ストロボの TTL 調光と照射角を手元で制御
オフカメラライティングの決定版
Nissin Air System Di700A + Air1
TOPIX
撮影時のライティングにおける最近の潮流は、ワイヤレスでストロボをコントロールする方向へと確実に進んでいます。カメラメーカーからはもちろん、各サードパーティからもさまざまなストロボ用無線装置が発売されている中で、ストロボ専業メーカーのニッシンジャパンからもついに電波式ワイヤレス通信システム Nissin Air System( NAS )が発表されました。そこで発売前のワーキングモデル Air1 と Di700A をお借りして、本サイトの薮田織也が実際に使って撮影。その使用感をレビューします。 by 編集部 |
■ ストロボの無線式オフカメラライティングが流行
ここ数年、一般の写真愛好家たちの間でもストロボを使った撮影が人気を集め始めている。スタジオグラフィックスが開催する写真セミナーでも、ストロボの使いかた指南を求める声が増え、特にポートレートライティングセミナーはとても熱心な受講者に囲まれることになる。
そうした中で、ここ最近質問が多いのが、ストロボのオフカメラでの撮影方法。オフカメラとはストロボをカメラから離して使うことを指し、その方法には長いシンクロケーブルを使う有線式と、昔ながらのメインストロボの光に反応させてサブストロボを発光させるスレーブ式や赤外線、さらに電波を使ってストロボを離す無線式がある。ライティングセミナーでの人気は、もちろん無線でのオフカメラライティングだ。無線でのストロボのオフカメラライティングは、有線式に比べて取り回しが簡単で、スタジオではもちろんのこと、屋外での撮影となると大変に便利なのである。
■ オフカメラライティングの必要性と実際
屋外でのストロボのオフカメラライティングが無線式だと大変便利と言われても、実際にオフカメラライティングをしたことが無い方にはわかりにくいだろう。そこで実際の撮影風景をご覧いただくことにする。写真2は、平日の伊豆スカイラインでのポートレート撮影風景だ。背後にある富士山を大きく映し込みたいと思い、焦点距離の長いレンズ( 420mm )を使って撮影しているため、モデルとの撮影距離はこのようになる。撮影時は曇天の夕方近くなので、ストロボを使わずに撮影すると写真3のようになってしまう。では人物をもっと明るくしようと絞りを1段程度開ければ、写真4のように背後の富士山と空は白くはっきりしなくなる。いずれにしても寒々しい雰囲気は表現できているが、背景もしっかりと映し込み、なおかつ人物を明るく撮りたいとなると、やはりストロボなどの人工光が必要となるわけだ。
そこで写真2のようにストロボ2灯を配置してみた。曇天とはいえ日中のストロボライティングなので、人物からストロボまでの距離が長いと効果がないので、ストロボは人物の近くに配置することに。そうなると、長いレンズでの撮影では必然的に撮影者とストロボの距離は遠くなるわけだ。もしストロボとカメラを有線でつないでいれば、撮影者の手元でストロボの調光ができるが、写真2のような状況では 20m 近くのシンクロケーブルが必要になる。たとえ 20m のケーブルを用意したとしても、ケーブル自体の抵抗が大きくなって発光できなくなるなどの弊害もおきるので現実的ではない。
ではカメラに装着したストロボの発光を元に、遠くに置いたストロボを同調する昔ながらのスレーブ発光や、赤外線式トランスミッターを使った方法だとどうだろうか。スレーブ発光は夜間での撮影であれば使えるが日中では太陽光に邪魔され、同調発光させるのはなかなか難しいし、赤外線方式もやはり光を使うために晴天環境だと厳しいのが現実だ。また、光を使った同調発光方式は、ストロボとトランスミッターの間に遮蔽物があると同調できないというデメリットもある。
こういうときには、今回ニッシンジャパンから発表された Nissin Air System の Air1 などの電波式ストロボトランスミッター( Nissin Air System ではコマンダーと呼ぶ )が威力を発揮する。電波式であれば太陽光に邪魔されることもなく、ストロボまでの距離が 30m 未満ならほぼ問題なく同調発光させられる。また、ストロボとコマンダーの間に遮蔽物があっても、電波式ゆえに同調発光できる。もちろん、遮蔽物の大きさや材質などによっては同調できないときもあるので注意が必要だ。
2灯のストロボ使い、オフカメラライティングで撮ったのが写真5だ。背景の空と富士山も写り、人物は明るく浮き上がっている。ただ少し強めにストロボを焚いているので、写真3や写真4と比べると自然さは失われているが、ポスターによく使われている写真のイメージに仕上がっているのではないだろうか。ちなみに写真が全体的に青みがかっているのは、撮影時にわざとホワイトバランスを白色蛍光灯用に設定し、寒いイメージを強く押し出したためだ。
■ TTL 調光はもちろん照射角も制御できる Nissin Air System
