ポートレイトのネタ帳・清田大介と大村祐里子のネタ《後編》
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自然光たっぷりのハウススタジオで、クリップオンストロボと ND 系フィルターを使うのが条件という縛りのもとで、新進気鋭の人気写真家、清田大介・大村祐里子のポートレイト撮影テクニックを、2回に分けて惜しげも無く公開してしまおうという本企画、「 ポートレイトのネタ帳 」後編のはじまりです。前編では両氏の作品を1点ずつしかお見せできませんでしたが、後編では当日撮った作品を一挙公開です。両氏の普段からのネタを使って撮った作品と、撮影当日に思いついたネタまで、バラエティにとんだ作品とそのテクニックをご覧ください! by 編集部
● ネタをご披露いただく写真家
清田大介氏
Portrait & Fineart Photographer。「 清田写真スタジオ 」経営。TIFA、IPA など国際的なコンテストや東京カメラ部・JPS・JPA など国内のコンテストなどに多数入賞・入選。商業撮影、雑誌、書籍への執筆、セミナー開催、展示会も多数開催。SKYLUM Ambassador。
http://blog.dream-pixels.com/
大村祐里子氏
1983 年 東京都生まれ 写真家( 有限会社ハーベストタイム所属 ) 雑誌、書籍、アーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動中。『写ガール』にて「読書感想写真」、CAMERA fanにて「SHUTTER GIRL WORLD」連載中。
https://omurayuriko.jp/
● 両氏にお願いした使用機材縛り
● モデルさんと使ったハウススタジオ
■ 大村祐里子氏のセカンドカット
さて、後編のファーストバッターは大村祐里子さんからお願いします。もう自然光だけのカットにしないでくださいよ~。
……ゲフっ
ど、どうしました!
お昼のコーラが……特大サイズで……全部飲んじゃったから……ゲフっ
……。
さ~て、気合い入れて撮りますよ~。今度はわたしストロボ使っちゃいますよ~。
時刻は午後1時半。大村氏は持参した背景紙用スタンドと、折りたたみ式カポック用フレームを設置します。背景紙用スタンドには黒布を、カポック用フレームには半透明の白布をディフューザーとして装着して、写真1のようにセッティングしてモデルさんには椅子に座ってもらいました。そして2台のクリップオンストロボ MG80 Pro を写真1の位置に設置します。1台はディフューザー越しにモデルさんの右真横から。もう1台はモデルさんの左上斜め後ろから直炊きさせるようです。黒い背景布とディフューザーで外光は遮断していますが、室内の明るさは写真1のような感じです。さて、どんな画が撮れたのか拝見しましょう!
前編のファーストカットとは打って変わってソリッドな感じに仕上げてきましたね。ファーストカットは優しい印象で撮られてましたけど、その正反対といいますか……。
前回が白いワイシャツで白背景で撮ったので、今度はイメージを思い切り振り切って、黒系の衣装をお願いしました。黒のレザージャケットをお持ちだったのと、髪が黒いという2つのポイントから考えて、背景も黒で締めて、カメラをモノクロモードにして明暗だけでちょっとワルな感じを表現してみようと思いました。
ライティングのポイントを教えてください。
黒レザージャケットと黒い髪のウェーブの質感が出るライティングをと考えました! モデルの稲松さんは私がちょっと油断すると爽やかなイメージに撮れちゃうので、メインライトを右に置いて、サイド光で顔に強い陰影を出してシャープな「 ワル 」を表現しました。もう1灯は髪のディテールを出すための……なんていうライトですかね? トップライト? まぁいいや、そのストロボの照射角を 200mm に絞って直炊きで弱くあてました。
まぁトップライトでもありますけど、髪の毛のディテールを出すためと仰いましたから、どちらかというとアクセントライトになりますかね。で、メインライトのサイド光はディフューザー越しにあててますが、これはどうしてですか?
MG80 Pro のもっとも広い照射角( 24mm )よりも広く柔らかい光をあてたかったからですね。
黒い髪を黒背景で撮ると髪の毛が背景に溶け込んじゃうと思うのですが、この画は違いますね。
え~、なに、その、アクセントライト? としてモデルさんの右上斜め後方に設置した2灯目のストロボが、結果的に髪の輪郭を出す役目をしているわけですね。えーと、そういうのもアクセントライトって言っていいの?
(笑)その場合はリムライト( 被写体の背後からあてて輪郭を浮き立たせる光 )と呼ぶんでしょうが、今回は1灯でアクセントライトとリムライトの役割をしているということですね。
そうそう、それ!(笑)
ってか、大村さん、ライトの呼び方くらい覚えましょうよ(笑)
現場では1人で全部やるから名称なんてどうでもいいんですよ~。
名称だけ知ってて使い方を知らないってわけじゃないので許します!(笑)
許されるんかいっ!(笑)
で、その呼び名はどうでもいいライトの照射角を 200mm に絞ったのはどういう理由ですか?
