鉄道写真家・煙道伸麻呂の鉄道写真撮影講座 第50回 雨の日の撮影方法
Photo : Nobemaro Endoh
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鉄道写真の撮り方を体系的に解説している、鉄道写真家・煙道伸麻呂の鉄道写真講座の第 50 回目は ” 雨の日の撮影方法 ” を取り上げました。撮影に不向きとされる雨天を活かせる方法をご案内します。 by 編集部
<本記事は 2024 年 4 月現在の情報です。本記事をご覧いただく時期により状況は記事内容と異なる場合がございます。>
みなさまこんにちは!鉄道写真家の煙道伸麻呂です。今回は雨の日に狙いたい場面と撮影で気を付けることを解説します。
一般的に撮影には不向きとされている雨ですが、そのような瞬間だからこそ撮れる作品もあります。撮影機材も年々進化をとげ、暗く厳しい状況でもよく写るようになりました。
ぜひこれからの季節に向けて、雨の日の撮影方法を学んでおきましょう。この撮影方法の一部は雪にも応用できます。それでは早速スタートです!!
Index
1.雨のシーンだからこそ撮れる鉄道写真
鉄道写真は、晴天・順光下での撮影が基本とされていますが、たまには雨の日の情景も良いものです。フィルム時代では感光材の能力も限られていたため、少しでも暗くなったり、天気が悪く露出値が稼げなくなると撮影をやめてしまう撮影者も多くいました。
今では悪天候もなんのその! 臨時列車が走るとなると天候や時間に関係なく、撮影地はカメラマンが鈴なりに顔を並べています。機材が進化したことにより、多くの撮影チャンスが生まれるようになりました。そのため、いまは雨の日を好んで撮影する人もいるようです。
また、カメラやレンズの設計も防塵・防滴が標準となり、どのメーカーでもある程度は雨に強いものが主流となりました。そのおかげもあって、雨は昔ほど嫌厭されるものでは無くなったように感じます。
また雨の風景は、どこか情緒的で寂しさを感じます。別れ・涙・終焉 などを表現するにはぴったりです。写真展や組写真では、起承転結の「転」や「結」に扱われることも多いシーンです。雨の日だからと喜んで撮影する人は少ないですが、たまには雨のシーンを積極的に狙うのも良いでしょう。
雨や雪が激しく降っているときには、スローシャッターでの撮影もおすすめです。1/30秒程度の遅さに設定すると、雨粒や雪が一筋の線のように描写されます。これにより自然の動感が表現可能です。反対に高速シャッターでは、小さな点々のように描写されます。その、ときどきに合わせて設定を考えましょう。
こちらも土砂降りの中で撮影した一枚です。本来はもう少しシャッタースピードを上げたいところでしたが、雨の雰囲気とLED表示を意識して遅めのシャッタースピードとしました。列車の角度が正面に近いので、動体ブレを抑えて撮影ができました。
2.リフレクションを狙う
さて、ここからは実践的な狙い方をご紹介します。雨の日に人気の定番撮影といえば、リフレクションです。
リフレクションとは、そのまま反射を意味しています。具体的には雨で出現した、水溜りなどの反射面を写し込む撮影方法です。この場合はカメラを濡れない程度まで下げると、より多くの反射が取り込めます。
明るい環境下であれば、以前ご紹介した偏光フィルターを駆使すると反射の具合を調整できます。普段から撮影カバンに忍ばせておきましょう。
レンズは広角から標準域のものが撮影しやすいです。場合によっては不安定な体勢で撮影するかもしれません。周囲に迷惑がかからないかどうか、をしっかり確認しましょう。雨の日にカメラを低く構える姿は、周囲に不安を与える存在になりかねません。リフレクションの撮影は、昼間も良いですが夜間はさらに魅力が増します。可能な限り、水鏡となるような静かな瞬間を狙って撮影するのがコツです。
3.蒸気機関車の撮影では恵みの雨(雪)
鉄道車両の中でも、雨と相性の良い被写体もあります。それは蒸気機関車です。
蒸気機関車から出る煙は、湿度が高いほど迫力が増します。ときには車両全体を煙が覆って隠してしまうほどです。煙がまるで白いヴェールのようになり、その中から突如として現れる姿は感動すら覚えます。とてもSLらしい独特なシーンです。走行時だけでなく、停車しているときですら、絵になることもよくあります。
雨だけでなく、雪の場合も同じく迫力がある姿を見られます。そのときは以前のSL撮影の回でご紹介したように、駅の発車や上り勾配を重点的に狙いましょう。
さまざまな鉄道風景がありますが、SLの場合は悪天候も味方につけて撮影しましょう。ただし、撮影者として気を付けることもあります。悪天候のときは、当然ながら運転士の視界も悪い状態です。ただでさえ前方が見づらいSLですから、いつもよりも安全行動を意識して行動しましょう。これは撮影における、当然の配慮でありマナーと言えるでしょう。鉄道への愛情表現といっても良いかもしれませんね。
4.あえての望遠レンズ?