前述した理由から、最近のストロボのオフカメラライティングでは電波式ストロボトランスミッターが人気だ。ただ一言で電波式とは言っても、その機能や性能の違いは大きく、それに合わせるように価格も大きな差がある。
一番安価なのはストロボを発光させる信号だけを送るタイプだ。このタイプのトランスミッターは TTL 調光( *1 )はもちろん、マニュアルでの調光もできない。光の強弱や照射角の調整が必要なときは遠くに置いたストロボまで行って調節しなければならないわけだ。また電波のチャンネルも選択肢が無いか、あっても少なく、同様の機材を使っている人が側にいれば、混信してしまうこともある。
カメラの TTL 機能を利用し、適切なストロボの発光量を自動で調節する機能。ストロボをカメラに直接装着( オンカメラ )していると使えるが、無線式のオフカメラ状態では、一部のカメラメーカー純正トランスミッターでしか使えなかった。
ここ最近、もっとも人気を集めているトランスミッターは、手元で調光ができて電波のチャンネルとストロボのグループ設定を複数選択できるタイプだ。カメラメーカーで発売しているものやサードパーティ製がある。カメラメーカー製のトランスミッターは TTL 発光も制御できるが純正ストロボにしか対応していないし、比較的高価になりがちだ。サードパーティ製となれば、多くのカメラとサードパーティ製のストロボでマニュアルによる調光ができて比較的安価だが、トランスミッターとレシーバーの2つを用意する必要がある。トランスミッターが安価だからとひとつだけ購入して後でレシーバーの必要性に気づく人が多いので要注意だ。( Nissin Air System の場合、レシーバーはストロボに内蔵されている )
今回ここで紹介する Nissin Air System は、これまでの電波式ストロボトランスミッターと性格が大きく異なる。まず特筆すべきは、TTL 調光とストロボの照射角のマニュアル制御が手元でできるということだ。TTL 調光は前述した通り、一部の純正メーカー製品を除いて存在しなかったし、ストロボの照射角をトランスミッター上で調整できるものは、純正品を含めて従来になかったものだ。
照射角がマニュアルで手元操作できることには大きな意味がある。光の広がる範囲をコントロールできるということは、すなわちライティングの自由度が広がり、写真表現が豊かになるということなのだ。しかも遠隔操作ができるために撮影のワークフローは大幅に短縮されるはずだ。こうなると、ストロボ発光部のバウンス角度も Air1 で制御できればと贅沢な考えが浮かぶが、残念ながらそういう予定は現在ないそうだ。
Nissin Air System の中核となるコマンダー Air1 で制御できるストロボは、現時点ではニッシン製ストロボだけで、型番の末尾にAが付く製品に限られる。2015 年2月の時点では、Di700 のマイナーチェンジ版である Di700A( 基本機能と性能は Di700 と同等 )だけだが、今後発売されるニッシン製ストロボは、ほとんどがA型番になることは間違いないだろう。Di700A も高性能高機能なストロボだが、マシンガンストロボの MG8000 にレシーバーが内蔵されて MG8000A になれば喜ぶプロカメラマンは、筆者を含めてたくさんいるはずだ。
■ Di700A+Air1 の操作感
実際に Di700A と Air1 を使ってみた感想を書いていこう。Di700A の基本機能と性能は、従来機種の Di700 とレシーバー部分を除いて同等なので、以前に筆者がレビューした Di700 のページ( リンク先を参照 )をご覧いただくとして、ここでは Air1 のみに特化して書くことにする。
Air1 のサイズは、写真7でもわかるとおり、電波式トランスミッターの中では相当小さい部類に入るだろう。ミラーレスカメラに装着しても、存在を気にせずにいられるサイズだ。そしてなにより筆者が好感を持ったことは、操作系が単純で判りやすく、ストロボに詳しい人ならマニュアルレスでも操作できることだ。
ここ数年、ニッシンジャパン製品に触れることが多い筆者は、同社のほとんどの製品を試させてもらったが、いずれもマニュアルを読まずに操作できた。もちろんストロボの知識があるからこそではあるが、知識があっても操作が難しく、マニュアルがなければ使いこなせない製品が多い中で、これは特筆ものだと思う。Air1 もニッシン製品の DNA を受け継ぎ、操作性は抜群に良い。写真8でわかるとおり、操作性を損なわない程度に縮小された3つのボタンとダイヤル1つですべての操作ができ、どの機能が選択され、なにを操作しているのかは、視認性の高い LED パネル上にすべて表示されるのだ。