ハイライトは髪の毛だけにして、肩には入れたくなかったからです。モノブロックやジェネ( 大型ストロボ )ならアクセサリーを使って照射範囲を狭めますが、MG80 Pro だと照射角度をコントローラーの Air10s で手元で自在に変えられるのでチョー便利ですよ、チョー。
チョーですか。
……。
ところで大村さん。この作品。今回の撮影の2つの機材縛りのうち、フィルターを使ってませんよね……。
!!!! あっ……。
忘れたんかいっ!
■ 清田大介氏のセカンドカット
清田さん。大村さんの撮影観ていてムラムラきませんでした?
(笑)ええ、ちょっと負けてられないっすね(笑) 対抗して僕も黒背景で撮ろうっと!
というわけで、清田氏も背景に黒布を用意しましたが、クリップオンストロボはモデルの斜め上後方、左右に1灯ずつと、撮り手の背後に1灯を天井バウンスにして、計3灯を仕込んだようです。そしてモデルの後方の2台のストロボには、それぞれマゼンタ( 左 )とシアン( 右 )のカラーフィルターが装着されています。
うわっ、アー写( アーティスト写真 )みたいですね!
ええ、意識しました。
マゼンタとシアンという相反色でもある2色のカラーフィルターをストロボに使ってますが、これは……
それ……
マゼンタとシアンじゃなきゃダメなんですよー!
!!!( なんでいきなり大村さんが )
私もいろんなカラーフィルター試したけどもうね、この2色しかダメです!( キッパリ )
いや、これ、清田さんに聞いてるんですけど……( 笑 )
(笑)
! あちゃ、ごめんなさい~。でもね、わたしこれわかる~。この2色の組み合わせ以外は綺麗じゃないんですよ。レッドやオレンジフィルター使う人もいるけど、人の肌にはやっぱマゼンタとシアンが最ツヨですっ!
サイツヨって……
そうそう、マゼンタとシアン以外の色だと肌質が綺麗に出な……
そんでもって光を顔に直接当ててないのがいいですよね!
う……うん(笑) カラーフィルターの光を顔に直接あてちゃうと色が綺麗に出ないんだよね。
えと……
きゃー! こっちのストロボをフレームインさせた画のフレアがステキー! スポットライトみたい!
モデルの稲松さんは舞台俳優でもあるので、舞台照明を意識したの。
うんうん、舞台だ舞台だ!
クリップオンストロボはアクセサリ無しだと点光源になるから、こういう使い方もできるよね。
あの~。盛り上がってるところ悪いんですけど、質問してもいいですかぁ?
あっ! はい
(笑)ストロボに使うカラーフィルターの色はポートレイトの場合にシアンとマゼンタがサイツヨ……じゃない最強だということと、背後から光をあてること、肌にはなるべく直接光をあてないこともわかりました。で、前回に清田さんは3色以上の色はあまり使わない、3色目は意味を持ってしまうからと仰ってましたね。この作品は黒をベースとしてシアン、マゼンタの2色で抑えてはいますが、相反色だとそのこと自体に意味ができてしまう気がするのですが……。
稲松さんのモデルとしての、役者としての二面性を出したかったんですよね。だから相反色でライティングしたのと、舞台をイメージしたので、非現実的な舞台照明のイメージでもあります。
なるほど~。
それから大村さんのように、ちょっと「 ワル 」な感じを出したかったので、カメラのホワイトバランスを 4400K に固定して少しブルー寄りになるようにしました。
よくわかりました。……で! 大村さんと清田さんのクリップオンストロボを使ったセカンドショット、どちらもステキでした……が! ……言いたいことわかります? ん? おふたりとも。なんでフィルターを使ってくれないんですか! あ、フィルターって言ってもストロボに付けるゼラチンフィルターでもドリップ珈琲のフィルターでもないですよ、あ・く・ま・で・も、レンズに付ける光学 ND フィルターのことですよ!
あっ!………。
■ GND フィルターの特殊な使い方
はいっ! 次でラストカットですっ! おふたりとも、このカットは絶対に ND フィルターを使って撮ってくださいねっ! この際だからストロボは使っても使わなくても結構です! そしてこの企画はポートレイトのネタ帳ですからね、前回の冒頭で清田さんがやったスタンダードな使い方はもういいですからね、なんかこう、スタグラの記事らしいっていうか、おふたりらしいっていうか、他ではやってない奇抜なネタをお願いしますねっ!
