薮田織也の露出計レビュー
ストロボ調光機能搭載
ライトマスタープロ L-478DR-EL 活用法
TOPIX
露出計のリーディングメーカーであるセコニック社から、新しい露出計、ライトマスタープロ L-478DR-EL が発売されました。L-478DR シリーズは外部ストロボの調光機能を搭載したモデルで、その中でも L-478DR-EL はスイスのエリンクローム社が提唱する通信システム EL-Skyport に対応した露出計です。露出計からストロボの光量を調節できることで、ストロボ撮影のワークフローがどのように変わるのかを、本サイトでお馴染みの写真家、薮田織也がレポートします。 by 編集部 |
■ ポートレートに単体露出計は必須!……なんですよ本当に
撮影セミナーの講師なるものをやってると、受講者から「 その場で撮影結果が確かめられるデジタルカメラでも単体露出計( L-478DR-EL のような露出計のこと )は必要ですか? 」という質問を受けることがある。そういうときは必ずこう答える「 ポートレート撮影なら、単体露出計があるとモデルさんのテンションを落とさずに撮影できますよ 」と。本来、モデルさんを立ててからライティングするのは基本的に御法度で、事前に単体露出計を使ってライティングを済ませてからモデルさんにご登場いただくのがマナーだ。その方がモデルさんのテンションが高いまま撮影に入れるし、予算が厳しいこの時代に、モデルさんの拘束時間の多くを撮影に使えることになる。実際、ポートレートだけじゃなく、すべてのジャンルにおいて単体露出計があるとないとでは撮影のワークフローが大きく変わる。これはデジタルカメラになっても変わらないのだ。その理由の詳細は後述するが、まずはカメラに内蔵された露出計と単体露出計とでまったく同じことができると思ってはいけない。この記事は単体露出計ライトマスタープロ L-478DR-EL のレビュー記事なのだが、「 単体露出計って必要なの? 」という疑問を抱く読者が多いので、少々長くなるが前置きとして以下を読んでおいてもらいたい。
カメラに内蔵された露出計と単体露出計の大きな違いは、その測光方法にある。カメラ内蔵露出計は「 反射光 」で測光し、単体露出計は「 入射光 」で測光する。どちらが優れているという話ではない。あくまでも方式の違いだ。ただ、その方式の違いが撮影ワークフローに与える影響は大きい。どのような影響を与えるのかを以降で解説していくので、単体露出計をよく知りたいと思う読者は、本記事を最後まで読んでいただきたい。そのひとつめとして、写真3を観ていただこう。
写真3の撮影場所は図1の環境と似ていて、人物の周囲は白い壁、白いブラインド、白いソファ、そして衣装も白だ。いくら肌の綺麗なモデルさんとはいえ、肌の光の反射率は白い壁よりも低い。よって反射光で測光するカメラ内蔵の露出計は、いくらスポット測光で顔に合わせても、写真の多くを占める白い部分に影響を受けた値で適正露出を決めてしまい、結果、写真3の左側のように全体的に暗い写真になり、肌は暗く沈んでしまう。
ここで単体露出計 L-478DR-EL を使って人物の顔の位置で測光してみると、カメラ内蔵露出計が算出した絞り値 f/5.6 よりも2段も明るい f/2.8 をはじき出した。そうして撮ったのが写真3の右側だ。どちらが見た目に適正な露出で撮れているのかは言わずもがなだろう。
とはいえ、この程度の問題であれば、撮影結果を確認した後で露出補正を2段分明るく( +2.0EV )かけて撮影しなおせばいいわけで、まだまだ単体露出計がポートレートに必須という根拠にはならない。薮田がポートレートには単体露出計が必須と言い張る理由は次のセクションで語ろう。もちろんレビュー記事らしく、ライトマスタープロ L-478DR-EL の紹介を挟みながら……。
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■ 偶然の一枚を必然の一枚にするための単体露出計
デジタルカメラがこれほど普及したのは、撮影したその場で撮影結果を確認できるところにある、と言ってもあながち間違いではないだろう。結果がすぐに観られるから、露光による失敗を修正してすぐに再チャレンジでき、結果、撮影者の技術がどんどん向上していく。フィルムカメラ時代では、「 露光の失敗=時間とお金の損失 」であり、再挑戦するのにもお金と時間がかかった。よって写真を趣味にするには、それなりに裕福な人でないとできなかったし、裕福でなければ失敗を最小限にできるように知識と技術を向上させねばならなかった。そして、そう簡単に失敗できないプロは当たり前のように単体露出計を使ったのだ。目視で確認できる自然光での撮影ならまだしも、瞬間しか光らないフラッシュ( 以下ストロボ )光を使った撮影では、フィルムを現像するまでは成否のほどがわからなかったから、ストロボ撮影において単体露出計は必須のアイテムだったのだ。