さて、雨の日ではあまり使いたくない機材があります。それは超広角レンズと超望遠レンズです。いわゆる両極端なレンズは基本的に撮影には不向きです。標準から、中望遠レンズが扱いやすいです。
超広角のレンズの中でも、特にレンズ口径が大きいもの。いわゆる出目金レンズの種類は、よほど特別な状況でない限り使いたくはありません。撮影してみるとわかるのですが、常に雨との闘いです。レンズの前玉が極端に露出しているため、気付かぬうちに水滴が付着することがよくあります。撮影中は夢中になって気づかないことも・・・。広角側の撮影では、できる限りレンズフードが深い機材か、レンズ口径が小さい機材がベストです。
また超望遠レンズにとっても雨は厳しい条件です。こちらの場合は、レンズの前玉に水滴が付着するリスクは少ないです。それよりもAFが被写体の動きに対して、正しく動作しない現象が発生します。具体的には列車ではなく、雨にピントがあってしまうのです。これは機材の性能が良すぎることも原因の一つです。この場合はAF機能をOFFにして、MFで置きピン撮影をしましょう。現代では、やや不便に感じる撮影法ですが、こちらの方が確実です。将来的に鉄道に特化した高精度AFが登場すれば、こちらの問題は解決するでしょう。次世代のAF機能が楽しみです。
望遠レンズにとって雨は、もう一つ厳しい条件が重なります。それは悪天候によって遠景のコントラストが低下することです。感覚的な言葉で表現すると、もやもやした雰囲気で写る ことです。こちらの場合は、撮影時にRAWなどで撮影しておきましょう。そうすれば後からの画像処理で、ある程度カバーが可能です。もしくは1本100万円以上するような望遠レンズであれば、高コントラストではっきりと写すことが可能です。わたしの場合はもちろん・・・前者の方法で対処しています。
5.雨の日に使えるアイテム
雨の日にカメラが濡れないよう工夫する写真用品も発売されています。このようなアイテムも使いながら、撮影するとさらに良いです。まずは基本のレンズ保護フィルターです。こちらを装着することで、レンズの前玉に雨がつかないように工夫しましょう。もし濡れてしまった場合も、レンズを傷つけずにさっと拭き取れるのでこちらはマストアイテムです。また保護フィルターは全天候で効果を発揮するので、レンズを購入と同時に買っておきましょう。私も所有しているレンズに常時必ず付けています。清掃も簡単です。
雨の日限定であれば、機材用のレインカバーもかなり有効的です。特に望遠レンズを使う際には重宝しています。撮影カバンには入れっぱなしにしておき、悪天候時に使用します。折り畳むと省スペースで済みます。カバンの底に入れておいて良いでしょう。鉄道撮影では傘をさしながらや雨宿りしながら撮影できる環境はほぼ皆無です。列車の通過時に起きる巻き込み風を考慮し、傘をさしながらの撮影は控えましょう。思わぬ事故につながる可能性も高いです。レインカバーの使用は安全撮影への第一歩と認識しておきましょう。
万が一、機材が濡れてしまった場合は結露対策が必要です。機材を濡らしたままでは余計な水分が中に入り込み、内部で結露や腐食の原因となります。レンズは内部が曇ったり、カビが発生する原因となります。カメラの場合は特にホットシュー周りが要注意です。いち早く水分を拭き取り、確実に乾燥させましょう。
6.カメラは精密機器です
最後に撮影地でみた光景をご紹介します。場所は伏せますが、あるSL列車を待つ最中に突然雨が降ってきました。それも暴風雨かと思うような強い雨です。通過まで30分ほど時間がありましたから、さすがにカメラを仕舞って待機です。
現場のほぼ全員が防水策をとる中で、一人だけ、某メーカーのフラッグシップのカメラとレンズをつけた撮影者が、三脚にカメラをつけたまま悠然と立っています。そのとき撮影をご一緒した、友人の某カメラメーカーの技術者が見かねて「カメラがずぶ濡れですよ」と話しかけていました。するとどうでしょう、例の撮影者は「このカメラは防水防塵の最新モデルだから大丈夫なんですよ」と余裕の笑みでした。
あまりの驚きに思わず私と友人は顔を見合わせてしまいました。確かに現代のカメラは高度な防塵防滴性能があります。だからといって、わざわざ故障の原因となるような行為は控えるのが当然です。カメラやレンズは、一緒に写真を創る「相棒」です。命懸けの過酷なネイチャーフォトの世界とは違うのですから、機材は大切に扱いましょう。
余談ですが、友人はその後隅の方へ移動して、どこか冴えない表情で撮影をしていました。
7.次回予告
これにて、雨の日の撮影術の紹介は終了です。いかがでしたでしょうか。
さて次回は、あまり知られていない山梨リニア実験線のご紹介です。新世代の鉄道風景もまた刺激的です。
ぜひ次回もご期待ください。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
煙道伸麻呂