え゛~~、この場で考えるんですか~。
! 大村さん大村さん。ゴニョゴニョ……
なにやら同年代のふたりで秘密会議を始めました。そして数分後、減光効果がグラデーションでかかる GND フィルター2枚をレンズ前に付けたフィルターホルダーに挿した清田さんが先に撮影を始めました。
フィルター板の端から中央にかけて減光効果が減じていく角型の GND フィルターを2枚、それぞれ反対方向からフィルターホルダーに挿したわけですね。そうすると、レンズ中央だけ素通しになって、両端に行くほど ND 効果が強くなるってことですね。
まぁ観ててください。
おー!
すごいすごい、おもしろ~い。ケラレとは違うし、デジタル処理でもない周辺減光ができてる~~!
ね? この方法いけるんじゃないかな。
角型 GND フィルターを2枚の交互挿しでできたレンズ中央寄りのスリットを通して撮ると、こういう効果が出るんですね。風景写真でならこの方法を使う写真家がいますが、ポートレイトでこの使い方をするのは初めてみました。背景がどんな場所でも印象的な画になりますね。
よーしよーし、私もやってみよっ!
GND を2枚挿しして使う方法はとてもユニークではありますが、それでも清田氏の使い方はスタンダードな気がします。ところが大村氏はちょっと天の邪鬼な性格(笑)なのか、GND の濃い方をレンズ中央に向けて2枚挿ししています。これでどんな画が撮れるのでしょうか。
大村さん、逆挿しじゃないんですか? これ。濃い方をレンズ中央にしてません?
大丈夫ですって(笑) まぁまずは撮ってみてからのお楽しみってことで。あっ、ストロボも1灯加えちゃお。
なるほど! 僕はグラデーションが緩やかにかかるソフトタイプの GND を使って周辺減光したけど、大村さんはハードタイプの GND で、しかも逆挿し。わざとスリット効果をはっきり出したんですね。これは覗き見効果だ! 作品5は片方の GND だけ反対に挿し直して撮ってますね。面白い。後ろに仕込んだストロボの明かりもいい感じ。
そうそう、なんか淫靡でしょ(笑) 清田さんがさっきブルーのゼラチンフィルターを使ってたから、私はオレンジのカラーフィルターを MG80 Pro に付けて淫靡さをマシマシにしてみました!
これ、おふたりとも初めから狙って撮ったんですか?
ぐーぜん!
いやいや(笑)そこは狙ってたことにしてくださいよ(笑)
実際の仕事現場でも、あれこれ試してたら偶然面白い効果が出たなんてこと、しょっちゅうあるんですよ。
そうだよね。そういう偶発的なことを作品に活かすのもありで、そして偶発的なことがあるから写真は面白いわけで。
そうそう、今回みたいに縛りを与えられて、追い込まれて、あーだこーだと試行錯誤して、思いついたことをクライアントに提案して、それが結果となるのって、ある意味でプロの醍醐味かも。
■ 今回の感想
さて、締めとしましてお互いの作品に対する感想をそれぞれから伺いましょう。
大村さんの作品はコントラストの作り方がとても丁寧だなと思いました。シャドウからハイライトへのグラデーションも滑らかで、アクセントライトも丁寧に入れてるし、それによってモデルさんの本質が描けていると思いました。正直言って今回は僕の作品より大村さんの作品の方が気にいっちゃったかな(笑)
そんなことないですよ~。でもグラデーションを丁寧に描いていると言ってもらえたのは、自分でも相当意識していますから嬉しいです。
大村さんは清田さんの作品を観てどう感じました?
カメラや機材の使い方と効果を熟知してて、それを被写体に合わせて使い切って撮ってるなーって感じました。たとえば作品5なんか、焦点距離 17mm を使って至近距離で撮ってますけど、男性モデルだから撮れる歪みの使い方ですよね。いいなーって思っちゃいました。
最後に、今回のような2人で撮り競う企画に対してどう思ったかを教えてください。
仕事の現場では2人のカメラマンが競って撮るなんてことはないので、すごく面白かったし、楽しかったです。刺激にもなりますし。
そうだよね、刺激になる。1人でずっと撮ってると、自分の好きなやりかた、慣れた撮り方しかしなくなっちゃうんですよ。それが今回、大村さんの撮り方をみてて、なら僕はもっと違った撮り方でって意識しちゃいました。それが結果的に自分の幅を広げてくれるというか……。
そうそう! 私も清田さんの撮り方みてて、あ、真似しちゃおって思いましたもん。
楽しんでもらえたようでなによりです。今回はこれでおしまいですが、読者の皆さんの人気が高かったら、もしかしたらまたこの企画、やるかもしれません。それではまたいつかお目にかかりましょう!
ありがとうございましたー!
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
■ モデル ■
稲松悠太
■ ヘアメイク ■
Natsu.S
■ 協力 ■
ニッシンジャパン
NiSi