ポートレイトのネタ帳・清田大介と大村祐里子のネタ《前編》
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2019 年の晩秋、府中市にある瀟洒なハウススタジオに男女2人の人気若手写真家がやってまいりました。1人は起業家でもある清田大介氏。そしてもう1人は当サイトでもお馴染みの写真家、大村祐里子氏。ハウススタジオに写真家とくれば目的は自明。ポートレイトを撮る以外にすることはありませ……?? でもなぜ揃って同じスタジオに? 両名とも同世代だし、ま、まさかの密・会……いえいえ、実は「 ポートレイトのネタ帳 」というスタジオグラフィックスの新企画( 前編・後編 )にご登場いただき、両名のポートレイトにおけるストロボ&フィルターワークの「 ネタ 」をご披露いただくためなのです。というわけで、新進気鋭の人気写真家2名のテクニックをとくとご覧あれ! by 編集部
■ ネタをご披露いただく2人の写真家
清田大介氏
Portrait & Fineart Photographer。「 清田写真スタジオ 」経営。TIFA、IPA など国際的なコンテストや東京カメラ部・JPS・JPA など国内のコンテストなどに多数入賞・入選。商業撮影、雑誌、書籍への執筆、セミナー開催、展示会も多数開催。SKYLUM Ambassador。
http://blog.dream-pixels.com/
大村祐里子氏
1983 年 東京都生まれ 写真家( 有限会社ハーベストタイム所属 ) 雑誌、書籍、アーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動中。『写ガール』にて「読書感想写真」、CAMERA fanにて「SHUTTER GIRL WORLD」連載中。
https://omurayuriko.jp/
■ 2人が同じモデルを撮る!?
本企画は1人のモデルを清田氏と大村氏の2人の写真家にそれぞれ撮り競っていただき、その際のテクニックを前編後編と2回に分けて読者の皆様に公開しちゃいましょうというもの。その両名の被写体となっていただくモデルさんは、毎日が楽しみすぎて最近朝早く目覚めてしまうという俳優業もされている稲松悠太氏です。清田大村両氏のテクニックにも興味が湧きますが、イケメン男性モデルを画風の異なる2人が撮るとどんな画の違いが出るのか、その結果の方も楽しみですね。
さて、今回の企画では清田・大村の両氏に対して「 縛り 」といいますか、あるテーマを提示させていただきました。それはクリップオンストロボと光学フィルターを必ず使うことです。クリップオンストロボはニッシンジャパン社の MG80 Pro を、光学フィルターは NiSi 社の減光系( ND )フィルターを使ってもらいます。スタジオ撮影とはいえ窓のあるハウススタジオでの日中の撮影ですので、そこでクリップオンストロボと ND 系光学フィルターをどう使いこなすのかがポイントです。一般的にストロボは暗い場所で使うものと思われがちですし、減光系の ND フィルターは名前の通り光を減らすフィルターです。ポートレイト初心者にとってはなにがなにやら、って感じかもしれませんが、両氏の撮影を観ていってもらえれば、この組み合わせの面白さが理解いただけると思います。
そして今回使わせていただくハウススタジオは府中市にある Creative Photo Studio -ring link- さん。2019 年にオープンしたばかりの綺麗で可愛いスタジオです。柔らかい自然光が窓からふんだんに入るこのスタジオは、実は清田氏が運営する2つ目のレンタルスタジオです。そういう意味では今回は清田氏に分がありそうですが、現場経験の豊富な大村氏も侮れません。では早速撮影に入っていただきましょう!
■ 清田大介氏のファーストカット
使用機材に縛りを設けましたが、撮影スタイルはあくまでも両氏の自由にお任せです。それでも両氏とも最初に選んだのが自然光が入る窓際での撮影。撮影日は曇天から雨天へと変わるあいにくの天候でしたが、ring link の窓からは天然のディフューザーをかけた柔らかい明かりが入ってきます。まずは清田氏のファーストカットからご紹介しましょう。
この作品は写真4の場所で撮ったものですね。日中なら光がふんだんに入ってきていますから、ストロボを使わなくても普通に撮れちゃう場所ですよね?
ええそうです。ここで普通に撮ると写真5のような見た目フラットな画が撮れます。でもクリップオンストロボを使うことが条件なので、作品1のようなブラックボックス化( 自然光や地明かりをカットした状態 )した画が撮りたいなと思ったわけです。自然光+クリップオンストロボでの撮影も悪くはないのですが、今日は曇天のため自然光の色温度は高めになるので、ストロボ光( 日中晴天の太陽に近い色温度 )と組み合わせるとミックス光になっちゃいますから、どうせならストロボ光をメインにしてコントラストの高い画にしたいと思いました。そこで、ND フィルターを使って自然光をカットして、クリップオンストロボでライティングしました。
写真4のような自然光がふんだんに入る場所でも、ND フィルターで減光すればブラックボックス化できるというわけですね。まるで外光の入らないスタジオで撮ったみたいですね。でも ND フィルターってファインダーも暗くなりますからポートレイトのような動く被写体を撮るときは不便じゃありませんか?