失敗しないための努力は、結果的に写真の知識と技術を向上させることになる。つまり、単体露出計の測定結果を確認しながらの撮影は、写真上達への近道ということにもなるわけだ。もちろん、単体露出計があれば無条件で失敗が防げるというわけではない。単体露出計が示す値を頭の中で画のイメージに変換できなければならない。たとえば人物の顔の右頬と左頬の露光の差が1段あったら、どの程度の明度の差ができるのかが頭でわかるということだ。これができれば、自分の好きなイメージを撮るためには、どうライティングすればいいのかがわかるということでもある。下の写真4を観ていただこう。
写真4は、白バック紙の前に置いたマネキンヘッドの左右に Elinchrom D-Lite RX 4 を1灯ずつ計2灯配置し、それぞれを L-478DR-EL で調光して撮ったもの。写真4の左が、左右のストロボとも同じ光量で撮影したもの。そして左に配置したストロボだけを1段ずつ L-478DR-EL で光量を下げて計3枚、シャッタースピード 1/200 秒、ISO 感度 200、絞り f/16 で撮影したものだ。この写真4で確認して欲しいのは、左右のストロボの光量の違いによってできる明度の差、そしてハイライトからシャドウへのグラデーションの出方の違いだ。左右とも同じ光量で照射し、光が回り込んで明度の差がない左端の写真は、立体感を出しつつ影を出さないようにするライティングで、タレントがオーディションに使う宣材写真などでよく使う。ただ、画として少々面白味がないのは、やはり陰影がないからだろう。中央と右端の写真は1段ずつ左右の差を付けているために陰影が濃くなっていき、少しずつイメージフォトっぽくなっていくのがわかるだろう。そう、ポートレートで被写体のイメージを左右するのは、人物の体にできる陰影なのだ。
写真が上手な人というのは、撮影前から頭でイメージしていた画をどうにかして具現化しようと努力する人のことだ。そういう人は、偶然に陰影の素敵な写真が撮れたとしても、それを自慢することはない。なぜなら偶然は偶然であり、次に同じような陰影が撮れるとは限らないからだ。上手な人の中には勘だけで素敵な写真を撮り続ける人もいるが、我々凡人が次にも素敵な陰影を撮れるようにするには、その陰影を出すのにどうライティングすればいいのかを「 数値化 」すればいい。それには単体露出計という道具が大いに役立つ。光がもっとも明るく当たる場所とそれ以外の場所を露出計で数カ所測定して、それぞれの数値をメモしておく。そしてもっとも好みの画が撮れたときの数値を頭に叩き込んでおき、次の撮影でその数値を活かすのだ。私は陰影の差が2段あるコントラストの強い画が好き、とか、柔らかい陰影の画を撮りたいから、1/3 段の差があるライティングをしよう、など、画のイメージを値で考えられるようになれば、我々凡人にとっても、偶然の一枚が必然の一枚に変化することは間違いがない。このように陰影のバランスを数値化するという芸当は、カメラ内蔵の露出計では到底真似できない。薮田が露出計をお奨めする理由はこういうところにある。
■ 単体露出計を使って不自然じゃない自然光+ストロボ撮影
では、単体露出計があるとストロボを使った撮影においてどんなことができるのかを具体例で紹介しよう。まずは下の写真5を観ていただき、なにがどう違うのかを当てていただきたい。
答えは、左が自然光だけで撮ったもので、右がストロボ( Elinchrom D-Lite RX 4 を2灯 )を窓の外( 向かって右側から )から自然光との比率 40% で当てて撮ったものだ。露出設定の違いは絞り値だけ。
ストロボ撮影をしたことがない方は、自然光だけで撮れる場所で、なぜわざわざストロボを使うのかと思うことだろう。また、現在ストロボ撮影の練習をしている方は、自然光だけで撮ったように見えるストロボの使いかたを知りたいと思うだろう。そう、ストロボを使っているように見せない自然なライティングというのはなかなか難しいし、明るい場所でストロボを使うのにはきちんと目的と意味があるのだ。
今度は写真5の<実画像>でよく確認してもらい、自然光だけとストロボを使った写真の違いを探していただきたい。
全体的にはストロボを使った写真の方が、各部のディテールが際立っていると感じないだろうか。細かく観ていくと人物の瞳にストロボによるキャッチライトが強く入っている。また、髪の毛に入っているハイライトもストロボ使用の方が多い。服の質感もストロボによってディテールが際立っている。
写真5のような拡散された柔らかい自然光が入る場所では、光が被写体全体に回り込んで平面的な画になりやすい。その原因は、拡散光のために輪郭のボケたハイライトになり、人物の肌や服の生地などにできた影が、回り込んできた光によってある程度打ち消されてしまうからだ。これにより明度の差が少ない、つまりコントラストの弱い画になるということだ。
こうした拡散光だけがあたる場所にストロボなどの人工光を太陽と同じ方向から当てると、打ち消された影が復活して、ディテールがはっきりとした全体的にメリハリのきいた画になる、というわけだ。
こうした撮影方法は、ファッションカタログなどの写真で必ずと言っていいほど使われる。理由は衣装の質感や色が正しく伝わる写真にするためで、自然光だけだとどうしてもディテールが眠くなってしまうし、時刻によっては太陽光の色温度が変化して衣装の色が正しく出なくなるからだ。ストロボ光は日中の太陽光とほぼ同じ色温度をしているので、いつ撮影しても被写体の正しい色を再現できる。