Air1 での操作( 写真8参照 )は次の通り。まず「 Mode 」ボタンを繰り返し押すことで「 TTL 」、「 マニュアル( M ) 」、「 照射角( Z )」の3つの選択をする。続いて「 セレクトボタン( S )」を繰り返して押して設定を変更したいグループ( A、B、C )を選ぶ。最後は、「 セレクトダイヤル 」で調光もしくは照射角を変更する。基本的な操作は、すべてこの3ステップで完了するようになっている。ほんの少しだけ複雑なのは、グループのいずれかを発光させなくする場合だ。たとえばグループBを発光禁止にするときは、Bを選択した後に「 ON/OFF ボタン 」を押す。これは流石にマニュアルを読まなければわからなかっただろう。
こうしたトランスミッターを使っていると、ときどき「 その製品は技適マークが取れているんですか? 」という質問を受ける。技適マークとは、日本における電波法技術適合認証を受けた製品に表示できるマークのことだ。この技適マークがついていない電波を発する電子機器を使うと法で罰せられるので注意が必要だ。Air1 はもちろん電波法に技術適合した製品( 写真9参照 )なので安心して使ってもらえる。
■ 気になったポイント
ここでふたつだけ Air1 で感じた改善してもらいたい点をあげておこう。ひとつめは、「 照射角( Z )」の変更は「 Mode 」ボタンではなく別のボタンにしてもらいたかったこと。理由は、Mode 変更で「 Z 」を選択後、放置しておくと無条件で「 TTL 」に戻ってしまうからだ。筆者のようにマニュアル調光を多用するカメラマンにとってこれは使いづらい。TTL 調光は大変便利な機能ではあるが、だからといって押しつけられるものではない。ふたつめは、セレクトダイヤルとセレクトボタンの関係。今回 Air1 でセレクトダイヤルが採用されたのは、セットで販売する Di700A と操作系を統一するためだろうと思われるが、実際に使ってみると操作性の微妙な違いが気になるのだ。今後のニッシン製ストロボがすべてセレクトダイヤルを採用するのであれば、Air1 の操作性もほぼ同じにすべきだろうし、そうでないのであれば、MG8000 のような上下左右の十字キーとセットボタンの組み合わせの方がしっくりくると思える。個人的には昨年発売された i40 のようなアナログダイヤル式が望ましいが……。
少々辛口になってしまったが、この2つの点を考慮しても、Air1 および Nissin Air System がライティングの可能性を広げてくれていることは何も変わらない。
■ 他機との混信を避けるためのペアリング
Air1 と Di700A を使い始める前にしなければならないことがある。それはペアリングだ。Bluetooth 機器同士におけるペアリングと同じ意味だ。つまり、Air1 と Di700A を排他的に接続することになる。Air1 はそれぞれが固有の ID を持っているので、こうしてペアリングすることで、万が一同じ Nissin Air System を使う人が側にいても、混信することを防げるというわけだ。
ペアリングの方法はとても簡単。Air1 と Di700A の両方が電源オフ状態から、まず Di700A の ON/OFF ボタンと Set ボタンを同時に長押しする。するとビープ音が断続的に流れるので、この状態で Air1 の ON/OFF ボタンと Select ボタンを同時に3秒間長押してから両方のボタンを離す。これで数秒後にペアリングが完了する。
Air1 にペアリングできるストロボは 21 台までだ。複数台をペアリングするときは、ペアリングしたいすべてのストロボの ON/OFF ボタンと Set ボタンの同時長押しをしてから、Air1 の ON/OFF ボタンと Select ボタンを同時に3秒間長押しをする。
■総評
Air1 がニッシン製ストロボのみの対応なため、現時点で Air1 単体での販売はない。現在所有しているストロボで電波式オフカメラライティングをしたいユーザーにとっては、Nissin Air System は無縁の製品となるが、トランスミッターとストロボのセットで税込 29,700 円で購入できるのは大変魅力的だと思う。( Di700A の単体価格は税込 24,840 円 )
Nissin Air System は、2 月 12 日よりパシフィコ横浜で開催される「 CP+ 2015 」で展示される予定なので、すぐに現物を触ってみたい人は横浜へ GO だ。筆者も 14 日の土曜日にニッシン・ブースのステージに立つので、観覧にきていただけると嬉しい。筆者の他にも、本サイトに登場する写真家さんたちも大勢登壇する予定だ。
筆者は近い将来にレシーバー部だけが商品化されるのではないかと睨んでいる。どのメーカーの製品においても、ストロボ照射角の制御信号はストロボ下部の接点が使われているので、Air1+レシーバーのセットで、他社製ストロボの TTL 調光+マニュアル照射角制御が可能ではないかと思われるのだ。そういった将来的な話はさておき、ストロボをカメラから物理的に遠ざけることで、ライティングの自由度は高くなり、写真表現の幅は大きく広がることは間違いがない。それに関する方法論は以前からあるものだが、実現するための道具に乏しかったのだ。また従来ある道具は難易度とともに価格も高く、撮影者にとって技術的、金銭的なハードルがあった。そこに今回の Nissin Air System の登場である。廉価で簡単であるにも関わらず、調光や照射角の制御もできるというプロスペックをも満たしているシステムだ。初めてオフカメラライティングをやってみたいという写真好きにオススメの製品だ。