普通の ND フィルターならそうですね。ND フィルターは ND 値が高くなるほど暗くなり、ND8 なら明るさが 1/8 になるわけで、フィルターを付けたままなら人物撮影はほぼできません。ミラーレスカメラなら EVF の感度を上げてある程度対応できますけど、今回使っているのはミラーのある一眼レフの Canon EOS 5D Mark IV なので、ファインダーでの目視は厳しいですね。
ということは、シャッターを切る前の構図決めやピント合わせの度にフィルターを外すんですか?
ブツ撮りや風景撮影ならそれができますけど、ポートレイトでそれをやってたらモデルさんのモチベーションが下がっちゃって良い写真が撮れません(笑) なので ND 値が自由に変えられる円形フィルターの「 可変 ND フィルター Vario 」を使いました。Vario は前後2枚のフィルターで構成されていて、1枚を回転させることで ND 値を3から 32 の間でシームレスに変えられるフィルターなんです。だからもっとも明るく見える状態で構図決めやピント合わせをして、決まったら必要な暗さまでフィルターを回転させてシャッターを切ればいいんです。普通の ND フィルターだと1段刻みでしか減光ができませんが、Varioなら回転の度合いでファジーな減光効果が見込めます。
Varioにはツマミが付いていて、ここを回せば減光効果を調節できるわけですね。
ええ。そしてこのツマミは取り外しができるので、レンズフードを付けることもできますね。また、この手の可変 ND フィルターって、可変するフィルターが延々と回転するものが多いんですが、Varioのいいところは、最小値( min )効果の ND3 と最大値( max )効果の ND32 でロックがかかることなんです。つまりファインダーを覗いている状態でも、フィルターを回してて最大値がどこかを確認できるわけです。あ、今最大値だから少し戻さないとってね。
最大値で撮ってはダメなんですか?
一般的な可変タイプの ND フィルターって、最大値までめいっぱい減光すると画にムラが入ることがあるんですよ。だから今の設定が最大値かそうじゃないかがファインダーを覗いていてもわかるのがいいんです。
クリップオンストロボの話しに移ります。作品1は写真4のようにライトスタンドに装着した MG80 Pro を1灯で撮ったものですね。MG80 Pro にはアクセサリを付けずに、被写体に直炊きしています。これの意図を教えてください。
モデルさんが男性なので、コントラストをきつくして濃い陰を出したかったからです。衣装と同じ色系の背景なので、コントラストをきつくしても画がまとまりやすいかなと。
モノトーンにすると画がまとまりやすいのですね。
特に意図していない限り、僕は普段の撮影で3色以上の色は使わないようにしています。画の中に構成される色って、3色目からは意味を持ってしまうんですよ。3色目にその意味が表現できているなら必要な色と言えるでしょうが、それがない場合は余計な色は排除するようにこころがけています。
色は3色目から意味を持つと。なるほど~。モノトーンだと画のメリハリを付けるのが重要になると思いますが、今回は ND フィルターで減光して自然光を排除し、1灯のストロボ光だけでコントラスト、つまりメリハリを付けたと。そのストロボ、MG80 Pro のメリットはどこにありますか?
Varioを使ってますから、構図を決めたらすぐにVarioの減光効果を必要なまで上げて速攻で撮影したいわけです。そんなときにストロボの光量が足りないとか、照射範囲を変えたいとかで、都度ストロボを設置した場所まで行って設定しなおしなんてことになると、撮影のリズムは狂うわモデルさんのモチベーションは維持できないわで撮影が難しくなります。MG80 Pro は Wi-Fi を使った無線コントロール( Air 10s )が手元でできるので重宝しますね。撮影のリズムってポートレイトではとても重要なんです。
■ 大村祐里子氏のファーストカット
清田氏のファーストカットを取材している隣の部屋では、既に大村氏が撮影の準備を始めていました。清田氏のお話を一通り伺ったので、それではとモデルさんと隣の部屋へ移動してみると……2組みのディフューザーで囲った中を覗き見ている大村氏が……。ホント、この方の動きにはいつも怪しさがつきまとっています。しかしストロボも設置されていませんし、カメラにはフィルターも装着されていません。ええええ、今回の縛りは無視かーい、と思いましたが、まずはファーストカットなので好きに撮ってもらうことにしましょう。
ゆり茶さん……というか大村さん。いい作品だとは思いますが、これってストボロもフィルターも無しですよね?
え!? あ~、後で使いますよちゃんと。はい。でもまずはファーストカットなのでモデルさんの雰囲気を掴むためというか、どんな表情が撮れるのかなという試行錯誤のためのカットです。
わかりました(笑) 記事において縛り無視のカットはどうかなと思いましたが、ネタとしてためになるお話しが聞けそうなので掲載しますっ!(笑) 後編もあるから、大村さんのストロボ&フィルターワークはそちらで取り上げることにします。そういわけで、自然光だけで撮るポートレイトのコツをアドバイスしていただけますか?
