武石修のレンズレビュー
ZEISS Batis 2.8/135
TOPIX
今回の武石修のレンズレビューは、2017 年に登場した ZEISS 社の単焦点望遠レンズ「 Batis 2.8/135 」を採り上げる。ZEISS社がソニー フルサイズミラーレスカメラシリーズのために開発した、コンパクトで軽量なレンズシリーズだ。今回はその描写をポートレートで試してみた。モデルは光の魔術師イルコ・アレクサンドロフ氏の『オフカメラ・ストロボライティング』の表紙を飾るなど、多方面で活躍する羽田彩音さんに依頼をいたしました。それではお楽しみください。 by 編集部 |
Index
1.単焦点の135mmを見直す
今回は 2017 年に登場した ZEISS の単焦点望遠レンズ「 Batis 2.8/135 」を採り上げる。ソニーEマウント用の 35mm フルサイズ対応レンズで、実勢価格は税込 225,500 円前後( 2020 年 9月現在、当社調べ )。
135mm レンズは本格的な中望遠域ながら、180mm や200mm などのレンズに比べるとコンパクトなことから、比較的小型の中望遠レンズとして昔から存在していた。ただ、ズームレンズが全盛になると 70-200mm ズームに含まれていることから、これまで敢えて単焦点レンズとして選ばれることは少なかったように思う。
ところが昨今になると、カメラの画素数も増えたことでより解像力の高いレンズが求められるようになった。そうした経緯で、また 135mm の単焦点レンズが見直されるようになっている。
135mm が特に活きる分野がポートレートであり、大きなボケによる背景の省略効果や、望遠レンズによる圧縮効果によって、標準レンズや中望遠レンズとは違った撮り方ができる。135mm レンズを使えば、被写体を浮かび上がらせるように写すなどは朝飯前と言ったところだ。
2.厳しい条件でも好結果をもたらす
Batis シリーズは ZEISS の 35mm フルサイズEマウント用のレンズ群だ。135mm の他には 18mm、25mm、40mm、85mm がラインナップされており、超広角から中望遠まで ZEISS の描写で揃えることができる。いずれも、ZEISS といえばその名が挙がる T*コーティングが施されている。
Batis 2.8/135 はアポゾナー設計ということで、色収差補正に力が入れられている。作例を見るとわかるが、中望遠レンズによく見られる輪郭の色付きはまず見られないほどだ。T*コーティングのせいか、逆光でもゴーストの発生が少ないのが優秀だ。
レンズ内に手ブレ補正機構を搭載しており、ボディ内手ブレ補正付きのカメラの場合はそれぞれが協調して動作する仕組みになっている。筆者が α7 III で試したところでは、ブレない限界は 1/50 秒といったところだった。
AF は顔検出や瞳AFを含めて、いずれのモードでも問題無く動作する。今回は瞳 AF をコンティニュアス AF で動作させたが、問題無く瞳を追いかけることができた。
外観デザインは最近の ZEISS レンズに則ったもので、シンプルだが高級感があり、所有欲を満たす素晴らしい仕上げになっている。フォーカスリングが平らなため一見すると心許ないが、滑らないどころか指に吸い付くような感触のゴム素材になっているため、マニュアルフォーカスも快適に行える。
3.明るさを抑えて小形軽量に
ところでEマウント用の主な135mmレンズといえば、ソニー純正の「FE 135mm F1.8 GM」とシグマの「135mm F1.8 DG HSM」がある。実勢価格は前者が236,090円前後、後者が135,920円前後(いずれも税込)だ。
いずれも開放F1.8とBatis 2.8/135よりも1段以上明るい大口径タイプなのに対して、Batis 2.8/135 は明るさを抑えて、小形軽量を目指したコンセプトと言える。重量で見るとソニーが約 950g、シグマが約 1,230g あるのに対して、Batis 2.8/135は約 614g と軽い。
何か1本望遠レンズを持ち出すときに、70-200mm F2.8 などではなくBatis 2.8/135 を選ぶとだいぶ荷物を軽くすることができるのが1つのメリットになるだろう。
4.作品による評価
それでは Batis 2.8/135 を α7 III に装着して撮影した作品を見ていこう。ZEISS ならではのボケの質や単焦点のヌケの良さに注目だ。作例は全て α7 III のRAWファイルを Adobe Lightroom Classic で現像している。
ご注意
写真の 実画像 の文字をクリックすると、カメラで撮影した実画像が別タブで表示されます。ファイルサイズが大きいのでモバイル端末での表示にご注意ください。文中のサムネイル画像をクリックすると、リサイズされた画像がポップアップ表示されます。
被写体から数m離れたロングショット。背景の金網までもやはり数mあるが、135mの圧縮効果で画面に締まりが出た。ボケ方も自然で、多くの人が綺麗に感じるボケになっていると思う。
こちらも引き絵だが、地面を見るとボケ方がなだらかで、ガクンとした変わり目が生じないのが好ましい。日陰でもしっかりしたコントラストで人物を描写できた。
寄り気味で植物の前ボケを大きく入れた。135mm ともなると前景をかなり大きくぼかすことができるので、前ボケの表現は積極的に取り入れたいところだ。等倍で見ると瞳のうるうるした感じまで良く写っている。
F8 と絞り込んだ状態で写りをチェックした。わずかに解像力は上がったように感じるが、絞り込んでもカリカリになりすぎず、ポートレート写真に向いている写り方だと感じた。
ほぼ最短撮影距離( 0.87m )で髪の毛にピントを合わせた。非常に浅い被写界深度だが、髪の毛1本1本の質感まで伝わってくるようだ。階調を見やすいようにモノクロ化してみたが、とても滑らかなトーンといえる。
歩道橋の手すりを効果的に取り入れてみた。135mm という望遠域ならではの圧縮効果で、手前から奥への導線ができモデルを引き立てることができた。前ボケが非常に素直だ。
夕時の太陽光が直接画面に入る逆光状態をテストした。驚いたことに目立ったゴーストが出ておらず、とてもクリーンな写真になった。コントラストも十分確保されており、流石 ZEISS と唸らせられた。
夜になり低照度での写りを確認した。画面右端の黒みからなだらかな階調で顔を描写できた。解像力も十分で、顔の産毛が見えるほどである。
今回は全て手持ちで撮影に臨んだが、手ブレしない限界は筆者の場合は 1/50 秒だった。135mm という焦点距離を考えれば、手ブレ補正機構は十分効いており、手持ちでの夜景撮影にも活用したくなる。
点光源のボケに注目してみると、中望遠域なので画面周辺に行くほどレモン形になるのは致し方ないところ。一方、玉ボケ自体は輪郭が強すぎず、また年輪のような模様も見られない、1つの理想型といえそうだ。
5.総評
Batis 2.8/135 は 70-200mm F2.8 と同じ開放 F値なのに加えて、開放F2.8と考えると値段も高めなのは事実。そのため、価格重視ならシグマ、純正にこだわるならソニーということになってしまう。
そこで敢えて Batis 2.8/135 を選ぶ理由を挙げると、やはり小型軽量という点が大きいと思う。この重さ、サイズ感だとスナップ用として振り回してもさほど苦にならないほどだからだ。
さらに、ボケ方や玉ボケの質、そして高い逆光耐性などこのレンズならではのポイントもあるので、気に入ったらぜひ試して見て欲しい1本といえる。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
武石修
羽田彩音