こうした自然に見えるストロボを使った写真を撮るのに、単体露出計は欠かせない存在だ。特に自然光や地灯りと一緒にストロボを使うとき、ライトマスタープロ L-478DR-EL には便利な機能がある。L-478DR-EL の測定モードを「 フラッシュ光モード 」にして計測すると、画面上に測定値とは別に全光量に対する「 フラッシュ光成分比 」が 10% 刻みで表示されるのだ。この機能を使えば、作画意図に合わせて定常光( 自然光を含む )とストロボ光の比率を意図的に変化させられる。今回の目的は「 自然光で撮影したように見えるストロボ撮影 」だったので、「 フラッシュ光成分比 」を 40% になるように調光した。
それでは、実際にどのようにして自然光+ストロボ光で撮影をしたのかを紹介しよう。まずはストロボの設置場所だ。写真8のように、スタジオの外にモノブロック Elinchrom D-Lite RX 4 を2灯、太陽光の位置を模して設置した。薮田が撮影している場所からストロボの位置まで行くには、窓とは反対にあるスタジオのドアを抜け、ぐるっと回って 20 メートルほどある。こういうときに電波式調光システムに対応しているストロボは重宝する。ストロボの向きさえちゃんと設定しておけば、調光は手元でできるからだ。
ストロボの調光は、L-478DR-EL のパネルからもできるが、カメラに装着する EL スカイポートシステムに対応した電波式トランスミッターの EL SKYPORTトランスミッタープラス HS からも当然できる。というか、実際の撮影でストロボを発光させるトリガーになるのは、このトランスミッターだ。Elinchrom D-Lite RX 4 に標準で付属するトランスミッターもトリガーとして使えるが、こちらのトランスミッターであればハイスピードシンクロにも対応しているので、今回はこちらを使った。
写真10 は L-478DR-EL からストロボを調光するときの画面だ。便利だと感じたのは、G1 から G4 までの4つのグループボタンを使うと、複数台のストロボがある場合、指定のグループに設定したストロボだけを発光させて計測・調光できることだ。「 ALL 」ボタンをタッチすれば、すべてのストロボを同時に発光・調光できる。調光は「 - 」と「 + 」ボタンをタッチして、2.0 ~ 6.0 まで、0.1EV 刻みで ± 2.0EV、全 4.0EV で調整できる。ちょっと不便だと感じたのは、一度のタッチでに 0.1EV の調光しかできないことだ。つまり 1EV 上げ下げするには、10 回タッチしなければならない。長押しでジャンプできるなどの工夫が欲しいところだ。
モデリングランプの調光と ON / OFF が露出計からできるのも嬉しい機能だ。ちなみに、Elinchrom D-Lite RX4 は、ストロボ発光時にはモデリングランプが自動消灯する。露出計とは無関係だが、モデリングランプの色かぶりを気にする人には嬉しいことだろう。
単体露出計の使いかたの基本は、レンズの方を向いている被写体のメイン部分( 人物であれば顔 )に、露出計に付いている光球( 写真11 の白い球 )をレンズに向けたままでかざして測定ボタンを押す。ここで測定された値をカメラをマニュアル露出モードにして設定する。被写体の側面の明るさを測定したい場合は、光球を側面と平行にかざして測定することになる。
単体露出計で測定するときは、測定者の体や腕などで光を遮らないようにする必要がある。また、着ている服への光の反射も意識する必要がある。
地明かりが強い場所でのストロボ撮影や多灯撮影のときは、光球の周囲に手をかざして余計な光を遮ることで、任意の光だけを正しく測定することもある。この、光球に手をかざす測定方法だけが正しいと説明する向きもあるが、そんなことは決してない。被写体に当たるすべての光を総合して測定する必要がある場合は、手を光球にかざしたりせず、なるべくすべての光を測定しなければならない。
■ 総評
従来の撮影では、離れて設置されたカメラ、照明機材、被写体の3つの間を何度も行き来する必要があったが、ストロボのトリガーが電波式トランスミッターになったことで、カメラ、被写体の間の往復だけで済むようになった……ように思えた。実は、従来の単体露出計で測定する場合、被写体のそばで測定してカメラに戻って調光しなければならなかったので、本当のところはライティングのワークフローは従来とくらべてそれほどの変化はなかったのだ。そこへストロボの調光ができる単体露出計 L-478DR-EL の登場によって、測定と調光が被写体のそばで同時にできるようになった。つまり、調光の度にカメラまで戻る必要がなくなったのだ。このことだけでも L-478DR-EL の登場はライティングのワークフローを劇的に進化させたことになる。加えて、ベース機となる L-478D の素性の良さを引き継いでいる単体露出計だけに、思い描くイメージに沿った撮影ができるようになるだろう。
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