アドバイスですか(笑) え~と、まずは撮影位置にモデルさんに来てもらったら、モデルさんをいろんな方向から眺めてください。ストロボと違って自然光は光の方向を変えられないので、モデルさんの周りをできれば 360 度、ぐるぐると回って陰の出方を確認します。
そうか! ストロボなら光の方向を自由に変えられるって、当たり前のことですけど、こうして自然光だけの撮影でお話しを聞くと当たり前のことがとても重要なこととして再認識できますね! しかしなぜそんなに陰の出方にこだわるのですか?
人の顔って、眺める角度によってもイメージが変わりますけど、そこに陰が加わると同じ表情をしていても雰囲気が大きく変わるんです。初めてのモデルさんの場合は、その振り幅の大きさとか、どんな表情を引き出せるのかをあらかじめ確認しておかないと、演出ができません。写真って演出が大切だと私は思ってますから。
写真は演出! いやー、清田さんの3色目は意味を持つもそうだけど大村さんも良い語録を持ってますね~。記事にしやすいわ(笑) これなら今回のカットくらいは縛り無視でも OK ですっ!
(笑) いいんかいそんなんで(笑) でまぁ、実はモデルさんにお目にかかる前は、プロフィール写真を拝見して、そこで感じた固いイメージで撮ろうかなと思っていたんですが、さっきのぐるぐるの結果、すごく柔和な表情をお持ちだとわかったので、この部屋で白いシャツでときたら優しい表情を引き出させてもらおうかな、と。決めました。
■ お互いの作品を評価
さて、おふたりともファーストカットの撮影が終了しました! まだまだ撮影は続きますが、この後の撮影でお互いの作品をいい意味で意識していただくためにも、お互いがお互いの作品を論評していただこうと思います。ではまず清田さんが大村さんの作品を観ての感想をどうぞ!
● 大村氏作品1を観て
パッと観ですが、大村さんの作品は全体的にモデルさんのお人柄がよく表出していると思います。かなり被写体の内面を意識して撮っているように思えるんですね。どうしてそう思えるかですか? うーん、多分なんですけど光と陰の出し方が僕と全然違ってるからというのが最大の根拠なんですけど、僕の陰の出し方って、大村さんに言わせると「 パリっ 」としてる(笑)らしいんですけど、それに対して大村さんの陰は滑らかっていうか、優しいっていうか、そういう陰の出し方の方が被写体の性格が出やすいんじゃないかと思うんですよね。
大村さんの作品は明暗の差が少ないものが多いように感じます。それに対して清田さんの作品は大村さんよりも明確に明暗の差がありますね。
そうそう私は明暗の差は2段が限界って感じで、今回は 1.5 段程度に抑えましたね。
僕は 2.5 段くらいは出したい方ですね。いわゆる「 パリっ 」って感じ?(笑)
そうした明暗の差を意識した上で、明から暗へのグラデーションは意識されていますか?
ええ、すごく意識してます。( ほぼ同時 )
それはどうしてですか?
やっぱり肌の質感を大切にしたいからですねー。
そうそう。でも女性と男性でその辺は違いを出してますね。男性の場合はグラデーションの範囲が短くてハイライトの輪郭が強く出ていても、というか出ていた方がいい感じになりますけど、女性はグラデーションを滑らかにして、ハイライトは弱くした方が女性らしさが出ますよね。
うんうん。私もそう思う。でも私は師匠から男の顔にハイライトはたくさん入れるなって教わったので極力ワンポイントで抑えてますね。でも自然光で明るく撮るとハイライトがバって出てピカーってなっちゃって、ワって感じになるんですよね……。
ゆり茶さん……極力擬音や擬態語は少なめにお願いします(笑)
そ、そうするとしゃべれなくなっちゃいます~(笑)
じゃぁそのままで(笑) では今度は大村さんに清田さんの画の感想をお願いします。
● 清田氏作品1を観て
悪い男って感じが出てますねー。この鼻の横に落ちた陰の輪郭がパリって出てるところなんか悪さを強調してますよねー。これはもうストロボじゃないと出ない陰ですよ。私の写真とまったく違う印象で面白いなーって思います。実は個人的に男性が被写体の画って陰がバキバキに出てるのが好きなんですよねー。自分ではあんまり撮らないけど(笑)
なんか性格の違いが画に現れてるというか、光の使い方、捉え方に違いが出るって面白いですよね。はい! 午前中の撮影はここでおしまい。お昼を食べたら午後の撮影を頑張ってくださいね。
前編の今回は両氏とも1作品のみの紹介となりましたが、ポートレイトのネタ帳、前編はこの辺でいったん区切らせていただきます。後編ではこの日の午後に両氏がノリにのって撮影した作品群を一挙公開します。お楽しみに!
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
■ モデル ■
稲松悠太
■ ヘアメイク ■
Natsu.S
■ 協力 ■
ニッシンジャパン
NiSi