薮田織也のアクセサリレビュー
ハクバ GW-PRO バックパック M G2
Photo & Text 薮田織也
TOPIX
2015 年 9月末に、ハクバ写真産業株式会社から発売されたバックパック式カメラバッグ、GW-PRO バックパック M G2。好評の GW-PRO バックパック G2 の耐久性や携行性を受け継いだ中型サイズの本製品を、本サイトでお馴染みの写真家・薮田織也が長期試用したレポートをお届けします。 by 編集部 |
■ リュックタイプが好きな理由
私、薮田が写真を職業にし始めた頃は、スタジオがメインだからとアルミケース( ハクバ製 )で機材を運んでいたが、外撮りの仕事もするようになった頃に、アルミケースでは不都合があるからとリュックタイプとショルダータイプのカメラバッグ( 他社製 )を使うようになった。外撮り、特に街や公園の撮影ではショルダーバッグがなにかと重宝したのだが、個人的な問題として「 なで肩 」の薮田にはショルダーバッグは少々使いにくく、結局どこへ行くのにもリュックのように背負えるカメラバッグ、要するに「 バックパック 」で機材を運ぶようになっていった。ここ数年は光景写真と称して山や川に踏み込んで撮影することが多いのだが、そうした不整地のロケーションでは背負えば両手がフリーになるバックパックがやはりベストだ。
とはいえ、これまでのバックパックには、いろいろな不都合を感じていた。たとえば、軽さを重視すると機材の安全性が損なわれ、逆に剛性を重視すると、重くなって体へのフィット感がなくなるなどだ。その他、機材の取り出し時のトラブルやファスナーの耐久性など、大小さまざまな問題を経験してきた。
そういうわけで、カメラバッグの豊富なラインナップを持つハクバ写真産業から発売されていた GW-PRO シリーズはとても気になる存在だったのだが、今年の初夏、この GW-PRO が新しい世代になり、「 G2 」シリーズ( 写真3 )が発売された。それまでの GW-PRO を使っていた知人のカメラマンが「 G2 」を絶賛していたので、さらに興味が沸いていたところ、この秋、G2 シリーズを一回りコンパクトにした「 M G2 」( 写真2 )が追加された。
バックパック派の薮田の目に魅力的に映るこの2製品、本サイトの社長がレビューしてみないかと言うので、無理言って GW-PRO バックパック M G2 と G2 を手に入れてもらい、両方とも試してみることにした。こうなったらスタジオ撮影そっちのけで、外撮りに行くしかない! というわけで、約2ヶ月近く、この2製品を上高地や川崎の工場夜景撮影など、いろいろな場面に持ち出して使ってみたので、そのレポートをお届けしたいと思う。
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GW-PRO バックパック G2 ■ メーカーサイト ■ GW-PRO バックパック G2 |
GW-PRO バックパック M G2 ■ メーカーサイト ■ GW-PRO バックパック M G2 |
■ GW-PRO バックパック M G2 徹底紹介
GW-PRO バックパック M G2 と G2 の両方を使ってみた結論を先に書くと、二度と従来のバックパックは使いたくないというのが本心だ。GW-PRO シリーズは、バッグ単体が軽い上に内部構造のアルミフレームによるものだろうか、剛性が非常に高い。また、機材の収納性、体へのフィット感が抜群に良いのだ。そして使ってみてわかることだが、微に入り細を穿つ造りになっている。実際の現場で開発者の心遣いをはっきりと感じることができた。ここまで作り込まれていると、提灯記事と言われてもいいので褒めちぎりたくなる。もちろん、改善して欲しいと感じた部分もあるので後述するが、現場ではそれを忘れさせるほどの使い勝手の良さがあった。
と、詳細を記さずにひとりで盛り上がっていても仕方がないので、ここから、GW-PRO バックパック M G2 に焦点をあてて、その使い勝手を紹介していこう。まずは、どれほどの機材を収納できるのかを見ていただこう。
初めて GW-PRO バックパック( 先代 )を見たとき、開閉蓋の位置に驚いたものだ。「 なんで背当て側に蓋が?」と思ったが、従来のリュックタイプのカメラバッグで思わぬ事故に遭遇したことがある人なら、この配慮に納得するだろう。従来のリュックタイプのカメラバッグは、背面ではなく、表面から収納した機材を取り出す。この表面アクセスだと、ファスナーを閉め忘れて背負ったときに、機材を地面に落としてしまうという事故につながる恐れがあるのだ。まさかと思うかもしれないが、つい最近、知人のプロカメラマンがこの事故に遭遇した。機材の扱いに慣れれば慣れるほど、つまらないところで事故に遭うのはクルマの運転と同じなのである。その点、GW-PRO のような背面アクセスなら、こうした事故を未然に防ぐことができる。
