと思います。
※(1)~(3)までは富士市の「ふじのくに田子の浦みなと公園」の作例を紹介(成功例は最後のお勧めスポットで紹介)
(1)時間帯
日中であればさほど時間帯を意識しませんが、富士山と街明かりを一緒に写すとなると撮影時間帯は非常に限られてしまいます。明るいうちは当然街明かりがありませんし、完全に暗くなってしまうと逆に富士山が真っ暗になってしまいます。星空と富士山を写すようなケースだと長時間露光で暗く沈んだ富士山はある程度浮かび上がりますが、街明かりを一緒に写す場合は、街明かりが露出オーバーになってしまうため、基本的には富士山のシルエットと街明かりが両方見える「トワイライトタイム」を狙う必要があります。日没から20~30分後から20分程度の限られた時間となるため、夕暮れまでには撮影場所の確保とセッティングを終えて万全の体制で撮影に挑みたいものです。
写真2 富士山が綺麗に見えない時間帯
(2)季節
一般的な夜景撮影と同様、富士山を写す上でも季節・時期は重要です。東京や千葉など富士山と離れた場所から撮影するのであれば、富士山のシルエットの見え方は季節においてそれほど変化しませんが、富士山に近い撮影スポットでは雪化粧の有無が作品性に大きく影響します。雪化粧の量と空気の澄み具合などを考慮すると12月~3月ぐらいがベストシーズンと言えそうです。
写真3 富士山の撮影に向かない時期
(3)天候
富士山を写すには快晴がベストですが、周囲に多少雲がある方が構図的にもバランスが取りやすいように思います。ただ、雲が周囲に見えると時間帯によっては雲が流れて被ってしまうため、確実に富士山を写すなら雲がほとんど無い日が良いでしょう。静岡側からは雲で隠れてしまっても、山梨側からは富士山が綺麗に見えることもあります。例えば東京から静岡に撮影に向かう場合、東京では曇っていても静岡に着いたら晴れているという日もあります。天気予報だけでは予想が難しいので、訪問する地域のライブカメラを参考にするのも手です。作例の「ふじのくに田子の浦みなと公園」からの撮影であれば「富士市富士山ライブカメラ」のライブカメラ映像が役立ちます。出掛ける3時間ぐらい前に予めチェックしておくと良いでしょう。たいてい富士山の近隣地域にはライブカメラが設けられているので、”地名+ライブカメラ”で検索してみてください。
写真4 富士山が雲で隠れてしまった作例
(4)距離感
富士山が見える都道府県は全国に20以上あると言われており、西は京都府、北は福島県まで富士山が観測されています。先週、福島県の花塚山(標高919メートル)からも富士山の撮影に成功したと大きく報道されました。直線距離で300km以上離れた場所からも富士山が見えるようですが、富士山のシルエットも大きく写すことを考えると地理的に離れすぎている場所は不向きと言えそうです。地図では東京都・神奈川県・山梨県・静岡県を紹介していますが、埼玉県や長野県にもビューポイントが多数見られます。距離感の1つの目安として直線で15~50km程度を目安にしても良さそうです。
写真5 富士山+夜景の撮影に適したエリア
(地図素材:CraftMap)
写真6 文京シビックセンター(東京都)からの富士山
(5)地理
富士山の撮影に適した時期や時間帯、距離感などが掴めてきましたが、街明かりを一緒に写すとなると、当然ながら市街地が見渡せることも条件になってきます。ガイドブックやパンフレットなどで紹介されている富士山のベスト撮影ポイントであっても、街明かりが見える場所はごくわずか。地図を見ながら街が見渡せるかどうかを確認することも大事です。
写真7 富士山のベスト撮影ポイントだが・・・
(6)方角
方角に関しては正解はありませんが、山梨県内であれば南方向、静岡県内であれば北~北東方向、東京都や神奈川県からは西方向に富士山が見渡せます。富士山と夕景や空のグラデーションを絡めて写すなら西方向が理想だが、他の方角からでも美しい富士山夜景が写せるので方角に関しては好みで良いでしょう。
写真8 南向きに富士山を撮影
■作例紹介(1)
それでは上記6つのポイントをふまえて、作例をいくつか紹介したい。1つ目は富士山がちょうど西向きに見渡せ、光量は控えめだが裾野市の街明かりも見渡せる撮影スポット。特別カメラ側の難しい設定は無いが、空の青みを綺麗に出すためホワイトバランスは白色蛍光灯を選択した。(直線距離:約28km)
写真9 三国峠(静岡県裾野市)からの富士山
■作例紹介(2)
続いて神奈川県内から撮影した作例を紹介。県内には秦野や松田町を中心に夜景スポットが立地し、西向きに市街地が見渡せるロケーションも。引法山公園の展望台からは富士山を中心に、街明かりが眼下に見渡せる。夕日の色を強調するためホワイトバランスは「太陽光」とした。(直線距離:約47km)
写真10 引法山公園からの富士山
■作例紹介(3)
静岡市の観光スポットとして知られている日本平。展望台やホテルから北東向きに富士山が見渡せ、眼下には清水港を中心に静岡市内の街明かりが見渡せる。静岡県内であっても富士山とはやや距離があるため、望遠レンズでの撮影が適している。(直線距離:約50km)
写真11 日本平(静岡県静岡市)からの富士山
■今月のお勧め夜景スポット「ふじのくに田子の浦みなと公園」
富士山夜景が写せるスポットの中でも工場の明かりを一緒に写せる有名スポット。古くから製紙業が栄えた富士市には富士山の撮影スポットがたくさんあるので、是非足を運んでみて欲しい。みなと公園の付近にある田子の浦漁港で食べられる生しらす丼(時期による)も絶品。
アクセス:東名高速「富士IC」より車で約20分
料金:無料
写真12 富士山+夜景のベストショット