■ Di700A 仕様
タイプ | ニコン用・キヤノン用( ソニー用は後日発売予定 ) |
ガイドナンバー | 54 ( ISO100/m・照射角 200mm ) 48 ( ISO100/m・照射角 105mm ) 28 ( ISO100/m・照射角 35mm ) |
カバー焦点距離 | 24~200mm 以上( オートズーム )ワイドパネル使用時は 16mm |
電源 | 単3型4本( 別売 ) |
電池収納方式 | クイックローディングシステム ( BM-02 ) |
発光間隔 | 0.1 秒 ~ 4 秒 |
発光回数 | 200 ~ 1,500 回( 内部バッテリー使用時 ) |
閃光時間 | 1/800 ~ 1/30,000 |
色温度 | 約 5,600K |
モード | [ フルオート / TTL ] i-TTL( ニコン用 )/ E-TTL II / E-TTL( キヤノン用 ) [ マニュアル ] |
ワイヤレス | 電波式ワイヤレス TTL スレーブ( NAS 規格・ニッシン Air 1 専用 ) 光学式ワイヤレス TTL スレーブ *2 ( 各社純正互換 ) スレーブ *3 ( SD モード・SF モード ) |
ストロボ調光補正 | -2.0 ~ +2.0 間 1EVステップ |
サブ発光部 | なし |
ヘッド可動範囲 | 上方 90°・下方 7°・左 180°・右 180°、正面位置ロック機構付 |
FE / FV ロック、後幕シンクロ、ハイスピードシンクロ対応 赤目軽減モード、スローシンクロモード対応(ニコン用のみ) |
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AF補助光有効範囲 | 0.7 ~ 6m |
背面操作部 | カラーディスプレイ・ダイヤル式マルチセレクター |
外部端子 | 外部電源端子、シンクロ端子、ストロボ増設用端子 |
電波仕様 | 2.4GHz 帯 ISM バンド( 技術基準適合証明取得済み ) |
付属品 | ソフトケース、三脚ネジ穴付きスタンド |
大きさ | 約 140 (H) x 75 (W) x 115 (D)mm |
質量 | 約 380g( 電池除く ) |
*2 光学式ワイヤレス TTL マスターには対応していません。グループA~C設定可能、チャンネル設定は不可( 1~4いずれにも連動 )
*3 SD モードはプリ発光調光方式のストロボに、SF モードは1回のみ発光する方式のストロボに連動するモードです
■ Air1 仕様
タイプ | ニコン用・キヤノン用( ソニー用は後日発売予定 ) |
ワイヤレス方式 | 電波式( 従来型の光学式ワイヤレス TTL 機能は非搭載 ) |
電波仕様 | 2.4GHz 帯 ISM バンド( 技術基準適合証明取得済み ) |
通信 | 事前にペアリング設定を行った Di700A のみと通信 |
チャンネル | 8チャンネル( Air1 により Di700A を含めた全体のチャンネル設定が可能 ) |
発光グループ | A・B・C( グループ別制御、グループ一括制御、グループ別発光停止が可能 ) |
電源 | 単4型2本( 別売 ) |
発光間隔 | 最速 10 回 / 秒 |
発光回数 | 約 3,000 回( アルカリ乾電池使用時 ) |
使用可能範囲 | 最長約 30m( 使用環境によって異なります ) |
動作モード | [ TTL ] i-TTL( ニコン用 )/ E-TTL II / E-TTL( キヤノン用 ) [ マニュアル ] |
ズーム調整 | 本機より Di700A の照射角変更可能 ( 24 / 35 / 50 / 70 / 85 / 105 / 135 / 200mm ) |
ストロボ調光補正 | [ TTL ] -2.0 ~ +2.0 間 1/2EV ステップ [ マニュアル ] 1 ~ 1/128 間 1EV ステップ 各グループ毎および全グループ一括での調整が可能 |
FE / FV ロック、後幕シンクロ、ハイスピードシンクロ対応 赤目軽減モード、スローシンクロモード対応( ニコン用のみ ) |
|
AF 補助光有効範囲 | 0.7 ~ 5m |
背面操作部 | カラーディスプレイ・ダイヤル式マルチセレクター |
付属品 | ソフトケース |
大きさ | 約 65 (L) x 60 (W) x 50 (H)mm |
質量 | 約 55g( 電池除く ) |
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所