GW-PRO バックパック M G2 の内部は懐が深く、Nikon D810 や Canon 5D mark III などのプロ用フルサイズ一眼レフカメラに望遠ズームレンズを装着したまま収納できる。また、24-70mm 標準ズームレンズ単体を縦に収納できる深さがある。Nikon D4S や Canon 1DX、そしてバッテリーグリップを付けたカメラは、そのままでは M G2 には収納できないので、そういうときは G2 を使うことになる。G2 だと一回り大きな余裕で、カメラ本体2台にそれぞれの交換レンズを入れることができる。
内部の仕切りはマジックテープ付きで、自在に配置し直せるようになっている。飛び出し防止用の細い仕切りも嬉しい配慮だ。
GW-PRO バックパック M G2 は、本体サイド部に開閉蓋があり、そこからレンズを付けたままのカメラを収納、または取り出すことができる。この構造であれば、バックパックを下ろさずにカメラなどの機材にアクセスできる。これに対して G2 は、トップ部に開閉蓋があり、そこから内部にアクセスする。G2 に M G2 のようなサイドからのアクセス方法を採用しなかったのは、バックパック自体の大きさから、機材をフルに収納していた場合に重くなって危険だからということだ。
こうした簡易なアクセス手法は大変便利だし筆者もよく利用しているが、前述した背面アクセスの機材落下事故防止策と矛盾することにもなる。もちろん利用者責任の範疇ではあるが、GW-PRO バックパックに施された工夫に感心させられた後では、ここにも何か工夫が欲しいと感じてしまうのは贅沢な要求だろうか。たとえば、落下防止用にゴムバンドなどでカメラをホールドするといった工夫だ。多少利便性は損なわれたとしても、事故を経験したユーザーなら納得できると思う。
G2 ほど豊富ではないが GW-PRO バックパック M G2 には、いろいろな小物を収納できるポケットが用意されている。最も大きなポケットは、表面の収納スペースで、薄いノート PC であれば、13 インチディスプレイ搭載タイプも収納できる仕様になっている。写真7は 12 インチディスプレイのノート PC と AC アダプター、マウスを入れたところだが、厚みのあるノート PC だったので、少しきつい感じだ。これに対して G2 の PC 収納スペースには深さがあり、13 インチのディスプレイを搭載するノート PC を楽々収納できる。
薮田がこれまでに使ってきたバックパックにはノート PC を収納できるスペースはなく、別の PC 用バッグを一緒に携行していたため、荷物がひとつ増えてしまっていた。山間部などの不整地に行くときは、ノート PC はあきらめるしかなかったのだが、GW-PRO バックパック G2 シリーズなら必要な機材をほぼ持っていくことができるわけだ。
ちなみに、GW-PRO バックパック G2 シリーズのファスナーは、すべて YKK 製のファスナーが採用されている。ファスナーは止水式のもので、雨に濡れても簡単には水が染みこむことはない。約2ヶ月の間、かなり乱暴にファスナーを開け閉めをしてみたが、かみ合わせが狂ったり、布を噛んだりすることはなかった。かなりしっかりした造りになっている。
■ 実際に背負ってみないとわからないフィット感
GW-PRO バックパック M G2 は、プロ用機材一式が入るカメラバッグであるのにも関わらず、女性が背負っても違和感を感じさせないほどコンパクトだ。写真8の左側のオッサンは私、薮田だが、薮田は肩幅が狭いので、同じ身長と体重の男性が背負えば、もっと小さく見えるはずだ。
GW-PRO バックパック M G2 は、G2 と同様に日本人の体形に合わせた設計がなされている。背当て部分の形状は緩やかな曲線を描き、背中にフィットしやすくなっている。さらに、ショルダー部のハーネスとバッグの接合位置を下げた設計により、バッグ全体をより高い位置で背負える構造になっている。これによりバッグの重心が高くなり、肩に負担がかかりにくくなっている。ただし、せっかくの体に優しい設計も、なにも考えずに背負ったのではあまり効果がない。写真 10 の要領で、ショルダーハーネスのベルトを前方に引き、バッグのトップ部を肩より高い位置にくるようにして背負うことが大切だ。山登りの経験がある方なら周知のことだが、荷物を背負うときは、重いモノを上に、軽いモノを下にすることが基本。当然バックパックもなるべく上に背負うべきなのである。
GW-PRO バックパック G2 シリーズは、M G2 を含め、アルミフレームを骨組みとしていることで軽い上に剛性が高い。型が崩れやすいリュックタイプにおいてはもちろん、カメラという精密機器を収納するバッグにおいてとても大切なことだ。また、剛性を高めるとともに人体への負担を軽減するために、GW-PRO バックパック G2 シリーズは、バッグ形状以外にも優しい工夫が施されている。それがショルダーとウエスト部のハーネス、そして背当て面で使われている厚いメッシュ構造のクッションだ。このクッションは通気性が高く、体に密着しても汗による蒸れを限りなく軽減してくれる。
GW-PRO バックパック G2 シリーズの材質は、耐久性と携行性を意識してバッグ本体の生地には強くて軽い 840 D ( デニール )ナイロンを、強度が必要な部分には 1680 D ナイロンを使っている。デニールとは繊維や糸の太さを表わす繊度の単位で、1デニールは繊維の長さが 9,000m のときに重さが1g である状態を指す。つまり、デニールの数字が大きいほど重い繊維となるが、それにつれて強度も高くなる。ちなみに、1680 D ナイロンは、防弾チョッキなどにも使われているものらしい。
■ 小技の効いた収納性と細部に拘った造り
GW-PRO バックパック M G2 は、G2 に比べると一回り小さい中型サイズのバッグだが、意外にも収納性は高い。ここにも収納場所が! と小さな驚きを感じるほどいろいろな場所にポケットがある。
GW-PRO バックパック G2 シリーズのウエストハーネスには、両サイドに単3乾電池4本が入るほどの小さなポケットが付いている。また、このハーネスは取り外しができるようになっている。バックパックを使うロケーションによっては、ウエストハーネスが邪魔になることがあるので、これはちょっとした気遣いだ。
GW-PRO バックパック G2 シリーズを初めて観たときに「 なんじゃこりゃ? 」と思ったのが、ショルダーハーネスの付け根にある謎のフック。これは「 くびの負担が ZERO フック 」( 写真 12 )という付属品で、カメラストラップをここにかけるのだと説明を受けたときは正直「 ふ~ん 」としか感想はなかった。しかし、使ってはじめてその有意性がわかるものが世の中には結構たくさんあるのだ。レンズを装着したフルサイズのデジタル一眼レフは、重さにして 3~4kg になることがよくあるが、この重量の物体をストラップで終日首にかけていれば、如何に若いときに陸上と柔道でみっちりと鍛えた薮田の太い首でも相当に堪えてくる。ところが「 くびの負担が ZERO フック 」にストラップを掛けるだけで、首にはまったく負担がなくなるのだ。ま、まさに「 くびの負担が ZERO フック 」! ふ~んとか思ってすんません。ハクバさん。
「 くびの負担が ZERO フック 」以外にも、実際に使ってみてその有意性に気付く工夫が GW-PRO バックパック G2 シリーズにはまだある。それが写真 13 のバッグ底面の素材と形状だ。まず底面の曲面形状だが、使いはじめる前はこの形状のおかげでバッグを垂直に置くことができないのがとても気になっていた。さらに、底部を曲面にしたことによって、底部の収納スペースに機材を入れにくい空間ができており、なぜ無駄な空間を作っているのかが不思議だった。しかしこの形状は、利用者の安全への配慮と、疲れにくいバッグにするための工夫だったのだ。登山では登りよりも下りの方が大変で危険も多い。荷物を背負っての下山では、岩や木などに荷物をひっかけて転び怪我をすることがある。そうした危険をなるべく少なくするために、GW-PRO バックパック G2 シリーズでは底部の形状を曲面にして転倒の危険を減少させているのだ。前述した、荷物を背負っての登山を疲れにくくするために、荷物の上部に重いものを配置するのが基本、というのを思い出してもらいたい。また、底部を曲面にしたことで底部に収納できる機材は必然的に他よりも軽くなる。結果、底部の重心が下がるのを防いでいるわけだ。さらには、曲面構造によってできた底部の空間がバッグを地面に置いたときの衝撃緩衝スペースにもなる。一見無駄なようでいて、とても理にかなった構造だったわけだ。
こうした設計上の配慮は、G2 シリーズを使ったことのないユーザーには伝わりにくいだろう。ややもすると単に無駄な形状と思われてしまうかもしれない。また使用後でも気付かないユーザーもいるだろう。当然、ハクバの開発陣もその点を危惧したと思うが、たとえ誤解されても、実際に使ってくれるユーザーの安全性と利便性を優先したことを大いに賞賛したい。
もうひとつの工夫だが、この底部には防水生地が使われていて、湿った地面に安心して置けるようになっている。ただ底部が丸いため、このまま地面に置けば表面を裏にして倒れてしまう。表面の素材は撥水加工がなされてはいるが、あくまでも撥水であり防水ではないので配慮が必要だ。写真 14 、写真 15 のように表面に三脚をくくりつけると、自立できるようになるので濡れた地面にも置きやすくなる。または、写真 18 のような付属のレインカバーを付けるのも手だ。
三脚の収納はどんなカメラバッグでも悩みの種だが、GW-PRO バックパック G2 シリーズには、写真 14 、写真 15 のようなユニークな工夫も施されている。こうして三脚をくくりつけると、底部が曲面形状の GW-PRO バックパック G2 シリーズも自立させられる。写真 15 では、表面のベルトだけを使って三脚を固定したが、写真 16 で一脚を固定したサイドベルトを表面に回して留めれば、より強固に三脚を固定できる。
ただ、長い三脚の場合は上部から雲台部がはみ出すことがある。バックパックを背負った状態では後ろに注意を向けにくいので、三脚の雲台を他人にぶつけるなど、周囲の迷惑にならないように気をつけたい。
GW-PRO バックパック M G2 はバッグの両サイドにもポケットがある。ここにはペットボトルや一脚、またはミニ三脚を入れるなどできるだろう。ポケットの上部にはベルトがあるので、長い一脚を固定することもできる。また、個人的に嬉しく感じたのは、ショルダーハーネスにあるフック用リングだ。ここにカラビナを使ってレフ板や、その他軽いモノを掛けることができる。
■ 付属品や別売製品の活用
約2ヶ月、GW-PRO バックパック M G2 と G2 をいろいろな撮影現場に持って行き使ってみたが、微に入り細を穿つ造りにとても満足している。このバックパックでまだ雨の撮影現場は経験していないが、標準で付属するレインカバーも耐水圧が 1,500mm という確かな造りになっているのが嬉しい。GW-PRO 自体に撥水性はあり、少しくらいの雨で中の機材が濡れることはないが、やはり大切な機材を少しでも濡らしたくはないだろう。レインカバーの装着方法も至って簡単。シャワーキャップを広げる要領でバックパック本体に被せるだけていい。
バックパックに限らずカメラバッグを使い込んでいくと、機材を増やしたり買い換えたりする度に収納内部の仕切りを工夫したくなる。そんなときに、あると便利なグッズを紹介しておこう。写真 20 の「 カメラ ざ・ぶとん 」がそれだ。
この「 カメラ ざ・ぶとん 」があれば、機材と機材の隙間に入れて安全な簡易仕切りができるし、また屋外でのレンズ交換時にレンズの保護シートとして使うこともできる。色はオレンジ・ピンク・ブラック・カモフラージュグレー・桜紺の5色が選べる。
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■ 総評
約2ヶ月の試用だったが、使い込めば使い込むほどに、GW-PRO バックパック G2 シリーズに込められた開発者の思いが伝わってきて、現場での利用をよく考えて造られた製品だということがわかる。今回は新製品の M G2 に焦点をあててレポートしたが、個人的には一回り大きなサイズの G2 がお気に入りだ。もちろん、機材を最低限にしたロケに行くときは M G2 が最適で、写真1の上高地や写真 22 の川崎工場夜景撮影では、M G2 が活躍した。そして実際のロケ地でレンズ交換するときなど、G2 シリーズの背面アクセスが如何に便利で有意性があるのかがわかった。底面の曲面構造によって、常にバックパックの表面が地面に接地するため、背当て面が汚れることがないのも優しい設計だと感じる。また、新開発のショルダーとウエストハーネスによってバックパックが体に優しくフィットし、まさに体と一体感があるので疲れにくいのも嬉しい。ただ、バッグと体の一体感は良いのだが、齢が四十、五十にもなると、例の○十肩がひどくなり、フィットさせたバッグを肩から下ろすのに一苦労する。G2 の次のジェネレーション3( G3 )の開発時には、是非とも体にフィットさせたバックパックを簡単に緩めて外せる構造をショルダーハーネスに施してはいただけないだろうか。これまた贅沢な注文かもしれないな。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所